表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【旧版】Re:LIFE 〜永久の惨劇を彩って〜  作者: 如月笛風
第2章 『手繰り寄せた終焉』
15/31

第14話 『それぞれの想い』

「……私は……どうして、襲われたんですか……?」


「……あ~……それ、聞いちゃう?」


 倒壊した部屋で、唯一損傷が少なかった椅子に向かい合わせに座る少女とシルヴァ。

 未だにどこからかメキメキと軋む音がするが、既に2人はその音に慣れてしまっていた。


「まあそりゃ聞くよねぇ~。……う~ん……ミズカちゃんには受け入れ難い真実かもしれないけど、それでも聞きたい?」


「……はい……」


 少女は不安ながらも視線を逸らすことがなかった。それはまさしく真実と向き合う意志の表れである。


「──実は、テンペストはロリコンなの」


「……えっ……?」


「女のアタシは問題無かったけど、男のグレイスがミズカちゃんと2人っきりになると嗅ぎ付けたテンペストは、居ても立ってもいられなくなり、この部屋を襲撃して──」


「……嘘……ですよね……?」


 シルヴァは嘘を貫き通すために、「いやいや──」と続けようとしたが、少女の瞳を見て観念した。

 グレイスとテンペストの会話で、凡その予想がついている少女に、即興の偽りを騙るなど、文字通り言語道断である。


「……私が……『転生者』だ……ってことと……関係、あるんですよね……?」


「…………」


 それからの沈黙は長かった。

 シルヴァは本気で少女を想い、護ろうとしている。

 メキメキと軋む音が部屋中に響いた回数が、シルヴァの想いの強さを証明していた。

 しかし、少女の瞳を見てしまうと、どうしてもその想いが揺らいでしまう。

 不安そうで、か弱くて──けれど、その深奥にある真っ直ぐな意志が、シルヴァを貫いていた。


「…………ミズカちゃんはね。……このままだと、この国を崩壊させるんだって」


 少女は驚愕しながらも、自身の()に手を当て、落ち着いたまま聞いた。


「だから、殺さなきゃいけない。『転生者』っていうのが、標的のヒントってことらしいの。テンペストは、ミズカちゃんがその『転生者』だって知ったから、襲ってきたんだと思う」


「グレイスさんと、シルヴァさんは……どうして……」


「アイツはよく分かんないけど……とりあえずは味方。アタシは、ミズカちゃんを護るって決めた。絶対に死なせない」


 少女は素直に喜べず、俯いていた。

 自分が禍害と見なされるのはもはやどうでも良く、グレイスとシルヴァが自分のために危険を冒しているというただ1つの事実が、少女の心を苦しめた。


「この国の王様は、先祖代々から受け継がれてきた()()の力を持ってるの。国の安寧のためにその力を使って、アタシたち『十の聖剣(クロス=グラディウス)』が予言に基づいて動く。そうやって、この国は大きくなっていった」


 普段のシルヴァから感じられるふざけた調子は無く、ただ淡々と少女に説明を続けた。


「それで今回予言された内容が、さっきの話。今までも暗殺命令とかは時々あったけど、みーんな決まって分かりやすい悪人だったから、躊躇う必要なんて無かったんだけどね──」


 突然シルヴァが起立すると、近くに置いてあったグレイスの剣を持ち上げ、出入口へと歩き始めた。


「──ごめん、アタシも今は冷静じゃ居られない。それに、グレイスにも色々話すことがあるの。ミズカちゃんのガードは、別の信頼できる奴に任せるから、今日はバイバイ」


「……あっ……」


 俯いていた顔を上げたが、既にシルヴァの姿は無かった。

 真実を知った少女の心情は複雑に絡み合っており、多くの結び目が心を埋めつくしていた。


 また、自分は普通に生きることを許されない。

 しかし、自分が死ぬことは、自分の中に()()()()が許さない。


 暗然とした少女に呼応するかのように、空の雲は黒く染まり、軈て雨が降り出した。

 少女独りの部屋は、メキメキと音を立て続けていた。


* * * * * * * * * * * * *


「……どういうつもり?」


「テンペストと対峙していたことは君も知っているだろう? 剣を抜いていたことがそんなに疑問──」


「あの子に聞いたら、アンタと会話してた所に突然風が吹いたって話よ? アンタはあの子と話してる時からテンペストの襲撃を悟ってて、ずっと剣構えながら会話してたわけ? しっかりと推理すれば、誰でも分かるわよ? アンタがあの子を斬ろうとしてたこと」


「……退役後は、有望な探偵になれるだろうね……」 


 雨の降り頻る中、グレイスは腰の剣を放った。

 それに応じて、シルヴァも向けていた剣先を下ろす。


「まずは君の意に反した行動を取ったこと、あの子に剣を向けたこと、諸々謝罪するよ。すまなかった」


「……思ったよりあっさり頭下げるのね。素直で嫌いじゃないけど、なんでこんなことしたの?」


「…………君は、僕が雨に打たれてまでこの場所に来る理由を知っているかい?」


 首を振るシルヴァに、グレイスは続けた。


「ここは、僕が聖剣(グラディウス)戦争の時に最後に戦っていた場所なんだ」


「それくらいは知ってるわよ。聞きたいのは理由」


 ()()()()その高原からは、雨天の中でも王国の城がよく見えた。

 嘗てここで栄えていた街の姿を、シルヴァもよく覚えている。


「僕は重大な決断に迷っている時、決まってこの場所に来る。ここは、僕が人生で最も大事な決断を下した場所だからね」


「……そういうことね。つまり、アンタは今、あの子を殺すかどうか、迷ってるの?」


「少し惜しいね。正確には、彼女の生死について悩んでいるわけじゃないんだ。……僕のするべきこと──したいことが、分からなくなった」


「……長くなりそうね」


 それを聞いたシルヴァは地面に自身の剣を突き刺した。すると、そこから瞬く間に大木が育ち、空虚な高原のシンボルと化した。

 シルヴァが言うには、これ以上雨に打たれたくないから、ということらしい。


「アタシも時々分からなくなるわ。これが自分のしたいことだと思って行動してたのに、途中からそうじゃないって気づくこともね。でも、今回は違う。私はあの子を護りたい……これだけは絶対確信してる」


「ははっ……君は立派だな……尊敬するよ……」


 グレイスの作った笑みが一瞬で雨の中に溶けて消えると、シルヴァはグレイスの前に剣を差し出した。


「アンタにもいるでしょ? この剣で、護らなきゃいけない奴が」


「……さて、それは誰のことかな? 探偵さん」


「気づかないフリをするならそれでもいいわ。でも、決断しなきゃいけない時はもう目の前まで迫ってる。この場所に来る理由を一番分かってないのは、アンタ自身よ」


 グレイスは剣を受け取らずに黙っていた。

 真剣な眼で見つめるシルヴァだったが、雨に濡れたグレイスの白い前髪が、彼の虚ろな瞳を隠していた。


「──アンタはここで何を決断したの!? あの子を殺すのも殺さないのも、アンタの自由よ。でも、()()()がどっちを望むのか……()のアンタが分からないでどうすんの!?」


「──ッ!」


 瞬間、シルヴァの差し出した剣をグレイスが奪い取っていた。

 その咄嗟の行動には、グレイス自身も驚いていた様子だったが、即座にグレイスはシルヴァを見た。


「……時間を割かせて悪かった。君はあの子の所へ戻るといい。……せっかく君がこの木を育ててくれたんだ……僕は、雨が止むまでここにいることにするよ」


 放っていた剣を拾い上げ、大木の根元に座り込むグレイスと、踵を返し城へと戻るシルヴァ。

 大木の笠から出る寸前で、シルヴァが微笑んで呟いた。


「──アンタの弟は、強いわよ?」


 そうして再び歩き始めるシルヴァを横目に、「知ってるさ」と呟き、グレイスも微笑んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ