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転生ドラゴンは生き残りたい  作者: プレ子
第一章
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18.ギルド長の憂鬱

 とある一室、きらびやかな装飾は無く、しかし、無骨さを感じさせない程に整えられた書斎にその男はいた。


「ロックドラゴンの生体反応が消えただと」


 百戦錬磨を思わせる男の声は刺す様な威圧感がある。

 しかしそれを意に介さずに、伝令役の騎士風鎧を着た男が慣れた様子で、会話を続ける。


「はい。討伐隊に参加しているAランク冒険者、ザクロが使用していた追跡魔術『マーカー』の反応が途絶えたと入電が入りました。ギルド長に判断を委ねたい、と」


 『マーカー』は、術式をかけた相手の居場所を術者に知らせる魔術だ。

 そして、それは対象が死ぬか、もしくは術者が魔術を解除するかでしか『マーカー』から逃れる事は出来ない。

 そして、Aランク冒険者は単独で騎士団を上回る実力を持ち、貴族と同等の扱いになる。

 そんなAランク冒険者が初歩的なミスをするとは考えられない。


 少しの逡巡の後、ギルド長と呼ばれた男がつぶやく様に言葉を発する。


「ザクロがミスを犯したとは考えづらいか」

「はい。ですのでロックドラゴンの死亡は間違い無いかと思われます」


 ロックドラゴンの住むオーラス大森林はその9割以上が未だ前人未到領域だと考えられている。

 故に未知の魔物との遭遇率が高く、縄張り争いが頻繁に起こる為に危険度が高い。


 そんなオーラス大森林に隣接している国、ネペンテス王国は鉄壁の防壁と優秀な人材が揃っている。

 今回のロックドラゴン討伐隊にも少数ではあるがAランク冒険者もおり、精鋭が揃っている。

 それでもロックドラゴンと戦えば、互角か少し上回る程度だ。

 そんなロックドラゴンを倒せる未知の存在と戦うには、たとえそれが個だとしても群れだとしても、今、遠征に出ている討伐隊には少々荷が重い。


「討伐隊に即時帰還するように伝令を出せ」

「了解です。しかし、ロックドラゴンの死体を回収させなくて良いのですか? 城壁の件もありますし……」

「ああ、その件か……危険ではあるが仕方あるまい。ロックドラゴンの生体反応が消えた場所付近を捜索させろ。ただし、何も無かった場合、即時に撤退させろ。絶対に無理はさせるな」



 伝令の男が退室たのを確認し、大きなため息をつく。

 ここのところ良い事が無い。

 いくつかの不幸が連続したおかげで、今の状況は非常に良く無い。

 全ては2週間前、ロックドラゴンが襲撃してきた時から始まった。




 その知らせは唐突にやってきた。


「ギルド長大変です。ロックドラゴンがオーラス大森林に出現。真っ直ぐにこの街へ進軍中とのこと」


 魔物の襲撃は、この都市では珍しい事ではない。

 それ故、城壁には常にかなりの数の騎士が在中している。

 大抵の魔物はこの騎士達が対処出来るのだが、時折こうした騎士団では敵わない魔物が現れた時、冒険者組合、つまり私の元に緊急の知らせが来るのだ。


 騎士団の本業は魔物を倒す事では無い。

 他国から国を守る事を誇りとしているのだ。

 故に、国を跨ぎ、各国に拠点を持つ冒険者組合とは反りが合わないのだろう。

 そう言う事情があるから、あまり騎士団とは関わりたくないのだが、これも仕事と割り切るほか無い。

 ただ、今の騎士団長が冒険者に理解を示してくれているのが唯一の救いだ。


 長々思考を続けてしまったが今は緊急事だ。

 迅速に対策を立てなけければならない。

 しかし、今はとにかく情報が足りないため、動くに動けない。


 暫くして、ロックドラゴンに関する情報が集まってきた。

 曰く、体長は5メートル程、目立った外傷は無く、弱っている様子は見受けられない。

 そして、ロックドラゴンの移動速度からして、後30分もしないうちに街の城壁までたどり着くだろう。


「Bランク冒険者に依頼を出せ。そして、近くにいるAランク冒険者を招集しろ」



 そうして、何とかロックドラゴンが城壁にたどり着く前に編成が間に合った。

 私は討伐に参加する事は出来ないので、後は、勝利を祈るだけだ。


 暫くすると、爆破音と振動が伝わってきた。

 ロックドラゴンとの戦闘がはじまったのだろう。


 戦闘音は次第に大きくなっていき、しかし、30分を過ぎた頃にはその戦闘音は小さくなり、周囲に安堵する声が上がる。

 しかし、その安堵は早すぎた。

 次の瞬間、大気の温度が急激に上昇したのだ。

 少し遅れて、城壁の方から聞こえてきた想像を絶する爆破音。


 緊急事態を察し、慌てて部屋を飛び出し、爆破音のした方を向くとそこに見えた光景は、巨大な大穴が空いた城壁の姿だった。


 辺りを静寂が支配し、この場にいる全ての人が立ち尽くす中、それでもまだ戦闘音は響いている。

 いち早く我に返った私は、周りにいる冒険者に声をかけ、協力して市民の避難誘導を始める。



 避難誘導を続けていると、ロックドラゴンを撃退する事に成功した、と言う報告が入った。

 真偽を確かめる為、一度ギルドに戻ると、そこにはロックドラゴンの討伐に出向いていた冒険者がいた。

 何人か居ない顔ぶれがあるのは…………そういう事だろう。


 その後の報告は、Aランクパーティー『閃光』のリーダー、ザクロから聞いた。

 戦闘時の状況や、撃退に至った経緯、そして、どれ程の被害が出たか。

 冒険者の被害は現段階で確認されているのは、6人が重症、そして4人の死者が出た。

 騎士団や、城壁付近に暮らしていた市民にもかなりの被害が出ているが、まだ詳しい情報は入っないない。



 ロックドラゴンの襲撃から数日が過ぎ、一段落した日、最悪な知らせが届いた。

 騎士団長の戦死。

 どうやら今までの間、騎士団の連中が隠蔽していたらしく、新しい騎士団長が就任することで、初めて騎士団長の戦死を知った。

 

 更に不幸は続いた。

 新しく就任した騎士団長が、全ての責任をギルドせいにして弾圧してきたのだ。

 そして、責任問題を問われ、止む終えずロックドラゴン討伐隊を派遣する流れとなったのだ。

 




 そして、今に至る訳だ。

 思い返しただけでため息が出る。

 せめて何か討伐の証の様な物があれば良いのだが……

 ロックドラゴンの生体反応が消えた位置までたどり着くには、どうやら、後5日程掛かるがらしい。

 吉報を待つとしよう。


 


 ……5日後、何も残っていないと聞いて絶望する事になるのを、ギルド長はまだ知らない。

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