ないたあと
「私、アスカって言います。よろしくお願いします。」
……?
「あぁ、よろしく。」
スッ、と誰の力も借りずに立ち上がるとアスカは私の横に着いた。
改めて見ても、キレイな顔。
本当にな――
仲間が出来ると言うのは良いことだ。先程までの重い足取りはどこへやら。軽やかに、でもゆっくりと歩き出す。
「アスカはこの町に住んでいるの?」
「いいえ、あなたはどこから?」
道中。話をしようと軽い質問を投げると、すごい速度で投げ返された。
「私はえっと……遠くから。」
「そうですか。どうして旅を?」
「何となく。」
「そうですか。どのくらい旅を続けているのですか?」
「え〜――」
その後はこのように、続けざまに質問をされ続け。相手の事は何一つと言っていいほど知ることは出来なかった。
まあ、それはアスカも同じだと思うが。
「憶えていないのですね。」
「おかしいなぁ。」
本当に何にもならないような話をしていると、瞬く間に時間は過ぎた。
と、言っても過ごした時間を忘れただけな気がするが。
その間、アスカの探し人を見つけることは出来なかった。の、だろう。
「居ないねぇ。」
すっかりと辺りは暗くなり、すれ違う人の顔も見え辛くなって来た頃、私は言った。
すると道端でうずくまって泣いていた子供は、えらくスンとした態度で「そうですね。」とだけ口にした。
「本当ですか? ありがとうございます。」
また明日にしよう。
そう言うと少しフライング気味で返事がかえってくる。
形式的な感じがした。
「泊まる所は―」
「助けて!!」
平和に幕を閉じようとしていたというのに、突如として非日常な叫びが聞こえてくる。
咄嗟にそちらの方を向くと、手錠をした女の子が横切って行く姿が目に入った。
「助けないと。……ッ!」
私は反射的に走り出そうとしたのだが、右手の引っ張られる感覚と右手首の鋭い痛みに思わず足を止めた。
「どうして?」
アスカが私の腕に爪を立てたまま、ゆったりとした口調で尋ねる。
「助けを求めている人が居るからだよ!!」
私はその答えと同時に無理やりその手を引き剥がし、助けを求める声の方へと走り出した。
「そう……優しいのですね。」
後方でそう呟く彼女は、鉛でも抱えているかのようだった。