第四話「謎の少女」
アパートの内装は和室となっている。和室なので当然、畳の部屋だ。畳というのは猫にとっては格好の爪研ぎ器である。
退去時に頭を抱えそうだと思い何か対策を取ろうとした祐也だが、もう畳自体が古く日に焼けているため退去時に修復費用は請求しないと、有り難くも神崎は言ってくれた。
おかげで雪と一緒に寝転がることができて、雪も自由奔放に爪研ぎをしている。が、そのために畳の一部分はボロボロと化していたのだった……。
部屋は六畳間が二部屋あり、片方を寝室として使っている。
三つ折りに畳んでいた布団を祐也は器用に片足の指先でつまんで広げ、その上へ少女を寝かした。
すると、うーん。と、少女は体を丸めて縮まった。動いたので起きたのかと祐也は思ったが、呆れることにまだ眠っている。これほど疲れて眠りこけるまで田んぼで遊んでいたとでもいうのか。
あどけない顔で眠る少女は、身長は目視で約百三十センチ程。体重は──米半俵の三十キロと一緒だ! と、祐也は抱き上げた時の重さですぐ分かった。おそらく小学生だろう。
しかし、一体どこの子なのか。この近隣には、この年頃の子供はいないはずだった。地元の周辺地域のことなら何でも知っている情報通の神崎からも聞いたことはない。こんなにも目立った容姿の子がいれば、噂の一つや二つは聞かされそうなものなのだが。
(起きたら本人に聞くか……)
それが一番手っ取り早い。
傷の手当だけしておこうと、寝室のタンスの上に置いてある救急箱を取りに立てると、それまで側でジッと見守っていた雪が少女の顔に鼻をクンクンと近付けた。途端──少女がガバッと上半身を起こした。雪がビクッと驚いて身を引く。祐也も突然起き上った少女に、救急箱を取ろうと伸ばした手を止める。
「……起きたか?」
祐也の問い掛けには返事をせず、雪に強い警戒心を示す少女。全身に神経を張り詰めていて、雪と目線を合わせたまま微動だに動かない。
猫が怖いのかもしれないと思った祐也は雪を抱き上げようとしたが、雪が「ミャウ」と鳴いて抵抗する。懲りずに顔を近づかせて、少女の鼻先に自分の鼻先をちょんっとくっつけた。猫のお近づきの挨拶だ。すると、少女は雪を危険な存在ではないと分かったのか、大きく開いていた瞼をとろんと下ろすと、再び体を丸めて眠ってしまった。
何だかよく分からないまま、祐也はフゥ。と息をつく。雪は少女の枕元に座り、首だけをくるりと後ろに回して祐也を見上げると、つまんない。とばかりに「ニャア」と鳴いて訴えた。
「今は眠いんだとよ」
そう言って、雪の頭を撫でてなだめたてやる。
少女の手足には、少し大きい傷跡と細かいかすり傷が合わせて四、五カ所。救急箱の中に脱脂綿はない。いつも容器からダラーと液を垂らして直接付けている。それをやるのはどうかと思い、脱脂綿代わりにティッシュに含ませてチョイチョイッと付け、その上から絆創膏を貼った。
手当てを終えた祐也は、あぐら姿で頬杖を突き、うーん。と、頭を捻る。
「雪、どうしたらいい?」
聞くも、雪は知らん顔でいつの間にか少女の隣で一緒に体を横にして寝そべっている。元々人懐っこい性格の雪ではあるが、こんなにも初対面の相手に対してリラックスする姿は見たことがなかった。
「雪。ワリィけど、猫缶は明日でもいいか? 明日会社終わったらすぐ買って帰って来てやるからな」
雪は「ナァ」と小さく鳴くとしっぽの先を上下にパタパタ動かし返事した。
いつ目を覚ますか分からない少女を一人にして放っておく事はできない。買い物の中止を決めたところで、祐也の腹がグゥと鳴る。
「……飯」
どんな時でもお腹は空く。一向に目を覚まさない少女を眺めていても仕方がなく、夕飯にする事とした。
読んで頂きありごとうございました




