いつものように振り回される
少女を助けに行ったカシムさんを追いかけた。
曲がり角を駆使して大男たちを振り払った彼は、あろうことか隠れもせずに呆然と立ち尽くしていた。
私がたまらず手を引いて、大きな酒樽へと一緒に忍び込むと彼は。ここは何処かと尋ねてきた。加えて、自らが助けた女の子の声に驚いた。
彼は、忘れたのだ。私の手を無理矢理に引き剥がして少女を助けに向かったのにも関わらず。少女の存在すらも、忘れたのだ。
なんとも、無責任、なんとも身勝手。
その後も苦労した。追手の眼をかいくぐりながら宿を探し、やっとの事で眠りについたのだ。
何が大変かって、手錠のかけられた女の子なんていう目立つのを連れ歩きながらだったから、何度も泊まるのを断られた事か。そんな最中、カシムさんはずっと抜け殻のようで、本当に使えなかった。
「どうして、手錠なんて掛けられているのですか?」
「……」
彼女は酷く怯えている様子だった。
宿に入って眠るまでの時間。私は俯き黙る彼女に話しかけ続けた。
そして、
「家は何処なの?」
この言葉をさかいに、少女の目から大粒の涙が溢れだした。
「ママ、皆……」
ボロボロと落ちる涙は、中々止まることはなかった。
彼女が泣き疲れて眠ってしまうまで、私は頭をそっと撫で続けた。
朝起きるなり、私は彼女の家の場所を尋ねた。それは、少し遠くの街の、はずれ? らしい。
自分が姉を探していると言っていたことも忘れて、私はカシムさんにその場所に向かおうと、言おうとしたのだが。
彼は昨晩、隠れたあの酒樽に向かうと言い出した。
そうすると言って聞かないので、仕方なくその場所に向かう。愚図る彼は、思ったとおりにいかないことに怒る子供そのものだった。
「こんなところで一夜過ごしたのか?」
酒樽から出てくるなり、カシムさんはおかしな事を口にする。
いや、わかっていた。彼は、酒樽に入ってからの記憶を消したのだ。私が苦労したことを、一番そばにいた彼は知らない。
ああ、腹が立つ。
そんな感情も、カシムさんの声で吹き飛んだ。
「どうしたのアスカ、早く行こう?」
え?
彼は私のお願いを忘れたのか? でもそんな切っ掛けはなかった。彼にとって都合が悪くなければ忘れることは無い。そうだ、忘れない。じゃあ何故。何故?
まさか……
いや、そんなわけない。
「ああ。そう、ですね。行きましょうか。」
そんなこんなで、私達三人の長い旅が始まった。