第十五話 セーブポイント
その後も辻斬りは連日連夜、勤勉さを発揮した。
唯一のお休みは俺が撃退に成功したあの日だけ。それを除けば一日一人のペースを守り、今日までで犠牲者は死者三名、重傷二名という大惨事である。
こうなっては報道も抑えてはいられない。時代遅れ――いや、時代外れな怪人の凶行は、辻斬りというセンセーショナルな字面もあってか、日本中の誰もが知るところとなった。
警察は市民から激しく突き上げられ、でも普通の事件ではないからどうしようもなく、その皺寄せは古橋さんへ。一刻も早く解決しろと、協力関係な筈なのに急かされているそうだ。
また、市内どころか近隣の都市でも、撃剣興行の野試合は行われなくなった。辻斬りの被害者は全員が撃剣興行の参加者だったのだから、よっぽどの間抜けでもなければ関連性には気付くし、警察からも強制に近い自粛を言い渡されていた。
辻斬りの目的が撃剣興行を潰すことならば、これで目論見通り。
だが現実には昨夜も辻斬りは現れ、血塗れの白星をまた一つ増やしていた。
「警察情報だけど、昨夜はどこも撃剣興行はしてなかったって。
被害者の人はここのところ毎日夜遊びしてたみたいで、撃剣興行がないならないで、友達と遊んでたって話。やっぱりこれまでと同じで、ホームはアウトロー系だってさ」
表示枠を投影して、現時点での情報のまとめを話す朝陽。まだ午前中だってのに仕事が早いと褒めるべきか、もうちょっと寝させてくれと言うべきか。
あと俺が床に座ってんのに、なんでお前はベッドに座ってんの? それ俺のベッドよ?
「古橋さんから聞いたの?」
恥知らずな朝陽とは違い、隣で床に座っている茜が確認をする。
「うん。チャットの方にいたから、聞いといたの。
不機嫌そうだったけど、忙しくてあんまり寝れてないみたい」
心配そうにちょっと表情を曇らせる朝陽。まあこいつは善性の子なので、辻斬り事件について真面目に捜査している古橋さんには、肩入れしたくなるのだろう。古橋さんと引き合わせてからというもの、助手気取りであれこれと手伝っているのがいい証拠だ。
「それで新しい被害者の人だけど、過去に警察沙汰はなし。聞き込みはこれからするけど、他の被害者と同じで悪さしてたってわけじゃないみたい。
今のところ共通点はアウトロー系のホームってぐらいで、殺されるほど恨まれるようなトラブルは誰も抱えてないね」
「アウトロー系っていうのも、必須条件じゃねぇと思うんだよな」
俺が口にした意見へ、補足するように茜が続く。
「活動時間、だよね。アスリート系の人達は日中にやるから、人目があって襲えないんだと思う。もしかしたら辻斬り自身も、日中はあんまり自由に動けないのかもしれないけど」
「うん、あたしもそう思う。で、警察の方は一応、これだけ撃剣興行に執着するなら怨恨の線だろうってことで、撃剣興行に参加して怪我させられた人や、その関係者を調べてるみたい。
でもあんまり芳しくないっていうか、この街のホーム、アウトロー系でもクリーンで、意外なほどに素行が悪くなくて逆ギレ中。ちっとも手がかりが掴めてないってさ。
だからこれ、タルさんの言ってたことが真実味を帯びてきたと言いますか、正直あたしもそうじゃないかなーって思ってるんだけど、そこんとこどうですか先輩」
「……まあな。そもそも最初の二件、俺も含めりゃ三件か。狙われたのが全員、同じホームの奴って時点で確かにきな臭い。見方を変えれば中心にいるのは誰だ、って話なわけだ」
ここ数日の事件に関して、話を聞いた姐御はこう述べていた。
一度なら不運、二度なら偶然。三度続けば必然だ、と。
辻斬りは撃剣興行全体を標的にしていたのではない。最初は俺のいる高架下ホームを標的にしていて、警戒が強まったから他のホームの奴にも手を出した。
その推測を前提として、高架下ホームに執着した理由――動機について考えた時、姐御は一つの結論に達した。
守屋幹弘は辻斬り事件に首を突っ込んだのではなく、最初から狙われていたのではないかと。
「でも……幹弘さん、狙われる心当たりってあるの?」
「それが全然」
姐御の推理には説得力があるんだが、肝心なところが駄目なんだよなぁ。
俺のような人畜無害の愛され系男子が、恨みを買うわけがないのだ。
「いや、待てよ――好き過ぎて殺したいとか、そういうタイプの変態なら可能性はあるか……?」
「ないでーす。ついでに調べたけど先輩、評判めっちゃ悪かったでーす」
「そりゃそうだろ。ファイトマネーは勝った方の総取りなんだから、強い奴ほど嫌われるさ」
俺はあんまり手を抜く方じゃないから、わざと負けて勝率を調節するってこともしないしな。
ただまあ、そんなのは嫌われるだけであって、恨まれることではない。試合で勝てないから殺すなんて、あんまりにも酷い侮辱だ。そこを曲げるような選手は、流石にいないと信じたい。
だからこういう時は、根本的な部分から見直さなければならない。
「まあ俺に限った話じゃなく、撃剣興行の選手なら警察がとっくに見つけてるだろ。人員をどのぐらい割いてるかは知らないけど、隠し通せるほど警察も無能じゃないしな。
だからこう考えよう。――辻斬りは撃剣興行にそもそも関わりがない。本来ならまったくの無関係だから、捜査線上にも浮かばない。それでいて、俺や撃剣興行を憎んでいる」
「先輩。過去に何やったか知らないけど、自首するなら今の内だよ?」
「俺は品行方正だって言ってんだろ、ぶっ殺すぞ。
聖人ってわけじゃないし、嫌ってる奴ぐらいはいると思うけど、憎まれる心当たりはマジでないからな。だからたぶん、理解できない理不尽な理由で恨まれてるんじゃねぇか」
「ふむふむ……嘘は言ってないっぽいけど、どうですか先生」
「幹弘さんは思い込みが激しいから、話半分でいいと思う。でも禍根を残すような人でもないから、理不尽な理由でいいんじゃないかな。意外と難しいから」
「難しい……?」
「うん。幹弘さん、嫌われたら離れる人だから。無理に仲良くしようって思わないし、適切な距離を保てばいいって思う人でしょ? そういう人を恨むのって難しいよ。
人間関係は摩擦だから。触れ合える距離じゃなかったら、関係は変わらないし、発展しないよ」
「ほ、ほほう、摩擦とな。スキンシップってわけですな、なるほどなるほど」
たぶん分かってない顔でしきりに頷く朝陽。ちょっと顔が赤いのは、自分で言ったスキンシップってワードから連想して、何かエロいことでも考えたのだろう。この耳年増め。
一方、茜は親友の無理解にツッコミを入れることなく、話を変える。
「私もちょっと疑問なんだけど……辻斬りは、どうして幹弘さんを殺さないのかな」
「殺す気ではあるだろ? 返り討ちにあってるだけで」
「そうじゃなくて。……その、殺そうと思えば殺せるでしょ? どこの誰かは分かってるんだから、手段を選ばなかったらいい。家に押し込んでもいいし、寝てる時に放火してもいい。もっと単純に、死に戻りができるんだから、殺せるまで延々と休まずに挑んだっていい。
そうしないのは殺せない理由があるか、殺す手段に拘りがあるかだと思うんだけど」
「――む」
言われてみれば、確かに道理だ。
俺は別に超人ってわけじゃないし、手段を選ばなければ殺すことはそこまで難しくない。極端な話、丸一日ずっと襲われるだけで、俺は呆気なく殺されるだろう。
だが辻斬りには、手段に拘るような印象はない。
何よりもあの、粘つくような憎悪――あれは余裕なんてない、追い詰められた者の感情だ。
そんな奴は手段を選ばない。選ぶとすれば、絶対にしてはいけないことを避けるため。
だとすれば。殺せない理由があるというのは、筋が通る。
「……けど、分かんねぇな。殺したくないのに襲うって、どういうこった。
第一、それじゃあどうして他の奴は殺したのかって話になる」
「んー。先輩をじわじわ追い詰めて、絶望させるためとか。
殺したいけど殺す価値もないから、絶望させて自殺させるのだ、みたいな」
「最低の発想をありがとう。お前にだけは恨まれたくねぇわ」
「わりと真面目に考えて話してるんですけどー!?
だってこんなの、先輩の行き場をなくすぐらいの意味しかないし!」
「――――朝陽」
お前、その発想を先に言えよ。
思わず真顔になった俺を見て怯む朝陽だが、怒ってない怒ってないとアピールして、
「行き場をなくすって、撃剣興行を潰すってことだよな」
「あ、うん。だって殺されないなら、先輩の実害ってそれでしょ?
被害者の人、先輩の知らない人も混じってたし。特に選んだわけじゃないなら、そういうことになるのかなー、って」
……推測がパズルのピースを埋めていく。
俺の行き場をなくすこと――それもきっと、手段でしかない。だがそんなことをして果たせる目的が、一体どれほどある。何をどう思い詰めれば、そこまで追い詰められる。
理解に苦しむ動機。
けれど理解できてしまう動機。
それが見えた時、そんなふざけた動機の持ち主は一人しか思い浮かばなかった。
「――チ。結局、のーみんが大正解か」
「? 幹弘さん、のーみんに何か言われてたの?」
「いや、奈苗からの伝聞なんだけど」
俺は事件を解決するのではなく、終わらせるんだとさ、と吐き捨てる。
まったくもって大正解。事件が起こってしまった時から、もう解決は望めない。
俺にできるのは、ただ終わらせることだけなのだ。
「――ともあれ、犯人はたぶん分かった。
朝陽、裏付けよろしく。俺が動いたらバレそうだし、お前なら古橋さんや警察とも連携できるだろ。俺は買い出しに行くから、茜はそっちに付き合ってくれ。カルガモの作戦でいく」
「うぃっす、了解。……けど先輩、分かったってことはその、辻斬りって」
「気にすんな。そこ突つくと、どう転がっても愉快な話にゃならねぇぞ」
正直な話、誰かに任せられるなら任せたい。
だけどこの重荷は、俺しか背負っちゃいけないものだ。
それなら腹を決めて、どんな傷でも抱えてやるしかないだろう。
俺は犯人とその動機についての推測を二人に話し、行動へ移ることにした。
……話をしている間、茜はそっと俺の手を握っていた。
押し潰されそうな体には、その支えが何よりもありがたいものだった。
○
「死に戻りがシステムである以上、絶対に必要な条件がある。
死んでもそこで復活できるという場所――セーブポイントの存在じゃ」
死に戻りへの対策として、カルガモはそれを挙げた。
ゲオルギウス・オンラインにおいて、セーブポイントは都市の中でなら自由に設定できる。そこに物語としての設定はない。狩り場でゾンビアタックされても困るから、ゲーム的に都市の中だけに制限されている形だ。
例外として牢屋の中など、通常は立ち入れない場所や、クエストで何かしらのイベントが発生する場所は、都市の中であってもセーブポイントには指定できない。
そしてカルガモは、セーブポイントとは何かを考えた。
「安全な場所。これが最低条件じゃろう。
またゲーム内ではシステムメニューを通してセーブするが、リアルにそんなものはない。ならば辻斬りのセーブポイントは、魔術としての死に戻りを確信した時、同時に設定された場所だけに限られよう」
ならば、その場所とは。
「自宅か、思い入れ――執着のある場所じゃろうな。
無関係な場所、どうでもいい場所を選べるとは思えん。半ば本能に根差したものになると考えるのが自然よ。信仰と確信に基づくのが魔術である以上、重要な場所であるべきじゃろう」
それらを前提条件として、カルガモは死に戻り対策を披露する。
「セーブポイントの破壊。これが確実な手段じゃろう。
戻るべき場所が失われてしまえば、恐らく復活はできん。単に安全性を失わせるだけでも、封じることはできるかもしれん。その場合は誰かが踏み込み、セーブポイントに敵がいる状態を作ればいいじゃろう。もっともそれが通用するとは限らん以上、火でも放っておくのが正解じゃな」
――以上がカルガモの考えた、死に戻り対策の結論である。
これを実行するには、辻斬りが誰なのかを特定しなければならない。だがついに容疑者が浮かび上がり、朝陽に頼んだ裏付けは推測を確信へと変化させた。
……そいつはどこにでもいる、剣道の好きな少年だった。
才能に恵まれたわけではない。体格も、まあ恵まれた方ではないだろう。
それでも剣道が好きで、ずっと打ち込み続けてきた。もっと上手くなりたい、もっと続けたいと、微笑ましいぐらい真っ直ぐに剣道と向き合っていた。
転機が訪れたのは高校への進学だ。
そいつは叶うことなら、剣道の名門や強豪の私学に通いたいと思っていた。
しかし親も教師も、才能がないんだからやめておけと、そりゃあもうばっさり切り捨てた。
彼らの判断は別に間違っていない。そいつは剣道が好きなだけで、結果を出せていなかった。単純な才能の話をするなら、むしろ乏しいとさえ言えるだろう。
そんな少年が私学へ行っても不幸になるだけだ。切り捨てたのは無理解からではなく、善意からであったと言ってしまってもいい。
だがその善意は、彼を絶望させるのに充分だったのかもしれない。
お前には大好きな剣道を続ける資格がないと、そう言われたように感じたのかもしれない。
それでも彼には、剣道をやめるという選択肢はなかった。
かつての情熱を失いながら、進学した公立校で惰性のように続ける毎日。
そんなぬるま湯のような日々が、いつしか彼の支えになっていた。
望んだものとは違うけれど、これはこれで悪くない。
失ったものを取り戻すことはできなかったが、愛しく思えるようになった。
……そこで終わっていれば、これはありふれた青春の一幕で片付いただろう。
だが、そうはならなかった。
絶望を味わってしまった彼は、また絶望することを酷く恐れた。
愛せるようになった場所を失わせまいと、妄執を抱えることになる。
……彼を凶行へ走らせたのはそれだ。
彼にとって高校の剣道部は、ただ剣道を続けられればいい場所ではなくなっていた。
部員などの環境も含めて、失いたくないものにすり替わってしまったのだ。
だがどんなに失いたくないと願っても、時計の針は止まらない。三年生は引退し、部活には顔を出さなくなってしまう。
それだけならまだ、仕方のないことだと受け入れられたのかもしれない。
しかし困ったことに、撃剣興行なんぞに精を出す先輩が二人もいる。
いなくてはならない人達が、剣道部から離れていってしまう。
――彼らを引き止めるために、辻斬りは生まれた。
表では説得を続け、裏では撃剣興行を潰そうとした。
元から知っていたことと、朝陽の調べたことに推測を加えれば、動機はこんなところ。
何のことはない。
青春拗らせた馬鹿がいて、俺がそいつの地雷を踏み抜いてしまっただけの話だ。
○
時刻は夜の八時過ぎ。ただでさえ夏休みで人の少ない学校は、部活も終わって無人になっていた。
施錠された体育館には闇だけがあり――不意に、闇が凝り固まって人の形を取った。
浮かび上がる影法師。手にはいつものように、刀を携えている。
そいつは眠気を振り払うように頭を振り、――点灯する照明に目を眩ませた。
「――――!?」
影法師、否、辻斬りは突然の光に顔を跳ね上げる。
セーブポイントという絶対の聖域。誰よりも熟知している筈の場所で起きた想定外は、奴を混乱させる。
外では目元を隠していた帽子も今はなく、その素顔を白日の下に曝け出した。
見知った風貌とは僅かに違うのは、その姿が生来の肉体ではないからだろう。
その体はゲオルギウス・オンラインのアバターそのままだ。
可能性として想定はしていたが、やはりこうして目の当たりにすると驚かされる。死に戻りやレベルアップを魔術化した以上、それに適した体へなるのは当然ではあるが。
照明の眩しさに目を細めるそいつは、ようやくそれが誰の仕業かを考え、体育館の入り口横――照明を操作するパネルのある場所を見た。
「よう、辻斬り。こうも明るいと、雰囲気が出ねぇよな」
そう語りかける俺を、河瀬君は――いや、辻斬りは愕然とした顔で見た。
うだるような熱帯夜。けれどその姿は、極寒の中にいるかのように震えていた。
「部室と迷ったんだが、まあ、やっぱりここがセーブポイントだよな。
あっちは男女で分かれてるし、こっちの方が象徴的だ」
「……どうして」
「あ? 調べまくって突き止めたに決まってんだろ。
どのぐらい理解してるか知らねぇけど、魔術に関してもこっちが先輩だぜ。
何せ幽霊部員だからな。色んなことに首を突っ込む時間にゃ困らねぇ」
言いながら、俺は右手で持った鉄パイプを軽く振った。
流石に古橋さんでも刀は用意できないとのことだったので、ホームセンターで仕入れた愛刀である。お値段驚きの二千円。持ち手には滑り止めとして、テーピングテープを巻いておいた。
感触は悪くない。俺は鉄パイプの先端を辻斬りに向けて、
「申し開きはいらないぜ。俺はお前を終わらせに来ただけだ」
どうしてこんなことをしたのか。
他の方法を選ぶことはできなかったのか。
いっそ、打ち明けることはできなかったのか。
そんなのはもう、全て今更だ。
想像した以上に悲しい事情があったとしても、すべきことは何も変わらない。
彼が手を血に染めてでも欲しいと願った場所は、もう二度と戻らない。
「……全部お見通しなんスね、先輩は」
そして。辻斬りは、今にも泣きそうな顔で苦笑した。
「なんでバレたかなぁ――本当なら、ここまで続けるつもりはなかったんスよ。
だって普通、死人が出たら怖いって思うじゃないですか。自分も殺されかけたら、撃剣興行になんか行くのやめちゃうでしょ。でも違った。先輩は、俺が思ってた以上にイカレてた」
「話の分かる気さくな先輩だったと思うんだがなぁ」
「ハ、どこが。二回目の時、俺はあれで確信したっつーか、痛感させられました。
この人、手足の一本でも斬り落としてやんねぇと、諦めねぇって」
軽い口調の言葉に、思わず苦笑する。
やっぱりこいつは甘い。てんでなっちゃいない。
「手足なんざ斬って満足すんなよ。俺は息の根を止めなきゃ諦めねぇぞ」
「……マジで言ってるんだよなぁ、これ。
ま、いいです。先輩とはこうなることも覚悟してました。
どうせ破綻したんですから、先輩も殺して悪足掻きを続けさせてもらいますよ」
「レベルアップしただけで勝てると思うなよ。
部活でも言ったが、そりゃあ偽りの筋肉だ」
そうして俺は、ゆっくりと歩いて間合いを詰めて行く。
足を止めたのは一足一刀の間合い。
俺達が果たし合うならば、これほど適切なものはない始まりの距離。
その間合いで、辻斬りは今更のように口を開いた。
「ところで先輩。あの子、ここにいていいんですか」
視線が向かうのは、先程まで俺が立っていた場所。そこには俺を見守る茜の姿があった。
どんな結末を迎えるにしろ、見届けるのが彼女の選択だ。いてもらわなきゃ困る。
何より、
「第三者が始めの合図しなきゃ、ちと不公平だろ」
「なるほど。――ところで恋人っスか? そうだったら俺、殺意上がるんですけど」
「そういう根性してっからお前はモテねぇんだよ」
膨れ上がる殺気。実は気にしてたのか。
何だか締まらないなぁと思いつつも、気を引き締める。
お喋りの時間はおしまいだ。
俺は背中を向けたまま、茜に声をかける。
「茜、いつでもいいぞ! 合図出してくれ!」
少しの間を置いて。
互いの息の音だけが静寂を満たし、
「――始めッ!!」
慣れないせいで、上擦った茜の声を合図に。
俺と辻斬りの、最後の試合は幕を開けた。
特に仕事が忙しいというわけではなく、ゲームやってました。
新作もイベントも多すぎる……!




