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竜と信仰の奇譚  作者: 長月十九
第五章 大航海時代
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第二話 殉教


 薄い潮の香り。虫の息のような風。じりじりと照りつける太陽。

 フィーバー報告から三十分。カルガモはまだ現れなかった。

 当初、あのクズはホント仕方ないな、と罵っていた俺達だが、これだけ待たされると罵る元気も尽きる。暑さにゆっくりと体力を削られ、もう何でもいいから早く来てくれと祈るばかりだ。


「駄犬……冷たいお茶買ってきて……」


 木陰にへたり込むりっちゃんが言う。

 その要望には応えてあげたいし、俺も冷たいお茶は欲しいが、残念ながら首を横に振る。


「自販機見当たらないんで、諦めてくれ」


「ちっ、使えない駄犬と町ね!」


「悪いのは全部カルガモなんだよなぁ」


 俺はともかく、町にまでキレるのは理不尽だからやめてあげて。

 不機嫌マックスなりっちゃんとは対照的に、まだ余裕のありそうなのーみんが口を開く。


「あんまりカモさんが遅いと、タクシーでも呼んだ方がいいかにゃー。

 あたいはまだ平気だけど、みっちゃんと朝陽ちゃんがやばそう」


 そうなんだよな。いつもうるさいぐらい元気な朝陽も、へたり込んでしまっている。

 二人とも熱中症を心配するほどではないと思うが、歩かせるのは厳しいだろう。

 そんな話をしていると、一番元気そうな奈苗が突然声を上げた。


「――あ、車見えた! あれカモさんかな?」


 どれどれ、と皆も目を向ける。見えない。

 ……こいつの目の良さを忘れてたな。視力にしたらいくつあるんだ。

 だが流石は車、スピードが違うぜ。あまり待つこともなく、俺達にも姿が見えた。

 この人数を乗せるためだろう、白塗りの大きなワゴン車だ。近づいてきた車は駅舎の前で停まり、ドアを開けて運転手が降りてきた。


「すまんすまん、待たせてしもうたな」


 まったく反省した様子のない謝罪を口にしたそいつは、若い男だった。

 無造作と言うよりは、雑に切っただけの黒髪。顔立ちは精悍ながらもどこか締まりがなく、ゲーム内のアバターとは年齢以外でも印象の違いが際立っていた。

 そしてやけに凛々しいアルパカの顔イラストがプリントされたシャツに、ジーンズ……いや、ペインターパンツか。どんな服装でもおかしくないとは思うが、意外にもカジュアル路線だった。

 やや無精髭の目立つ男――カルガモを前にして、口火を切ったのは百合だ。


「カモさんですね? パチンコは楽しかったですかー?」


 笑顔ながら隠し切れない怒気。これが自分に向けられたものであれば、俺は死を覚悟していたことだろう。しかしカルガモは狼狽えるどころか、堂々と胸を張って爽やかに笑った。


「うむ、超楽しかった!」


 サムズアップ。皆はとにかく、投げられそうなものを手当たり次第にぶん投げた。

 カルガモは大袈裟な悲鳴を上げてそれらを避け、とりあえず車に乗れと促した。


「クーラーも利かしておるからな。炎天下で話し込むのも馬鹿らしいじゃろ」


 まったくだ。さっさと荷物を後ろに積んで、俺達は車に乗り込んだ。

 車内にはリアシートが二列並び、後ろの方はそのまま三人で座れるので茜達学生組の三人娘が座る。前の席は真ん中が座り心地微妙な補助席となっており、無言の圧力に屈した俺が座ることとなった。

 両サイドにはりっちゃんとのーみん。助手席には百合が座り、ダッシュボードから吹き出る冷風をご堪能。……自分から助手席に座りたがったのは、それが狙いか!


「あ゛ー……いい……クーラー素敵……」


 隣のりっちゃんは、もう完璧に駄目な人になっていた。

 今なら何をしても許されそうだが、今だけであって後が怖いので邪念を振り切る。

 俺達は文明の利器に感謝しつつシートベルトを締め、それを確認したカルガモがアクセルをかけた。

 基本的には自動運転なのでハンドルを握る必要はないが、万が一に備えて握っておくのがマナーだ。一応、車庫入れなんかは手動の方が微調整しやすいらしいけど、俺にはよく分からない話だ。


「――別荘までは二十分もかからんぐらいかのぅ。

 荷物を置いたらメシを食いに行くが、何か希望はあるかの?」


 車が走り出したところで、カルガモがそんな質問をしてきた。

 メシなぁ……別に何でもいいけど、せっかくだし魚介類かな? いくら流通が発達したと言っても、現地で水揚げされた新鮮なものが一番美味い。特に青魚は新鮮なものに限る。


「私は甲殻類アレルギーあるんだけど、皆はどうかしら?」


 と、何を食べるか考えていたら、りっちゃんが皆に確認を取る。

 ああそっか。忘れがちだけど、甲殻類が駄目な人って結構いるらしいもんな。

 確認は大切だが、しかし食品アレルギー持ちはりっちゃんだけらしく、


「ちっ、私だけか……いいわねあんたら、好きに食べられて。

 エビが大好きだったのに食べられなくなった私を、嘲笑うがいいわ!」


「悲惨だし自虐が独特過ぎて笑えねぇよ」


「ふふふ、覚えておきなさい駄犬。平気だと思ってたら実はアレルギーってパターン、たまにあるわよ。何せ猫も触れなくなったもの! だから今は犬派! でも心の奥底では猫を……!」


 あ、駄目だ。この人、まだ暑さで脳がやられてる。あるいは旅行ってことで、実は浮かれ気分だったりするのだろうか。

 その後、いくつかの意見が出たものの、最終的にはメニューの豊富さから、別荘の近くの中華屋に行くことで話はまとまった。好き嫌いやアレルギーがあっても、何かしら食えるだろうって安心感が中華料理にはある。

 それからも車は走り続け、幹線道路に出る。幹線道路沿いはそれなりに建物があり、記憶にあった風景とも合致し始める。海に近付くほど民家も増え、この町が海を中心に成り立っているのだと分かる。

 長閑な町並みには古い建物も多く、歴史の長さを窺わせる。百合が助手席でそわそわしているのは、歩いて見て回りたいからだろう。本当に古けりゃ何でもいいんだな、あの人。


「そう言えばさー」


 ふと、のーみんが口を開いた。


「晩御飯はどうするんだい。作るなら、買い出し行かなきゃだぜ」


「昼を食べた帰りか、夕方にでも行けばいいじゃろ。

 それよりも問題は、誰が料理するか……いや、できるか、じゃな」


 カルガモの言葉を受けて、俺は待ってましたとばかりに挙手をする。


「任せろ。料理上手ってわけじゃないが、食えるものは出せるぜ」


「おろ? がっちゃんが作れるとは意外な」


「――でも兄ちゃんの料理、油すごいよ」


 後ろからの余計な一言で、車内に一瞬の静寂が訪れた。

 沈黙を打ち破ったのは百合の、わざとらしく明るい声だった。


「凝ったものは作れませんけど、私が担当しましょうかー!

 これでも自炊してますから、ちょっとは自信ありますよ」


「なあ、俺が」


「あのね先輩。あたし達、先輩の暴挙は認められない」


 決意を秘めた朝陽の言葉に、うんうんと頷く女性陣。

 何故だ。どうせなら美味しいご飯を食べたいと思わないのか。

 美味しいご飯には肉と油が欠かせない。そんなの当たり前じゃあないか。

 だってあれだぜ。脂って字、肉が旨いって書くんだぜ。

 料理っていうのはもっとこう、バターぶち込んでいいと思うんだ。

 しかし俺の主張が通ることはなく、料理担当は百合と茜に決定してしまった。

 こうなったら隙を見て、意地でも何か一品ぐらいは作ってやろう。

 俺が孤独な戦いへ身を投じる決意を固めた頃、車は別荘に到着した。


「よーし、着いたぞい」


 カルガモはそう言って、敷地内に車を停める。

 だが、別荘……?

 場所は普通に住宅街の外れだし、建物は平屋の古民家といった感じ。別荘と聞いてイメージしていた優雅さは欠片もないし、広い庭も雑に除草剤を撒いたのか、点々と雑草が生えている。

 たぶんこれ、使ってない家を別荘ってことにしてるだけだな……。


「み、見た目はちょっと古いですけど、中は綺麗ですよ?」


 学生組のテンション降下を感じ取ったか、百合が言い訳をする。

 まあ、中までボロけりゃ別荘として問題があるか。その言葉を信じて、車を降りた俺達は別荘の中へ入ることにした。

 屋内は確かに年季を感じさせるものの、壁紙を張り替えるなどして古さを感じさせない。

 構造としては玄関から広い廊下が続き、突き当りが居間。左手側に和室が三部屋並び、右手側には台所や風呂場といった形だ。家具や家電も一通り揃っているし、不便はしないだろう。


「わ、ディッシュメーカーまでありますよ」


 ひとまず荷物を居間に置いたところ、隣の台所をチェックしていた百合が声を上げた。

 ディッシュメーカーってあれか、アクリル製の食器を作れる家電。大きさは食洗機ぐらいで、皿はもちろんコップも作ることができる。使用済みの食器は軽く洗ってから本体に入れておけば、また素材であるアクリル板に戻せるという優れものだ。

 家庭用のは急な来客にも安心、なんてキャッチフレーズで売られることが多いが、こういう貸し別荘に置いてあると嬉しい。何人で利用しても大丈夫だし、誰が使ったか分からない食器を使わなくてもいい。

 つーか気になって俺も台所をチェックしたけど、やけに充実してんな。

 コンロは誘導コイル式のクッキングヒーターだから、鍋やフライパンをどこに置いても加熱される。スペースも広めだから、大量に作る時なんかは重宝するだろう。


「レーザーカッターもあるね」


 同じく台所をチェックしていた茜が言う。レーザーカッターはサッカーボールほどの球体で、内蔵されているガラス容器に食材を入れてセットすれば、レーザーがどんな形や薄さにもカットしてくれるのだ。

 ひょっとしたらここの持ち主、こういった家電が好きだったりするのかな。


「これだけ道具が揃ってりゃ、何でも作れそうだな」


「……幹弘君? 料理担当は私と茜さんですよ?」


「分かってる分かってる」


「幹弘さん、なんで収納覗いてるの? なんでお鍋を数えてるの?」


「ははは、気にせずいこうぜ」


 笑って押し切ろうとしたら、誰かに襟首を掴まれた。

 おのれ邪魔立てを。振り返れば、にこにこ笑うのーみんの姿があった。


「邪悪な料理を作らせるわけにはいかんのだよー」


「酷い偏見だ。俺の料理こそが正義だと、証明しなければならないな」


「しなくていいから、がっちゃんはこっち来ようねー」


「ああっ、離せ!? 機会を! 機会だけでも!」


 抵抗虚しく引きずられて、軽い掃除や布団干しを手伝わされる。

 天気予報だと晴れが続くって話だし、布団を取り込むのは夕方になってからでもいいだろう。

 最後に部屋割りの相談。俺とカルガモは自動的に二人で四畳半の和室となり、女性陣も大人組と学生組に分かれることとなった。

 その後は予定通りに近くの中華屋へ昼を食べに行き、その足で夕食の買い出しも済ます。

 別荘に戻って一休みしてから、俺達はいよいよ海へ繰り出すことになった。


     ○


 末野の海水浴場は、家族連れや地元の学生が海水浴客の中心だった。

 閑散としているとまでは言わないが、賑わっているとは言えないような光景。海の家も一軒しかないが、それで充分に賄えるのだろう。むしろ複数件あったら潰し合いになりそうだ。

 ありがたいことに無料の更衣室があったので、さっさと着替えた俺とカルガモは浜辺にレジャーシートを敷き、女性陣が着替え終わるのを待つことにした。


「――けど、意外だな。お前なら海パンじゃなくて、(ふんどし)かもと思ってたんだけど」


 シートの上に転がるカルガモは、ごく普通の海パン姿だった。

 カルガモは俺の言葉へ露骨に苦笑して、


「ゲームならそれも悪くないが、リアルでそんな勇気は流石にな」


「勇気の話をしたら、その体を人前に出す勇気の方がすげぇわ」


「そうか?」


 そうだよ。明らかに刀傷とかあるぞ、何時代の人間だお前。

 どれも古い傷のようだから、たぶん真剣で稽古でもしてたんだろうけど――って脇腹の傷、やけに新しくない? 深く聞きはしないけど、色が浮いてるしここ半年ぐらいの傷じゃない?


「……ところでお前、仕事とか何してんの?」


「うむ。主に霞を食って生きておる」


「そうか。で、本名は」


「過去か……語るまでもない、つまらぬ話よ」


 やっぱり真面目に答える気はないか。

 嘆息して、俺は話題を変えることにした。


「そうそう。一応釘刺しとくけど、奈苗には手を出すなよ。

 うちの親父が鬼神と化して殺しに行くと思うから」


「当然じゃろ。それにまあ、あやつには悪いが対象外じゃしのぅ」


「あー、尻と貧乳が好きなんだっけか」


「いや、それも重要じゃけど、年齢がな?」


「もっと幼くないとストライクゾーンに入らないんだな……」


「それデッドボールじゃからな!?」


 社会的デッドボール。流石のカルガモも法と条例は怖いらしい。


「と言うか、おぬしこそどうなんじゃ」


「俺ぇ?」


「例えば今回の面子じゃと、誰が好みか言ってみい」


 うーん……とりあえず奈苗は論外として、百合も論外だな。そういう枠ではない。

 外見だけに絞っても、りっちゃんは違うな。もっと肉付きがよくないと駄目だ。胸だってちゃんと比較したら、まだしも百合の方が大きいんじゃないか。完全にどんぐりの背比べだけど。

 朝陽もまあ、見た目は悪くないんだが……胸がなぁ。あと色気も足りない。女扱いはしているが、異性として認識するのを脳が拒むっていうか、あれはああいう生き物なのだ。


「――いや、こういうのは本人に失礼だからやめようぜ」


「失礼なことを考えておったのはよく分かった」


「うるせぇよ。俺はお前と違って良識派なの」


「ま、見た目だけで言えばどうせのーみんじゃろ」


 まあね。正直、あいつはちょっとレベルが違い過ぎる。

 とまあ、そんな雑談をして時間を潰すものの、女性陣はまだ来ない。暇な俺達は大海原を賽の河原に見立てて、交互に砂山を作っては崩すという不毛な遊びに手を染める。

 ついつい感情が入り過ぎてしまい、俺達は最終的に取っ組み合って相撲を始めていた。


「粘るじゃねぇか……! 若くねぇんだから降参しろよな!」


「たわけ、まだ若いわ! おぬしこそ息が上がっておるのではないか!?」


「は、まだまだ! おっさんにゃ負けてらんねぇよ!」


 言い返すものの、おっさん呼ばわりしたことでカルガモの力が増した。

 心が狭い……! 体格差はそこまで大きくないが、俺がやや不利なのは純粋に膂力の差か。


「ち――癪だが体はきっちり鍛えてやがんな!」


「ふっ、おぬしも悪くない仕上がりではないか」


「皮肉にしか聞こえねぇな。無駄のない筋肉しやがって……!」


「何を言う。おぬしこそ足回りの筋肉は素晴らしいじゃろ」


 そんな言い合いを続けながらがっぷり四つに組んでいると、


「――暑苦しい。あまりに暑苦しいわ、この絵面」


 うんざりした声音。罵倒の言葉に振り返れば、ようやく着替えた女性陣が揃っていた。

 声を発したのは、黒地に白の花柄のワンピースを着たりっちゃんだ。あまり体に密着しないデザインなので、ひょっとしたら線の細さを気にしているのかもしれない。


「やっと来おったか。しかし暑苦しいとは失礼な。

 爽やかな青春の汗を流していると言ってもらおうか」


「カモっちからは一番遠い言葉だと思うなー」


 害鳥は同類にも容赦しない。

 朝陽の水着はフリルで飾った、華やかな黄色のビキニ。太陽の下では反射して、輪郭がぼやける感じがする。――フリルで盛ってる点と合わせて考えれば、狙いは明らかだった。

 カルガモもそれには気付いたようだが、指摘する様子はない。踏んでいい地雷と駄目な地雷を見分けられるからこそ、奴はこれまで生き延びてこられたのだ。たまに趣味で踏むけど。

 一方、朝陽の隣で堂々としている奈苗は、シンプルな白のタンキニだ。残酷だから隣に立つのはやめてあげなさい。わりとスポーティーな感じなのは、がっつり泳ぐつもりだからだろう。


「けどあたい、特殊な趣味の人には売れそうな光景と見た」


 などと、ふざけたことを口にするのーみん。

 彼女は黒のハイネックビキニで、ブラは編み上げになっている。シンプルなビキニブラもいいが、これはこれでチラリズム的なロマンがある。

 ああ、百合はギンガムチェックのタンキニね。はいはい、可愛い可愛い。

 そして――俺は女神を見た。


「あ、あの、幹弘さん……?」


 俺の視線を受けて、恥じらうように腕で体を隠す茜。

 水着はいわゆる三角ビキニで、白地に大きく赤の花柄が入ったもの。よく似合っているが、もっと重要な点がある。着痩せする方だとは思っていたが、ここまでとは……!

 俺は深呼吸して、一度のーみんを見た。そして茜を見た。

 大差ない……だと……?

 脳裏の大宇宙で星が弾け、銀河がうねる。

 膝を折った俺は、いかに自分が節穴だったかを痛感した。

 性格の違いだ。のーみんは自分の外見を理解していて、自然とアピールする。だが茜はそうではない。武器を持ってしまったのなら、それを隠そうとする平和主義者だ。

 つまり着用する下着もタイプが違い、それが俺に見誤らせていた。

 不覚……! おっぱい聖人として、あまりにも無様……!

 オパーイと真摯に向き合っているつもりで、俺は上辺しか見ていなかった……!


「埋めてくれ……俺にはもう、生きてる価値なんてない……」


「よしきた!」


 追求せずに穴を掘り始めるのーみんの優しさが、胸に沁みる。

 朝陽とカルガモも後に続こうとするが、慌てて止めたのは他ならぬ茜その人だった。


「ま、待って待って! ストップのーみん!

 今の幹弘さん、ちょっとおかしいと思うから!」


「――いつも通りの兄ちゃんってこと?」


 本質を捉えた奈苗の発言に、茜も言葉に詰まる。

 いや、ちげーし。本質じゃねーし。俺、どこもおかしくねーし。

 誤解されては困るので、俺は立ち上がった。


「すまねぇ、少し自分を見失っていた。

 約束するよ、茜。俺はもう、二度とお前を見誤ったりしない」


「うん――……うん?」


 茜は頷いてから、不思議そうに首を傾げた。

 その光景を見ていたりっちゃんが冷笑して、


「茜、その駄犬最低なこと言ってるわよ。

 思ってたより胸が大きくて驚いたから、ガン見宣言してるだけだわ」


 茜は笑顔を浮かべて、パンパンと手を叩いた。


「――のーみん、穴掘ってあげて。深いの」


 かくて俺は海に入るよりも先に、砂の中へ入ることになったのであった。

 だが後悔はしていない。

 おっぱい聖人として自らの信仰を貫けたことは、むしろ誇らしい。

 今日この日を、聖オパーイの日として歴史に残そう。

 ……でも蒸し焼きになりそうだから、誰か助けてくれない?

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