第十七話 理想郷
「――そう、そんなことがあったわけだ」
場所はクランの拠点であるログハウスのリビング。金髪幼女の古橋さん――シャーロットさんがソファーに腰を沈めて、ハスキーな声で言葉を紡いでいた。
サルゴンとの戦闘後、合流してシャーロットさんも交えて話そうということになり、俺達は船に乗って拠点まで戻っていた。カルガモ達もイエローブラッドとの交渉を終えて戻り、今はログインしてきたシャーロットさんにおおまかな出来事を話し終えたところだ。
シャーロットさんは語り部を務めた姐御を見て、
「目の前で魔術的な干渉を確認できたのは収穫だな。具体的にはどんなものだった?」
「うーん。言葉で説明するのは難しいんですけどー……。
ぐねぐねーっと王様の周りが歪んで、おかしいなと思いまして。集中したら、こう、何も見えてはいないんですけど、プロテクトが破られて、データが改竄されていくのが……そういう感覚が、何故か視覚情報として入ってきたと言いますか」
なるほど、さっぱり分からん。
姐御はいつも通り、俺の膝に座った状態で身振り手振りをブンブンと加えて説明するのだが、果たして理解できている人はいるのだろうか。シャーロットさんも聞いて悪かった、みたいな悲しい顔をしている始末だ。
それでも聞いた以上は責任があると思ったのか、
「見えないものを見た、ということだな。……霊体看破によるものだろうし、本来の霊視とは違うんでしょう。見えるものが霊体に限定されるせいで、感覚だけを捉えたわけか」
半ば自分に言い聞かせるように、そんな補足を口にした。
空気を変えようと思ったのか、そこで緑葉さんが口を挟む。
「それにしても不思議ね。その場には他に誰もいなかったんでしょう?
一体、誰が改竄なんてしでかしたのかしら」
「ふむ。案外、自動式だったのやもしれんぞ」
「自動式?」
「そうじゃ。何かしらの条件を満たした時、自動的に発動する――そのような仕組みであれば、犯人が現場にいる必要もあるまい。話を聞く限り、そんなところじゃと思うが」
カルガモの推論には確かに納得がいく。緑葉さんも反論しないところを見るに、妥当な線だと思っているのだろう。
しかしここで異論を口にしたのは姐御で、
「そのことなんですが、ちょっと仮説がありましてー。
……我ながら突拍子もないので、シャーロットさんに判断してもらいたいんですよね」
「突拍子もない、か……いや、いいよ。気にせず話してくれ。私と君では視点も違うし、魔術師としては馴染みのある話かもしれないからね」
「分かりました。……実は今回、完全に私達が原因なんじゃないかなー、と」
その言葉に、俺は素早くツバメを見た。
ツバメは慌てたように両手を顔の前に上げて、
「あ、あたしは何もやってないからね!?
っていうかこれまでのこと考えたら、容疑者はガウス君だよ!」
「せめて容疑を言ってから容疑者にしろよ!?」
「そうだよツバメ。追求するなら具体的じゃないと」
クラレットの援護射撃。でも実質的には俺を撃ってない?
妙に胸が痛いなと苦しんでいたら、姐御が手をパンパンと叩いた。
「誰が悪いという話でもないので、落ち着いてくださいねー」
「待ってくれ姐御。そうなるとツバメは、単なる名誉毀損クソ野郎ってことに」
「名誉を持ってから言ってくださいねー」
「そっかぁ」
じゃあ仕方ないか。
俺が納得したところで気を取り直し、姐御は話を続ける。
「ええとですね。色々考えたんですけど、タイミングが重なり過ぎてると思うんですよねー。
世界に大規模な異変が起こったのは、おそらく昨夜。私達がエラムに到着したのは今日ですけど、船上でのイベント自体は、昨夜の内に終わってますよね?
アフメタのサルゴン王が改竄を受けたのも、話を聞き終えるタイミングですし。私達の行動――と言うよりは、ゲームの進行が引き金になっていそうだな、と考えたんです」
「ふむ……確かにそれが条件なら、カルガモの唱えた自動式という説にも合致するか」
一理ある。そう呟いた上で、だが、とシャーロットさんは否定の言葉を重ねた。
「規模が大き過ぎる。聖杯のような媒介があれば話は別だが、今回はそうではない。
工夫を凝らして規模を大きくしたのだとしても、術者は仕掛けを用意した誰か一人だ。一人で成し得る魔術は、個人の規模に収まるというのが魔術の原則でね。世界を書き換えるような大魔術ともなれば、膨大な人数の信仰と、それを受け止める神話や宗教が欲しい」
「むぅ。厳しいですか」
「発想は悪くなかったよ。関連性ぐらいはありそうだ。
……いや、しかしそうか。人数に関して言えば、プレイヤーをそのまま流用できるのか」
そう呟いて考え込むシャーロットさんに、緑葉さんが先を促すように言う。
「で、数は足りそうなの? ゲオルは公称だと八十万人規模だけど」
「足りんな。桁違いの数ではあるが、世界を書き換えるなら桁がまるで足りない。
今の世界人口が百二十億ほどだろう? 僅か八十万の信仰で、百二十億の常識を塗り替えるなど不可能だ。竹槍一本で米軍に勝つ方が、まだしも現実的だね」
常識的に考えれば、そうなるのは当然だろう。
比率が二倍や三倍だったら、工夫次第でどうにかなる気もするが、これは無理だ。
しかしシャーロットさんの結論に対し、のーみんが反論を口にする。
「でも事実として、世界は塗り替えられてるんだぜぃ?
数の差を無視するような、別の手段があるんじゃないかにゃー」
「――――ふむ」
と。のーみんの言葉で何か閃いたのか、カルガモが腰を上げた。
カルガモは芝居じみた大仰な動作で両腕を広げて、
「俺が思う世界の広さはこの程度じゃな」
なんかドヤ顔で言い出したので、俺達はカルガモを無視して顔を突き合わせた。
「あのポーズは何だ? 羽ばたくつもりか?」
「シャーリー、あたいらも理解に苦しんでいるのだよ」
「カモっち、たまに勿体ぶって変なコトするよね」
「あの怪鳥の悪癖ね。きっと友達いないのが原因よ」
「私は慣れてきたけど……何がしたいかまでは」
「クラレットさん。あれ、リアクション待ちだと思うよ?」
「しっ。本質を突くのは残酷ですよ」
「誰か付き合ってやれよ。哀れだから」
しばし相談して、合意に至った俺達は「仕方ないな~」という感じの笑みを浮かべると、声を揃えて、
「せーのっ、何やってるの~~?」
「…………主観。そう、これは主観の話なんじゃが」
腕を広げたまま目を閉じ、現実を見ないようにしてカルガモは続けた。
「俺が思う世界とはこの程度。手の届く範囲――正確に言えば、剣の間合いこそが俺の世界なんじゃよ。どう認識するかは人それぞれじゃが、主観的な世界とは目に見える範囲や、日常の範囲ではないかの?
自分の世界というものを考える時、地球全土を捉える者はあまりおらんと思うが」
……まあ、何言ってんだこいつと思う一方で、分からないでもない。
どの程度の範囲を自分の世界として認識しているのか、という話だ。俺なら目に見える範囲と言いたいが、踏み込んで一息で届く範囲が関の山か。場所を強く意識する人なら、縄張りのように自分の部屋とか、生活圏内をイメージするのだろう。
世界の広さとはそんなものだと定義して、カルガモは言う。
「このように、世界とは認識した範囲のものであって、空間の範囲ではない。
そう捉えた時――では、この世界はどこにある?」
この世界。俺達が今いる場所、ゲオルギウス・オンラインの世界のことだ。
物理的にはどこかのサーバーの中に、データとして存在しているだけだろう。だが主観によって認識されるゲオル世界は、そんなところにはない。今ここにあるのだ。
俺達の理解が追いつくのを待って、カルガモはさらに言葉を続ける。
「リアルとゲーム。二つの世界は別々に存在するのではなく、意識の中で同一のものとなる。意識という一つの器に、二つの世界が収まっておると考えた方がいいかの。
であればこそ、どちらかに変化が起これば、それはもう片方にも波及する。たとえばそう、ゲームで新たな要素が開放され、世界が広がったなら――その分だけ、リアルは塗り潰されるじゃろう」
「待て。理屈は通っているが、数の問題は解決していないぞ」
シャーロットさんが指摘する。
しかしカルガモは薄く笑って、
「リアルが塗り潰された者を、仮に感染源と呼ぼうかの。
八十万の感染源は、百二十億の信仰と向き合うわけではない。彼らを見た個々人の、一個の信仰が影響を受けると考えればどうじゃ? そうして感染が拡大していけば、今のように魔術や幻想種が常識となるほど、世界全体を大きく改変することも可能じゃと見るが」
「それなら――いや、しかし」
迷うように考え込むシャーロットさん。可能性があると思ったのだろう。
カルガモの推測はただの仮説だ。根拠があるわけでもないし、数の差を無視できる理屈をもっともらしく説明しただけで、実際にはまったく違ってもおかしくない。
だが魔術師として生きてきた人が、それなら不可能を覆す可能性があると迷った。
その事実だけで、間違っていたとしても、惜しいところまでは真実に迫っている気がした。
「結局、どうしたらいいの?」
あ、はい。うちの妹がすみませんね。
小難しい話についていけなくなったのか、スピカは解決策を率直に尋ねる。
遠い目をしたカルガモは、あらぬ方を見て穏やかに微笑み、
「どうしたらいいんじゃろうなー……」
こいつ今まで自信満々だったのに、困ったらこれだよ!
だけど、どうしたらいいか分からないのは俺も同じで、
「誰かを殴って解決とか、そういう話じゃねぇもんな」
「そういう感じの方が分かりやすくていいのにねー」
ねー、と兄妹揃って仲良しアピール。
皆が呆れたように俺達を見た時、クラレットが口を開いた。
「あの、今まで考えてたんだけど」
それはカルガモの仮説を踏まえてのもので、
「カモさんが正しいなら、攻略が進むほどリアルがゲームに置き換わる、ってことだよね」
「む、確かにそうなるのぅ」
「それが目的、なんじゃないかな」
クラレットは今起きていることよりも、その先にあるものを考えていた。
彼女の言葉は確かな説得力を持っていて、
「動機は分からないし、それ自体も手段なのかもしれないけど。
そこを目指して進んでる――私は、そんな気がしてる」
リアルを完全にゲームへ置き換える。
示された目的は、なるほど、と納得させられるものがあった。
ゲオルが魔道書として、魔術師を量産する装置であるのなら、何のためにという疑問がずっとあった。力を持つ者をただ増やして野放しにして、何の意味があるのかと。
その答えがこれだ。増えれば増えるほどいい。散らばれば散らばるほどいい。
プレイヤーは感染源となって、誰もが無自覚にリアルを蝕んでいく。
攻略によって拡張され続けるゲーム世界は、いつか完全にリアルを呑み込んでしまうのだろう。
――不意に、シャーロットさんが床を強く踏み鳴らした。
表情を苛立ちを隠そうともせずに歪んでおり、
「完全に見誤った……! そうか、私側の発想だ!」
吐き捨てて、彼女は一呼吸の間を置いて俺達を見た。
「……前にも話したと思うが、私は世界の安定を望む魔術師だ。
この世から魔術や神秘と呼ばれるものを、根絶することを願う人種だ。
その最終目的に必要な手段が何か、分かる?」
問いかけに答えたのは緑葉さんだった。
緑葉さんは目つきを鋭くして、
「物理法則の完全解明。この宇宙はロゴスとミュトスからできていて、矛盾をミュトスが許容することで成立しているんでしょう?
それなら答えは簡単よ。矛盾なく成立する物理法則を見つけ出せばいい」
「そうだ。矛盾のない完全な物理法則――私達が神の公式と呼ぶものに辿り着くことが、私達の悲願だ。それを見つけ、広めることができれば、ミュトスは一掃される。
しかし……それを求めるのは、ミュトスが憎いからではない。
ミュトスという不安定なものに頼る、いつ終わるかも知れない世界が怖いからだ」
「……ああ、そういうこと。言われてみればそうね。
論理的には矛盾しているのに、空想で成立している宇宙なんて、夢みたいな儚さだわ」
「だからこそ、私達の中には違うアプローチを考えた者もいた」
声が険しさを増す。
戦うべき敵の影を捉え、シャーロットさんは言った。
「矛盾のない世界、理想郷を作ってしまえばいい。
とっくに廃れた思想だと思っていたが、どうやら違ったらしい」
理想郷の運営。リアルをゲームに置き換える行為は、それを目指してのもの、か。
これまでの出来事――秘跡案件から目的が見えなかったのも、ある意味では当然か。ゲームの進行に応じて段階的に世界が拡張されるのなら、そこで何が起きても副次的なものでしかないのだろう。
言ってしまえば俺達は尻拭いをしていたようなものだ。
黒幕はケツを拭く気もなくて、ただ眺めていただけ。それじゃあ目的なんて見えるわけがない。
「……けど、どう対処するかって話に戻っちまうよな」
ゲオル運営の中枢にいる誰か、あるいは複数名が黒幕だとして、それが誰かは特定できない。
もっと問題なのは、
「地道に調査していても、他のプレイヤーが攻略を進めちゃいますからねー」
姐御の言うように、ゲーム攻略という流れを俺達に止めることはできない。
何もしなければ現状維持どころか、ただ悪化していくだけなのだ。
悩み始めた時、ふと思いついたようにツバメが口を開いた。
「あのさ、ウードン帝国の時みたいにはできないかな?」
「うどん愛で対抗しようってことか?」
「違う!」
ですよね。いや、ちょっと正気を疑っただけなんだ。
ツバメは気を取り直すように咳払いをして、
「あの時は聖杯に、もう願いを叶えるなって願って、それで解決したでしょ?
ああいう感じで、あたし達が世界に影響を与えるなーって願いながら攻略したら、どうかな。完全には無理でも、最小限に抑え込めたりするかも、って思ったんだけど」
「……通じる可能性はあるな」
ツバメの提案を受けて、シャーロットさんは言う。
「その場合、これはただのゲームだ、と確信して攻略するのが望ましいが……しかし可能なのか? この人数で攻略の最前線に挑むことと同義だが」
「ちょっと大変そうですけど、私達にはアドバンテージがありましたねー」
姐御がニヤリと笑う。あ、空気が腹黒い。
悪ぶりたいのか、姐御は「よいしょっ」と膝を組んで、
「ゲームマスターさんと縁を持てましたからねー。
攻略情報をリークをしてもらえば、チョロいですよ」
「いっそ清々しいほどのクズじゃが、手段は選んでおられんしのぅ」
「はぁー!? カモさんにだけは言われたくないですけどー!?」
「代わりにあたいが言うけどクズだにゃー」
「ええ、クズね。正直、ドン引きしたわ」
「…………ガウス君っ」
「俺は姐御に賛成するぜ。今更、見損なう余地もないし」
太腿をこれでもかとつねられた。痛い。
姐御は周囲の薄情かつ正直な面々に対して鼻を鳴らし、
「この案が上手くいかなかった時は、とにかく頑張るしかないですねー。
幸い、情報面では最前線に立てていますし、情報操作も視野に入れましょう」
「そういうところが……いや、俺も姐御には賛成じゃよ?」
睨まれて日和るカルガモ。見えている地雷は踏みたくない時もあるらしい。
ともあれ、これまでの仮説が部分的にでも正しいなら、俺達の手でゲーム攻略を進めるべきだろう。
その方針で話がまとまった後、思い出したように姐御が言った。
「あ、皆さんにも注意して欲しいんですけど――」
それはエラムの港で、二手に分かれて行動していた時の話だった。
原因は分からないが、姐御が俺やスピカの実姉だと認識してしまったこと。そういうことが今後も起きるかもしれないので、認識に齟齬があった場合、俺に頼るように、という話だ。
姐御を元に戻せたからといって、他の人にも通じる確証はないが、たぶん大丈夫だろう。……問題は俺自身も、記憶に怪しい部分がある点なのだが。
今のところ、それは俺とツバメだけの秘密にしているが……ああでも、シャーロットさんがいるんだし、相談も兼ねてここで打ち明けた方がいいか?
ちらりとツバメを見れば、同じことに思い至ったのだろう。頷きを返された。
それじゃあ、ということで、俺とツバメの記憶の齟齬について話すのだが――
「――私は一緒に遊んだ記憶、あるけど」
「うん、私も。兄ちゃんがおかしくなってるんじゃない?」
クラレットとスピカがそう証言したので、たぶん俺の記憶が間違っているのだろう。
むぅ。姐御は雑に叩いて戻せたが、自分自身もいけるのか?
そう悩んでいるところへ、シャーロットさんがやや深刻そうに口を開いた。
「気持ちは分かるが、自分に試すのはやめておきなさい。
今の記憶が基準になって、余計に歪む恐れもある」
「ってことは、俺がおかしいと確信できる他人にだけ使えってことですか」
「そうだな。些細な記憶の齟齬なら、放置しておくのが無難だ。
……それよりもね少年。そう簡単に魔術を使えることの方が、私は気になっているんだが」
「そう言われましても。できると思ってやってみたら、できたってだけですよ」
才能かなー。けど、やってることの凄さ考えたら、緑葉さんの方が上だよな。
姐御もわりと使いこなしてる感あるし、俺が特別ってわけじゃないと思うんだが。
不思議そうにする俺に対して、シャーロットさんは言う。
「さっき、一人で使える魔術は、個人の規模に収まるって言ったでしょう?
魔術は本来、その程度だ。緑葉もタルタルも上手く使っているが、スキルやアバターという土台を利用しているからこそ、できることでもある。
しかしね、君だけは真実、思うがままに魔術を使えているわけだ。
君のやっていることは、君個人の枠に収まらない気がしてならない」
「……けど、それって何か問題あるんですか?」
「ないよ。辻褄が合わないから気になっただけだ。
ああでも、調子に乗って何でも試すのはやめておきなさい。君の自覚がないだけで、何か代償を支払っている可能性だってあるんだから」
「うっす。ぽっくり死ぬのは嫌なんで、肝に銘じておきます」
あんまり危機感を覚えないのは、今のところ特に実害がないせいだろう。
まあ乱用しないで、必要な時にだけ魔術を使うようにしておけばいいか。
そう考えたところで、ふと閃いた。
「姐御、姐御。例の一点集中ヒール、ちょっと使ってもらっていいか?」
「えぇ……?」
狂人を見るような目を向けられた。
つーかそういう反応するってことは、あれの悪質さ理解してるってことだなこいつ……!?
瞬間的にキレかけたが、その気配を察したのか、邪悪なコロポックルは一点集中ヒールを使った。
おっふ、相変わらず気持ち悪いなこれ……だがしかし!
俺は自ら横腹を叩き、叩いて直すことが自分にも通じるのかを検証する!
「……あ、効かねぇ。駄目だこれ、無理……」
「言った側から乱用するな!!」
シャーロットさん、マジギレ。鬼幼女。いや、これはこれで今後の力関係とか、生殺与奪とかに影響するんで、急ぎで検証しておきたかったのだ。決して乱用ではない。
だがそんな言い訳は通用せず、姐御はお仕置きと称してまさかの一点集中ヒールの重ねがけ。そ、それは禁じ手だろう……!? 人としてやっちゃいけないライン、絶対に超えてるよ……!
皆はぐったりする俺を尻目に、これからどうするかを話し合う。
俺達の手で攻略を急ぐことにした以上、やるべきことは一つ。
レベルキャップ開放のために、ザルワーンや、それと並ぶボスを狩る――その前に、まずはレベル上げだ。
俺達はまだレベルキャップにも届いていないし、シャーロットさんはもっとレベルが低い。今は戦力強化が最優先だということで、これから皆で狩りへ行くことになった。
ところで声も出せないほど辛いんだけど、誰か気付いてる? ねえ。