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扉物語  作者: 松鴨
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館の扉

これは昔の話です。今語らえど栓のない、過ぎた話なのですが。

ある国、ある街の外れに広がる森林の中に、独りぼっちの館がありました。

それはたいそう立派な建物で、外縁を一周するのも億劫になるくらいに大きいものだったのですが、誰も彼も近付こうとはしませんでした。

街には噂があったのです。

あの森の中の館には、怪人が住んでいると。

一度中に入ってしまえば、二度と故郷へは帰れないと。






◇ ◇


その夜はひどい雨降りでした。天からたくさんの水滴がばら撒かれて、土の地面はどんどんと、ぬかるみに変わり果ててゆきます。

秋の嵐に襲われて、森の中は荒れていました。雨粒はごうごうと吹く横風に乗って木々を叩き、そこら中からびちゃびちゃと泥を蹴る音が鳴り響きます。

そして時刻が0時を回り、よりいっそう雨風が強まった頃。


「ごめんください」


おや、誰かさんが扉をノックしました。その扉は古こけた鉄材で作られた、荘厳でのっぽなものだったのですが、手で叩かれると快活な音を鳴らしました。

コンコン、コンコン。

誰かさんは嵐の中、扉の前で返事を待ちました。当人が被っていた緑のフードには、もう何枚も葉っぱや何やらが貼り付いていて、それは風雨の吹き荒れる森の中を歩いてきた事実を物語っていたのですが。

誰かさんは決して疲れる素振りを見せず、ただひたむきに返答を待っていました。


誰かさんの背丈は、扉の半分もありません。背格好から察するに、まだ子供のようです。そして頭を覆うフードからは赤毛の髪が伸びていて、それは少し雨に濡らされていたのですが、誰かさんが女の子であることを表していました。

女の子はずっと扉を見つめます。ずっとずっと、事の変化を待ち続けます。


そして寸刻が過ぎた後、扉が開かれました。

女の子は目を細めます。それは館の中から漏れ出る光が、夜に慣れた目を眩しがらせたからです。

女の子はその中で、扉を開けたであろう人物の影を見ました。それは背の高く、大きな男の人のもので、頭には奇妙な触覚が付いていてるように見えました。そしてその影は女の子に手を伸ばし、あっと言う言葉を放つ間もなく、館の中へずるりと、引き込んでしまいました。

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