さがすのはあきらめました。
あたしはかくれんぼの天才です。
『また、レイコが見つからねえよー。』
『あー参ったからもう出てきてくれ。』
『わーい、またあたしの勝ちだね。』
タダシくんとセイヤくんは、よく遊ぶお友達です。
『レイコ、かくれんぼうますぎるんだよな。』
『2人がわかりやすすぎるんだよー。』
あたしはケタケタ笑います。
『じゃあ、また明日学校でな!じゃあなあ。』
『うん、バイバーイ。』
おうちでもかくれんぼをします。
両親は、共働きで帰ってくるのが遅いです。
あたしは寂しいのでたまにいたずらします。
『ただいまー、レイコ。ごめんな、仕事長引いてしまってさ。』
『レイコ、どこいるのー。遅くなってごめんなさい。早く出てきてー。』
おうちでかくれんぼをして、お父さんとお母さんを困らせます。
『はあ、わかった、わかった!降参だよ!ほら、ケーキ買ってきたから許しておくれ。』
『ケーキ!わーい、お父さん大好き!』
『レイコ、ほらカチューシャも買ってきたわ。ほら似合うわよ!』
花柄のカチューシャだ。
『かわいい!お母さん、ありがとう!』
あたしを見つけるのあきらめて降参します。
あたしはかくれんぼの達人です。
♦︎
『セイヤくん、あーそぼ。』
『ごめんな、レイコ今日は塾にいくんだ。』
レイヤくんは、受験組なので最近はなかなか忙しいみたいです。
『また、お勉強かあ、ちぇ!』
タダシくんの家に行きます。
タダシくんの家は、八百屋さんをやっています。
『へい、らっしゃい!あ、レイコか。おつかいか?』
タダシくんです。店番をやっているみたいです。
『遊びたいなあって。でもお店のお手伝いしてるんだよね?』
『うん、かあちゃんが今日体調崩しちゃってさ。今日は遊べなさそう。ごめんなあ。』
『うん、わかった!頑張ってね。』
あたしはとぼとぼ歩いています。
『あーあ、かくれんぼしたいなあ。暇だなあ。』
公園に来ました。ベンチに座ってボーっとします。あたしは来年、中学生になりますが6年生にもなって、公園で遊ぶ人は少ないのでしょうか。
あたしより下の学年の子はたくさんいるけど、クラスの子は全然いません。
『あ、レイコお姉ちゃん!こんにちは!』
一つ下の学年のキヨミちゃんです。
『キヨミちゃん、こんにちは。何をしているの?』
『今日はね、ボランティアで街の美化活動をやっているの。お姉ちゃんは??』
かくれんぼして遊ぶのを断られたなんていえません。だって恥ずかしいから。
『あたしは、散歩してるの。勉強の、息抜きよ。』
『お姉ちゃんも来年中学生だもんね。やっぱりすごいや。じゃあねー。』
キヨミちゃんに、うそをつきました。あたしは思いました。
『かくれんぼはそろそろ卒業しないといけないかなあ。』
『ねえ、お姉ちゃん。』
後ろから声をかけられました。見たことのない、男の子。ボーイスカウトのような格好をしてます。背はあたしと同じくらい。たぶん年下だけど、顔はイケメンさんです。
『なあに??』
『お姉ちゃん、かくれんぼ上手いんだってね。ちょっと遊ぼうよ。』
ナンパというやつでしょうか。しかもかくれんぼ。イケメンさんに見つけてもらうのは少しドキドキします。
『いいよ!あたしを見つけてね!』
さっそくあたしはかくれました。
『もういいかい?』
『まあだだよ。』
『もういいかい?』
『まあだだよ。』
これはあたしの作戦です。隠れているのに、
まだ隠れ場所を探しているふりをして鬼を騙します。
『もういいかい?』
『まあだだよー!』
鬼はだんだんイライラして冷静さを失うので
なかなか隠れ場所を探せません。実は鬼の近くとか冷静に探せばわかる場所に隠れるのです。
『もういいかい?』
『まあだだよ。』
さああのイケメンさんもイライラしています。
そろそろかわいそうだから、もういいよを言ってあげなきゃ。
『もう、いいか。』
『え??』
イケメンさんはどこに消えたのか、いません。
『怒っちゃったかなあ。』
いつの間にか日が落ちています。
『帰らなきゃ。』
おうちに帰ります。
『お父さんとお母さん、今日も遅いのかなあ。』
家は真っ暗です。
『はあ、今日はなんだか疲れちゃった。』
いつの間にかベッドで寝てしまいました。
♦︎
『わ。朝だ。』
時計を見ると、7時です。そろそろ起きなくてはいけません。リビングにおりました。誰もいません。
『お父さん?お母さん?早く出かけてしまったのかな。まあいいや、学校行かなきゃ。』
家を出ます。いつもの通学路。一つおかしいことがあります。誰とも会わないのです。
学校に着きました。先生もセイヤくんもタダシくんも、キヨミちゃんもいません。
『な、なんで、、、、。』
学校を出ます。商店街に向かいます。誰もいません。
『どうして?どうして、どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうして!』
あー、そうか。みんなでかくれんぼしてるのかな。
じゃあ、あたしも隠れなきゃ。あわてて、かくれます。おにの、もういいかいはきこえてきません。あ、まだだよっていわなきゃ。
まあただよー。だれもへんじ、しない。
あたしはいきが、あがります。さがしてくれないとかくれんぼは、おわらない。
もういいよー。へんじがない。
もういいよー、もういいよーもういいよー!
あせがとまりません。だれもさがしてくれません。さがすのをあきらめてみんな、かえったの?
もういいよー、もう、も、
あはははは。あはははははははははははは!
あははははははははははははははははは!
もういいから、だれか、だれかあたしをみつけてよおおおおおおおおおおおおおおおおおお!
♦︎
7年後。
『レイコ、結局見つからなかったな。かあさん。』
『う、う、レイコ、レイコ。』
タダシとセイヤが葬儀場に現れる。
『レイコ、見つからなかったなあ。』
『かくれたまま、居なくなってしまうなんてあんまりだ!』
『タダシくん、セイヤくん、ありがとう。レイコのお葬式にきてくれて。まだ亡くなったかわからないけど、7年経つと、死亡扱いに、、うう。』
レイコの母は泣き崩れた。
葬儀場の外で男の子が立っている。
『レイコは本当にかくれんぼが上手だったねえ。僕でも見つけられなかったよ。まだ、あちらの世界で1人さびしく探してくれる人が誰もいないかくれんぼに絶望しているのかな。』
クスリと笑い、ボーイスカウトの格好をした男の子は立ち去っていった。
花柄のカチューシャと、ともに。