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竜と信仰の奇譚  作者: 長月十九
第四章 兵どもが夢の跡
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第十話 決戦! カルキノス!


 ポタ屋に運んでもらい、俺達はダルカーディン湿地に到着した。

 湿地と言えば、日本では雨竜沼湿原や尾瀬ヶ原が有名だろうか。分類的にはダルカーディン湿地も湿原だが、それらよりも水気が多いというか、陰鬱な雰囲気の場所だ。

 冠水している場所が多い上、どこの地面も水を含んでぬかるんでいる。歩けば足は沈み、冠水していない場所でも水が滲み出して水溜りのようになってしまう。さらには雑草や水草、水苔などが繁茂しているため、放置した夏場の用水路のような有様だ。

 また湿地を形成する原因なのだろう、網目のように川が流れており、見た目以上に複雑な地形となっている。川を渡るなら泳げないわけではないが、モンスターの襲撃を考えれば歩いて渡れる場所を探すべきだ。

 こんな環境へ立派に適応したマングローブに似た木も多く、あちこちで林を形成している。これが壁のようになっているため、ダルカーディン湿地はさながら天然の迷宮だ。


「ここはまず、到着してすぐに帰りたくなるのがいかんのぅ」


 足元をじゃぶじゃぶズブズブさせて、カルガモがぼやいた。

 まあね。俺らブーツ履いてるからマシだけど、不快であることは確かだし。戦闘中も足が滑ることを考えて、踏み込みが甘くなりがちなんだよな。こればっかりはカルガモでも変わらない。


「軟弱なことを言ってー。本物のカモなら、こんなの苦にしませんよ」


 と、俺の肩の上で偉そうにほざく姐御。大地に立て。

 しかしその点を指摘するのは野暮と思ったか、カルガモは苦笑を浮かべて、


「どうじゃろうなぁ。日本のカルガモは遺伝子汚染が深刻じゃし」


「え? お前、絶滅すんの? やったぁ!」


「日本のカルガモじゃと言っておろうが!

 まったく。知らんならちと聞け、知っておいて損はなかろう」


 同類意識でもあるのか、カルガモはカルガモについて語り出す。字面がややこしくて仕方ない。

 で、カルガモによれば、日本のカルガモは都市部でも見られるが、それらの多くはアヒルやアイガモとの交雑が進んでいるんだとか。自然保護や環境保護を謳うなら、遺伝子の保護にも意識を向けるべきではないかとお嘆きである。


「なるほどなぁ。ところでカルガモって食えるの?」


「何を食っておるかにもよるが、植物系の餌で育ったカルガモは美味いぞ」


「それは保護しなきゃいけねぇな……」


「うむ。美味いものは後世に残さねばならん。

 ドードー鳥やリョコウバトの悲劇は、繰り返してはならんのじゃ」


「……二人とも、消費しか考えてないような?」


 クラレットが不思議そうに疑問を口にするが、保護ってそういうもんだよ。消費するために保護をする。実に健全な考えじゃないか。あれだよ、植林みたいなもの。


「まあ絶滅動物とか、どんな味だったのか気になることもありますしねー」


「ちょっとしたロマンだよな」


 俺も叶うことなら、本物の恐竜を食べてみたい。

 やっぱ鳥肉に近いのかなー。意外と魚寄りって可能性もあるけど。

 そんな雑談をしつつ、狩りの時は流石に邪魔だからと姐御には肩から下りてもらう。ご不満な顔をしていたので、埋め合わせを考えておこう。帰ったら座椅子になればいいだろうか。

 そうして俺達は、カルキノスの姿を求めて湿地の探索を開始した。

 地面には背の高い草も多く、見通しは悪い。奇襲されてもいいようにと、俺が前に出て、最後尾をカルガモが守る形でじゃぶじゃぶと歩いていく。

 見通しが悪いと言っても、カルキノスほどの巨体なら遠くからでも分かるので、壁のようになっている林を回り込むようにして、あちこちを見て回るのが基本ルートだ。

 だがのんびりと歩いていられるほど安全な場所でもない。

 最初の戦闘は、川から飛び出してきた人型のカエル――ヴォジャノーイとのものだった。

 カエルとは言うが背筋は伸びているし、顔も人面に近いせいで、ナマズ顔をした緑色の亜人とでも形容した方がいいかもしれない。分類的にはたしか妖精系のモンスターだった筈だが。

 ヴォジャノーイは川へ引きずり落とそうとするので、掴まれないように注意しながら迎撃する。下手に距離を取ると、水属性の魔法――ウォーターボールで攻撃してくるため、襲撃を受けたその場で戦うのが正解だ。

 初見殺し的な性質をしているせいか、ステータス的にはあまり怖いものではない。数が多くなければ、前衛の攻撃だけで倒してしまってもいいだろう。

 実際、俺の大斧による攻撃であれば、スキルを乗せずとも三、四回ほどで倒せる。

 だが真に注意すべきは、戦闘音だか血の臭いだかに反応して、このフィールドにおける最強の敵が現れるということ。

 俺達は手早くヴォジャノーイを始末したつもりだったが、それでも遅かったのか、それとも元から近くにいたのか、大きな人影が迫ってくるのに気付いた。


「っ、グレンデルだ! 気をつけろ!」


 グレンデル――それは大きな体躯を持つ、毛の薄い猿人とでも言うべきモンスターだ。

 手には黄金の柄が輝く大剣を持ち、軽々と振り回す。凶暴な見た目や性格とは裏腹に、豪快ながらも流麗な剣技を操る難敵である。装備やスキルに頼って防御の技術を疎かにしていれば、タンクであっても膾切りにされてしまうのがオチだ。

 俺は大斧を盾にして攻撃を受け止め、隙を見てカルガモが牽制の攻撃を入れる。こいつを前衛が倒そうだなんて欲張っちゃいけない。やるべきことは足止めだ。

 湿地のモンスターでありながら、こいつは地属性で――火属性にとても弱い。


「――フレイムランス!」


 詠唱を終えたクラレットの魔法が放たれる。

 大きな炎の槍が二本、宙を飛んでグレンデルを串刺しにする。二本なのはフレイムランスの前に、次に使用する魔法を倍化するスキル、二重詠唱を使用していたからだ。

 タフなグレンデルもこれには耐えられず、崩れ落ちて消滅する。後にはアイテムキューブが残されるが、中身は毛皮の腰巻き。防具でも素材でもなく、売り払うしかないゴミだ。


「まーたハズレか。ヨツンの剣、欲しいんだけどなぁ」


 グレンデルが持っていたあの大剣は、ヨツンの剣という名でドロップする。これといった特殊効果があるわけではないが、攻撃力が高く、ジェムを装着できるスロットが二つあるため、金のある前衛の汎用武器として人気がある。

 いやまあ、俺が持っても宝の持ち腐れ感はあるけど、金は最悪、借りればいいし。


「ガウス君は相変わらず、ドロップ運悪いですよねー。

 やっぱり日頃の行いが悪いからですよ、きっと」


 消耗した前衛にヒールしつつ、小馬鹿にしたように姐御は言う。


「ガウス君とカモさん抜きで狩りに行くと、レアもそこそこ出ますからねぇ」


「おうおう、それじゃと俺まで徳が足りておらんように聞こえるが?」


「お金になるからって、こっそり暗殺クエストやってるの、知ってますからね」


 ああ。何故かソロで出かけてること多いと思ってたけど、そんなことやってたのか。

 だが犯罪行為を暴露されたカルガモは、平然とした顔で受け流す。


「ジョブが暗殺者である以上、多少はこなしておくのも当然じゃろう?

 レベルキャップのこともあるし、どこに何の手がかりがあっても不思議ではないからの。

 それに俺も、ちゃんと暗殺対象は選んでおる。悪党以外は殺さんようにしておるから、むしろ義賊と呼ぶ方が相応しかろう。正義の味方とまでは言えんが、これも必要悪というわけじゃな」


 翻訳すると、金を溜め込んでる悪党を暗殺して、盗品と報酬で二重に美味しいです、ってところか。わざわざ指摘するまでもなく、その真意は姐御にもクラレットにもバレバレである。

 順調に外道の道を歩むカルガモだが、まあ放置でいいや。いつかしっぺ返しを受けた時、満を持してツバメにチクってやろう。俺や姐御なら笑い者にしまくるだけだが、あいつなら真面目に怒るし、汚れた大人にはそういう真っ直ぐなやつが堪えるのだ。

 しかし不穏な空気を察したのか、何も言っていないのにカルガモは頭を下げた。


「……いくらか分け前を渡すから、ツバメには内緒で頼む」


「私思うんですけど、誠意ってお安くないですよね?」


「銭ゲバ……!」


「生かさず殺さずなんて甘いんですよ! 死ぬ前に絞れるだけ絞るのがビジネスです!」


 汚い大人達の口論を、俺とクラレットは苦笑して見守る。


「ああはなりたくないよなぁ」


「そうだね。……え?」


「え?」


 なんで不思議そうにしたのクラレット? あと目を逸らすのは何故?

 お、俺は今でも教会への寄付を欠かさず行う善人だというのに……! まあ欠かすと歩いてるだけで衛兵に襲われるんだよな。俺だけやってるゲーム違うんじゃねぇの?

 ともあれ、時にこんな感じで適度にギスりつつ、俺達は湿地の探索を続けた。

 注意すべきモンスターはヴォジャノーイとグレンデルぐらいなもので、他は油断し過ぎなければどうということもない。たまに素材の採取が目当てらしいソロのプレイヤーを見かける程度で、平和なものだ。

 探索の開始から四十分ほど過ぎた頃だろうか。もう少し粘ってカルキノスを見つけられなかったら、帰ろうかという話をしていた時、足の裏で地面の振動を感じ取った。

 気のせいかと皆の顔を見るが、同じような反応をしているのだから気のせいではない。


「近くにいるな」


 それも水中ではなく、陸に上がっているらしい。

 見える範囲に姿はなかったので、林の向こうだろうかと見当をつけて移動する。他のPTを見かけていないので独占できると思うが、回復薬を連打して散財する覚悟があれば、ソロでも倒せないことはない。早く見つけなければと、俺達は焦燥感に駆られていた。

 そして――すぐに見つかった。

 八本脚に一対の巨大なハサミ。淡い朱色の甲殻は苔生し、象を上回る巨体もあって大岩が動いているかのごとき威容。ダルカーディン湿地のフィールドボス、カルキノスだ。

 奴は縄張りを見回っている最中なのか、悠然と闊歩している。

 一撃必殺と言っても差し支えない威力を誇るハサミだが、あれはそう怖くない。関節が柔軟ではなく、位置取りさえ間違えなければ安全地帯があるのだ。

 メインの攻撃手段は水属性と地属性の魔法で、詠唱時間が短いのか、連射されるそれには注意が必要だ。

 しかし最も恐ろしいのは、口から吐き出される泡だ。巨体の内部で高圧をかけているのか、吐き出されるそれはさながら散弾銃。しかも何故か魔法扱いなので、前衛にはクソ痛い。マジ痛い。

 ボスだけあってHPも多く、デバフへの耐性も高い。正面から戦えば苦戦必至の難敵だ。


「……行くぜ。準備はいいか?」


 俺は一度だけ振り返り、それぞれが頷くのを確認する。

 いい顔だ。それじゃあカルキノスに決戦を挑むとしようか―――!


     ○


「いやー、カルキノスは強敵でしたねー」


 数分後。特にダメージを負うこともなく、カルキノスの討伐に成功した。

 姐御がほくほく顔なのは、珍しく一応レア装備がドロップしたからだろう。水耐性を持つ盾だが防御力そのものは微妙なところで、スピカのサブ盾にするか、売り払うのが妥当なところか。

 ……いやまあ、強敵だったなんてのは皮肉もいいところだ。

 カルキノスは確かに正面から戦えば苦戦するが、あいつ、正面にしか攻撃できないわけで。前衛が左右から挟み込むように陣取り、脚を攻撃すれば比較的安全。さらにクラレットの火属性魔法――爆発を伴うもので足場を崩してやると、面白いように体勢を崩すのだ。

 ソロだと強敵だが、PTだと難易度がめっちゃ下がる。そういうところも美味いボスなのだ、カルキノスは。


「収穫は盾だけかー。鎧が出たら欲しかったんだけどな」


「おぬしはHPそれなりにあるじゃろ。俺を優先すべきだとは思わんか」


「いや、まったく」


 カルキノスの鎧は軽くて低防御力。しかし魔法防御がやたら高いので、対魔法用に是非とも欲しい。物理攻撃は立ち回りでどうにかなるものも多いが、魔法は範囲攻撃だとかの避けられないものがあるし。

 よって、仮にドロップしたとしても、カルガモとの争奪戦は避けて通れない。いっそ戦闘中に消しておくべきだったか……? 足が滑ったと言えば、脳天に斧を叩き込んでも平気だろう。次からはそうしよう。

 ――などと決意していたら、急激な目眩と悪寒。何だこれと思ったら、視界の端に毒状態のアイコンが点灯。面白いように減り始めるHP。あ、これ毒じゃねぇわ。猛毒だわ。

 まさか、と思ってカルガモを見れば、奴はニヤリと笑った。


「甘いのぅ、ガウス。次があるなどと思うから、そういうことになるんじゃよ」


「くっ……正論だ……!」


 殺気を感じ取り、カルガモは俺の暗殺に踏み切ったのだ。一切の慈悲も迷いもなく、雑草を摘むような軽やかさで、いずれ殺し合うならばと今殺すことを選んだ。

 もしもこれがゲームではなくリアルだったら、復讐の機会も与えられない。俺の腑抜けた甘さが、この末路を招いたのだ。悔しいと思う反面、あまりにも当然だと納得させられる。


「一つ勉強になったぜ……俺達に、明日はないんだな」


「うむ。今一度気を引き締め、甘さを捨てよ。

 我らが歩む剣の道は修羅の道。迷わぬだけでは足り――あふんっ」


 喘ぐような悲鳴を上げて蹲るカルガモ。あ、これ姐御の一点集中ヒールだ。

 ギギギ、と首を回してみれば、腰に手を当ててお怒りの姐御が目に入った。


「もぅ! ちょっと目を離したらこれですか!

 お二人は仲間割れせずに狩りを終えられないんですかー?」


「所詮、この世は修羅の(ちまた)だからな」


 カッコつけて言ったら、解毒ついでに俺まで一点集中ヒールを飛ばされた。下腹部が気持ち悪い。横になってしまいたいが、湿地で寝転がるのはちょっと。

 俺はふらふらと歩き、クラレットの肩を借りて立たせてもらう。


「地獄に仏とはこのことか……」


「違うから。仏様だったら怒ってるよ、たぶん」


 つまりクラレットは仏よりも慈悲深い……なんてこった。この世は修羅の巷と言ったが、こんな世界にも女神はいたのだ。崇め奉り、もっとこの信仰を広めなければ。

 感動にぷるぷると打ち震える俺。しかしその様子に不穏なものを感じたのか、クラレットは頬をつねる。痛い。


「私も怒らないわけじゃないから、あんまり馬鹿しないこと。いい?」


「はい。でも今回、主犯はあっちの害鳥だと思います」


 それもそうかと頷いたクラレットは、ファイアーボルトをカルガモに向かって撃とうとして、でも追撃はオーバーキルかなと思い直したらしく、明後日の方向に炎の矢を飛ばしていた。

 女神と崇めたばかりだけど、処刑人としても手慣れた風格を感じる。ちくしょう、優しいこの子がどうしてこんなことに! 主に俺とカルガモのせいだけど!

 ――と、直感が反応する。

 反応した地点に目を向ければ、何かが――いや、矢が飛んでくるのが見えた。

 この体勢で、しかも大斧で切り払うのは無理か。仕方なく大斧を盾にして受け止めるが、衝撃は思ったよりも弱い。……違うな。基準が緑葉さんになってるから、これが普通か。

 矢が弾かれるのと同時に、草むらに姿を隠していたらしい集団が現れた。


「いい反応すんじゃねぇか! だがまぐれは続かねぇぜ!?」


 人数は四人。伏兵は……まあ考えなくていいか。

 威勢のいいことを言うのは、先頭に立つ長弓を持った男だ。


「素直に金と装備を寄越すか、殺されて経験値になるかぐらいは選ばせてやるよ!

 そっちは前衛が瀕死なんだ、勝ち目がねぇってことは分かるよな!?」


 …………あ。姐御の一点集中ヒールで気持ち悪くなってるのを、瀕死だと勘違いしてるのか。

 つーことはこいつら、カルキノスとの戦闘は遠くから見てたって感じかな。ダメージを受けたかどうか確認できていないから、そんな勘違いをしているんだろう。

 で、俺とカルガモがふらふらになってるもんだから、チャンスと思って仕掛けたと。

 なるほどなぁ。納得しつつ、俺は姐御に指示を仰いでみる。


「どうするよ、姐御」


「ガウス君、カモさん、やっちゃいなさい」


 まあPK相手に容赦はいらないよね!

 指示と同時、俺とカルガモは元気百倍で突撃した。


「「フィーヒヒヒ!!」」


「ひっ……!? な、なんだこいつら!?」


 喜びの笑みを洩らす俺達に怯えるPK集団。狩られる側に回るのは初めてかい? 緊張しないで肩の力抜けよ、すぐ楽にしてやるから。

 いや、だって何が嬉しいって、


「いい武器持ってんなお前! それくれよ!」


「選り好みはせんぞ! 全部落とせ!」


 PK相手なら合法的に財産奪えるもんな! ボーナスゲームの始まりだぜ!!

 俺は短距離ダッシュのスキル、スプリントを発動。足場の悪さを物ともせずに疾走し、速度を攻撃力に上乗せするアサルトも使用して、全力で武器を叩きつけるスキル、デッドエンドを放つ。


「ごっ――!?」


 はい、お一人様黄泉にご案内! デッドエンドは大型モンスター相手に特攻の入るスキルだが、そもそも普通に倍率が高い。俺自身の攻撃力もあって、直撃したらタンクじゃないと耐えられないぜ。

 俺が一人始末している横で、カルガモもPKの一人の胸に短剣を突き立てていた。心臓狙いの暗殺者スキル、ピアシングハートか。正確に当てる必要があるので難しいが、当たれば防御無視の凶悪スキルだ。ただしその特性上、金属鎧とかには弾かれる悲しいスキルでもあるが。


「ちょ、おま、お前ら何だよ!?」


 あっという間に仲間が二人倒されて、最初の長弓を持っていた男が狂乱の叫びを上げる。

 そして残るもう一人の男の顔には、より明確な恐怖の色があった。


「な、名前……名前見ろ! 星クズとカルガモだ!!」


「誰がクズだ!」


 条件反射で大斧を叩き込む。スキルは使ってないので大丈夫、死なない死なない。

 でも吹っ飛んでしまったので、ダッシュで追いついて乱打を叩き込む。


「俺は! 流星の! ガウスだ! 覚えたか!? 覚えたよな!?

 よーしいいぞ、俺の名前を言ってみろ!」


「ク……ズ……」


 ムカついたので力を込めて大斧を振り下ろしたら、死んでしまった。

 ああ、どうして……まだ殺したくはなかったのに……命とは、どうしてこんなにも脆いのか。

 悲しんでいると、カルガモは弓男をサクっと短剣で切って、瀕死に追い込んでいた。


「ファファファファ! 選ばせてやろう!

 素直に金と装備を寄越すか、殺されて何もかもを奪われるか!」


「どっちも変わらねぇよ!!」


 ツッコミを入れて、弓男は悔しそうに歯噛みした。


「くそっ、話が違うじゃねぇか……! カモがいるって話だったのに!」


 む? 俺とカルガモは思わず顔を見合わせて、PK独自の情報網か何かだろうかと首を捻る。

 それがどういうものか、興味がないわけではないが、このままでは哀れなので教えてあげよう。


「あのな。こいつ、名前カルガモ」


 理解するのを待って、


「カモがいるって、警告だったんじゃねぇの?」


「……名前変えろよまぎらわしい!!」


「俺の自由じゃろが!」


 カルガモ、怒りの鉄拳。弓男は死んだ。


「あっ、しまった」


 カルガモはノリでトドメを刺したことを若干後悔している様子だったが、すぐに気を取り直して、PKが落としていったアイテムの回収に移った。


「ほう! こやつら、金のかかった装備を持っておるではないか」


「ひゃっほう! 臨時収入って最高だぜ!」


「わぁい! まあレベル的に格下っぽかったですし、装備もそれ相応ですねー」


 嬉々として物色する俺達、それと姐御。自然とクズムーブしてケチまでつける姐御、ホント最高に姐御って感じ。

 そんな俺達をどこか白い目で見ながら、クラレットが言う。


「でも、ちょっと気になるかな。

 カモがいるって……誤解させて襲わせたのかも」


「その可能性ですか。カモさんは帝国の件で恨み買ってますから、不思議じゃないですねー」


「む……まあ大丈夫じゃろ。俺が狙われておるだけなら、問題はない。

 PTでいる時に襲われても、このように返り討ちにすればいいだけじゃからな」


 まあ確かに。むしろカモがネギを背負ってくるようなものだ。

 それはそれとして、俺は鼻で笑ってカルガモに言う。


「人に恨まれるような奴って最低だよなぁ」


「おぬしが言うか。リアルで辻斬りに狙われておるクセに」


「はっはっは」


 人のこと言えねぇわ。なんならこっちの方が深刻だわ。

 あれもあれで、早く解決したいところなんだがなぁ。

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