手枷をつけた少女の
旅は賑やかで、とても楽しいものだった。
「そんな大層なものを着けていたら、禄に街を歩く事も出来ませんよ。」
少女の手を指差して、アスカの出したその言葉に少女は申し訳なさそうな、困ったような顔をした。
「これを羽織るといいですよ。」
四角い布の真ん中に穴を開けた物。それをアスカは少女にかけた。少女のふわりとした笑顔が、開いた穴からぽんと出てくる。
何の変哲もない布の肌触りに、少女は感動しているようだった。
「靴も履いて。うんうん、これでいいですね。」
「あ。 ……ありがとう、ございます。」
少女は直ぐに心を開いてくれた。
少女と旅を続けてどれくらいになったか。憶えていないがある日、彼女は私とアスカのためにと花を摘んで来てくれた。
「お花。」
そう言って、ぎこちなく彼女は笑った。
本当に、嬉しかったのをおぼえている。
そう、思えばあっという間の事だったな。
「着いた。」
「ええ。」
目的地についた。という事は、少女とお別れの時だということだ。
短い間ではあったが、やはり少しの寂しさを感じる。
「違う。こっち。」
街に入ろうとした時、アスカの腕を少女が引いた。
そして彼女は街の門とは別の方へ小走りで向かい、私達にこっちだよと合図を送ってきた。
「ついていこうか。」
「……はい。」
アスカは少し不信感を抱いているようだったが、それでも頷いて少女のあとを追った。
少女は私達の少し先を早足で進み、私達はそれについて行く。
街から離れていく毎に、アスカの顔には不安の色が滲んでいた。
「まだ幼いですし、道を間違えているのではないでしょうか。」
度々アスカは街の方へと戻るよう促してきた。
その度私は大丈夫だと言ってきかせる。
次第にその頻度が増していくと、少女はそれに耐えきれなくなったのか。速度を上げた。
「ちょっと! 待ってください。」
直ちに私達も走り出す。
見失わないように追いかけて、追いかけて追いかけて。やっと少女を捕まえた時、少女は、ただ呆然と、目の前に広がる光景を眼に灼きつけていた。
「……ありがとうございました。」
少女はくるりと振り返ってぺこりとお辞儀をした。
「え。ここ、ですか? だって……」
「ここ。私の、たった一つの居場所。」
少女は、目の前の光景を通して、また別の何かを見ているようで、大粒の、涙を溢した。
「居場所は、こっちにもありますよ。これからも一緒に。」
アスカは少女の肩を掴んでまで、必死に引き止めようとしていた。
しかし、少女が首を縦に振ることは無く、涙でぐしゃぐしゃな顔を精一杯の笑顔に変えて。
「皆が待ってるから。私だけ、そっちにはいけない。」
そうして、優しく手を避ける。
「アスカ、行こうか。」
「え、え。……でも―」
手枷をつけた少女に別れを告げる。
手枷をつけた少女は見えなくなるまで私達をおくってくれた。
手枷をつけた少女の終わりは、
幸せそうだった。