4.姉妹大戦争
目が覚めた、すでに辺りは暗くなっている。
寝起きのぼんやりとした意識のまま空を見上げる、そこには満点の星空が広がっている。
空気汚染や無駄な明かりがない純粋な星空は、言葉で言い表せないほど綺麗だった。
月の何倍もある大きな衛星が、ここが地球ではないことを教えてくれる。
思考がはっきりとしてきた。
僕はかなり寝ていた。すぐには寝られないだろう。
少し巣の外側が見てみたくなった。
クレーターのようになっているせいで、僕は外側の世界を見たことがない。
好奇心に負けた僕は、たちあがり、そこで声を掛けられた。
『あら、目が覚めちゃったのね。どこに行くのかしら?』
お母さんからの念話だった。
もしかして起こしてしまったのだろうか、そうだとしたら少し悪いことをしてしまった。
そんなことを考えながら返答を返す。
『巣の外側が見てみたくなっちゃったの』
僕はこの世界の事をなにも知らない。
今すんでいるこの場所の事も、空に浮かぶ大きな衛星の名前も知らない。
産まればかりの僕がこんなことを嘆いても仕方ないが、未知を既知に変える楽しさを、魔法と言う特大の未知で知ってしまった。
きっと僕の知識欲は、一生涯終わることは無いだろう。
差し当たって今は、外の世界が見てみたい。
『そうなの・・分かったわ。でも巣の外には行っては駄目よ』
『うん。分かった』
そう返事をして、僕は逸る心を胸に巣の端っこに向かって歩き出した。
そうして巣の端に着いた僕は初めて外の世界を見る。絶景だった。
永遠に続く様にも思える山脈、雲の隙間から見える広大な樹海は、地平線の彼方まで続いている。
見渡す限り人工建造物はなく、手付かずの大自然は、見るものを圧倒させるだろう。
暫く景色を堪能していた。おそらく30分程度くらい経っていただろう。
時間は、あっとゆう間に過ぎていた。
少し眠くなってきたので、僕はお母さんのいる方へ戻っていった。
産まれたばかりの幼竜の睡眠時間は長い。半日以上寝は寝て過ごしているのだ。
僕が起きていられる時間は短いけれど、それでも、いろんな事が知れる。
「明日はどんな事を知れるだろうか」
そんなわくわくする気持ちを感じながら僕は夢のなかに落ちていった。
騒がしい音で目が覚める。
音のする方に目を向けると、幼竜達がじゃれあっている。
産まれたばかりの時にしたじゃれあいと少し違い、より実践的な立ち回りかたをしていた。
六足熊との闘いで僕達は恐怖を知った。
今のままでは、死力を尽くし、なお勝てない存在がいること思い知らされた。
だからこそ、強くなろうとしているのだろう。
僕も混ざろう。
僕も強くなりたいのだから。
・・・僕は今、妹達から、全力で逃げている。
少し時間を遡る。
僕は妹達がじゃれあっている所に混ざりにいった。
このじゃれあいは、強くなるためにやっている実践訓練だ。
魔法こそ使っていないけど、体当たりされたり、噛みつかれたり、全力で戦っているためかなり痛い。
きっとこの戦闘訓練をさせるためにお母さんは、あの熊を最初の敵として利用したのだろう。
だから僕は全力で、目の前の妹達と戦った。
尻尾を足に引っ掻けて転ばせたり、純粋な力比べでねじ伏せたりした。
僕は、姉妹の中で一番強くなった。強さを示してしまった。
さらに僕は、六足熊との闘いで、唯一接近して、物理攻撃を使っている。
そうして熊を倒し、妹達の頂点に立っている。
妹達にとってそれは、偉業であり、憧れとなっていた。
そしてその憧れは、「勝ちたい」と言う意思に変わっていく。
個々では、勝てなかった。
「ならば、集団で倒しに掛かろう」
そう考えるのは必然だったと言える。考えたのならば後は、実行するのみ。
つまり、囲い込んでボコる。と。
そして今に至る。
僕は、妹達よりも強い。それは、魔力量の違いのせいだ。
魔力とは、この世界に当たり前に存在していて、この世の全てが魔力の上に成り立っている。
そして、魔力量が多いと、体力が増えたり、走る速度も上がっている。もしかしたら防御力も増えているかも知れない。
六足熊を倒したとき、一番近くに居たからなのか、止めを刺したのが僕だったからなのかは、解らないけど、あの熊のお陰で僕と妹達との魔力量の差はかなり開いている。
このままでは、埒が明かない。
だから僕は、少し減速して、追いかけてくる一番前の子に、尻尾を使って攻撃する。
狙うのは前足。
横凪ぎに振るった尻尾は、狙い通りに幼竜の前足に直撃する。
バランスを崩し、二匹を巻き込んで止まった。
足に力を入れて振り向き、その勢いを尻尾に込めて三匹まとめてぶっ飛ばす。
あの三匹はもう戦闘不能だろう。残り七匹。
囲まれたら負ける。
それでも僕は、残りの七匹がいる方へ特攻する。
負けても、別に死ぬ訳じゃないのだ。ならば全力で勝ちに行くだけだ。
一番近くにいた一匹の首筋に噛みつき、思いっきり放り投げる。
投げた先にいた一匹の幼竜に当たり仲良くノックダウン。残り五匹。
そうこうしている内に、囲まれてしまった。しかし、すでに半数になっている。
まだ、勝ち目はある。
「此処からが本番だ」
威嚇するように鳴き、目の前にいる個体に体当たりする。
いい感じに攻撃が入ったが、助走が足りなかったのか、まだ倒れていない。
一匹に気を取られていると、首筋と、尻尾の付け根から、痛みが、伝わってくる。
噛みつかれてしまったようだ。
痛みを我慢して、僕は思いっきりジャンプした。
僕に噛みついてきた二匹は口をはなし、そして、そのまんまバク転する。
その勢いで、目の前にいる個体に尻尾の一撃を食らわせた。
着地した僕は、噛みついてきた二匹に当たる様に尻尾を振るった。残り二匹。
後は、簡単だった。一匹ずつ体当たりして、終わりだ。
回りを見渡すと、十匹の幼竜が転がっている。勝った。
かなり戦っていたようだ。もうお昼を過ぎている。
少し休憩していると、妹達が起き上がってきた。
お腹が空いてきた。
確か、昨日の熊の残りがあったはずだ。
僕が、お腹一杯になった頃には、全員が起きて来た。
妹達から尊敬の眼差しを向けられ、少し恥ずかしい。
それでも、尊敬されているのは、嬉しい。
だから、僕は、妹達に向かって念話を飛ばした。
『皆が強く慣れるように、これからも訓練を続けていこうよ』
そう言うと、妹達は、喜んでいる。これなら皆で強くなれだろう。
こうして姉妹大戦争が、これから毎日行われる事が決まったのだった。




