04 恥ずかしながらの初デート
「今週末、空いてる?」
「日曜日、なら」
「よし、どっか行こうぜ」
告白の返事をした日の別れ際、智弘くんと初デートの約束をした。
自慢じゃないが、デートなんて人生でしたことがない。
陽太と二人で出かけた回数は数えきれないが、それはおそらくデートではなかったのだろうし、自分としてもデートにカウントしていない。
何を着ればいいのかとか、どんなテンションで行けばいいのかとか、わからないことだらけだ。
ネットで検索しようものなら、参考にならないものばかりで…途方に暮れてしまった。
当日、車で迎えに来てくれた智弘くんは、助手席の扉を開けて乗せてくれた。
陽太にさえ、そんなことをされたことがなかったのでドキリとしてしまった。
運転席に座る智弘くんは、地上を歩く時よりもかっこよくみえた。……これが噂の、ハンドルマジックか。
そんな調子で、ドキドキするようなことがひっきりなしに舞い込んでくる。
でも私は見栄っ張りなところがあるので、そんな気持ちは微塵も見せないように振舞った。
――うまくできていたかどうかは、わからないけれど。
「さぞかし、モテそうね…」
車の中での出来事や、食事を取った店での振る舞いなど、好感を持てることばかりで、一体どこまで完璧なの、と本音が漏れた。
「それは、誉め言葉?」
「勿論。人のことよくみてるよね」
「よくみてるか?嫌?」
「そういうことじゃなくて。智弘くんの、努力の賜物だと思うわ」
「ふーん…?」
本気でそう思って、伝えただけなのに、彼は満足そうに笑っていた。
デートの行先は、ウィンドウショッピングと、食事、カフェ。同性の友人と行くようなところだったので、少し不思議に思った。
「THE・デート!って感じのところだろ緊張するかなって。それに、会話続かないような関係なら映画は有効だけど、別にそうじゃないし」
理由を尋ねたら、思っていたよりもしっかり考えられていたようで驚いた。
確かに、会って3回目だというのに会話には今のところ困ることはないし、沈黙も居心地悪く感じない。
「おかげで、千夏好みもなんとなくわかったよ」
「確かに、私も智弘くんの好み結構わかった。意外と可愛いもの好きだよね」
「それを言うなら千夏もでしょ。綺麗系のお姉さんって感じなのに、あーいう恰好も似合うかもよ?」
ウィンドウショッピングはおしゃべりしながらお互いの好みを知っていく、確かに良い機会だ。
こうやって知っていくのは、楽しいかもしれない。
自分の持っているエピソードだって、智弘くんにとってはすべて新章だなんて、話甲斐があるというものだ。
「陽太は綺麗系が好みなわけ?」
「そういうわけでもないの。歴代の彼女は本当タイプがバラバラで」
「なんだアイツ、手広いな」
“陽太のことを、考えるのはやめなくていい”
智弘くんはそう言ってくれた。
だから何よりも陽太のこと、彼氏という立場の相手に話してもいいんだっていうこの安心感は、言葉では言い表せないくらい嬉しかったりする。
だって、どこに行くにも、何をするにも、頭に浮かぶのはまず陽太のこと。
智弘くんと関係が始まったとしても、急に変わることはできない。
そのことについて罪悪感を感じないで良いというのはすごく気が楽で――甘えさせてもらっている。
「さーて、最後はベタに、夜景でも見に行きましょうかね」
連れて行ってくれたのは、高台にあるパーキングエリアだった。
適度に人もいて、適度に明るくて、でも見下ろす街の景色は美しい。
この間陽太と一緒に見た工場地帯の夜景とはまた違う。この雰囲気は、個人的にすごく好きだ。
さすが、モテる男はいいところを知っている。
「一応、ここは初めてだよ、女の子連れてくるの」
「えー?お世辞はいいわよ」
「あんたにお世辞は効果なさそうだけどな」
どういう意味、と彼の方向を向いたら、そのまま顎を救い上げられ唇が触れた。
「千夏が、喜びそうなとこだな、と思って」
あまりにも華麗な流れすぎて、驚くことすらできなかった。
ファーストキスだというのに、こんなところでも見栄っ張りを発動し、平然と済ませてしまった。
(でも、嫌じゃない…)
それが一番不思議だった。
心臓がバクバクうるさいのは、気づかなかったことにして。
個人的にショッピング+食事の初デートが一番気を楽に行くことができます。
つまり智弘は私にとって理想の男…!笑