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竜と信仰の奇譚  作者: 長月十九
第四章 兵どもが夢の跡
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第十五話 セーブポイント


 その後も辻斬りは連日連夜、勤勉さを発揮した。

 唯一のお休みは俺が撃退に成功したあの日だけ。それを除けば一日一人のペースを守り、今日までで犠牲者は死者三名、重傷二名という大惨事である。

 こうなっては報道も抑えてはいられない。時代遅れ――いや、時代外れな怪人の凶行は、辻斬りというセンセーショナルな字面もあってか、日本中の誰もが知るところとなった。

 警察は市民から激しく突き上げられ、でも普通の事件ではないからどうしようもなく、その皺寄せは古橋さんへ。一刻も早く解決しろと、協力関係な筈なのに急かされているそうだ。

 また、市内どころか近隣の都市でも、撃剣興行の野試合は行われなくなった。辻斬りの被害者は全員が撃剣興行の参加者だったのだから、よっぽどの間抜けでもなければ関連性には気付くし、警察からも強制に近い自粛を言い渡されていた。

 辻斬りの目的が撃剣興行を潰すことならば、これで目論見通り。

 だが現実には昨夜も辻斬りは現れ、血塗れの白星をまた一つ増やしていた。


「警察情報だけど、昨夜はどこも撃剣興行はしてなかったって。

 被害者の人はここのところ毎日夜遊びしてたみたいで、撃剣興行がないならないで、友達と遊んでたって話。やっぱりこれまでと同じで、ホームはアウトロー系だってさ」


 表示枠を投影して、現時点での情報のまとめを話す朝陽。まだ午前中だってのに仕事が早いと褒めるべきか、もうちょっと寝させてくれと言うべきか。

 あと俺が床に座ってんのに、なんでお前はベッドに座ってんの? それ俺のベッドよ?


「古橋さんから聞いたの?」


 恥知らずな朝陽とは違い、隣で床に座っている茜が確認をする。


「うん。チャットの方にいたから、聞いといたの。

 不機嫌そうだったけど、忙しくてあんまり寝れてないみたい」


 心配そうにちょっと表情を曇らせる朝陽。まあこいつは善性の子なので、辻斬り事件について真面目に捜査している古橋さんには、肩入れしたくなるのだろう。古橋さんと引き合わせてからというもの、助手気取りであれこれと手伝っているのがいい証拠だ。


「それで新しい被害者の人だけど、過去に警察沙汰はなし。聞き込みはこれからするけど、他の被害者と同じで悪さしてたってわけじゃないみたい。

 今のところ共通点はアウトロー系のホームってぐらいで、殺されるほど恨まれるようなトラブルは誰も抱えてないね」


「アウトロー系っていうのも、必須条件じゃねぇと思うんだよな」


 俺が口にした意見へ、補足するように茜が続く。


「活動時間、だよね。アスリート系の人達は日中にやるから、人目があって襲えないんだと思う。もしかしたら辻斬り自身も、日中はあんまり自由に動けないのかもしれないけど」


「うん、あたしもそう思う。で、警察の方は一応、これだけ撃剣興行に執着するなら怨恨の線だろうってことで、撃剣興行に参加して怪我させられた人や、その関係者を調べてるみたい。

 でもあんまり芳しくないっていうか、この街のホーム、アウトロー系でもクリーンで、意外なほどに素行が悪くなくて逆ギレ中。ちっとも手がかりが掴めてないってさ。

 だからこれ、タルさんの言ってたことが真実味を帯びてきたと言いますか、正直あたしもそうじゃないかなーって思ってるんだけど、そこんとこどうですか先輩」


「……まあな。そもそも最初の二件、俺も含めりゃ三件か。狙われたのが全員、同じホームの奴って時点で確かにきな臭い。見方を変えれば中心にいるのは誰だ、って話なわけだ」


 ここ数日の事件に関して、話を聞いた姐御はこう述べていた。

 一度なら不運、二度なら偶然。三度続けば必然だ、と。

 辻斬りは撃剣興行全体を標的にしていたのではない。最初は俺のいる高架下ホームを標的にしていて、警戒が強まったから他のホームの奴にも手を出した。

 その推測を前提として、高架下ホームに執着した理由――動機について考えた時、姐御は一つの結論に達した。

 守屋幹弘は辻斬り事件に首を突っ込んだのではなく、最初から狙われていたのではないかと。


「でも……幹弘さん、狙われる心当たりってあるの?」


「それが全然」


 姐御の推理には説得力があるんだが、肝心なところが駄目なんだよなぁ。

 俺のような人畜無害の愛され系男子が、恨みを買うわけがないのだ。


「いや、待てよ――好き過ぎて殺したいとか、そういうタイプの変態なら可能性はあるか……?」


「ないでーす。ついでに調べたけど先輩、評判めっちゃ悪かったでーす」


「そりゃそうだろ。ファイトマネーは勝った方の総取りなんだから、強い奴ほど嫌われるさ」


 俺はあんまり手を抜く方じゃないから、わざと負けて勝率を調節するってこともしないしな。

 ただまあ、そんなのは嫌われるだけであって、恨まれることではない。試合で勝てないから殺すなんて、あんまりにも酷い侮辱だ。そこを曲げるような選手は、流石にいないと信じたい。

 だからこういう時は、根本的な部分から見直さなければならない。


「まあ俺に限った話じゃなく、撃剣興行の選手なら警察がとっくに見つけてるだろ。人員をどのぐらい割いてるかは知らないけど、隠し通せるほど警察も無能じゃないしな。

 だからこう考えよう。――辻斬りは撃剣興行にそもそも関わりがない。本来ならまったくの無関係だから、捜査線上にも浮かばない。それでいて、俺や撃剣興行を憎んでいる」


「先輩。過去に何やったか知らないけど、自首するなら今の内だよ?」


「俺は品行方正だって言ってんだろ、ぶっ殺すぞ。

 聖人ってわけじゃないし、嫌ってる奴ぐらいはいると思うけど、憎まれる心当たりはマジでないからな。だからたぶん、理解できない理不尽な理由で恨まれてるんじゃねぇか」


「ふむふむ……嘘は言ってないっぽいけど、どうですか先生」


「幹弘さんは思い込みが激しいから、話半分でいいと思う。でも禍根を残すような人でもないから、理不尽な理由でいいんじゃないかな。意外と難しいから」


「難しい……?」


「うん。幹弘さん、嫌われたら離れる人だから。無理に仲良くしようって思わないし、適切な距離を保てばいいって思う人でしょ? そういう人を恨むのって難しいよ。

 人間関係は摩擦だから。触れ合える距離じゃなかったら、関係は変わらないし、発展しないよ」


「ほ、ほほう、摩擦とな。スキンシップってわけですな、なるほどなるほど」


 たぶん分かってない顔でしきりに頷く朝陽。ちょっと顔が赤いのは、自分で言ったスキンシップってワードから連想して、何かエロいことでも考えたのだろう。この耳年増め。

 一方、茜は親友の無理解にツッコミを入れることなく、話を変える。


「私もちょっと疑問なんだけど……辻斬りは、どうして幹弘さんを殺さないのかな」


「殺す気ではあるだろ? 返り討ちにあってるだけで」


「そうじゃなくて。……その、殺そうと思えば殺せるでしょ? どこの誰かは分かってるんだから、手段を選ばなかったらいい。家に押し込んでもいいし、寝てる時に放火してもいい。もっと単純に、死に戻りができるんだから、殺せるまで延々と休まずに挑んだっていい。

 そうしないのは殺せない理由があるか、殺す手段に拘りがあるかだと思うんだけど」


「――む」


 言われてみれば、確かに道理だ。

 俺は別に超人ってわけじゃないし、手段を選ばなければ殺すことはそこまで難しくない。極端な話、丸一日ずっと襲われるだけで、俺は呆気なく殺されるだろう。

 だが辻斬りには、手段に拘るような印象はない。

 何よりもあの、粘つくような憎悪――あれは余裕なんてない、追い詰められた者の感情だ。

 そんな奴は手段を選ばない。選ぶとすれば、絶対にしてはいけないことを避けるため。

 だとすれば。殺せない理由があるというのは、筋が通る。


「……けど、分かんねぇな。殺したくないのに襲うって、どういうこった。

 第一、それじゃあどうして他の奴は殺したのかって話になる」


「んー。先輩をじわじわ追い詰めて、絶望させるためとか。

 殺したいけど殺す価値もないから、絶望させて自殺させるのだ、みたいな」


「最低の発想をありがとう。お前にだけは恨まれたくねぇわ」


「わりと真面目に考えて話してるんですけどー!?

 だってこんなの、先輩の行き場をなくすぐらいの意味しかないし!」


「――――朝陽」


 お前、その発想を先に言えよ。

 思わず真顔になった俺を見て怯む朝陽だが、怒ってない怒ってないとアピールして、


「行き場をなくすって、撃剣興行を潰すってことだよな」


「あ、うん。だって殺されないなら、先輩の実害ってそれでしょ?

 被害者の人、先輩の知らない人も混じってたし。特に選んだわけじゃないなら、そういうことになるのかなー、って」


 ……推測がパズルのピースを埋めていく。

 俺の行き場をなくすこと――それもきっと、手段でしかない。だがそんなことをして果たせる目的が、一体どれほどある。何をどう思い詰めれば、そこまで追い詰められる。

 理解に苦しむ動機。

 けれど理解できてしまう動機。

 それが見えた時、そんなふざけた動機の持ち主は一人しか思い浮かばなかった。


「――チ。結局、のーみんが大正解か」


「? 幹弘さん、のーみんに何か言われてたの?」


「いや、奈苗からの伝聞なんだけど」


 俺は事件を解決するのではなく、終わらせるんだとさ、と吐き捨てる。

 まったくもって大正解。事件が起こってしまった時から、もう解決は望めない。

 俺にできるのは、ただ終わらせることだけなのだ。


「――ともあれ、犯人はたぶん分かった。

 朝陽、裏付けよろしく。俺が動いたらバレそうだし、お前なら古橋さんや警察とも連携できるだろ。俺は買い出しに行くから、茜はそっちに付き合ってくれ。カルガモの作戦でいく」


「うぃっす、了解。……けど先輩、分かったってことはその、辻斬りって」


「気にすんな。そこ突つくと、どう転がっても愉快な話にゃならねぇぞ」


 正直な話、誰かに任せられるなら任せたい。

 だけどこの重荷は、俺しか背負っちゃいけないものだ。

 それなら腹を決めて、どんな傷でも抱えてやるしかないだろう。

 俺は犯人とその動機についての推測を二人に話し、行動へ移ることにした。

 ……話をしている間、茜はそっと俺の手を握っていた。

 押し潰されそうな体には、その支えが何よりもありがたいものだった。


     ○


「死に戻りがシステムである以上、絶対に必要な条件がある。

 死んでもそこで復活できるという場所――セーブポイントの存在じゃ」


 死に戻りへの対策として、カルガモはそれを挙げた。

 ゲオルギウス・オンラインにおいて、セーブポイントは都市の中でなら自由に設定できる。そこに物語としての設定はない。狩り場でゾンビアタックされても困るから、ゲーム的に都市の中だけに制限されている形だ。

 例外として牢屋の中など、通常は立ち入れない場所や、クエストで何かしらのイベントが発生する場所は、都市の中であってもセーブポイントには指定できない。

 そしてカルガモは、セーブポイントとは何かを考えた。


「安全な場所。これが最低条件じゃろう。

 またゲーム内ではシステムメニューを通してセーブするが、リアルにそんなものはない。ならば辻斬りのセーブポイントは、魔術としての死に戻りを確信した時、同時に設定された場所だけに限られよう」


 ならば、その場所とは。


「自宅か、思い入れ――執着のある場所じゃろうな。

 無関係な場所、どうでもいい場所を選べるとは思えん。半ば本能に根差したものになると考えるのが自然よ。信仰と確信に基づくのが魔術である以上、重要な場所であるべきじゃろう」


 それらを前提条件として、カルガモは死に戻り対策を披露する。


「セーブポイントの破壊。これが確実な手段じゃろう。

 戻るべき場所が失われてしまえば、恐らく復活はできん。単に安全性を失わせるだけでも、封じることはできるかもしれん。その場合は誰かが踏み込み、セーブポイントに敵がいる状態を作ればいいじゃろう。もっともそれが通用するとは限らん以上、火でも放っておくのが正解じゃな」


 ――以上がカルガモの考えた、死に戻り対策の結論である。

 これを実行するには、辻斬りが誰なのかを特定しなければならない。だがついに容疑者が浮かび上がり、朝陽に頼んだ裏付けは推測を確信へと変化させた。


 ……そいつはどこにでもいる、剣道の好きな少年だった。

 才能に恵まれたわけではない。体格も、まあ恵まれた方ではないだろう。

 それでも剣道が好きで、ずっと打ち込み続けてきた。もっと上手くなりたい、もっと続けたいと、微笑ましいぐらい真っ直ぐに剣道と向き合っていた。

 転機が訪れたのは高校への進学だ。

 そいつは叶うことなら、剣道の名門や強豪の私学に通いたいと思っていた。

 しかし親も教師も、才能がないんだからやめておけと、そりゃあもうばっさり切り捨てた。

 彼らの判断は別に間違っていない。そいつは剣道が好きなだけで、結果を出せていなかった。単純な才能の話をするなら、むしろ乏しいとさえ言えるだろう。

 そんな少年が私学へ行っても不幸になるだけだ。切り捨てたのは無理解からではなく、善意からであったと言ってしまってもいい。

 だがその善意は、彼を絶望させるのに充分だったのかもしれない。

 お前には大好きな剣道を続ける資格がないと、そう言われたように感じたのかもしれない。

 それでも彼には、剣道をやめるという選択肢はなかった。

 かつての情熱を失いながら、進学した公立校で惰性のように続ける毎日。

 そんなぬるま湯のような日々が、いつしか彼の支えになっていた。

 望んだものとは違うけれど、これはこれで悪くない。

 失ったものを取り戻すことはできなかったが、愛しく思えるようになった。

 ……そこで終わっていれば、これはありふれた青春の一幕で片付いただろう。

 だが、そうはならなかった。

 絶望を味わってしまった彼は、また絶望することを酷く恐れた。

 愛せるようになった場所を失わせまいと、妄執を抱えることになる。

 ……彼を凶行へ走らせたのはそれだ。

 彼にとって高校の剣道部は、ただ剣道を続けられればいい場所ではなくなっていた。

 部員などの環境も含めて、失いたくないものにすり替わってしまったのだ。

 だがどんなに失いたくないと願っても、時計の針は止まらない。三年生は引退し、部活には顔を出さなくなってしまう。

 それだけならまだ、仕方のないことだと受け入れられたのかもしれない。

 しかし困ったことに、撃剣興行なんぞに精を出す先輩が二人もいる。

 いなくてはならない人達が、剣道部から離れていってしまう。

 ――彼らを引き止めるために、辻斬りは生まれた。

 表では説得を続け、裏では撃剣興行を潰そうとした。

 元から知っていたことと、朝陽の調べたことに推測を加えれば、動機はこんなところ。

 何のことはない。

 青春拗らせた馬鹿がいて、俺がそいつの地雷を踏み抜いてしまっただけの話だ。


     ○


 時刻は夜の八時過ぎ。ただでさえ夏休みで人の少ない学校は、部活も終わって無人になっていた。

 施錠された体育館には闇だけがあり――不意に、闇が凝り固まって人の形を取った。

 浮かび上がる影法師。手にはいつものように、刀を携えている。

 そいつは眠気を振り払うように頭を振り、――点灯する照明に目を眩ませた。


「――――!?」


 影法師、否、辻斬りは突然の光に顔を跳ね上げる。

 セーブポイントという絶対の聖域。誰よりも熟知している筈の場所で起きた想定外は、奴を混乱させる。

 外では目元を隠していた帽子も今はなく、その素顔を白日の下に曝け出した。

 見知った風貌とは僅かに違うのは、その姿が生来の肉体ではないからだろう。

 その体はゲオルギウス・オンラインのアバターそのままだ。

 可能性として想定はしていたが、やはりこうして目の当たりにすると驚かされる。死に戻りやレベルアップを魔術化した以上、それに適した体へなるのは当然ではあるが。

 照明の眩しさに目を細めるそいつは、ようやくそれが誰の仕業かを考え、体育館の入り口横――照明を操作するパネルのある場所を見た。


「よう、辻斬り。こうも明るいと、雰囲気が出ねぇよな」


 そう語りかける俺を、河瀬君は――いや、辻斬りは愕然とした顔で見た。

 うだるような熱帯夜。けれどその姿は、極寒の中にいるかのように震えていた。


「部室と迷ったんだが、まあ、やっぱりここがセーブポイントだよな。

 あっちは男女で分かれてるし、こっちの方が象徴的だ」


「……どうして」


「あ? 調べまくって突き止めたに決まってんだろ。

 どのぐらい理解してるか知らねぇけど、魔術に関してもこっちが先輩だぜ。

 何せ幽霊部員だからな。色んなことに首を突っ込む時間にゃ困らねぇ」


 言いながら、俺は右手で持った鉄パイプを軽く振った。

 流石に古橋さんでも刀は用意できないとのことだったので、ホームセンターで仕入れた愛刀である。お値段驚きの二千円。持ち手には滑り止めとして、テーピングテープを巻いておいた。

 感触は悪くない。俺は鉄パイプの先端を辻斬りに向けて、


「申し開きはいらないぜ。俺はお前を終わらせに来ただけだ」


 どうしてこんなことをしたのか。

 他の方法を選ぶことはできなかったのか。

 いっそ、打ち明けることはできなかったのか。

 そんなのはもう、全て今更だ。

 想像した以上に悲しい事情があったとしても、すべきことは何も変わらない。

 彼が手を血に染めてでも欲しいと願った場所は、もう二度と戻らない。


「……全部お見通しなんスね、先輩は」


 そして。辻斬りは、今にも泣きそうな顔で苦笑した。


「なんでバレたかなぁ――本当なら、ここまで続けるつもりはなかったんスよ。

 だって普通、死人が出たら怖いって思うじゃないですか。自分も殺されかけたら、撃剣興行になんか行くのやめちゃうでしょ。でも違った。先輩は、俺が思ってた以上に()()()()()


「話の分かる気さくな先輩だったと思うんだがなぁ」


「ハ、どこが。二回目の時、俺はあれで確信したっつーか、痛感させられました。

 この人、手足の一本でも斬り落としてやんねぇと、諦めねぇって」


 軽い口調の言葉に、思わず苦笑する。

 やっぱりこいつは甘い。てんでなっちゃいない。


「手足なんざ斬って満足すんなよ。俺は息の根を止めなきゃ諦めねぇぞ」


「……マジで言ってるんだよなぁ、これ。

 ま、いいです。先輩とはこうなることも覚悟してました。

 どうせ破綻したんですから、先輩も殺して悪足掻きを続けさせてもらいますよ」


「レベルアップしただけで勝てると思うなよ。

 部活でも言ったが、そりゃあ偽りの筋肉だ」


 そうして俺は、ゆっくりと歩いて間合いを詰めて行く。

 足を止めたのは一足一刀の間合い。

 俺達が果たし合うならば、これほど適切なものはない始まりの距離。

 その間合いで、辻斬りは今更のように口を開いた。


「ところで先輩。あの子、ここにいていいんですか」


 視線が向かうのは、先程まで俺が立っていた場所。そこには俺を見守る茜の姿があった。

 どんな結末を迎えるにしろ、見届けるのが彼女の選択だ。いてもらわなきゃ困る。

 何より、


「第三者が始めの合図しなきゃ、ちと不公平だろ」


「なるほど。――ところで恋人っスか? そうだったら俺、殺意上がるんですけど」


「そういう根性してっからお前はモテねぇんだよ」


 膨れ上がる殺気。実は気にしてたのか。

 何だか締まらないなぁと思いつつも、気を引き締める。

 お喋りの時間はおしまいだ。

 俺は背中を向けたまま、茜に声をかける。


「茜、いつでもいいぞ! 合図出してくれ!」


 少しの間を置いて。

 互いの息の音だけが静寂を満たし、


「――始めッ!!」


 慣れないせいで、上擦った茜の声を合図に。

 俺と辻斬りの、最後の試合は幕を開けた。

特に仕事が忙しいというわけではなく、ゲームやってました。

新作もイベントも多すぎる……!

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