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まくあく

作者: 羽生河四ノ

幕間という単語があって、それのことを今までずっと『まくま』って呼んでいた。だってまくまっぽいから。

それに幕間って言う言葉の意味だって調べてみると、

「インターバル。劇と劇の間」

みたいな意味じゃないか。まくまでいいじゃん。じゃあ、もうまくまでいいじゃん。幕間じゃなくてもいいじゃん。なんで間があいなんだよ。気取ってんじゃねえよ。


そのせいで、僕は、

「だからまくまが」

って言ったらみんなに笑われてしまったんだ。で、幕間だよおwwって言われて、恥かいた。恥ずかしかった。ぐうーってなった。心臓がぎゅうってなった。


あいつらに復讐したい。僕を笑ったあいつらに復讐してやる。


「そう思って・・・」

「我呼んだの?」

悪魔は横になりながら僕の話を聞いていました。僕が差し出したお菓子を食べて、僕が飲もうと思っていたオレンジジュースを飲んでいました。


僕は復讐の為に悪魔を呼んだのでした。なんか図書館にあった本を読んで参考にして、で、呪文をノートにメモして、その呪文を家に帰ってパソコンでGoogleに入力して、そしたらアマゾンで『みんなの呪文』って言う本が出てきて、それを親のクレカで購入して、で、置き配にして注文して、そんで届いたそれを読むと、悪魔の呼び出し方って言うのがチャーミングな(そもそも女子が好きそうな感じの文字とか絵の本)字で書いてあって、それに則ってお肉屋さんでハツを買って、ダイソーでローソクとかチョークとか買って、で、廃墟で、魔法陣書いて、ベイブの映画の呪文みたいなのを唱えたら。


「我出てきた?」

「出てきました」

「あ、そう」

その時、悪魔は自分の足の裏をくっつけて膝をぐっぐと押し込んでいました。

「これ?ストレッチ」

ストレッチだそうです。悪魔もストレッチとかするんだと思いました。


「で、お前の願いは?」

「えーっと、メモしてきました」

「真面目だなあ」

悪魔はあきれたような声を出して言いました。真面目なんでしょうか?願い、復讐心をメモするのが真面目なのかどうなのか僕にはよくわかりません。


「えーっと、まず僕を笑った人達に復讐してほしいです」

メモ用紙にはそう書いてました。そこに書かれた文字は書きなぐったような感じの文字でした。それは動揺している時の僕の、自分の字でした。テストであと5分とか言われた時の僕の字でした。あと今日ノート提出してもらうから。って先生に言われた時の字でもありました。


「あとは?」

悪魔はアキレス腱を伸ばすような態勢で聞いてきました。


「幕間の読み方をまくまにしてほしいです」

汚い字でしたが、でも、これは絶対。これはもう絶対に。絶対に。絶対・・・。


「あとは?」

悪魔は今度は、立木のポーズをしていました。ヨガです。


「あとは・・・?」

自分で書いたメモ用紙、紙切れを穴が開くほど見て、裏も見て、裏を見てから表を再度見て、悪魔を見て。

「それだけ?」


「はい・・・」

メモ用紙にはそれだけしか書いていませんでした。ただそれだけ、二つだけ。復讐したい。って言うのと幕間をあくま、じゃなくて、まくまに。


「じゃあ、願いをかなえる代わりに命貰うけどいいの?」

「い、命ですか・・・」

「そら、悪魔にお願いするわけだから」

正直言って、正直言うけど、つい最前まで復讐心だけが自分の中にありました。自分を笑ったあいつらに復讐してやりたい。そんでもう幕間をあくま、じゃなくてまくまにして、まくまにしてやる。まくまにしたらもう笑われることもないだろう。まくまだったらいいんだ。まくまになっちまえばいいんだ。その想いにここまで突き動かされるようにしてきたんです。しかし、実際悪魔を呼んでみて今思うのは、


今思うのは・・・、


「命は嫌です・・・」

「おおいいい!」

悪魔は怒ったような声音を出しました。


「ご、ごめんなさい!」

僕は謝りました。謝ると色々なことが走馬灯のように記憶に蘇りました。なんで幕間をあくま、じゃなくて、まくまって読んで、それを笑われたことをあんなに恥ずかしいと思ったんだろうとか、その後の自分の態度が悪かったなとか、すごくぶすっとしてたなとか、あと図書館でも態度悪かったなとか、親のクレカで1000円だけど勝手に買い物しちゃったよとか。そればれたら怒られるだろうなとか。あと悪魔呼んじゃったよとか。肉屋のおじさんも怪訝そうな顔してたなとか、ダイソーとかでも子供がろうそくとかマッチとか買ってるのを見てどう思ったんだろうとか。そう言うの。そう言う色々。そう言う色々がなんか、自分の中に一挙にモリモリ湧いて出てきて、それだけで自分が破裂しそうでした。そんな気持ちでした。


「お前、名前は?」

「え?」

顔を上げると、悪魔が目の前に居ました。

「名前」

「木林錬太郎です・・・」

「錬太郎!」

悪魔が両手をぐっと僕の肩に押し込むようにしてきて、

「は、はい!」

ここで死ぬのかと思うと、恐怖心が一気に上がってきました。でもそこには妙な安心感もあって、なんだろう、多分、死んだら許してくれるかなって。笑われたことに腹を立てたのも、態度が悪かったのも、親のクレカで買い物したのも、お肉屋さんで八ツを買ったのも、ろうそくとマッチを買ったのも、悪魔を呼んだのも。死んだら許してくれるかなって。そう思うとなんだか、妙にほっとするような気持ちもあって。


「お前、もっと煽られ態勢をつけろよ」

悪魔は言いました。


「え?は、はあ・・・」


「友達いる?困った時相談できる相手とかいる?親じゃない奴で」


「え?それはどうかな、どうでしょう?」

居ません。そう言う所に電話するって言うポスターとかも学校に貼ってたりするけど、そういう所に電話してばれたら怒られたり、バカにされたりすると思って。


「じゃあオレ、なってやるからさ」

悪魔は言いました。あと、親のクレカで買い物したことも無かったことにしてくれるそうです。

「お前がもういいって言うまでさ、オレがなってやるからさ」

それを聞いて僕は思いました。なんでこの人、人じゃないか。なんでこの悪魔が悪魔やってるんだろうと思いました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 悪魔の召還方法が興味深いです。ろうそくと生肉と魔方陣ね。フムフム、(・_・ 悪魔との会話が面白いです。ちゃっかり命を代償にするところ、あくまでもタダじゃ叶えてくれない悪魔さんだが、いまい…
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