竜のとある一日
とある洞窟にドラゴンがいるという。そのドラゴンは十年ほど前にこの洞窟に突然現れた。見た目はRPGとかにいそうな感じのあれ。
そのドラゴンを討伐しに出かけた者たちは口を揃えてこう言った。
ーーーなんだかよく分からないけどダルそうだ。
俺は今日も考えていた。
(まーたここに誰かしら来るんだろうな……)
竜に転生してしまった俺は戦いを避けるため、人気の無い洞窟に籠ったのだが、俺の願いは叶わずここに俺を倒すために足を運ぶ者が次々に現れてしまう。
目立った戦いをすると余計に面倒ごとになりそうなので、出来る限り相手を追い払うようにしている。
本当は強いのかもしれないが、この十年間戦闘を避けてきたせいでどんな力があるのかさっぱり分からない。
(ん……?なんか物音がする)
洞窟で静かに引きこもる俺の聴覚が凄いのか、ただ反響が凄いのか、近くに人が来ると毎回音が聞こえる。
(また誰か来たのか……)
「お、いた!」
女性の声が聞こえた。どうやら来てしまったらしい。
「あれが最近現れたっていうドラゴンですか……」
「いかにもボスって感じね」
「あれ倒せばいいんだな!」
「どんな技を持っているのか分からない。あまり前に出すぎるな」
倒す気満々な四人がやってきた。服装や装備で大体分かるが、バランスはよさげだ。全て予想だが、白いローブを着た杖を持った女性は僧侶。
身軽な装いに短刀を持った女性が盗賊。
ハチマキをつけ赤い武道服を着て、いかにも拳を武器で固めている男性が武道家。
そして鎧に身を固め背中に刀をつけた男性が剣士。
この四人は今にも俺に襲いかかろうとしている。
(どうやって追い払おう……。できれば傷つかないように)
さて、ギルドだか勇者様御一行だかしらないがそれに出会ってしまった俺。追い払う方法を考えていると話し声が聞こえてきた。
「さっさと倒して報酬いただいちゃいましょうよ!」
「そう簡単に言わないでくださいよ……」
「大丈夫!すぐに終わるって!」
何かなめられているような。とはいえ、自分の能力もよく分かってないし、ここで暴れてもデメリットしかない。我慢しろ俺。
「あまりなめてかかるな。足元掬われるぞ」
「むぅ……少しは肩の力抜いたら?」
「いつも力は入れてないが?」
「あ、そう……」
なんだこのパーティ。剣士っぽい人が、というか全体的に個性が強めだな。
(なんだか盗賊っぽい人がすごい大変そう)
「と、とにかく、さっさと倒そう!」
(これ、俺が背を向けてどっか行っても追いかけてくる感じか……?)
どうしたものか。戦う意思を見せないで帰ってくれればいいんだけど。
(少し気が引けるけど、それでどうにか出来ればやむを得ないか……?)
俺は相手に背を向け洞窟の奥に歩いていった。
「え?」
相手は動揺していたが、すぐに俺に向かってきたのが一人。
「待てー!私の報酬ー!」
報酬目当てに飛び込んできた盗賊っぽい人だ。短剣を去ろうとしている俺の背に刺そうと構える。
俺は振り返り、彼女を手で掴んだ。
「ぐ、ああ……」
(え?)
自分の手に目をやると盗賊っぽい人が苦しそうにもがいていた。
(そんなに力いれてないはずなんだけど……。さっさと終わらせないとヤバいかもな)
それを見た仲間は僧侶っぽい人以外は飛び込んできた。
俺は炎の弾を上に撃った。そして瓦礫を落とし彼らの動きを封じた。
(とりあえずこれでよし……)
ここまでは想定内。しかし問題はここから。それで帰ってくれればいいんだけど。
俺は追い払うための最善の方法をイメージしながら移動した。
「くっ……。私をどうするつもり!?」
と、先ほど捕まえた盗賊っぽい人が尋ねてきた。が、俺は答えない。というか喋れない。
(別に危害加える気はないから安心してくれ)
「まさか、私にあんなことやこんなことを……!」
(なに想像してんの。この人)
「私を食べたって美味しくないんだから!……それとももっとハレンチなことをする気ね!この変態ドラゴン!」
(妄想が行き過ぎた方向に向かってる)
「私が苦しむ姿を楽しみたいんでしょ!」
(もう黙ってくれ。そんな気はない)
彼女の妄想は移動中止まることはなかった。
戦った場所から少しはなれた広い空間に来た。普段は寝床として使っている。俺は捕まえていた盗賊っぽい人をゆっくりおろし、その場で座った。
(よく考えたら、これ余計に襲ってくるんじゃ……)
やったことに後悔し始めた。
(盗賊っぽい人が飛びかかってきたとき瓦礫を落としておけばよかったんじゃないのか?わざわざここまでつれてきてもメリット何もないよ。どうしよう……)
「どうして……?」
盗賊っぽい人が首を傾げていた。
「どうしてここで私を離したの?」
(どうしてって言われても……)
説明できない。色々とややこしくなる上に伝える方法がない。
「もしかして餌に!?」
(しません)
俺は戦う気がないことを示すため、ここでまた彼女に背を向けて彼女から離れた。
「え?えぇ?」
どうやら困惑させてしまったようだ。
「まさかだけど、戦う気ないの?」
(よかった伝わった)
俺は振り返り、彼女の前に座った。
(これ立ち上がれるのか?……まぁいいや)
これで敵意がないことが伝わったはずだ。
「あー。噂のダルそうなドラゴンってそういうことね」
彼女は何かを理解したようだ。
「戦わないようにするためにしてたから他と比べたらやる気ない感じに見えたって訳ね」
知らない間に噂になっていたらしいが、俺の考えを理解してくれた。
「あなたも大変なのね」
(この十年間何度も人が訪ねてきたから大変だったよ)
「襲われないと分かったけど、あの人達来てくれるのかな?」
(仲間なのに来ないってことあるのか?)
「盗賊として生きてきてたけど、元を返せばただの奴隷。使い物にならなきゃ手放すだけよ」
(この世界、人身売買が行われてるんだな)
「私なんてどうせ、これから先ずっと一人なんだと思う。あのパーティーも買われて入っただけだったし」
(この人、色々と大変な思いをして来たんだな)
俺は姿勢を変え、腹を地面につけ、体を丸めた。
彼女はその後、パーティーメンバーの愚痴を呟き、自分だけが辛い目をみると嘆いた。
彼女はあのパーティーではいじめに近い仕打ちを受けていたらしい。
俺は適当な枝を折らないように持ち、先端に火をつけた。そしてそれを彼女に差し出した。喋れないから間違えた解釈をされそうで怖い。
「逃がしてくれるの?」
(その松明一本で出口まで行けるなら。戻って認めてくれる人を探して幸せに暮らしてほしい)
「ありがと。また来ることがあればその時また会おうね」
彼女はそういってこの洞窟を出た。