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なんちゃってミステリーものです。
ルール説明
①参加者は9人。
②外部からの干渉は存在しない。(参加者以外の人間の干渉は存在しない)
③9人はそれぞれ、固有の魔法を1つ起こすことができる。
(発動は1日に1度まで。午前0時をもって発動回数がリセットされる)
④犯人を指名できるのは1度だけ。(誰かが一度でも間違えた場合は犯人以外の人間がその時点で失格となる)
⑤クリア条件は以下の通り。
・犯人以外の人間は、犯人を当てるもしくは犯人に殺されること。
・犯人は、犯人以外の人間が全員失格になる、もしくは犯人以外の人間が全員死んでいることであ る。
⑥ルールは都度追加されることがある。
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「どこだ、ここ?」
目の前には見知らぬ空間が広がっていた。もしかしてあれか? 最近流行りの異世界転生ってやつかな。・・・なんて馬鹿なことを考えていると、一人の見知らぬ男が俺の事を覗き込んでいることに気づく。
「お、やっとお目覚めのようだな。いやぁ、よかった。死んでんのかと思っちまったよ。どこか痛んだりはするところはないか」
男は自分に対して、一方的に話しかける。中肉中背のどこでもいそうな外見だが、人懐っこい笑みを浮かべるその表情からは、男が悪人ではない事を読み取れる。まぁ、こんな状況だから何とも言えないが。
「あ、あぁ。ところで、ここは一体どこなんだ? 目が覚めたら、いきなりここにいてさ」
「残念だけど、俺にも分からん。それに、俺たち以外にもこの場所で目覚めた奴はいる。とにかく一度顔合わせにいこうか。あんた以外は全員、既に目覚めているからな」
男について歩くことで、ここがどうやら洋館のようなものだということが分かった。
残念ながら、異世界転生という線は消えてしまったようだ。でも、考えてみれば異世界って中世ヨーロッパみたいな世界観が多いから、洋館が出てきても不思議ではないのかな。
そんなバカなことを考えているうちに、目的の部屋に着いたようだ。ただ部屋に入るだけなのに、何か転校生みたいな感じで変に緊張するな。
「さぁ、着いたぜ。この部屋にあんた以外の人間が全員揃っている。大体、他の奴らは冷たいよな。目を覚まさないあんたを放っておくなんて」
バンッ!
勢いよく男は扉を開く。
部屋の中には、1,2,3…7人の人間がいた。つまり、自分を入れてこの洋館には9人の人間がいるということだ。
「あぁ、君も目覚めたのね。それで、この場所に心当たりはあるかしら?」
入ってくるなり、一人の女が声を掛けてくる。
年は自分より少し上くらいだろうか? 腰まで伸びる長い黒髪、それに真っ黒な瞳がどこか不安を駆り立ててくるようであった。
こう言ってはなんだが、あの女からは得体の知れない嫌悪感を覚える。人を見た目で判断するのは自分でもどうかと思うが。
とはいえ、返事をしないというのもおかしいので、差し障りのないよう言葉を選び口にしようとするが・・・。
「残念ながら、こいつも当てが無いってよ。全くここはいったいどこなんだろうな」
俺が口を開くよりも早く、男が代わって女に答える。
その言葉を聞いた女は、返事をすることもなく視線をこちらから外す。
そっちから、話かけておいて失礼な奴だな。まぁ、結局口を開いていない俺が言うのもあれではあるが。
当の男は気にしていないようではあるが。
「おい、姉さん、無視はひどいだろうよ。まあいいか、全員目覚めたことだし自己紹介でもしようぜ。お互いのことを知っておいて損はないだろうからな」
男が全員に向かって提案する。というか、切り替えが早いな。
それはともかく、男の提案に反対する人間はいないようだ。
「じゃあ、俺からな」
言い出しっぺの男が口火を切る。
きっと、こういう場を仕切ることに向いているタイプなのだろう。本人が自覚しているかは別だが。
「俺の名前は、名前は・・・えーと。やべぇ思い出せねぇ」
「え?」
「そう言えば、私も・・・」
その男の言葉を聞いて俄かに場が騒がしくなる。
俺も自分の名前を思い出そうとしても靄がかかったように全く思い出せない。これはあれだ、記憶喪失ってやつ。こういう不思議な状況にはつきものだよな。
まぁ、とにもかくにも一旦場を収めなければならない。
「みんな、落ち着けよ。とにかく、話を続けよう。騒いでたってどうしようもないんだから」
俺は、軽くパニックを起こしているみんなに向かって声を掛ける。最も本当の意味で騒いでいたのはほんの2.3人程度ではあったのだが。
とにもかくにも、みんなの視線を自分に集めることには成功したようだし、話しを続ける。
「俺も自分の名前や、ここに来るまでのことは思いだせない。きっと、みんなと同じだ。とりあえずは俺のことはAとでも呼んでくれ。その方が色々と便利だろうし」
便宜的なものでも名前があるのと無いのとでは、今後の話の進行に大きく差が出るだろうしな。
まぁ、流石にAっていうのは安直過ぎたかもしれないが。
「あんた、こんな状況でどうして冷静でいられるんだ? もしかして、何か知ってたりするのか」
男が俺にまくしたてる。確かに急に場を仕切りだした訳だし、周りからはそう見えているのかもしれないな。実際は全くそういう訳ではないんだけど。
「いや、そういうわけじゃないよ。ただ、落ち着けって話しだ。それ以上でもそれ以下でもない。みんなで話合えば原因も分かるかもしれないだろ?」
俺の発言を聞いて、男は渋々といった表情で引き下がる。
「確かに、騒いでたってしょうがないよね。うん、それなら私のことはBって呼んでね」
自分に続いて発言をしたのは、いかにも快活そうな少女だった。年は15歳程度だろうか? 夕日のように明るい髪や気さくな態度には先ほどの女とは違い好印象を覚えるし、何て言っても可愛い。それも、ちょうどいい可愛いさってやつだ。男なら、恐らく分かってもらえるんじゃないかな? 勿論、面と向かって言えるわけはないのだが。
とにかく、彼女の発言もあり各々をアルファベットで呼ぶこととなった。
簡単にそれぞれの特徴を俺なりにまとめてみた。
A…俺のこと。
B…15歳程度の少女。夕日のように明るい髪と気さくな態度が特徴。
「せっかくだし、仲良くしないとね」
C…俺がここで初めて会った男。人懐こそうな笑顔と、どことなく抜けていそうな雰囲気が特徴。
「あんたも含めて、みんなどうして冷静でいられるんだよ・・・」
D…18才程度の少女。自分以外に無関心なのか口数が少ない。
「私はD、それだけよ」
E…中年の細身の男。どこか軽薄そうな表情からは考えが読めない。
「こんなことに巻き込まれて、おじさんも災難だなぁ」
F…CとDの間くらいの年齢の少女。内気な性格なのか声が小さい。
「み、みなさん、よろしくお願いします」
G…Fとは双子らしい。彼女とは違いはきはきとした口調で喋り勝気な印象だ。
「ったく、ここはどこ? はぁ」
H…見た目は中性的で、男とも女とも言い難い。というか本人もぼかしている。
「僕はHか。いいね、最高のアルファベットだ。どうしてだって? それはね・・・」
G…どこか、嫌悪感を覚える黒髪の女。
「まぁ、仲良くしましょうね」
こうして周りを見ると、クセのある人間ばかりだな。Eとか見るからに怪しいし。
とにもかくにも、全員の顔と名前(仮)が出揃ったわけだし、改めて情報交換をしよう。そう考えていたら、突如場違いな音声が部屋に流れる。
『ピンポンパンポーン。あーテステス。よし、みなさんこんにちは。どうやら、お目覚めのようですね。私はこのゲームの進行係を務めます、アドーラちゃんです。さて、ゲームって言われても皆さん理解できていないですよね。とにかく、一度食堂の方に集まってください。それじゃあダッシュ!』
おおよそ、この場にふさわしくない能天気な女の声だ。脳に残る甘ったるい声には嫌悪感こそ感じないが、何とも言えない気味の悪さを感じる、
と、そんなことよりも食堂に行かないと。明らかに胡散臭そうだけど、現状だとそうするしか無さそうだしな。
とりあえず、周りの人間にも食堂に向かうよう伝えたのだが。
「いや、おれは行かねぇ、明らかに怪しいじゃないか。それに、あんたのことも信用できねぇ」
Cが頑として、行くことを拒む。
面倒くさいなぁ、こいつ明らかに意地になっているし。とはいえ、置いてけぼりにするのも気が引ける。
と、そんなCを見かねてかEが声を掛ける。
「まぁまぁ、そう言うなよ。とりあえず、ここは食堂に向かおうぜ。もしかしたら何か手がかりとかも手に入れられるかもしれないだろ? もし、そうだとしたら自分だけ情報がないっていうのは却って不安になっちまうぞ」
Eの言葉を受けたCは不本意ながらも食堂に向かうことを決めたようだ。
これが年季の差ってやつか、さっきは怪しいとか考えてしまって申し訳なかったよE。俺の中であんたの評価は急上昇だ。
さて、それでは食堂に向かうとしましょうか。