3.初めての恐怖
六足熊を倒す覚悟は出来たけど、11匹の幼竜が一匹の瀕死の熊を相手にするのだ。
控えめに言って集団リンチだ。
まず負けることは無いだろうが、威圧感が凄い。
眠っていると解っていても近づきたくは無い。
僕の妹達はまだ眠っている。
皆が起きたらあの熊も起こして、戦闘訓練がはじまる。
緊張するし怖い。
少しでも安全に倒せるように戦力分析をしておこう。
分かりやすい物差しが無いが、僕の大きさはだいたい1メートル位だ。
勢いをつけて頭突きをするだけでかなりの威力になるだろう。
まっまあ頭突きは無しだ、怖いし。
魔法の練習のために離れて攻撃しよう。
六足熊は大きい。
4メートル位はあるんじゃないだろうか。
体の至るところに傷痕があり、最初はお母さんとの戦闘で傷がついたのだろうと思ったが、新しい傷痕は背中にある大きな爪痕だけで、それ以外は古傷のようだ。
まさに歴戦の猛者だった。
眠らされているにも関わらず、威圧感を感じるのは数々の修羅場を生き抜いてきた証拠だろう。
しかし今は瀕死だきっと。
誰も欠ける事もなく倒せるだろう。
もしものことがあっても、お母さんがいる。それでも得も言われぬ不安感が襲ってくる。
「最後まで気を抜かないようににしよう」
ある程度の戦力分析が終った時には、すでにほとんどの妹達が起きていた。
しばらくして、最後の一匹が目覚めた。
全員が起きたのを確認すると、お母さんから念話が届いてきた。
『今から六足熊にかけている魔法を解くから、あなた達だけで倒してみなさい。』
そしてお母さんに連れられて、僕達は熊の方へ近づいていった。
お母さんが睡眠魔法を解く。その瞬間威圧感が増した。
凄く怖い。幼竜の中に緊張が走る。
「落ち着け、僕」
『ふふっ頑張ってね』
弱々しい鳴き声が聞こえてしまってのが、お母さんからの声援が飛んでくる。
よし落ち着いた。まだ少し怖いが、それだけだ。
この熊は瀕死で後ろにはお母さんがいる。
だから、大丈夫だ。
僕は覚悟を決めて一歩前へ踏み出した。
・・・それから10分ほどの時が流れた。
そうだよね、睡眠魔法が解けた瞬間に目が覚める訳じゃないよね・・
歴戦の猛者と言えど、瀕死の状態で、睡眠魔法までかけられていたのだ。
すぐに目が覚めるならそれは、生物ではなく何か別のおそろしい化け物だろう。
魔法を解いた瞬間威圧感が増したこの熊は、むしろ、強い方である。
恐怖心で頭が回っていなかったと、言い訳はできるが、これは気づくべきだったろう。
恥ずかしい。顔が赤くなっているだろう。もとから赤いけど・・・
そしてようやく六足熊が目覚めた。
熊は、辺りを見渡すと、少しもたつきながら立ち上がった。
彼は現状を理解していた。
自分はこの幼竜の戦闘訓練に付き合わされて、死ぬと。
腕は上がらないし、突進も出来ない。立ち上がるのがやっとだ。
けれど、それでも戦う意思があった。
広いテリトリーを持ち、戦いの中に生きてきた意地があった。
六足熊から感じる強大な殺気に怖気づく。
それでも僕はこの熊を倒す。
魔力を口に集めて解放する。当てるイメージをして、勝つことだけを考えて魔法を放つ。
放たれそれはまっすぐに飛び、熊のお腹に着弾して爆発した。
熊の体が見えなくなるほどの黒煙が発生した。
かなりの威力だったと思う。
魔法を放つことには、成功した。特に意識はしていなかったのだが、放たれたのは火の玉だった。
自分の色合いで薄々気付いていたが、僕は火竜なんだろう。
そんなこを考えていても警戒は怠らない。
まだ殺気は感じている。まだ生きている。
黒煙が晴れる。そこにいた熊は、まったく動じていなかった。
確かに火の玉は当たっていた。傷だらけの体に焼け焦げた後が追加で存在している。
その姿に動揺した妹達が一斉に火の玉を放つ。
それでもこの熊いや彼は立っていた。その姿が、生き様がどうしようもなく美しく、かっこよく見えた。
だから彼は僕が倒す。
最初の一撃で魔力はほとんど残っていない。
だけどそんなことはどうでもいい。
誇り高い彼を倒すのだ。ならば僕も誇り高くあろう。
だから僕は正面から堂々と詰めより寄り彼に飛び込み、喉元に食らいついた。
時間にして10秒ほどだろう。喉から口を放したとき六足熊は息絶えていた。
勝った。そう実感したとき、僕は咆哮をあげていた。
いつもちょっぴり怖いしと、思っていたけど、今はそんなことを微塵も感じなかった。
今僕は熊を食べている。
前世の記憶があるからと言って、生肉が、拷問に感じることはなく、大変美味しく頂いている。やっぱり前世の記憶は記録でしかないらしい。
お肉を食べていると不思議と、体力が回復しているのが分かる。それも、六足熊を倒す前よりもだ。
魔力も回復しているのでお母さんに聞くと、魔物を倒したり、魔力を使いきったりすると、魔力上限が上がるらしい。
そして倒したばかりの魔物には、魔力が豊富に残っており、それを食べることで魔力が急速に回復したのだ。
感覚的な物だが、僕の魔力上限は相当に上がっている。
それだけだ僕と六足熊には戦力の差があった。
太陽を見る。時間はまだお昼を過ぎたころだ。2時くらいだろう。しかし、眠い。
忘れがちだが、僕はまだ昨日産まれたばかりの幼竜だ。
それが魔法を使い、感じたことの無い殺気を受け、初めて動物を殺したのだ。
疲れない訳は無い。
お腹を満たし、お母さんの近くへ行き、寝転がる。少し明るすぎる気もするが、すぐに寝られるだろう。
『おやすみなさい』
そう念話を飛ばし微睡みのかかに落ちて行く。
『お疲れ様、ゆっくりやすみなさい』
そして僕は、その念話を最後まで聞かずに眠りに落ちた。
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ぼちぼち投稿していくので、これからも宜しくお願いします。




