プロローグ
ある程度いい評価ついたら書きます
俺は幽霊が見える。だけどそれはっきりと見えるわけではない、黒い影がモヤモヤっとしてて不格好な人の形を造っている。そのおかげで人間と幽霊の区別がつくから間違えて話しかけてしまうなんてこともないし、ケーキ屋の行列の間違えて幽霊たちの行列に並んでしまうなんてこともない。
幽霊が見えることに気が付いたのは今から8年前の夏、おばあちゃんの家の近くにある墓にお線香をあげに来た時の事だった。その墓地は田んぼに囲まれ、周りには古民家がポツンポツンと遠くに見えるような場所にある。
毎年この季節になるとこの墓に家族で来てお参りをしている。その日もいつもと変わらないはずだった、だけどその日はどこからともなく無数の視線を感じていた。あたりを見渡すとその視線は確かなものへと変わっていった。墓と墓の間に真っ黒なモヤがそこら中にあったのだ。そのモヤはゆらゆらと時空を歪めてその場に留まっている。
その時はすごく不思議な感覚に陥っていた。嬉しいのか、悲しいのか怒っているのか。その時の感覚は今でも鮮明に覚えている。
「ねえ、お母さん、あそこ何かいる」
俺はモヤのあるほうを指さす
「え?...なにもいないじゃない。ほら、もう帰るわよ」
「うん...」
母に聞いても信じていない様子だったため、そのことをおばあちゃんに聞くとそれはお化けだと言った。それは何もしないから大丈夫だと、泣きそうになっていた俺を慰めてくれた。
その日からは黒色のモヤが日常的に見えるようになった。海、山、町の中どこにでもそのモヤはいた。始めは物凄く怖かったが時が経つにつれてその恐怖は段々と薄れていった。
高校2年になった今でもその影はしっかりと見えるが、以前と比べてたら確実に見える量が少なくなっているのがわかる。
「見えなくなるのも時間の問題か」
「何が見えなくなるんだ?目の前の先生も見えないのにこれ以上見えなくなったらどうするんだ」
目の前には国語の教科書を持った担任がこちらを睨んでいる。
「あっ...すんません」
クスクスと周り生徒が俺を見て笑っている。何笑ってんだよ。
「あ、そうそう、燐、お前放課後職員室こい」
「うす...」
「今日は災難だな燐、お勤めご苦労さんっ」
「ほっとけ...」
くそっ、ニヤニヤしやがって加治田の野郎、後で飲み物奢らせてやる。
俺は人と話すことは得意じゃないができないわけじゃない、少しくらいは友達だっているし女子とだって話すことができる。どこにでもいる普通の高校生だ。幽霊が見えること以外は。
コンコン
「失礼しまーす...」
「おい、燐こっちだ」
大きく手招きをする先生の顔はとても楽しい話をするような顔ではないことが分かる。
「なあ、お前だけだぞ。そろそろ三年になろうとしてるやつがだなぁ授業も聞かずにぼおーっとして...」
またいつもの小言だと、話を流すモードに入ろうとしたとき、ふと、あるものが目に留まった。
それは影だった、だがいつもの影とは違う、動いているのだ。いや、正確には移動しているといったほうがいいのかもしれない。これまではその場で留まっているだけだった影が確かに動いている。右に左に、前に後ろに。職員室を歩き回って何かを探しているかのようにも見える。
「...い..おい!聞いてんのか!」
「え...あ、はい...」
「はぁ...もういい、今日は帰れ。じゃあな、俺の次はちゃんとしろよ」
(あれ、今日はやけに速いな、疲れてんのか?)
職員室を出るとそこにはニヤニヤと何か言いたげな顔をした加治田が俺を待っていた。
「いてっ!なんだよぉ、叩くことないだろ。せっかく待っててやったのによぉ」
「はいはい、待っててくれてありがとうございますー。嬉しいなー」
「ちぇっ、つれねえな」
こんなやり取りをしながら、歩きなれた通学路を通り家へと帰る途中で先生が最後に言った一言と、今までは動かなかった影が動いていたことがものすごく気になっていた。
目覚ましの音が部屋に鳴り響く、手探りで目覚ましを探し鳴り響く音を止める。ふと時計に目をやると体が固まった。
「遅刻じゃねえか!!!!」
大慌てで支度をして5分で家を出れば二時間目には間に合う...はずだ。
キッチンには朝食のそばに置き手紙が添えられている
”遅刻しても朝ごはんは食べていきなさいね”
と一言だけ書いてあった。母の気遣いに感謝をしつつ朝食を掻っ込むと猛ダッシュで学校へと向かった。
学校へと向かう途中で何人かとぶつかってしまったがそんなこと気にしている場合ではない。
「すんません遅れました!!」
ガラガラっとすごい勢いで扉を開けるがそこに皆の姿はない、あるのは教卓のあたりに影が一つだけ...
朝会でもやってるのだろうか、荷物を置いて体育館へと向かう。体育館の扉を開けると全校生徒がみんな下を向いて座っている。
(やっぱり朝会だったか)
だがどうも様子がおかしい、すすり泣いている生徒や職員がちらほらといるからだ。
「なあ、これどうしたんだよ、なんでみんな泣いてんだ」
「あ、燐...遅かったな....俺らの担任の桜木...自殺だってよ」
「は?え?自殺っておま...は?」
俺はしばらく頭が真っ白になった、昨日先生と話したことがフラッシュバックする。
(じゃあ、あの時にはもう決めてたのかよ...)
その日は学校中が静まり返っていた。いつもはうるさい生徒も今日は気持ちが沈んでいるようだった。
亡くなってしまった先生の代わりは来週から来るそうだ。
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