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転生ドラゴンは生き残りたい  作者: プレ子
第一章
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13.ロックドラゴン

 僕はロックドラゴンと戦う。

 重要なのはあくまで戦う事であって、倒す事じゃない。

 生け贄と言う行為が気に食わないから攻撃する訳で、その攻撃自体の正当性は全く無い。

 だからこれからする戦いは偽善でも正義の押し売りでもなく、ただ嫌な物を見せられた八つ当たりに近い。


 そして、その八つ当たりには利点があった。

 戦闘技術の向上に倒す事で得られる魔力上限の強化、何より格上と戦う経験が出来る。

 それも、比較的安全に。


 偽善も無く、正当性も無い。

 あるのは僕の利益だけ。

 自己中心的な考え方しかしてないけど、僕にだって正義はあるし、誇りもある。

 越えちゃ行けない一線はちゃんとあって、それを越えない限りに自由に生きるつもりだ。


 ながながと思考を続けているのは、多分僕が多少の罪悪感を持っているからだ。

 僕が生け贄と言う行為に嫌悪感を感じるのは、あくまで前世の記憶があるからで、この世界では当たり前かもしれない。

 第一生け贄を差し出しているのはオークで、人間とはそもそも生態系が違う。

 当然、人間とは違う価値観を持っていて、人間とは違う正義があるのだろう。

 ロックドラゴンにだって正義がある。

 生きるためには、生け贄だって一つの手だろう。


 それでも、気配遮断で魔力を隠蔽した、僕にすら怯えるまでになっていたオーク達を考えると、どうしてもロックドラゴンに対してイライラしてしまう。


 ロックドラゴンが、生け贄のオーク達を連れて集落を離れていくのが見えた。

 特攻しよう。

 今僕がいる位置は、ロックドラゴンの視角に入っている。

 雑草を掻き分けて少しずつ移動していっても見つかって先制攻撃を食らう確率が高い。

 だからロックドラゴンの視角から外れる必要があったのだ。

 けっして長考していたせいで周りが見えていなかった訳ではない。

 ないったらない。



 地面を蹴り、飛び上がる。

 高度50メートル程度まで上がり、そこから滑空して接近していく。

 その方が、静かに飛行出来て、速度も速いため奇襲の成功率が上がるからだ。

 そして、この速度を殺さない様に空中で回転して、ロックドラゴンの背中に尻尾を叩きつける。


 金属音のような鈍い音が響く。

 岩を打ち砕ける程の一撃を受けたロックドラゴンはしかし、大したダメージを受けていない。

 助走をつけての尻尾攻撃は、幼竜に出来る一番強い物理攻撃だ。

 だから次にとる行動は、態勢を整えて、空へ飛び上がる事だ。

 

 物理では勝てない事はある程度予測していた。

 最初の攻撃は、僕の物理攻撃が通用するかを試したのだ。

 

 ロックドラゴンの背中から飛び立ち、相手に攻撃の隙を与えない様に魔術を放つ。

 使う魔術は『フレイムランス』

 発動時間が短く、連射力の高い初級魔術だ。

 

 狙い通り、ロックドラゴンの頭に直撃し、白煙が上がる。

 焼け跡は残っているが、大したダメージではない。

 それでも僕はロックドラゴンの頭を目掛けてフレイムランスを打ち続ける。


 怒ったロックドラゴンが、風系統の魔術『ウインドカッター』を乱れ撃ってくる。

 それを少し距離を離しながら交わしていく。

 フレイムランスで、ロックドラゴンの視界を遮っているから直接的な狙いがなくて避けやすい。


 その間に僕の『切り札』、最大火力を出せる魔術を展開していく。

 攻撃を避けつつ初級魔術を打ち続けている為、まだ3割程度しか魔術式が完成していない。

 魔術式が完成に近付くほどに常時使っていた気配遮断の効果が薄れていく。 

 術式に込めた魔力は、気配遮断で消すことが出来ないのだ。

 そのせいでロックドラゴンの狙いが少しづつ正確になってきている。


 半分程魔術式が完成した頃には、気配遮断は意味を無くし、完全に僕の居る場所をわかっているような攻撃に変わっていた。

 致命傷こそ無いものの、切り傷が至るところに出来ている。


 状況はかなり良くない。

 今までは自分の居る場所がロックドラゴンに気づかれないように立ち回っていたから、中級や上級魔術は使わず、魔力消費の少ない初級魔術での撃ち合いが成立していた。

 

 前提条件が変われば必然的にそれまでの均衡が崩れる。

 それは、数秒後に当然の様に証明された。

 ロックドラゴンから放たれた可視化出来る程に圧縮された風の弾丸が、既に避ける事が出来ない距離まで迫ってきている。

 『ウインドバレット』貫通力と速度に特化した風系統の上級魔術だ。


 このままの軌道で風の弾丸が進めば僕の翼に当たってししまうだろう。

 それは絶対にいけない。

 翼に当たれば間違いなく飛行が出来なくなる。

 逃げる事が出来るアドバンテージがあるからこそロックドラゴンのような格上に挑めるのだ。

 今飛行出来なくなれば、攻撃を避ける事すらままならなくなってしまう。


 限界まで酷使された脳は一瞬の間に新たな命令を与え、空中にある体を無理やり捻らせた。

 骨が軋むような音が痛みと共に聞こえてくる。

 しかし次の瞬間、更なる激痛が体を襲う。

 強烈な痛みと嘔吐感が込み上げてくる。

 思考が乱れ、今にも気絶しそうな現状はしかし、


 「がふにゃっ」


 戦闘中には不釣り合いな謎の音によって壊される。

 どうして出たか分からない変な声は気を紛らわせ、思考が冷静になっていく。

 この程度の痛みならこれ以上の痛みを知っている僕なら余裕で耐えられる。


 変な声は吐血によるものだ。

 お腹には30センチ程の風穴が空いている。

 翼は守れたし、今まで作ってきた魔術式は多少乱れてしまったが、まだ修正出来る範囲だ。

 此処からが第二ラウンドだと気を引き締める。


 ・・・事が出来なかった。


 ロックドラゴンと目があった。

 フレイムランスを使って白煙をだし、視界を遮っていきた。

 それなのに今、見つめ会っている。


 戦闘中、一番危険視していた攻撃。

 それは、ウインドバレットのような上級魔術じゃない。

 上級とは言え最適化された魔術はしかし、術式の改変が難しく、自由度が低い。

 だから、攻撃が読みやすく対策がとれる。


 そして今、最も対策が取りにくい攻撃が繰り出されようとしている。

 『竜言語魔法』

 自身の願いを具現化する、ドラゴンの持つ最大の切り札。

 確実性がなければ使わないだろうと踏んでいた攻撃。

 ロックドラゴンの開いた口に周囲が暗くなったと錯覚させる程の光が存在している。

 その光は、熱線となって放たれた。

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