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竜と信仰の奇譚  作者: 長月十九
第一章 冒険の始まり
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第七話 ザルワーン


 とあるゲームで、俺はカルガモに尋ねたことがあった。

 強さとは何だろう。強くなるとはどういうことだろう、と。

 深い考えがあったわけでも、真剣な悩みだったわけでもない。時間潰しの単なる雑談で、子供が無邪気に最強を議論するような、そういった類のどうでもいい質問だった。

 しかしカルガモは意外なほど真面目に考え込んで、やがてこう言ったのだ。


「強さとは相対的なものじゃろう。比較する相手がおらねば成立せん。

 極端な話、人類最後の一人なんて奴がおれば、どんなに貧弱でも人類最強じゃよ」


 それは分かる。だから多くの格闘技にはランキングがあり、チャンピオンがいるのだ。

 比較し、競い合わなければ、強さを示すことは難しい。

 俺の理解を待って、カルガモはさらに言葉を続けた。


「じゃがそれでは、強さとは比較した状態を表すものになってしまう。

 それもまた、強さというものの本質とは何か違う気がするのぅ」


 まあ、そうだよな。上手くは言えないが、俺にも何となく分かる。

 例えば生涯を格闘技の鍛錬に捧げた人物がいたとしよう。技は冴え渡り、その拳は岩をも砕いたとしよう。しかしその人物は生涯において、一度も戦わなかった。誰とも比較されることなく生涯を終えてしまった。だけどその人物は――どの程度かは分からないが、強いと思うのだ。

 だから比較とはまた違う概念で、強さというものはあるのだと、俺もカルガモも信じていた。


「強さとは何か。そんなものが分かるのは、武において悟りの境地に至った者だけじゃろうよ」


 そう語る横顔が、少し寂しげだったのは気のせいだろうか。

 こいつはいつか、そんな境地を目指していたのかもしれない。


「さて、強くなるとはどういうことかじゃが、これは戦いに勝つための手段や技術の獲得と言ってよかろう。

 ガウスや。まずどんなものが、勝つために必要じゃと思う?」


 問われて、少しだけ考える。

 強い武器。優れた技術。鍛えた肉体。どれもあって損はないが、最初に求めるものではない。それらは勝率を上げるためのオプションみたいなもので、別になくたって構わない。

 勝ち目があるかどうかは別にして――勝つためにはまず、戦う度胸が必要だ。

 俺がそのように答えると、カルガモは満足そうに頷いた。


「そうじゃな。何をするにしてもまずは度胸、気合いと言い換えてもいい。

 多くの武術で心を重視するのは、戦うに相応しい度胸を養うためよ」


 手っ取り早いのは声を上げ、己を鼓舞することだとカルガモは言う。

 言ってしまえば度胸のドーピング。恐怖を薄れさせ、闘争心を奮い立たせる。それができれば、多少度胸が足りずとも戦える。敵を攻撃することができるのだと。


「武器や技術はそれから先の話じゃな。全てを活かす土台が度胸というわけよ。

 度胸が備わったならば、勝つために技を磨き、より優れた武器を求めればよい」


 それが強くなるということ。近道も遠回りもない、当たり前の事実だ。

 しかし――カルガモはだが、と言葉を続けた。


「例えば技を磨き続ければ、やがて度胸は不要になる。いや、最低限の気構えは必要じゃがな。

 己を鼓舞すれば、力みが動きを鈍らせる。恐れを否定すれば、無謀に繋がる。

 より強くなるためには、今度は度胸を捨てねばならん。

 同じようなことが、武器を求めた結果にも言えよう」


 難儀な話じゃよ、とカルガモは苦笑する。

 俺には実感として理解できるものではなかったが、何となく分かるような気がした。強くなるにはまず度胸を得て、次に力を得なければならない。だがある程度の力を得れば、度胸が強さを曇らせてしまう。


「後はただ、そうした余分を削ぎ落とし続けるだけよ。

 過剰な度胸を捨て、必要以上の武器を捨て、振るう必要のない技を捨てる。

 言わば捨て続けることが、強くなるということじゃよ」


 とてもではないが、俺に想像できる境地ではなかった。

 だってそれは、心まで削ぎ落とす行いだ。

 人間性すら余分と切り捨てて――とんでもなく遠いところへ、至ってしまう。

 まるで仙人のようだ、と俺は笑った。

 カルガモは頷くでもなく、自分はそこに至りたかったと、ぽつりと呟いた。


 話はそれでおしまい。

 何の意味もない、時間潰しの単なる雑談だった。


     ○


 ――ザルワーンを前にそんな出来事を思い出したのは、俺が怯えていたからだと思う。

 目の前の怪物には、それこそ天地が引っ繰り返っても俺は勝てない。だってこれはゲームだ。あいつはきっと、とんでもないステータスをしているんだろう。ボスだから許される、強力なスキルも揃えているだろう。そんなのを倒そうと思えば、こちらもレベルを上げて、装備を整えて、仲間を揃えなきゃダメだ。

 まだ無職に毛が生えたような俺が勝てる可能性なんて、万に一つもない。もしも勝てたら、ではなく。もしも勝ち目があったら、ということさえ許されない。そんな暴挙が許されてしまったら、これはゲームではない。

 だから俺は勝てない。絶対に勝てない。それがゲームとしての正しい結末だ。

 それでも――どうせなら、戦って負けたいのだ。

 俺は強くなりたい。あいつの目指した境地になんて、絶対に辿り着けないと分かっている。

 だけどそれでも、俺が辿り着けるところまでは至りたい。

 そのためには、戦わずに死ぬなんてあっちゃならない。

 だから度胸を。

 この怪物に挑む勇気を寄越せと、俺は度胸をドーピングする。


「おお……ッ!!」


 無理矢理に上げた気合いの声は、掠れたものだった。

 その声に乗せて、挑発を使用する。俺だけを見ろ、俺が敵だと訴える。


「―――――――」


 ザルワーンが俺を一瞥する。

 果たしてその内心に起こった感情は、呆れか怒りか。しかしザルワーンは確かに俺を見て、仕切り直しとばかりに遠吠えを上げる。ここで戦うと、同胞に伝えるための遠吠えだ。

 その遠吠えが途切れた瞬間、熱波のように殺意が肌を灼いた。

 来る。様子見も何もなく、あの怪物は王に相応しい傲慢さで敵を殺す。

 確信と同時、大地が爆裂した。走るためにただ地面を蹴っただけで、星が悲鳴を上げているかのようだった。

 駆ける速度は目で追えないものではなかった。その巨躯で出せるとは思えぬ高速で、常識外れと言えば常識外れ。だが想像を絶するようなものではなく、動きを見ればその速度にも納得がいく。

 力強さとは裏腹のしなやかさ。蹴り足こそ大地を抉ったが、駆ける四肢は柔らかに地を捉え、不気味なほどの静けさで速度を得る。ああ、やはりこれは至高の芸術品なのだと、その姿が痛感させた。

 それでも見惚れているわけにはいかない。

 俺は高速で迫るザルワーンを迎え撃てと、踏み込みながら斧を振り上げた。

 望むは激突の瞬間、ただ振り下ろすこと。

 武器もない。技もない。レベルもない。そんな俺にあるのは、度胸だけ。

 充分だ。俺の強さはそれでいい。俺が信仰する強さはそれでいい。

 お前のような怪物にも挑める強さがあれば、それでいい!


「オオォ――ッ!!」


 吼えて振り下ろした斧が、俺の意を受けてブレイクを乗せる。

 ザルワーンはそれを避けようともせずに、爪を振るった。

 斧は毛皮に弾かれ、突き刺さった爪が一撃で俺のHPをゼロにする。

 あまりにも分かり切った結末。この世界のルールに生きる者は、この世界のルールを覆せない。

 どんなに意地を張っても、HPがゼロになった肉体は指一本として動かせず。体は崩れ落ちて、視界にはセーブ地点へ戻るかを問うメッセージが表示されていた。

 それでも――それでも俺は、立ち去るザルワーンが見えなくなるまで、その背を見送っていた。


     ○


 そんなわけで、俺はラシアの噴水広場へと舞い戻った。

 当たり前の結果に文句のつけようもない。悔しいことは悔しいが、あんなのはリベンジするにしてももっと先だ。現状では手も足も出ないのだから、むしろ一撃叩き込めたことを誇るべきか。ノーダメっぽかったけど。

 つーかあれ、ナレーション的にウルフ乱獲するのが出現条件か? 転職して、近場で効率プレイに走ったら出現するお仕置きボス……うん、それっぽい。絶対に出現するというわけではないと思うが、引き当てる程度には出現確率が高いと見ておくべきか。実は超低確率だったら泣く。判明した時点で不貞寝する。

 ただまあ、プレイヤーを分散させるのが運営の狙いだとすれば、ザルワーンもそれを担っているのだろう。もっと安全なところで狩りをするか、危険を承知でウルフを狩るか、いっそ別の街へ行ってしまうか。実際にどうなるかは分からないが、ザルワーンの情報を流せばウルフ狩りをする者は減るだろう。

 ……っと、考え事はまた後だ。それよりも姐御の無事を確認しておこう。


「姐御ー。こっち死んだけど、そっちは逃げ切れた?」


 PTチャットを飛ばすと、切羽詰まった声が返ってくる。


『あああぁぁぁぁぁ!? 今、やめ、や、あああぁぁぁぁぁぁぁ!!』


『……え、何? そっち何が起きとるん?』


「なんかボスに遭遇した」


『マジか』


「マジマジ。クッソ強いよ」


 姐御の悲鳴をBGMに呑気な会話を交わす俺とカルガモ。

 ややあって、姐御も噴水広場へと舞い戻った。


「お疲れー。うん、やっぱ無理があるよなあれ」


「ですねー……すごく速いですし、狼でしょう? 匂いで追ってきますよあれ」


「あ、そりゃそうか」


 ちょっと足止めした程度じゃ、匂いを追われて捕まるのが当然か。途中でえげつない悪臭を放つアイテムでも投げてりゃ別かもしれないが、普通に走って逃げ切るのは不可能だろう。

 ……はて。そこまで考えが回っていたのなら、姐御は躊躇なく俺を見捨てたことになるのでは?

 悲しい疑惑が湧き上がったものの、俺は意図的にそれを無視することにした。


「やっぱあれ、エンドコンテンツだよな。

 ナレーションも神の域に踏み込んでるとか言ってたし」


「メインストーリーのドラゴンより、一歩劣るぐらいですかねー?

 倒せたらいいもの落としそうですけど、今は無謀ですねー」


 いきなり物欲に走らないでいただきたい。いや、気持ちは分かるけど。


「あ、カモさんに戻ってって言わないと」


 ふと思い出して、姐御はPTチャットを飛ばす。


「カモさーん。私も死んじゃったので、ラシアに戻ってくださーい」


『おう。折角じゃし、俺も挑んでくるわ』


「カモさーん!?」


 うんうん。こういうトコあるよね、あいつ。

 姐御は両手で顔を覆って、


「なんでわざわざデスペナ受けに行くんですかー……」


 と、諦めながら嘆いていた。

 そんな姐御を慰めていると、やはりカルガモも噴水広場へと舞い戻った。

 カルガモは満足そうに笑って、


「いやぁ、流石にボスだけあって強い強い。

 四、五回は攻撃できたんじゃが、躱し切れなんだ」


「何度か躱してる時点で、お前が人間か疑わしいんだけど?」


「動きそのものはウルフとあまり変わらんよ。

 まあ速度が段違いじゃし、スキルを使わせる前に殺されたがの」


「あー、情報収集がしたかったんですね」


 姐御はそれで一応の納得を見せるが、お前後で謝っとけよとささやきを飛ばしておく。飛ばなかった。ああ、こいつのささやき拒否設定にしたままだった。別に不都合はないのでそのままにしておこう。

 それよりも、と俺は気になっていることを尋ねる。


「お前、ダガーはどうしたん?」


 常に手に持っているわけではないが、腰元などを見ても帯びているようには見えない。

 するとカルガモはバツが悪そうな笑みを浮かべた。


「……こ、壊しちゃった」


「姐御、こいつ器物損壊罪で処刑すべきでは?」


「刑罰重過ぎんかのぅ!?」


「大丈夫です。当法廷に法律はありません。黙って従いなさい」


「それただのリンチって言うと思うんじゃが!?」


「ふふっ、冗談ですよー」


 え? 姐御ならマジでやるんじゃないの?

 俺とカルガモが揃ってそんな顔をしていたら、姐御が笑顔のまま俺達を睨んできたので黙秘権を行使。冗談が冗談である内に閉廷して、速やかに次の話題へと移る。


「しかし壊れたって、耐久度とかあんの?」


「そうみたいじゃな。武器の詳細開いても、そんなの載っておらんが」


 マスクデータか。だが装備品の耐久度なんて、マスクデータにされても困る。いつ壊れるか分からないなんてのは、リアリティー重視だとしても不便が勝り過ぎてしまう。

 それは二人も同感のようで、それぞれの推測を口にする。


「レベル差補正の一種ですかねー? 格上過ぎる相手を攻撃すると壊れるとか」


「もしくはこちらの攻撃力と比較して、防御力の高過ぎる相手を攻撃すると壊れるのかもしれん」


「だったら確かめようぜ」


 は? という顔を向ける二人。

 俺はまあ見てろよ、とその場で斧を振りかぶった。


「よいしょおッ!!」


 斧を全力で地面に叩きつける。ここは石畳なんだから、それなりに硬い。言い換えれば防御力が高い。

 そのままガツンガツンと何度か叩きつけていたら、斧が砕け散った。


「おお。壊れたってことは、攻撃力と防御力の差が問題ってことだな」


「いやいやいや! 何やってるんですかガウス君!?」


「え、検証」


「そんなの、ナイフとか買って試せばいいじゃないですかー!」


 あ。


「姐御。過ぎたことを振り返るのはよそうぜ」


 キメ顔で言ったら、肝臓のあたりを全力で殴られた。めっちゃ痛い。

 それを見て爆笑するカルガモに殺意が湧くが、ここで襲いかかったら姐御がマジギレしそうなのでやめておこう。ちっ、姐御に救われたなクソ鳥類。その小さい脳味噌で、俺の憎悪を覚えておくがいい。

 で、武器はまた後で買い直すということで話はまとまり、それから俺はザルワーンについての推測を披露した。お仕置きボスっぽいことや、プレイヤーの分散を目論む運営の卑劣な罠であるとか。

 その推測には二人も同意し、ウルフの乱獲はやめようということになった。しかし討伐クエストの規定数にまだ足りていないので、武器を買い直したらまたウルフ狩りに行くことも決定する。少しぐらいなら平気だって!


「しかしザルワーン……どこかで聞いたような名前なんじゃよな」


「あっ、私もそうなんですよー」


 話がまとまったところで、何か引っかかるのか、二人が首を捻っていた。

 ザルワーンねぇ。昔、そんな語感のロボットアニメなかったっけ? 現代的には古典も古典なわけだが、色んなロボットが作品の垣根を越えて集結するようなゲームだと、そういう古典からも出るんだよな。

 俺がそんなどうでもいい意見を述べると無視された。切ない。


「うーむ。どこかの神話かのぅ? このゲームなら、そういうところに元ネタがありそうじゃが」


「ありそうですねー。悪魔にされた異教の……あっ、ズルワーン!」


「あー! なるほど、ズルワーン! 確かに!」


 さっぱり分からん。スッキリしたようで、晴れ晴れとした顔をしている二人に説明を求める。

 すると姐御が、若干テンション高めで口を開いた。


「ズルワーンというのはですねー、ズルワーン教の創造神なんですよ。

 ゾロアスター教って知ってます? そこの分派なんですけど」


「お、おう。具体的には知らないけど、聞いたことはある」


「元々、ゾロアスター教にはアフラ・マズダという最高神がいたんですよ。

 アフラ・マズダは善の創造神スプンタ・マンユと、悪の創造神アンラ・マンユの対決を裁き、善と悪を分けるのが役割だったんですが……いつからか、スプンタ・マンユと同一視されるようになっちゃったんですね」


「それは……いいのか? だって審判みたいなものなんだろ?」


 それが同一視されたってことは、善と悪の対決が八百長試合になってしまうんじゃなかろうか。

 いやまあ、人間的には善が勝つ方がいいんだから、それはそれでいいのか? いや、どうなんだ?


「まあちょっと、問題ありますよね」


 だよね。姐御は苦笑して、ただ、と言葉を続ける。


「どちらかと言えば、スプンタ・マンユとアンラ・マンユの上に立つ存在がいなくなったことが問題だったんですよ。

 なのでアフラ・マズダに代わり、その役割を担う神様が必要になったんです。

 それがズルワーンで、そこからズルワーン教が成立していくんですけど、これが諸説あって……」


「まあ、そのあたりは興味があれば自分で調べればいいじゃろ。

 ズルワーンは間違っても狼ではないし、このゲームではザルワーンの元ネタにしてるだけじゃろうからな」


 ナイス、カルガモ。話は何となく分かったし、そこで止めないと姐御は話し続けるもんな。

 話を遮られた姐御はちょっと不満そうだったが、これ以上は蛇足だと自分でも分かっているようで、渋々と引き下がる。まあ暇な時にでも、気が向いたらこの話を振ればいいだろう。

 けど、名前を拝借しただけとはいえ、そんな偉い神様をボスに使っていいんだろうか。なんか罰当たりな気もするけど……まあそんなこと言い出したら、定番の悪魔も元々は神様だったりするもんな。

 別に俺は信心深いってわけでもないし、深く考えないでおこう。


「よし! じゃあ話も終わったことだし、武器を買いに行こうぜ」


「ですねー。二人とも、今度は壊さないでくださいよー?」


「それは敵次第なんじゃが……ところでガウスや、素手も壊れるんかのぅ?」


「いくら俺でもそれは検証したくねぇよ」


 そんな会話をしつつ、俺達は武具屋へと向かった。

 道中、俺は通りがかった衛兵にぶっ殺された。

 なるほどなぁ~。石畳を斧でぶっ叩きまくったのがアウトだったかぁ~。

 これからは軽率なことはやめようと、固く心に誓った。


     ○


 ――というわけで、狩りを終えて再び噴水広場である。

 いや、迂闊だったね。ザルワーンさん、消えてなかったね。ウルフの群れを一つ潰したら、猛ダッシュで現れたもんね。俺ら全員、マジかよと叫んでる間に殺されたもんね。

 一応、ウルフの討伐クエスト自体は終わったので、あとは報酬を受け取るだけなのだが……こう、流石にちょっと、心の疲労が。これもう厄日だよって感じで、自然と解散の流れになりつつあった。


「あー……うー……カモさーん、掲示板に流しといてくださいー……」


「おーう……」


 どこぞの掲示板を開いて、ザルワーン注意報を書き込むカルガモ。今のところ俺達には何のメリットもないが、こうしてボスの出現情報を流しておけば、やがて注意報の発令が当たり前になる。他の狩り場でも注意報が出るようになれば、不意の遭遇をある程度は減らせるだろう。

 カルガモの作業が終わるのを待ってから、姐御が口を開いた。


「それにしても、明日からはもっと人手が欲しいですねー。

 今はまだいいですけど、遠距離攻撃ができないと大変ですし」


「確かに。魔法職か弓が欲しい」


 今の三人PTだと、俺が敵を抱え過ぎる形になってるんだよな。そこに遠距離から攻撃できる奴がいれば楽になるし、そもそも先手を取って遠距離から数を減らすことだってできる。


「明日、ログインしたらどこかで勧誘してみるかの?」


「けどお前が勧誘したら、ノーマナー行為で通報されるじゃん?」


「はっはっは。まさかガウスではあるまいし」


「はっはっは。俺はいつだってモテモテだよ」


「二人とも衛兵にモテモテですもんねー」


 やめてそれ言わないで。

 白けた目で見てくる姐御から目を逸らし、俺達はどうするかを話し合う。


「……ソロしておる奴を狩り場で探して、モンスターをけしかけるのはどうじゃ?」


「……悪くないな。そこを助ければ恩が売れるし、御しやすい」


「……できれば女プレイヤーじゃな」


「……ラブストーリーを期待できるな」


 ばっちり姐御に聞かれてたので、二人とも殴られた。ぐすん。


「バカなこと言ってないで、島チャンで誘ってみましょうよー。

 今ならレベル差もほとんどないですから、一緒に遊べますし」


「ま、それが無難なところじゃな」


「誰も釣れなかったら、こっちで適当に勧誘してみっか」


 とまあ、そんな感じで方針も決まったところで、今日は解散となった。

 さて、そんじゃあログアウトして、島チャンに書き込むとしましょうかね。


     ○


【タルタル@ゲオル始めましたの発言】

 ゲオル楽しかったー! 皆も一緒にやりません?

 カモさんとガウス君もいますし、レベル上げとか手伝いますよ!


【ガウスの発言】

 アットホームなPTです。レベル、ジョブに関係なく実力主義のPTです。

 やる気のある方、大歓迎! 優しい先輩もいます!


【タルタル@ゲオル始めましたの発言】

 ちょっと?


【のーみんの発言】

 やだ、超絶ブラックの気配……。


【八艘@飛行中の発言】

 胸が痛くなるな。


【暮井の発言】

 やめろガウスさん! やめてくれ!!


【のーみんの発言】

 ぐれさんがまた壊れた。

 でもゲオルかー、どうしよっかなー。今別ゲーにハマってるんだよねー。


【カルガモの発言】

 お  い  で  よ


【のーみんの発言】

 ヒッ


【双龍の発言】

 ヒッ


【モリモリの発言】

 ヒッ


【大勢の発言】(6人)

 ヒッ


【カルガモの発言】

 お前ら俺の扱い酷くないかのぅ!?



 いや、自業自得っつーか、日頃の行いっつーか。

 そういう登場の仕方をするから、悪魔呼ばわりされるんだよお前は。

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