小さな旅芸人の大きな恋の物語
興味を持ってくださりありがとうございます。
面白くなるよう頑張りますのでよろしくお願いします。
デトモント王国郊外の村 リオルの町は小さな漁村である。
「さあさあさあ、お立ち会い!これから始まりますは世にも不思議な手品ショーでございます。」
お決まりのセリフを声高らかに吐いたのは身長2mは越えようかという大男である。
リオルの村では神木とされているミランの木の木陰で小さな催しが開かれていた。
大男はその長身に似合わない細やかな手つきであれよあれよという間に手に花を咲かせてみたり、鳩をシルクハットから取り出してみたりと大盤振る舞いだ。
彼の一つ一つの動きに対して余すことなく反応しているのは村の子供達だ。彼が何かをするたびにきゃっきゃと無邪気な笑い声をあげる。
「すみませんね、まさかショーを見せてもらえるなんて。子供達もあんなに嬉しそうにしています…」
木陰の人だかりを見ながら二人の女性が話している。
「いえ!いいんですよ!王都に入る前に彼もいいウォーミングアップになったでしょう。それに村の一角にキャンプを張らせていただくのにただということでは私たちも気が引けます。」
苦笑気味に言った彼女はさっきから滑稽に踊りまわっている大男と同じキャラバンに所属するリーシャ・マクレーンである。ちなみに大男の名前はアンドリューと言うらしい。
しばらくしてリーシャが首を傾げた。
「あれ?ギル…じゃなくて私たちといた金髪の男の子がどこに行ったかご存知ないですか?」
ああ。彼なら…と村の女性はすっと港の方を指差した。
「おお兄ちゃん、腕がいいな!故郷でも漁をやってたのか」
屈強な村の男がそうたずねると、少年がまんざらもなさそうに答える。
「いやいや、お父さんの腕前に比べたら天と地、いや…天と海の底なみの差がありますよ。」
「がははは、手だけじゃなく口も八丁だな。これは相当に頭も切れる兄ちゃんだ、そういえば兄ちゃん名前まだ聞いてなっかたな」
「私の名前など大したものではありませんが、エル・ギルバートと申します。いずれこの名前、世界に轟かせて見せます!」
食い気味に語ったエルは言われてもないのに夢を語り出す。常人なら「なんだこいつ…」で場が冷めそうなものだが、村の男は火がついている。
「かーーーーっ。手先も器用、頭もいい加えて野望もでかいとは!ますます気に行ったぞ兄ちゃん。うちの婿養子になれ!」
ちなみにこの二人、出会って一時間ほどである。
「そんなお父さん、恐縮です。しかしながら私はここにいることはできないのです。私の野望は世界を股にかける一流の旅芸人になり、世界に笑いの渦を巻起こすこと…ここにいてはその野望も達成できなっくなってしまう」
なんだか、演劇めいてきたので女性二人は目をそらして、苦笑するほかなかった。
昼間とは打って変わって笑い声は大人たちの上品さのかけらもない笑い声に変わる。
エルと他2名はもれなく町の酒場に招待されていた。
エルは相変わらず村の男たちとワイワイと武勇伝でも語るかのように上機嫌に話をしている。何が悪いって周りの男たちもやれよやれよと大騒ぎ、エルの語気に熱が入るのも当然である。
ちなみに、昼間エルがお父さんと慕っていた(一時間前に知り合った)人物はヒューザックさんと言うらしい。
アンドリューは見た目と違い上品な酒の飲み方である。写真を撮って広告にしたら酒が実によく売れそうだ。
リーシャは酒には強くないらしく、基本飲まないようで料理やら皿洗いやらを手伝ってマダムたちとのおしゃべりに花を咲かせた。
「ヒューザックさん…やっぱり男は度胸、女は愛嬌ですよ。笑った顔が可愛い子は自然とみんなに好かれる。」
「ああ、そうだな。少年よ、うちの娘もなかなかべっぴんさんな笑いかたをするんだぜ?ここはひとつ…」
などという昼間散々喋ったようなことを性懲りも無くベラベラ喋っているエルは既に1人で樽いっぱいにあったはずのエールを飲み干していた。
「明日はいよいよ王都に入ります。そこで俺たちは一花咲かせなきゃならない。子供たちはアンディーの芸を笑ってくれた、驚いてくれた、歓声をくれた、俺らが追求してきたものは間違いじゃなかった。正直自信はなかったけど今は明日が楽しみで仕方ない。それもこれもこの村のみなさんのおかげなんです…」
虚ろになりつつある目を擦りながらぽつぽつと語ったエルの横に座るヒューザックは寝ぼけながらもこう答えた。
「でっかくなれよ…少年…」
翌日村のみんなに惜しみながらも別れを告げた3人は2時間程書けて王都に入った。
「いよいよだな」
「ええ…」
「大丈夫、きっとウケるさ。村の子供たちの太鼓判もある。オールオッケーだ!」
デトモント王国の城下は世界最大の商業区となっていた。王都というだけで人は集まり、各国から珍しいものを集めてきた露天商達、休暇を過ごす軍の人間。家族連れから貴族達まで実に多種多様な人々が訪れる。
「いや〜 噂には聞いていたがこりゃ凄いなぁ」
あまりの賑わいに語彙を失ったアンディーが感嘆を漏らす。
「これだけいりゃ、俺ら有名になるのも時間の問題さ、な?」
エルの問いかけにリーシャは静かにニコリと笑う。
王都をしばらく散策しているとその賑わいが少し歪むの感じた。振り返るとそこには馬車が。
「んん?なんだありゃ?」
思わず声に出したエルに対して、目の前にいた青年が答える。
「なんだあんたら、今の時期王都ににきてあの方々のことを知らないとは、さては田舎もんだな??」
青年は少し得意気である。
「はい!そうなんですよ!で、あの馬車の中にはどなたが乗ってるんですか??」
恥ずかしげもなくエルが尋ねた。青年がさらに得意気になり続ける。
「エディケス家さ、時期王選候補のな。今日は令嬢のステラ様も一緒みたいだ。」
ほえ〜と呆けた返事をしながらエルは馬車の中に目を凝らした。
そこには金髪の少女が乗っていた。セミロングの髪を耳の上で結っていて実に上品だ。凛とした表情にワインレッドの瞳が実に映えている。窓からは華奢な体躯を彷彿させる方が覗いていた。
「綺麗だ…」
エルの口から言葉が漏れると同時に、足が動く。
「ちょっとエル?どこいくの?」
「公演開始時間までには戻る!ちょっと待っててくれ!」
エルは引き寄せられたようにに走り出す。
人だかり馬車の通った道を塞ぐように覆い被さる。
それをかき分けエルは馬車を追っている。
今、エルの物語が大きな音を立てて扉を開いた。
いかがだったでしょうか?投稿頻度は遅めですが次回も楽しんでいただけるたら幸いです。