美しい人
こんにちは、葵枝燕です。
この作品は、空乃 千尋様とのコラボ企画となっております。空乃様撮影のお写真をお題に、葵枝燕が文章を綴る——題して、[空翔ぶ燕]企画です。企画名は、僭越ながら私が名付け親です。一応、由来があるのですが——長くなると思うので、後書きで披露させてくださいませ(今回第十二弾なので、前回までの作品からご覧の方はご存知かと思いますが、はじめましての方もいるかもしれませんので、ご理解のほどよろしくお願いいたします)。
そんなコラボ企画第十二弾の今回のお題が、「イルミネーション(二〇一六年十二月三十日)」です。本文の中間に入っている写真が、お題として提供いただいたものとなっております。
そうですね……なんといいますか、久々にすてきなお話が書けた気がすると思う——そんな感じのお話かななんて個人的には思っています。内容というか感想になってしまいましたが。
本文に、写真が入っております。ぜひ、合わせてお楽しみくださいませ。
「リアン」
その呼びかけに、その人影は振り向いた。その動きに合わせて、美しい金色の髪が翻る。
(今日も今日とて、お美しくていらっしゃること)
塩入式巳は、相手への賞賛半分、自分への皮肉半分で、そんなことを思う。目の前にいる彼は、女の自分などより遥かに美しく綺麗だった。
「シキ」
自分を呼ぶ、その掠れた声でさえも、その美しさを彩る気がした。声も、髪も、爪を彩る濃い青色も、凛々しい佇まいも、この冬の凍てつくような寒さも、何をとっても、彼——潮見俐晏埜を輝かせるモノとなるようだった。
「来てくれたんだ」
微笑を浮かべる彼は、この寒いのに黒色のドレス姿である。それも、左肩が露わになったワンショルダードレスだ。コートも羽織っていなければ、マフラーすら巻いていない。厚手のタイツさえも履いておらず、彼の白い素肌に近い色合いのストッキングに、足元は黒色のコーンヒールだ。そんな寒そうな恰好だというのに、俐晏埜はそんな様子さえ感じさせない。
「毎年、これが楽しみだからね」
「ありがとう」
そう言って笑みを強くした俐晏埜の背後で、俐晏埜の名を呼ぶ誰かの声がする。その声に返事をした俐晏埜は、
「見ててよ、俺の演奏」
と、いう言葉を残して、式巳に背を向けたのだった。
黄と青の電飾でつくられたツリーのイルミネーションの下で、潮見俐晏埜のピアノ演奏は始まった。美しい人が、美しいメロディーを奏でる——その光景は、何度も見ているはずの式巳でも、見惚れてしまうほどだった。
(やっぱり、リアンは綺麗だなぁ)
今の自分はきっと、羨望と尊敬の目で彼を見ているのだろう——式巳は、そう思いながらステージ上の俐晏埜を見つめていた。どうあっても、自分が俐晏埜のようになれるはずがないけれど、だからこそ彼の美しさを尊敬しているし、この先もそうでいたいと願う。
(そう、この先も)
こんなすてきな人の演奏をこうして聴けることが、幸せなことだと感じていた。そして、そんなすてきな人と親しく言葉を交わすことができる自分を、ほんの少しだけ誇らしく思った。
凍てつくような寒さの中で、美しい人の美しい音が、流れて漂っていた。
『美しい人』のご高覧、ありがとうございます。
さて。ここから色々語りたいので、お付き合いのほどを。多分、長くなります。
前書きでも書きましたが、この作品はコラボ企画です。名付けて、[空翔ぶ燕]企画。「空」=空乃様から一文字拝借、「翔ぶ」=お題から想像力膨らませて文章書くイメージ(「翔」という字には、「とぶ」の他「めぐる」や「さまよう」という意味もあるそうで、その意味も含めて「翔ぶ」を採用しました)、「燕」=葵枝燕から一文字——そんな由来で生まれた企画名です。
そんな今回のお題は、「イルミネーション(二〇一六年十二月三十日)」でした。本文中間の写真が、お題となったものです。
さぁ……というわけで、ここからは登場人物について語ります。今回、お二方しかいないのですが、お二方とも主に名付けに凝ったので、長くなるかと思います。
では、まずは塩入式巳さんについて。後述するリアンさんの友人で、ベリーショートの女の子(「女の子」と書いてますが、おそらく成人済)です。名前は、「シキミ」という名前にしたいところから始まりました。漢字を「式見」と「式巳」のどれにするかで悩み、ネットで姓名判断してそれぞれ運勢がよかった「小田島式見」と「塩入式巳」に絞った結果、姉に判断を仰ぎ、「塩入式巳」に落ち着きました。名前の読みをそのままに漢字を変えると「樒」——仏壇に供えられる植物(しかも有毒)になって縁起が悪いかな……?、と思いながらも、気に入ったのでこの名前になりました。リアンさんと名字の読みが若干かぶったけどいいのか……?、と思いながらも、気に入ったのでこの名前になりました。
次に、リアンさんこと潮見俐晏埜さん。左肩が出るタイプの黒いワンショルダードレスの人——というのが、考案時真っ先に浮かんだイメージです。浮かんだイメージや特徴などを順に列記すると、「あだ名は、リアン」、「ピアニスト」、「爪は、濃い青色の地に、雪の結晶と雪が舞うジェルネイル」、「金髪ロング、パッと見美女なお兄さん」です。ちなみに、これが個人的に彼の一番重要ポイントなのですが、潮見俐晏埜という名前は本名です。名付け理由としては、それぞれ、ネットで人名に使える漢字をさがして出てきたもの、かつ、その字の意味も考えて付けています。今思えば、ひらがなとかカタカナにすればよかったのではと思うところもあるのですが、なぜか漢字にこだわってしまいました。「俐」は「かしこい」や「要領がよい」、「晏」は「おそい」や「ゆったりとした」や「時刻が遅いさま」や「空が晴れ渡っているさま」、「埜」は「野原、広がった大地」や「自然のまま」や「未開の」——という意味があるようです。あるとき、頭の中に「リアンヌ」という美しいお兄さんが現れたので、そのまま採用させていただきました。ちなみに、リアンさんの方が式巳さんより誕生が早かったです。それから、リアンさんがジェルネイルをしている設定なのは、前回のこの企画の作品『この爪に紅葉を』と同じく、今の私の願望ですね。まだ右手親指の爪だけ本調子じゃないので、もう少し先かなと思っていますが。
前回は写真から素直に書いてみたというか私の願望を混ぜてみたというかそんな感じで書いたのですが、今回は浮かんできたまま書いてみた感じです。それから、久々に自己投影をやめてみようと挑戦してみた、つもりです。
タイトル『美しい人』ですが、思いつくまま素直に付けてみました。迷っても、いいものが浮かばない気がしまして。それから、あえて名詞で止めてみたところもあります。「美しい人」に続くものがなんなのか、固定したくなかったんですよね。
あと、実は、このお題でもう一つ書いてたんです。このお話とは違って、がっつり恋愛、かつ、がっつりクリスマスっぽい作品です。むしろ、そちらの方が浮かんできたのは早かったのですが、二番目に浮かんだこの作品が私の推しだったので、こちらを採用させていただきました。今回採用を見送ったもう一つは、また、いつかどこかでお披露目できたらなと思います。
さて。これで語りたいことは語れたでしょうか。何か忘れてる気がしなくもないですが……思い出したら書きたいと思います。
最後に。
空乃 千尋様。今回も、ステキなお題をありがとうございます! ひとまず十二ヶ月、こうして続けてこられたこと、私としてはよかったと思っています。本当に、この十二ヶ月間、ステキなお題をありがとうございました!
そして。ご高覧くださった読者の皆様にも最大級の感謝を。もしご感想などをTwitterにて報告される際は、ぜひ「#空翔ぶ燕」を付けて呟いてくださいませ。
また、この企画の今後についてですが、今回で一年一回りしたので、現在空乃様とどうするか相談中でございます。もしかしたら、今回でひとまず区切りを付けるかもしれませんし、また続けるかもしれませんが、今はなんともいえません。もし続けることになりましたら、またご覧いただけたら嬉しいです。
それから、こうして一年間、企画として書き続けてきて、実は課していた自分ルールをここで発表したいと思います。実は、奇数月は一人称語り手目線、偶数月は人名など固有名詞——と、文章の書き方に自分ルールを課していました。これもまた挑戦だったかもしれません。
あらためまして。拙作を読んでくださり、ありがとうございました!