第八話 好きなものは好きだから仕方ない
違うんですよ。これはね、あれなんですよ(ろくろを回す)
ミッドガルド大陸に取材へ行っていたと、そういうことなんですよ。
はい。堪能したのでペース戻せるように頑張ります。
港湾都市コーウェン。
ガイウス帝国との貿易で栄えた都市は、かつての勢いこそ失ったものの、国内流通の拠点として今も賑わっている都市だ。
街の特徴としては、潮風への対策を考えてだろう、ほとんどの建物が石造りだ。初めて訪れた時、姐御が南欧風だと興奮していたように、壁はレンガに白や淡いベージュの漆喰を塗ったものが目立つ。
港こそ広々としているものの、少し離れると町並みはお世辞にも整理されているとは言えない。細く曲がった路地が多く、家々はまるで密集するかのように建てられていた。
南欧風でありながら、どこか東南アジアのような雑然とした雰囲気が漂うこの街は、商人系プレイヤーの活動拠点として人気がある。帝国との貿易が途絶えていることを背景に、安く貸し出されている倉庫が多いのだ。
それは大量の在庫を持てるということであり、生産系のプレイヤーや、その顧客も集まっている。プレイヤー人口としては、首都であるラシアに次ぐ規模と言っていいだろう。
彼らは港の空きスペースに露店を並べることが常となっており、俺と姐御はその光景を眺めながら港を歩いていた。
「やっぱり露店も、ラシアとは品揃えが違いますよねー」
「あっちは消耗品と、ドロップした装備を売る奴が中心だもんな」
「ガウス君は鍛冶師の作った装備って使わないんですか?
ドロップ品よりお安いのが多いみたいですけど」
「あー」
問われて、どう答えようか少し考える。
その選択肢はまったくないってわけではないが、あまり選びたくないものだ。
「武器に限ると、やっぱドロップ品のが性能高いんだよな。
鍛冶師のは廉価版っつーか、量産を前提にした性能っぽい。攻撃力だけは負けてねぇけど、特殊効果は基本的にないし、あとたぶん耐久もちょっと低いんだ」
「いざという時に、壊れたら困るということですか」
「そんなとこ。属性付与された武器なら、鍛冶師の武器で揃えてもいいとは思うけど」
武器に関してはそんな感じだが、防具となるとまた事情が違ってくる。
基本的に金属製の防具しか制作できないわけだが、
「あと鍛冶師の装備作成って、何を作るかメニュー開いて選ぶだけのスキルだろ?
形の微調整とかできねぇから、金属製の防具は街の鍛冶屋で作ってもらうのが一番だ。そもそも俺、基本的に革装備だから、鍛冶屋の世話になるのは強化の時ぐらいだけど」
「なるほどー。装備のことはちゃんと考えてたんですねー」
偉い偉い、と褒める姐御。わぁい。
実際のところ、属性武器は切実に欲しかったりするのだが、揃えようと思ったら高いからなぁ。短剣や長剣はそれなりに出回ってるせいかお安めなのに、斧は微妙に割高なのも気に食わないところだ。
そんな雑談をしながら俺達が向かっているのは、緑葉さん達から聞いた停泊場だ。ひとまずかき集めた二千万ゴールドで借りられる船が、そこにあるらしい。
少し時間をかけてしまったが、まだまだ夜はこれから。大海原に挑む時間はあるだろう。
密かに胸を弾ませる俺だったが、道中、姐御の歩調が落ち始めていることに気付いた。
基本的に俺、たまにスピカが乗り物になっているせいで、歩き疲れてしまったのだろうか。
そう思いながら顔色を窺っていると、姐御は不意に真剣を顔をして口を開いた。
「ガウス君。いつか聞こうと思っていたことがあるんですけど、いいですか?」
「なんだよ、改まって」
水臭いったらありゃしない。俺達の仲には遠慮も容赦も不要だろう。
まさか思考を読まれたわけではないだろうが、姐御は僅かに表情を緩めて、
「クラレットさんのこと、好きなんですか?」
「好きだよ?」
あまりにも今更な問いかけだったせいで、思わず拍子抜けする。
「飼い主の一人として認めてるんだから、嫌いなわけがない」
「えー……あれぇー……?」
何故か首を傾げる姐御。納得がいかなかったのだろうか。
つーか意味が分からない。俺がクラレットを好きだなんて隠す気もないし、そう振る舞ってきたつもりだ。あえて確認する必要がどこにある。
しかし数秒の沈黙を経た姐御は、また別の問いを放った。
「じゃ、じゃあ、緑葉さんとのーみんは?」
「好きだよ。ああいや、のーみんはちょっと違うな。好きだけど敵っつーか、たまに生かしちゃおけないっつーか。本質的に俺とあいつは敵同士なんだぜ、みたいな?」
答えると、姐御はシワの寄った眉間を揉みほぐすようにして、唸るような吐息を洩らした。
ややあって顔を上げた姐御は、今まで以上に真剣な顔をして言う。
「男女のお付き合い的な意味で、好きかどうか聞いてるんですけど」
「……いや、考えたこともねぇわ」
楽しく遊べりゃそれでいいじゃん、みたいな。
そう思っているからこそ、それ以外の関係性なんて本当に考えたこともない。
それこそ誰かと付き合うなんて、想像することもできなかった。
「っていうか、男女のお付き合いって何だ……? 好き……ラブ……愛とは……?」
これでも人並みにモテたいとか、そういう願望はある方だと思う。
だがその先というものを、俺はとんと想像できない。
愛されたいと望む気持ちはある一方で、愛を――いや、恋を知らないのだ。
分からない。恋って何だ。付き合うって何だ。
「ぐ、ぐぐ……恋、男、女……人間、不思議、分からない……コロス……!」
「ちょっと落ち着きましょうね!?」
苦悩の元凶を排除すべきだ。つまり人類を滅ぼすべきだ。
そう結論を出しかけた俺を慌てて制止すると、姐御は嘆息しながら苦笑した。
「まだガウス君には、難しいお話だったみたいですねー」
「ンなことねぇよ! 俺はあれだ、何を隠そう恋のエキスパート……!」
「はいはいそうですねー」
まったく信じてない声音で返事をして、姐御は前を歩く。
上半身を捻って顔をこちらに振り向け、彼女は笑う。
「まあゆっくりでいいので、考えておいてくださいな。
でも、どうしても分からなかった時は――」
言いながら背中を向けて、
「――十年後ぐらいなら、飼い主として責任取ってあげますから」
「えっ。姐御、それまで独身貫くの? マジで?」
「なんでこういう時だけ察しがいいんですかー!?」
がばっと振り向き、殴りかかる姐御。
そのだだっ子パンチを適当に受け止めつつ、俺はそこまで鈍感だと思われていたのかと地味にショックを受ける。
いや、だってさぁ。話の流れ的に、そういう話なんだろうなって思うじゃん。
それから姐御は不貞腐れた様子で肩車を要求してきたので、いつものように担いで歩みを再開する。
姐御はぺちぺちと俺の頭を叩きながら、
「別にガウス君のこと愛してるとか、そういうわけじゃないので勘違いしないように。
ただ、十年後とかにお互い独り身でしたら、妥協点として悪くないかなと、そういうお話です」
「そっかぁ。妥協かぁ」
実に姐御らしい物言いでほっとする。いや、ほっとしちゃ駄目だろう。
男としては妥協ではなく、本命として選べと怒るべきではなかろうか。
「けど姐御。もし十年後、俺が結婚してたらどうすんのさ」
「そりゃ身を引きますよ。泥棒猫なんて嫌ですしー」
「ははは盗める気でいやがんの」
笑ったらこめかみをグリグリされた。痛い。
「でも、その時はその時ですねー。私は素直にお祝いすると思いますよ?
ガウス君には幸せになって欲しいと、そう思いますから」
「……ふぅん」
何となく。話を聞いている内に、姐御は諦めているのではないかと思った。
親しい人には幸せになってもらいたい。
それは当たり前の感情で、否定されるべきではない尊いものだ。
だけど同じぐらい、自分の幸せを求めるのも当たり前のことじゃないのか。
姐御の口振りからは、自分が幸せになることを度外視しているように感じてしまう。
そういった当たり前のものを、最初から諦めてしまっているような。
空虚な壁が、心にあるような気がした。
「まあ、俺がどうするかは別としてさ。
本気で俺なんかが欲しいなら、奪い取ってもいいんじゃねぇの?」
「嫌ですよ。波風立てたって、誰も幸せにならないじゃないですか」
「そんなもんかねぇ」
「そういうものです」
どうなんだろうなぁ。
最初から諦めているのなら、そりゃあ受け入れるのは簡単だろうけど。
姐御がそんな生き方をするっていうのは、ちょっと気に食わない。
この人はもっとわがままに、周囲を振り回して幸せになるぐらいがちょうどいいのだ。
だから俺は少し考えて、
「だったら今、妥協してもいいんじゃねぇの?」
「――――えっと」
「今なら波風立たないし、誰も不幸にならねぇけど」
「それは、その……結婚したいぐらい、私が好きってことで、いいんですか」
「いや、分かんねぇけど」
言った瞬間、脳天に肘を落とされた。
「その気もないのに、その気にさせるようなことを言うんじゃありません!」
「お、おお……待って、聞いて。最後まで話を聞いて」
痛みに呻きつつ、
「だって俺も、姐御には幸せになって欲しいと思うんだよ。
だから波風立てるの嫌がって身を引くっつーか、諦めるのは違うなって思って。もっとこう、ガツガツしていいと思うんだよ。諦めて、満足した気になるのは駄目だ。
つまり、えーっと。十年後に拾ってやろうとか思うぐらいなら、今からその気にさせてみやがれ、みたいな?」
「……なるほど」
納得したように呟いた姐御は、しかし苦悩を滲ませた声で続ける。
「問題は別に、そこまでガウス君欲しくないってことなんですよね」
「俺にも傷付く心があるって、そろそろ学習してもいいと思うぜ?」
「やっだもう、何言ってるんですかガウス君ってばー!」
笑ってバシバシと気軽に頭を叩く姐御。
このコロポックルは恐るべきことに、俺に心なんかないと笑っているのだ……!
俺はこの程度のことで泣いたりはしない強い子だが、ちょっと涙目になっているのは、潮風が目に染みたからさ。ぐすん。
そんなこんなで歩き続けた俺達は、やがて目的の停泊場に到着する。
そこに停まっている船は、三本のマストを有したキャラベル船。全長は三十メートルには少し足りないぐらいだろうか。
これから俺達と大海原に挑む相棒は、太陽の下で力強く輝いているように見えた。
○
「――っていう話を、姐御としてさ」
船長に金を払った後のこと。
荷の積み込みだとかで、出港にはもう少し時間がかかると待たされることになった。
同乗する船員は十五人。彼らは忙しそうに動き回り、出港の準備を進めている。
俺達はと言えば、もう準備はできていると言うか、追加で何か用意できるほど金もないので、早々に船へ乗り込んでしまっている。
姐御とツバメ、緑葉さんの三人は船内のあちこちを見て回っており、楽しそうにしている。カルガモは暇潰しにと船首で釣り糸を垂らしていて、興味があるのか、クラレットとスピカは傍でそれを眺めていた。
自然、手持ち無沙汰になった俺とのーみんは、二人して甲板で船縁に体を預け、雑談をすることになった。
で、俺はここに来るまでにあった姐御との会話をネタにしたのが、それを聞いたのーみんは実に味わい深い顔で、生暖かい笑みを浮かべていた。
「そっかぁー。あのさぁがっちゃん。前から思ってたんだけど、タルタルのことどう思ってんの?」
「飼い主」
「そういうことなんだけど、そういうことじゃないんだよねぇ……」
何故か呆れたように嘆息を挟み、のーみんは言う。
「じゃあさ、あたいのことは好き?」
「俺、馬鹿だからよく分かんねぇけど、おっぱいは大好きだ」
「正直でよろしい。でも嘘でもいいから、あたいを好きって言え!」
そんな寂しい愛を欲しがるとは、意外と心の闇が深いなぁ。
憐れみの目を向けていると、それには気付かずのーみんは言う。
「やっぱがっちゃん、恋愛観が小学生男子のままだよにゃー」
「ほほう。最後に言い残す言葉はそれでいいんだな?」
「指摘されて怒るのは図星だって証拠だぜ!」
むぅ。そう言われてしまうと、ムキになって言い返すこともできない。
カチンときたのは事実だし、案外、こいつの言い分は正鵠を射ているのかもしれない。
「――けど、根が深いのはがっちゃんより、タルタルの方だにゃー」
少し悩ましげに、のーみんは姐御にも問題があるのだと言う。
「だってタルタル、絶対にがっちゃんのこと好きじゃん。
それがなんか、捻くれた感じになってるの。放置してるとまずい気がするのだぜ」
「そっかぁ? 姐御なら致命的な間違いだけはしないと思うんだがなぁ」
「そう思うのは、がっちゃんがタルタルを過大評価してるからさ」
微笑ましいものを見るような口振りで、のーみんはそう言った。
子供扱いされたような気がして、反射的にイラっときたが、まあのーみんは腐っても大人だ。時には年長者としての物言いをしたくなることもあるんだろう。
そう我慢する俺の沈黙をどう受け取ったのか、のーみんは言葉を続ける。
「あの子の面倒臭さは、みっちゃんといい勝負なのだよ。
みっちゃんは凄い意地っ張りだけど、タルタルは逆に物分りが良すぎるんだにゃー。ちょっと悪足掻きすればいい場面でも、先に頭で結論出しちゃうから、諦めちまうのだ。
そういうところ、がっちゃんももどかしいって思ってたりするんじゃない?」
「……そりゃあな。けど、そういうところに救われたのも事実だぜ」
物分りよく諦めてくれるから、背中を押してもらえたことは数え切れない。
俺を説得して在り方を曲げさせるよりも、自分が諦めて後押しすることを、姐御は選んでくれていた。
それは必ずしも好ましいわけではないし、正しいわけでもない。だけど諦めたその先で、それでも力になってくれる姐御に感謝しているのは事実だ。
もどかしいと思っても――それだけを理由に否定するのも、何か違う気がした。
「ま、将来どうなるかなんて、分かんねぇけどさ。
皆が幸せになって欲しいし、後悔しない選択をして欲しい。俺はそう思うよ」
「おお、がっちゃん。あたいの幸せも祈ってくれるのかい」
「その後で破滅して欲しい」
「ふっ、地獄に落ちる時は一緒だぜ」
巻き込まないで欲しいと、切に願う。
だが意地でも巻き込みたいのか、のーみんは瞳に邪悪な光を宿してニヤリと笑った。
「くくく、閃いちまったぜ。――がっちゃん、うちの婿になりなさい」
「やだよ、幸せになる未来が見えねぇもん」
「まあまあまあ、いいから聞きんさい。うち、大きい農家なわけですよ。
無駄に数だけいるお兄ちゃんズは、揃いも揃って誰かが家を継ぐだろうって、好き勝手にし腐りましてね。気付けば全員、農業と関係ない仕事に就いちゃったのだ」
「へー。大変だなぁ」
「そうなのです。あたいもねー、お兄ちゃんズの誰かが後を継ぐよね、って油断してたのは否定できないけど。
つまり跡継ぎ募集中なので、がっちゃんがその気なら、農大で勉強して……」
「いや、待て待て。お前の頭おかしい計画はともかく、それと姐御がどう関係すんだよ」
「よくぞ聞いてくれた。あたい寛大なので、タルタルがオッケーならお妾さんも許可します」
「色んな意味でアウトじゃねぇか!!」
「手続き面倒臭いけど、重婚でもオッケーだぜぃ」
「たまに聞くけど、俺の想像する幸せから遠いな……!」
昔、移民政策を取った時の名残りで、ちゃんとした手順を踏めば重婚は可能だ。
しかし可能なだけであり、実際やると世間の目はわりと白い。
「大丈夫、大丈夫。皆で幸せになれるよ。証拠はうちのお母さんズ」
「あ……! やたらお兄ちゃんの数が多いって、そういう理由でか!?」
解けなくていい謎が解けた。
そして信じ難いことに、身内の事情を明かしたということは、わりと本気だということ。
のーみんは恋愛とかのステップをすっ飛ばして、婿という名の跡取りをゲットできるなら、それでいいと考えているのだ……!
「さあがっちゃん、大人しく婿になっちまいな!
どろっどろに愛してあげるぜ……!」
「口説き文句にそれを選ぶお前自身に疑問を持てよ!?」
言い返したところで、ふと、俺は気付いてしまった。
確かにのーみんはナチュラルに狂っているが、それにしたって今日はアクセル踏み過ぎだ。普段なら他に誰かいて、ネタになる時でもなければ、こういう暴走はあまりしない。
ならば今回の暴走理由は何だろうと疑問に思えば、答えがすぐに出る。
こいつ、リアルでわりとガバガバ酒飲んでた――!!
「……なあ、のーみん。実はお前、かなり酔ってるだろ」
「ほえ? 真っ直ぐ歩けるけど?」
「いいから診断しろって。電脳で酔いのレベル、調べられるだろ」
酒に酔うってのは、脳が部分的に活発になったり、逆に働きが低下している状態だ。
個人差はあるし、主観によっても変わってくるが、電脳ではそれを大雑把に診断することができる。
のーみんは不承不承ながらも診断したようで、
「――おお、酩酊初期」
「めっちゃ酔ってるじゃねぇか!!」
「にゃはは。そんなに飲んだっけかなー?」
悪びれた様子もなく笑うのーみん。もうやだこいつ。
つーかさぁ、のーみんに付き合って飲んでた姐御も、結構酔ってるんじゃねぇの?
気を揉んでいたのが馬鹿らしくなってくる。姐御ものーみんも、酔った勢いで普段ならしないような話をしていたってオチだ。
「まあまあがっちゃん、落ち込まなくていいんだぜ。
お婿さん欲しいのはマジっつーか、あたいと結婚したら土地もお金もおっぱいもセット!」
「くっ……! 酔っぱらいのクセに、的確に俺の弱点を!」
「ふっふっふ。がっちゃんの弱いところは知り尽くしておるのじゃー」
手をわきわきとさせて、嫌な脅しをかけるのーみん。
土地と金はどうでもいいが、俺はおっぱいの誘惑に抗えない弱い男だ。
このままでは理性と関係ないところで、すぐにでも頷いてしまうのは間違いない……!
「――じゃ。俺、のーみんが酔っぱらってるって、緑葉さんにチクってくるから」
「のぉー!? いきなりリーサル・ウェポン持ち出すのは酷くない!?」
「たまにはガチ説教されるがいいぜ!」
言い捨てて、俺は緑葉さんの姿を求めて船内を走り出した。
口封じをしようとのーみんも後を追うが、酔いが回っている今ののーみんは怖くない。
そうして俺は、姐御とツバメと一緒にいた緑葉さんを無事に発見し、のーみんが婿になれと迫ってくるのだと泣きついた。
予想通り、緑葉さんはのーみんに酔い過ぎだと説教しようとしたが、のーみんは即座に転進して逃げる。
その立ち去り際、のーみんは捨て台詞を吐いて行った。
「がっちゃんは今日もオパーイに誘惑されてましたー!!」
おっと、事実だけに否定できねぇけど、姐御とツバメの視線が突き刺さるぞぅ?
でも安心して欲しい。血迷うのに必要となる大きさというものがあって、二人の大きさだと俺には通用しない。ガウス君は今日も紳士な自分を貫けるんだよ。
そんな自己主張を込めて紳士的に微笑んでいたら、姐御がとても真剣な顔をして仰った。
「のーみんだけは、駄目です」
うん。俺もあいつだけはないなって思うよ。
あの残念美人はやっぱり、本質的には敵なのである。
その後、のーみんは緑葉さんに捕まり、甲板で正座させられてお説教を受けることになった。
そうしている内に船員の準備も終わり、いよいよ出港の時がやってきた。