第十二話 ロゴスとミュトス
ゴブリン。
欧州原産の妖精の一種で、体躯は概ね人間の子供と同じ程度。
過去には他の妖精と混同されたり、見た目の類似性から猿の仲間とされることもあったが、現在では分類学上、妖精として亜人科のゴブリン属を形成している。
ゴブリンは群れを作って野山に生息し、日本国内では二一世紀前後から出現が報告されている。西洋文化の流入によって、国内にも妖精の領域が定着したことが原因だ。
ただし自然発生する妖精の例に漏れず、近代化に伴い妖精の領域が減少したことで、発生頻度は低下している。現状、ゴブリンは稀に人里へ現れるものの、鹿や猪といった害獣と比較すれば被害は少なく、猟友会による駆除で充分に対処できている。
――以上が、ネットで得られたゴブリンの常識である。
おかしな反応をした奈苗を問い詰めたところ、一般的には空想の存在であるゴブリンを実在のものとして扱うので、ネットで軽く調べてみたらこれだ。
ウードン帝国の時と似ているが、明らかに違う。
常識がすり替わっているのではなく、過去に遡って世界がおかしくなっている。
ゴブリンに限らず、妖精とやらを当然のものとした世界に、なってしまっているのだ。
「……気持ち悪い」
炎天下。ネットを眺めていた茜が、そんな感想を呟いた。
勝手に世界を作り変えられて、目の前では親しい相手がその歪みに組み込まれている。
誰が何を考えてこんな事態を引き起こしたのかは分からないが、確かにそうだ。困惑したり、怒りを覚えたりするよりも、ただただ気持ちが悪い。誰かがこの世界を箱庭にして、生きた人間で人形遊びをしているような、どうしようもない醜悪さが先に立った。
だがそんなことを気にしてはいられない。
俺は奈苗に――奈苗だろう彼女に、俺の知らない常識を問いかける。
「奈苗。妖精は自然発生するってのは、どういう意味だ」
「え、ええっと……私もそんなに詳しくないんだけどさ」
弱ったように眉根を寄せて、奈苗は答える。
「妖精とか妖怪とか、そういうの引っくるめた生き物――幻想種はミュトス、神話やおとぎ話から生まれるの。目には見えないけど、ミュトスは現実世界と重なり合ってて……同じ器に現実と幻想が入ってるイメージかなぁ?
それで、器の中でミュトスの割合が増えてくると、幻想種が現実世界にも発生するんだって」
ゴブリンが自然発生する仕組みは、そういうものらしい。
魔術と似たようなものか? 信仰と確信が魔術を行使する鍵であるように、実在すると信仰された幻想種とやらは、信仰が閾値を超えると実在するようになる、と。
間違った理解かもしれないが、とりあえずはそれでいいだろう。
「ねえ、私も確認したいことがあるんだけど」
俺と同じような理解をしたらしい茜も、奈苗に問いかける。
彼女の表情は硬く、半ば確信しているのであろう問いを口にした。
「――魔術って、当たり前にあるもの?」
「うん。使える人、全然いないし、見たことないけど」
やっぱり。幻想種なんてものが常識になっているなら、魔術もそうか。
これまで空想とされてきたものが、この世界では当たり前になっている。
「……あれ? けど、姉ちゃんは使えて……あれぇ?」
百合が魔術としてのヒールを使っていたのを思い出したのだろう。
記憶の齟齬に、奈苗は困惑した顔で俺を見た。
「兄ちゃん……私、おかしくなってる?」
「……気にすんな。今は考えたって仕方ない」
どんな影響があるかも分からないし、追求はしない方がいいだろう。
ただ、少しだけ安堵したのも事実だ。
記憶の齟齬を自覚できるなら、かつての思い出が消えてしまったわけではない。
おかしなことになっているのはそうだが、奈苗は奈苗のままだと思っていい筈だ。
「とにかく、一度別荘に集まろうぜ。
古橋さんと連絡を取るにしても、全員揃ってた方がいい」
そう提案して、俺達は電脳で連絡を取り合う。
別荘への帰路は長いものではないが、やけに空気が重苦しく感じた。
○
別荘に全員が戻ったところで、事態の説明をした。
結果から言えば、奈苗以外にはのーみんも記憶に怪しいところがある。常識として捉えていた奈苗とは違い、のーみんは違和感を覚えているようだったが、大差はないだろう。
しかしどうして、無事な者とそうでない者がいるのか。
その疑問には、推測だと前置きしてカルガモが答えた。
「おそらく魔術を使えるかどうかではないかのぅ。実際に使ったことはなくとも、使おうと思えば使える段階に達しているのであれば、影響を逃れられたのかもしれん。
他にも条件はあると思うが、ウードン帝国の時も似たような感じだったじゃろ?」
「あの時は奈苗さんも無事でしたけどー……帝国側とは接触していませんでしたからね」
振り返ってみれば、帝国の時に奈苗が無事だったのは偶然みたいなものか。
あの頃は魔術という認識がなくても、茜と朝陽はスキルエンハンスが発現していたし、顔剥ぎセーラーという本物を見ていたことで、奈苗よりも理解は深かった筈だ。
……百合は顔剥ぎセーラーの時から霊体看破を使えていたが、魔術の才能って意味では頭一つ抜けてるのかもな。今ではリアルでも、邪悪なヒールを使えるようになってるし。
いや、むしろ――才能の話をするなら、ダントツなのはりっちゃんか。
帝国の時は知識だけの状態で、僅かではあるが正気を保っていた。昨日の海では魔術としてアバターの肉体を再現していたし、スキルの延長で魔術を使う俺達とは別次元だ。
しかしそう考えていくと、カルガモはどうして無事なのかという疑問に行き当たる。
「なあカルガモ。お前って魔術使えたっけ?」
「そう言われても、試したことがないからのぅ」
問いかけにそう返し、だが、とカルガモは言葉を続けた。
「使えるという確信ならばある。俺のスティールは、魔術の域に到達しておる筈じゃ」
言いながら、カルガモの右腕が閃いた。
尋常ではない加速。ブレた像を蛇のように錯覚するそれは、まさしくスティールだった。
その手はたまたま隣にいた朝陽に伸び、
「ほれ、使えたじゃろう?」
ニヤリと不敵に笑うが、お前が掴んでるの、どう見てもブラジャーなんだよなぁ。
驚くほど顔を赤くした朝陽は、悲鳴も上げずに胸元を押さえ、身を縮こまらせた。
「…………事故じゃよ?」
その言葉を最後に、カルガモは女性陣から袋叩きにされた。
居間の端にボロ雑巾が転がったところで、気を取り直したようにりっちゃんが言う。
「問題はどうしてこんなことが起きているか、よね。
心当たりある? 私はシャーロットが話してたっていう、外部の魔術師とやらが怪しいと思うのだけど」
「んー、どうかにゃー? あたいはそれ、別件だと思うぜ」
「なんでよ。タイミング的にどう考えたって怪しいじゃないの」
「――動いたにしては早過ぎる、ということですね」
りっちゃんの疑問に、のーみんと同じ考えらしい百合が答える。
彼女はテーブルの上に両手を置き、指を組んで言う。
「まず大前提としてゲオルに入らなければ何もできませんし、何かするにはゲオルを理解する時間が必要になりますから。一応、ゲオル内に関しては私達も目を光らせていたわけですし、時間をかけて何か仕込んでいたのなら、網にかかっていたと思うんですよ。
実際、不可能に近いと思いますよー? 秩序同盟とは協力関係にありますし、彼らはその立場を維持するために、治安維持として縄張りの監視ぐらいはやってますから」
「うむす。タルタルの言う通りだにゃー。
魔術師の仕業って決めつけるのは早計だぜぃ。シャーリーも知らない誰かが、こっそり潜り込んでたって可能性もあるけど、そこまで慎重に動いてるならやっぱり別件だと思うのだ」
まあ、道理か。古橋さんが情報を掴んだ相手なら、いくら何でも早過ぎる。潜伏してた連中がいたとしても、派手にやり過ぎて潜伏の意味がない、と。
しかしなぁ。俺は首を傾げながら、口を開いた。
「何でこんなことが起きたか分からねぇんだよな。
ウードン帝国の時と似てるけど、あれよりずっと大規模だし。これまで空想だったものが当たり前になるって、どんなことしたら実現できるんだ?」
「先輩、そろそろ専門家の出番じゃない?」
んー。まあ現状に関しての共有はできたし、それが無難か。
古橋さんも頭を悩ましそうだが、考える頭は一つでも多い方がいい。
俺は電脳を操作して古橋さんに通話すると、表示フレームを投影し、会議通話モードに設定した。
表示フレームにはすぐに古橋さんのバストアップが映り、
『どうした少年? 何やら雁首を揃えているようだけど』
……あ、やっぱこの人、現状を把握してねぇわ。
ひとまずゴブリンのことなど、リアルで何が起きているかの説明をすると、彼女は露骨に苦い顔をした。
『事情を知っている者同士で処理していたせいで、異変に気付けなかったわけか……。
いや、伝えてくれて助かった。礼を言うよ』
「それで、魔術師としてはどう思うかしら?
正直に言うけど、シャーロットの知識だけが頼りなのよ」
『そう言われてもな……ああいや、一つだけ確かなことがある。
奈苗。君の知っている幻想種の知識だが、ほぼ正解だ』
余談だが、と前置きして、古橋さんは奈苗の補足をするように語った。
――魔術的な解釈をした場合、世界はロゴスとミュトスが重なり合って構成されている。
どちらも様々な意味を持つ言葉だが、この場合、ロゴスとは論理を、ミュトスとは空想を指す。
ロゴスは物理法則などの、論理的に宇宙を安定させる力であり、ミュトスは物理法則を無視した、人々の空想そのままの秩序を乱す混沌である。しかしミュトスは不要なわけではなく、物理法則の矛盾をも許容することで、結果的に宇宙を成立させているのだという。
俺の理解を超えた話だったが、魔術も幻想種も、このミュトスの領域から生じるのだとか。
『問題はどうして、そんな正しい知識が広まっているのかだ』
まったくもって度し難い。
愚痴るように呟きを洩らして、彼女は結論を述べる。
『偶然じゃあないな。魔術師の仕業だとも思えんが』
ああ、何となくだが分かる。正しい知識を広めるのは、コストが大きいんだ。
ゴブリンに限った話ではなく、幻想種のことを常識とするだけなら、通常の生物の枠組みに入れてしまえばいい。幻想種という知識そのものが、余分なコストだというわけだ。
非合理で不自然ならば、そこには人の意思がある。
『知識を広めることに意味なんてないんだよ。幻想種が実在することを魔術師は知っているんだから、利用したければこんな真似は必要ない。
今回の件、私には魔術師ではなく、知識だけはある素人の仕業のように思えるな。
正しい知識を持つが故に、吟味することもなく、世界をこのような形にした、と』
「ひょっとして……帝国の時と同じなのかな?」
呟くような朝陽の問いかけに、古橋さんは頷いた。
『可能性は高い。聖杯の件とは規模が違うが、ゲオルギウス・オンラインに仕込まれた何かを、誰かが無自覚に起動した可能性だ。
だとすれば、知識を仕込んだのは運営の誰かということになるが……状況証拠には弱いな』
「まあ、ゲーム内のことを調べるなら、こっちの仕事よね」
言って、りっちゃんは一度だけ俺を見ると、視線を外して言葉を続けた。
「辻斬り事件の時と同じで、誰かが暗躍している可能性だってあるもの。
最初から決めつけて動くと、他のものを見落とす危険だってあるわ。
私達は幅広く可能性を追っていく――そんな方針でいいかしら?」
言葉を向けられたのは百合だ。
ゲームのことだけに限らず、秘跡案件でも判断役は彼女に任せるという意思表示だろう。
百合は数秒ほど黙考し、自らの言葉を総意として古橋さんに向けて言う。
「そうですねー。私達はそうしようかと思います。
古橋さんにはゲームの外、リアルでの対処をお願いしていいですかー?」
『分かった……と言いたいが、何から手をつけたものかな。
現地に調査へ行くとしても、人手が足りん。ゴブリン相手でも、荒事を任せられる護衛は欲しいところだ』
ネットには地元の猟友会で対処できると書いてあったが、猟銃持ってるってことだもんなぁ。
古橋さんが魔術師として、まったく戦えないとは思わないが、一人で山中に行くだけでも大変だ。いざとなったら、俺だけでも護衛として出向いた方がいいのかもしれない。
そう考えていた時、居間の端に転がるボロ雑巾が声を上げた。
「人手が欲しいなら俺の出番じゃな。
荒事を任せられて、その上で秘密を守れるような奴が最適じゃろう?」
『それはそうだが……カルガモか。腕前は疑わんが、カルガモか』
「俺が行くわけではないぞ。というか、何じゃその評価は」
だってカルガモだしなぁ。
皆がそういう目を向けると、カルガモはわざとらしく咳払いをした。
「さて。現地に行くのなら、その前に新宿のハニーポットという店に寄れ。
話は通しておくから、若衆を何人か借りられるじゃろう」
『ふむ? よく分からんが分かった。伝手があるというなら借りておこう』
……いや、いいのか?
古橋さんは気付かなかったのか、それとも気付いててスルーしてるのか。
カルガモは若衆と言ったが、そんな呼び方をされて、しかも荒事を任せられる人材って、明らかにカタギではないと思うんだが。
相変わらず得体の知れないカルガモは、俺の視線に気付いてへらへらと笑った。
「あそこのママには貸しがあってな。何も心配はいらんよ」
そう言うならそうなんだろうけど、こいつはいつか問い詰めた方がいい気がする。
カルガモ自身は裏社会の人間ってわけじゃないと思うんだが、人脈も素性も謎過ぎる。
ともあれ、情報の共有とひとまずの方針が決まったところで、古橋さんとの通話を終了する。
俺達はこれからどうするかだが、
「とりあえず昼飯だな。その後はゲオルか?」
「うーん。帝国の時みたいな緊急性はなさそうですし、また夜でもいい気はしますけどー」
おっと、百合はそう考えるのか。確かに緊急性はなさそうだけど。
でも何かしておきたいという、焦りのようなものが俺にはあった。
それは辻斬り事件を経た心境の変化かもしれないし、奈苗にまで影響が及んでいるからなのかもしれない。
しかし俺の思いとは関係なく、まずのーみんが百合に賛同した。
「あたいも夜からでいいと思うにゃー。
何か調べるにしても、人の多い夜を待った方がいいと思うのだぜ」
「ああ、それもそうね。私達は休暇中だけど、今日だって平日だし」
むぅ。筋が通っている。
つーか百合とりっちゃんの意見が一致した時点で、ほぼ決定事項だ。
俺の焦りなんか呑み込んで、ここは二人の判断に従っておいた方が間違いはないだろう。
それなら当初の予定通り、昼からは海に出て遊んで、英気を養なうべきか。
微妙にすっきりしないが、俺は努めて気持ちを切り替えようとした。
○
――そんなわけでまた海である。
昨日みたいにハードに遊ぶのはやめようぜ、ということで全会一致。
でっかいシャチのフロートを海の家でレンタルしていたので、それを二つ借りて競争したり、騎馬戦のようにぶつかり合ったり、ぷかぷかと浮いて遊ぶ。なお速く動きたい時の動力は主に俺とカルガモである。クソが。
まあ激しく遊んでいたのも最初の内だけで、シャチの不安定さが原因で転覆を繰り返すと、波に任せて揺られるだけでいいよね、みたいな感じになってくる。
そんなわけで今、砂浜には休憩と称して俺と百合、朝陽の三人がいた。
「あ、ああ゛ぁ~……」
仮にも女の子が出しちゃいけねぇ声で呻いているのは朝陽だ。
朝陽は筋肉痛が悪化したらしく、打ち上げられたマンボウみたいに転がっている。
となれば当然、百合も他人事ではないわけで。
「ぅ……っ、す……ふぅー……」
こっちはもう、呼吸のたびに痛みが走るのか、虫の息で呼吸に合わせてビクンと震えている。
朝陽が打ち上げられたマンボウならば、百合は瀕死のヒトデって感じ。
当然、こんな状態の二人を砂浜に転がしておくのもどうかということで、俺は休憩がてらのボディーガードである。
しかしただ見守っているのも暇なので、まだしも大丈夫そうな朝陽の脇腹を突付いてみた。
「んぎゅ!? こ、殺す……! 先輩、絶対殺してやる……!」
「ははは。愉快な声で鳴いてる内は無理だと思うぞ」
つーかこれ、本当に二泊三日でよかったな。
一泊二日だった場合、この二人は果たして無事に帰ることができたのか。
明日は元気になってたらいいなと適当に祈りつつ、俺は何となく百合を眺めた。
代わり映えのないお子様体型だが、腹肉が少し余りがちなのは日頃の運動不足が原因だろう。そういうところだけは年齢を感じさせるが、やっぱり違和感がある。
いや、お子様体型なのがおかしいってわけではなく、むしろその逆。
アバターとは微妙に違うのは当然だが、それにしたってその……ここまで小さかったか?
――ふと、今朝の一幕を思い出す。
茜との会話で、俺は百合が縮むように祈るという話をした。
半ば冗談のつもりだったが、しかし本当に祈らなかったのかと言えば嘘になる。
どう考えても百合は悪くない。だが事実として、やっぱ縮んでねぇかこの人。
「………………」
「……ぅ? 幹弘君、どうしまし、たー……?」
「いや、何でもねぇよ」
あんまりにもあんまり過ぎて、真実を告げることはできなかった。
嘘だろ……あの程度の祈りでも、魔術になっちまったのか……?
いや、そうではない。もしそうなら、奈苗なんて今頃、親指姫みたいなサイズになっている。
だから違う。違うよね。でも他に原因ないよねこれ。
くっ、考えられることは何かないか……!?
例えばそう、ゴブリンだ。世界の変化が、昨夜から今朝にかけて起きたと仮定しよう。
そうしてあれ、ミュトスってのが増えたのかもしれない。それがどんな影響を及ぼすかはともかくとして、魔術を強化――いや、より容易に魔術を成立させる世界になったのだ。
だから俺のささやかな祈りは、呪いとなって百合に降り注いだ……!
よし、これだ。この仮説でいこう。
もしも百合が気付いてしまったら、そう言い訳することで情状酌量の余地が生まれるかもしれない。
……うん。それはそれとして、元に戻れってちゃんと祈っておこう。
俺が真剣な顔でそう考えていると、百合がはにかんだ。
「ひょっとして、昨夜のこと、考えてました?」
「え? 何が?」
「……あ、これいつものパターンですね。真面目な顔して、くだらないこと考えてるパターンです」
見透かしたように言うが、今回ばかりは真面目なことを考えていたのに。
日頃の信頼かなー。俺は結構、顔に出る方だと思うんだけど。
だが本当に見透かされている可能性も考慮して、保険をかけておこう。
「聞いてくれ百合。――俺、ちゃんと責任は取るから」
「――――え」
縮んだのが俺のせいなら、背を向けて逃げるなんて不義理はできない。
責任を取って、元に戻るまで祈り続けると誓おう。
真摯な気持ちが伝わったのか、百合は少し困ったように微笑んで、
「約束、ですよ」
「おう」
ククク、これで身の安全は保障されたと言っても過言ではない……!
……しかし昨夜のことって何の話だ?
何を話してたっけなー、と思い出そうとしていたら、朝陽がぺちぺちと太腿を叩いてきた。
「なんだ?」
「……冷たいの、買ってきて……」
まあ、日干しにされてるようなもんだしな……。
たまには優しくしてやるかと、俺は腰を上げて言う。
「仕方ねぇな。百合も何か飲み物、いるか?」
「かき氷ー。れもーん」
こっちもこっちで、やっぱり暑さは堪えているらしい。
俺は適当に相槌を打って、海の家へと足を向けた。
ついでに俺も、何か飲み物を買っておくとしよう。
作中と同時期になりました。
わりと暑さでヘバっているあたり、もう若くないんやなって……。