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竜と信仰の奇譚  作者: 長月十九
第四章 兵どもが夢の跡
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第五話 魔術師


 炎天下で立ち話もあれだろう、ということで近くの喫茶店に移動した。

 ビバ冷房。この避暑地を我は祝福せり。古橋さんも何だかんだ暑さは堪えていたのか、心なしかリラックスした雰囲気になっている。

 俺達は隅の方のテーブル席に陣取り、古橋さんはさっさと二人分のアイスコーヒーをご注文。意見を聞こうなんて心遣いがまったくないあたり、我が道を行く人なのは間違いないだろう。

 それでも運ばれてきたアイスコーヒーの美味いこと、美味いこと。ミルクはたっぷりで、ガムシロップはなし。火照った体にはこの上ないご馳走である。

 古橋さんはミルクを入れずに、ガムシロップを一つ、二つ、三つ……ま、まさかの四つ目だとぅ……!? そんな甘ったるいのが美味いのか。表情が微動だにしねぇから分からねぇ。


「さて、何から話したものか……」


 ストローを手で弄び、古橋さんは考え込む。氷がカラカラと涼やかな音を立てていた。

 ややあって、結論が出たのか手の動きが止まった。


「うん、まずは私達がどういう人種なのか、そこからだな」


 彼女が名乗った、魔術師という言葉を思い出す。

 現代ではよく分かんねぇハイレベルな技術の持ち主を、そう呼ぶことがあるぐらい。だがそういう意味ではなく、本来の意味――超常の力、魔術を操る者としての意味だろう。


「先に言っておくとね、私達はとっくの昔に絶滅寸前だ。

 本物の魔術が使える人間なんて、その中でもほんの一握り。私も魔術師と名乗ってはいるが、使うことはできない。知識があるだけの一般人と、そう大きくは変わらないのさ」


 はあ、と曖昧に頷く。

 彼女の言葉には自嘲的な響きがあり、軽々に口を挟んではいけない気がした。


「君も何となくは分かるだろう。魔術は信仰と確信によって行使される。

 でも、やっぱり個人差があるわけだ。使えると確信できない人間には使えない。そうすると徐々に、使えない人間はこう思う。魔術が使えるのは特別な人間や、悪魔と取引をした人間だけだ、と。

 そういった信仰が広まることで、魔術師がさらに減る悪循環。やがて科学が発達し、多くの迷信を葬ったことで、魔術を使える人間はいよいよいなくなる」


 それはとても自然な話のように思えた。

 大昔は当たり前のように存在していたのかもしれないが、その当時でも使える者と使えない者はいて、使える者は特別視される。そして特別である理由を、使えない者が納得するために考えるのだ。

 言わば持たざる者の自己防衛。積み重ねられた信仰(いいわけ)は強固な縛りとなって、長い時間をかけて社会から魔術を駆逐したのだ。


「そしてトドメを刺したのがこれ、電脳だ」


 自らの額をトン、と指先で叩いて、


「前頭葉に埋め込まれた電脳は、脳の活動を監視している。

 異常な活動――特に脳内物質の過剰分泌が認められた場合、それを抑制しようとする。機能としては当然の安全装置だ。脳が自壊しないように、守らなくちゃいけない。

 だけどそれは、脳に限界を設定するということでもある。電脳によって守られた脳では、トランス状態に入れない。トランス状態では幻覚や宗教体験など、神秘を確信するのに都合のいい現象が起きるんだが……電脳の普及によって、魔術への入り口は閉ざされてしまったわけだ」


 それが魔術師の、絶滅寸前になった理由。

 ……しかし何だろう。納得はできるんだが、腑に落ちない点がある。


「まあ、話は分かるんですけど。

 だったら魔術が使えないのに、どうして魔術師を名乗るんですか?」


 彼女が魔術を使えないと言った時から、ずっと引っかかっていたのはそれだ。

 料理のできない料理人みたいな矛盾。魔術の使えない魔術師は、ならば何を以って自らをそう称するのか。


「うん、いい質問だ。それは君へ会いに来た理由でもある。

 我々は魔術を使えない。だったら()()()使()()()()()()使()()()()()

 魔術世界ではそれを魔道書と呼び、魔道書を扱える者を魔術師と呼ぶのさ」


「あ、なるほど。じゃあゲオルの聖杯も」


「広義の魔道書ということになる。

 まあ、あれは魔道書のレベルに収まるものでもないんだがね」


 そこでしかめっ面になって、古橋さんは一度、言葉を切った。

 アイスコーヒーをストローで飲むのが面倒になったのか、コップへ直に口を付けて飲み、ついでに氷を頬張ってガリガリ。時間帯的にもお腹が減ってておかしくないよね、と好意的にフォロー。


「聖杯はね、多くの魔術師が長く追い求めた聖遺物だ。

 史実的には実在しないが、願いを叶える奇跡の受け皿として都合がいい。完璧な聖杯を作ることに成功すれば、どんな願いも叶えられる――そう夢見て、様々な贋作が作られた。

 と言っても、精々が腹痛を治すだとか、些細な力を持つものしか作れなかったがね」


「まあ、そんなものだって気はしますね。

 どんな願いも叶うものが作れたら、人間業じゃないっつーか」


「同感だ。魔術なんてちっぽけなものでね、基本的には役立たずだ。

 だが、それでも夢を追い続けるロマンチストはいる。そんなロマンチスト連中がね、先日から大騒ぎをしているんだよ。

 ――聖杯が機能しなくなった、と」


 あ。


「言い訳すると実際に聖杯へ願ったのは俺じゃないです」


「後で聞こう。まあ安心しなさい、誰も怒っていないから。

 どうしてそうなったかに興味はあっても、何故そうしたかなんて、気にするような連中じゃないからね。個人的に言わせてもらえば、危険性を理解して封印した判断は褒めたいぐらいだ」


「何を隠そう、そうするべきだって最初に言ったのは俺なんですよ」


「……うん。少年、君がどういう人間なのか分かってきたぞ。

 危害を加える気はないから、保身に走るのはやめなさい」


 バレてーら。古橋さんはこう言ってるが、これ洒落になってない気がするぞ?

 聖杯伝説の成立がいつかは知らないが、中世からある物語だ。何百年もかけて、魔術師が本物を作ろうと頑張っていたのだとしたら、俺はそれを一瞬で台無しにしてしまったのだ。

 ……いや、そうだと知っていても、たぶん判断は変わらなかった気がする。万能の力なんて、どう考えても人の手には余る。自分で持つなんてお断りだし、他の誰かが持つのも認められない。だったらそんなものは、永遠に手の届かないものであるべきなのだ。


「まあ我々は大騒ぎして、聖杯に関連する不審な出来事はなかったか調べ始めたわけだ。

 そうして辿り着いたのが、ゲオルギウス・オンライン――自覚のある者はいなかったんだがね。ほんの数日、人々の頭がおかしくなっていたことに記録から気付いて、突き止めたのさ。

 ゲーム内で聖杯が使用された結果、何かが起きたことを」


 ……魔術師までうどん愛に染めたウードンさんパネェな。


「あとは推測だ。騒動の中心人物であった、ガウス・ナンバーなるプレイヤーが、何か知っているのではないか。

 ゲーム内で接触してもよかったんだが、警戒して隠れられても困るのでね。身元を特定して、まずはリアルで連絡したというわけだ」


「あの。一応確認したいんですけど、どうやって特定を?」


「特別なことは何もしていないぞ? 君の名前であちこち検索したらSNSのアカウントがあったから、そこの書き込みから調べて特定した」


 マジか。身元に繋がるようなことを書き込んだ覚えはないんだが。

 ああでも、天気の話だけでも地域は絞り込めるし、学校行事に関連することを話せば、さらに絞り込める。そういった積み重ねで、最終的に俺を特定したのだろう。


「まあさっきも言ったように、危害を加える気はないから安心しなさい。

 裏付けが取れた以上、こっちからはもう特に用はないよ。

 事情を話したのは、まあ、君は当事者だからな。ある程度は聞かされないと気持ち悪いだろう」


「思ったより平和的なのは嬉しい限りですけど。

 あれ? じゃあ顔剥ぎセーラーとか、そういうのは興味ないんですか」


「………………」


 古橋さんの目が痛い。視線が露骨に「こいつまだ関わってることあるのか」と物語っている。何気なく聞いてみただけなのに、どうして俺はこうもあっさり地雷を踏んでしまうのか。


「どうも君からは、根掘り葉掘り聞き出した方がよさそうだな」


「いや、もう終わったことなんですけどね」


 そう前置きして、人名なんかはぼかしつつ、顔剥ぎセーラー事件についての詳細を語る。

 話を聞き終えた古橋さんは、見ていて心配になるぐらいのしかめっ面で、頭痛を堪えるように――実際、頭が痛いんだろう。眉間を揉みながら口を開いた。


「……ふざけてる。ある程度は予想していたが、そんなことまで」


「まあ、もう解決してますんで。こっちとしてもすっきりしました。

 リアルでもスキル使えるとか何だよって思ってたんですけど、そっか、魔術だと思えばいいのか」


「ああ、そうだね。おめでとう。スキルとやらを使えた子らは、立派な魔術師だ。

 注意するように言っておきなさい。魔術の燃料は生命力だから、使い過ぎれば体を壊すし、ぽっくり死ぬこともある。話を聞く限り、疲労を感じたら休むようにすれば大丈夫でしょう」


「うっす、伝えときます」


 頭を下げて礼を言うが、古橋さんの表情は優れないままだ。

 彼女は言うか言うまいか、迷った様子ではあったが、結局は言うことにしたらしく、


「その、ゲオルギウス・オンラインだけどね。

 あれは魔術師から見ると、ゲームの形をした魔道書だ。ゲームという前提で認識をすり替えて、魔術を使いやすいようにしている。

 スキルエンハンスだっけ? それが使える連中は、潜在的には魔術師だよ」


「え――じゃあ、運営も魔術師だとか?」


「……どうだろうね。魔術師の仕業にしては、疑問点が多い。

 いいかい少年。魔術師が魔道書を求めるのは、その魔術を使うためだ。だがあのゲームは発想が違う。凡人に魔術を編み出させて、魔術師を生み出しているようなものだ。

 偶然そうなっただけ、という可能性を否定できないし、魔道書として設計したのだとしたら、目的が分からない。確かなのは、謎だらけということだけさ」


「むぅ。すっきりしませんね」


「魔術師は金も権力もない生き物でな。現時点ではこんなものだ」


 どうやらアニメやマンガと違って、魔術師は世界の裏側で暗躍しているとか、そういうものではないらしい。絶滅寸前という話と合わせて考えると、社会への影響力は皆無に等しそうだ。


「……けどおかしいな。古橋さん、上がどうとか言ってたじゃないですか。上下関係のある組織に所属してるってことですよね? 権力はともかく、金はありそうなもんですけど」


「ないよ。いつだって火の車だ。

 私が所属しているのは小さな魔術結社だけど、笑えるぞ。十人もいないのに日本最大手だ」


 笑えねぇ。アイスコーヒー割り勘でいいよねとか思ってたけど、奢った方がいいんじゃないのかこれ。ほら、色々と教えてもらったことだし、そのお礼ということで。


「っていうか、よく生き残ってんな魔術師……」


「同感だ。誰か引導を渡してくれたらよかったんだけどね」


 あはは、老人が死をネタにしたようなもんで笑えねぇ。

 雑談じみてきたところで、もう用件は終わったと判断したのか、古橋さんは残っていたアイスコーヒーを一息に飲み干した。


「ふぅ。細かい話はまた聞くかもしれないが、とりあえずこんなところか。

 例のゲーム、我々も目を向けておくけど、何かあったら連絡しなさい。多少の助言はできると思うし、こちらとしても情報は多ければ多いほどいいから」


「うっす、そん時は頼らせてもらいます」


 そう言って頭を下げれば、古橋さんは頷きを返して腰を上げ、颯爽と立ち去っていった。

 ……うーむ。その姿があんまりにも絵になってたせいで止められなかったが、あの人、自分のコーヒー代すら払わずに行きやがった。ありゃあ魔性の女だぜ。

 などと思っていたら、電脳に通知。古橋さんから連絡先を伝えるついでとばかりに、きっちり二人分のコーヒー代が送金されていた。うう、ちくしょう。やっぱり魔性の女だ。


     ○


「おや、あんたにしちゃ足繁く通うじゃないか」


 夕方。帰って昼飯を食って、だらだらしてから高架下のホームに顔を出す。

 昼の撃剣興行が思った以上に稼げなかったので、やっぱり稼ぐなら自分のホームだよね、と労働へ勤しみに来た俺を、伊吹先輩が目敏く見つけやがった。

 つーかこの人、竹刀袋を肩にかけてるし。昨日の今日で自分のウレタン刀を買ったのか。超やる気満々。俺に対する殺る気も満々。一人だけ幕末に生きてんじゃねぇかな、この人。


「正直、あんたのことだから勝ち逃げするかと思ってたんだけど、安心したよ。

 これで思う存分、腕を振るえるってもんだ」


「気になるんで言いますけど、伊吹先輩、めっちゃ睨まれてません?」


 ギャラリーに混じって、腕に覚えありって感じの選手が何人か、伊吹先輩を睨んでいる。で、伊吹先輩は汗だくってわけじゃないが、運動したんだろうなって分かる程度には汗をかいているわけで。


「ちょっと揉んでやっただけだよ。

 しかし骨がないね、どうにも。もっと手強い相手が欲しいところだよ」


 一方その頃、この場にいる顔見知りの選手達から、電脳を介してメッセージがバンバン飛んでくる。要約するとこの幕末女をどうにかしろとのこと。彼らも商売上がったりらしい。

 でもね君達、冷静に考えて欲しい。その日の体調とか、体力の残り具合とか、まあ細かい差異があるとはいえ、俺だって負け知らずじゃない。ここに居着ける程度には勝った負けたを繰り返してるわけよ。

 そんな俺の実力で、昨日みたいなペテンはもう通用しないこの女に勝てると思うのかい?


「そんなわけで守屋。次、場所が空いたらやろうか」


「まずは肩慣らしに、別の奴とやりたいなーって思うんですが」


 あわよくばその一戦で帰りたい。用事ができたとか言って帰りたい。

 だが薄情な仲間(クズ)達は、俺の考えなんてお見通しなのか、それとも無駄に黒星を重ねたくないのか、誰も名乗り出ない。完璧なお膳立てで、伊吹先輩とのデート(一対一。待ったなし。据え膳は俺)が決定した。

 で、試合開始直前。どんだけ暴れたんだか知らないが、賭けのオッズは伊吹先輩が人気。昨日は俺が勝ってるというのに、その印象を覆すほどに活躍していたらしい。

 そして試合が始まり、順当にいけば俺が負けるのだろう。だが古橋さんとの会話を思い出し、ちょっと試してみようかと未来視を使ってみた。

 部活の練習でテッシー相手にやるような、ただの疑似再現ではない。スキルとしての――魔術としての未来視だ。使えると信じて願えば、驚くほどスムーズにそれは果たされた。


「――――ぎ」


 瞬間、脳髄が沸騰する。ゲームだから許されていた奇跡が、情け容赦なく牙を剥いた。

 明らかに脳機能へ害をもたらす過負荷。眼球から脳へ叩き込まれた情報は、神経が火花を上げるほどの電気信号(パルス)となって駆け巡り、刹那の未来を演算する。

 自我を塗り潰すかのような狂奔。自滅へと至るスタンピード。

 これは駄目だ、と手放す寸前、体は反射的に動いていた。

 それを為し得たのは鍛錬の成果などでは、決してなく。

 理性がとろけそうになっちまったもんだから、うっかり本能が暴れたというだけの話。

 唾棄すべき一撃は、しかし伊吹先輩の額をスパーンと軽快に叩いていた。


 そんでもって、勝ったはいいけどぐったりして端の方で座り込む俺。

 やばい超気持ち悪い。等速、倍速、低速の映像をごちゃ混ぜにして、体力の限界まで見せられたような感じ。吐いてないのが不思議なほどで、俺の迂闊さを真剣に呪う。

 魔術としての未来視は駄目だ。あれはもう、生身で耐えられるような負荷じゃない。


「勝ったくせに酷い顔だね」


 ぐったりする俺に、ぶすっとした顔で責めるように言う伊吹先輩。

 集中し過ぎて気分が悪くなったと言い訳してあるが、どこまで通用するか。まあ大部分は未来視のせいなんだが、気分が悪い理由としてはもう一つある。


「ありゃあ納得いかない勝ち方だったんで。

 本能に任せた一撃なんて、理想とは真逆です」


 剣に関して言えば理想はカルガモだが、あれにはまあ届かないとして。

 そうではなく、守屋幹弘が現実的な範囲で理想とする在り方があって、あんなのはその真逆なのだ。


「無心で剣を振れたんなら、それも一つの境地でしょうに」


「違うんですって。どう言えばいいのかな……。

 俺は度胸が第一なんですよ。怖いとか、強そうだなとか、そういうのを呑み込んで踏み込む。

 それが頭から抜け落ちたら、獣と一緒なんですよ」


「贅沢な悩みだこと。……ねえ守屋。前から一度、聞いてみたかったんだけど。

 あんたにとって、剣はどういうものなんだい?」


 問われて、漠然としたものだけにどう答えるか悩む。

 俺なりに真剣であるのは確かだが、部活は付き合いでやっているようなもの。他人と競い合うことはどうでもいいし、勝った負けたは時の運もあるから、気にするだけ馬鹿を見る。

 考えてみれば、誰かと対峙することは最初から度外視している。

 俺が剣を通して向き合っているのは、自分自身に他ならない。

 その感覚を言葉にするのなら、


「納得がいく剣を振れたかどうか、っスね。

 他のは余分っつーか、求めてないっつーか」


「なるほど。そういうことを考えてたわけか」


 納得したのか、うんうんと頷く伊吹先輩。


「良くも悪くも純粋なのかね。幽霊部員のくせに、道理で変に真面目だったわけだ」


「そういや、暇だったら部活にも顔出してくださいよ。

 テッシーが張り切り過ぎて、他の部員がわりと地獄見てるんで」


「ああ、うん。まあ考えておくよ」


 たぶん来ないんだろうなぁ。引退したんだから口出ししちゃいけない、とか。そういう線引きはきっちりしてる人だから、他の後輩が泣きつくまではテッシーに任せるつもりだろう。

 そうしたい気持ちは俺もよく分かるので、強くは誘わない。何かのついでに様子見ぐらいはするかもしれないが、積極的に介入するってのは筋が違うもんな。


「――さて。それじゃあ私は、もうちょっと遊んでこようかな」


「応援してまーす。でも適当に負けないと恨まれますよー」


「そりゃあいい。遊び相手に困らなくなるね」


 ホントやだこの幕末女。それ喜ぶポイントじゃねぇよ。まあ伊吹先輩なら心配はいらないか。

 俺もしばらく休んだら、もう何試合かやって稼いでおこう。

 魔術師と出会うなんていう予想外の出来事があったものの、日常は概ね平和。このまま何事もなく、海に行く日を迎えられればいいんだが。


 そんなささやかな願いは、俺の知らないところで叶わなくなっていた。

 この日を境に、この街の撃剣興行には緊張が走ることになる。

 ――時代錯誤にもほどがある、辻斬りの登場によって。

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