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竜と信仰の奇譚  作者: 長月十九
第一章 冒険の始まり
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第四話 癒し系タルタルステーキ


 教会はさすがに首都にあるだけあってか、荘厳なものだった。

 ただ大きいだけではなく、建造物としての美しさも意識していると言えばいいだろうか。あんまり造詣が深くないんで上手く言えないが、正面に立つと心なしか怯んでしまう。決して俺が邪悪なわけではない。

 隣で教会を見上げる姐御は、俺とはまた違う感想を抱いているようで、うっとりした目を向けていた。


「ゴシック様式は良いですねー」


 教会ガチ勢かよこの人。いや、島チャンでたまにカルガモとかと歴史談義してるから、歴史趣味の延長か。わりと英雄や武将の話が多いけど、それらが話題になりやすいってだけで、もっと多方面に興味があるのかもしれない。

 俺はゴシック様式とか言われても、ゴスロリ服のことぐらいしか思い浮かばないので、曖昧に頷いておく。趣味人と話すコツは、共通の趣味でなければ聞き手に回ること。下手なことを言うと逆鱗に触れてしまう。

 ただまあ、ゴシック様式――その雰囲気は、どことなくゴスロリ服に通じるものがある気がする。貴族趣味? 耽美趣味? 何と言うのが正解かは分からないが、奇抜ながらも調和が取れているところとか。

 そんな感じで納得していると、景色を堪能した姐御がこちらに顔を向ける。


「ではガウス君、ここで問題です。ゴシック様式は何世紀頃のものでしょうかー?」


「え……中世じゃねぇの? 十四世紀あたり?」


「はい正解! 細かいこと言うと色々あるんですけど、十二世紀から十五世紀にかけて広まった建築様式ですね。

 それじゃあこの世界は、中世だと思いますか?」


 問われて、違うのだろうか、と疑問に思う。

 そりゃあ地球から見れば異世界なわけで、当然ながら歴史も違う。しかしその設定を作ったのは人間で、ゲオルギウスという名前を使っているように、地球の歴史をモデルにしているのは間違いない。

 そう考えると街の様子なんかは、いかにも中世ファンタジーって感じだけど。


「……十五世紀頃だとしても、中世だよな?」


 だから無難に考えて、この世界も中世ぐらいではないのかと答える。

 すると姐御は、いたずらが成功した子供のように笑った。


「そう考えちゃいますよねー。でもほら、見てください。

 この教会、結構古いんですよ。百年や二百年は前のものだと思いますよ?」


 言われてみれば、確かに壁の汚れなどは年季を感じさせる。けど、そこまでは分かんねぇよ!


「それにほら、カモさんは下水道に行ってるんですよね?

 ちゃんとした下水道ができたのって、リアルだと十九世紀に入ってからなんですよ。

 ファンタジー要素で解決してるのかもしれませんけど――ここの文明レベル、中世ではないですね」


「あー。そういや前に、カルガモが言ってたのを思い出したよ。

 中世ファンタジーなんて、大半が近世ファンタジーだって」


 わりとご立腹というか、仕方ないけど気に食わないって感じで愚痴っていた。

 世界の諸要素が近世寄りなら、近世ファンタジーと名乗るべきじゃないか、と。


「カモさんも詳しいですもんねー。

 まあそんなわけで、この世界は近世に近いファンタジー世界なんですよ。

 ひょっとしたら、どこかで産業革命起きてるかもしれないですね!」


 姐御はそのまま、ヴィクトリア朝イギリスの話をめっちゃ良い笑顔で続けようとする。

 あ、そっかぁ。この人、クイズとかして何の意味があるのかと思ったけど、話したいだけかぁ~。


「姐御、姐御。そのあたりの話はまた今度聞くから、教会に入ろうぜ」


「むっ。……そうですね、中も楽しみですもんね! 行きましょー!」


 違う、そうじゃない。でも言っても無駄だろうし、口にする勇気もない。

 臆病な俺は、テンションがおかしくなりつつある姐御の後を、黙って追いかけることしかできなかった。

 さて、そんなわけで教会の中に入ったわけだが――いや、すげぇな。外観も凄かったが、中はもっと凄い。

 高い天井に、整然と並ぶ巨大な石柱。壁の上部には大きなステンドグラスがあり、床に幻想的な光を落としている。正面には礼拝堂があり、左右には回廊が続いているが……これは想像以上だ。一人でじっくりと中を見て回るのもいいかもしれない。

 ――で。俺でさえこうなんだから、姐御はもっとやばいわけで。


「んん……っ! やだ、尊い……住みたい……」


 住むのには向いてないんじゃないかなぁ。

 姐御は頬を上気させながら、身を抱いてぷるぷると震えている。感動しているのはよく分かるが、これじゃあもう変な人だ。普段はわりと常識人なのに、趣味のこととなるとマジで急にダメになるなこの人。

 放っておくといつまでもこうしていそうなので、手を引いて正面の礼拝堂に向かう。


「ほらほら、観光は後にして行こうぜ。転職するんだろう?」


「もうちょっとだけ、もうちょっとだけー!」


「もう、この子ったら! あんたそんなこと言って、約束守らないじゃない!」


「お母さん、今日だけだからー!」


 そんな小芝居を挟みながら礼拝堂へ。

 縦長の大きな部屋で、左右には長イスが並んでいる。正面奥には女天使の像と、大きな十字架が鎮座していた。

 イスには参拝客……じゃねぇや、礼拝客? とにかくまあ、一般信徒がぽつぽつと座っている。なんかプレイヤーも混じっているようだが、あれ転職クエじゃねぇな。観光ってわけでもなさそうだし、ここを溜まり場に使えないか試してるんだろう。追い出されてしまえ。

 天使像の付近には司祭っぽいおっさんと、そのお手伝いっぽいシスターが二人。司祭は何もしていないように見えるが、突っ立ってるのが仕事なわけねぇし……あれが転職クエを受け付けるNPCかな?

 そう考えて、今度は天使像に釘付けになっている姐御を引きずって行く。


「司祭さん、ちょっといいかい」


「む……ようこそ教会へ。懺悔ならばこちらではなく――」


「違うよ?」


 なんで俺はそういう扱いがデフォなの?

 世の不条理を嘆いて、俺は救済を天に祈った。しかし祈りは届かなかった。

 そんなことよりも、と姐御に目を向けて促す。


「あ、そのー、神官になりたいと思いましてー」


「ほほう、それはそれは。神に仕える兄弟姉妹が増えるのは、とても喜ばしいことです」


 そう言って穏やかに微笑む司祭。俺の時と態度が違い過ぎませんかねぇ?

 まあこれ、カルマ値のせいなんだろうなぁ。戦士ギルドは結構好意的な感じだったが、あそこは荒くれ者も多そうだし。NPCにも立場があって、画一的な反応を示すってわけではないのだろう。

 そんなこんなで考え事をしていると、姐御と司祭の話がまとまったようだ。


「――では信徒タルタルよ。神官になりたくば、その信仰心を示しなさい」


「はぁ。信仰心ですかー」


 目に見えないものを示せって無理ゲーなのでは。

 教会の掃除とか、そういった手伝いをして貢献しろってことなんだろうか。

 少し考え込んだ姐御は、司祭に礼を言うとこちらを見た。


「ガウス君、行きましょう。道具屋さんとかに案内してくださいなー」


 あっ。

 信仰心とやらが何かを察してしまって、何とも言えない気持ちになる。

 リアル……すっげぇリアルだけどさぁ……転職クエがそれでいいの?

 微妙な気分になりつつ教会を出て、道具屋に向かう。道中、フォローのつもりか姐御は宗教史について語るのだが、そりゃルターさんもキレるよ。っていうかフォローする気ないなこの人。

 で、姐御は道具屋でヨロイムシのドロップアイテムを売却し、再び教会へ。

 キリよく三百ゴールドを司祭に納めることで信仰心を示し、晴れて神官への転職を完了した。


「ふっふっふ。これで癒し系ですよ癒し系っ」


 癒し系タルタルステーキ。食う気がまったく起きない。


「つーか姐御のことだから筋力伸ばして、殴り神官とかやるんでしょ?」


「なんでですか! どういうイメージですか私!?」


 そういうイメージだよ。

 さて、教会に居座ってるとまた姐御が趣味に脱線しそうなので、俺達は教会を出て街を散策することにした。

 姐御も金は全然残っていないので、アイテムを買うことはできない。とはいえ把握していない施設の場所を覚えておけば後で便利だし、狩りへ行くにしてもカルガモの合流を待ちたいところだ。


「あ、駅馬車が停まってますねー」


 大通りを歩いていると、姐御が馬車を見つけて足を止めた。


「駅馬車? 馬車の駅じゃなくて?」


「そういう名前なんですよ。駅馬車は公共交通機関の一種で、旅行などに使われていたんです。

 人以外に、物を運んだりもしていたんですよー」


「ふーん。現代で言うと夜行バスみたいもんか」


 それにしても馬でけぇな。サラブレッドよりもでかいぞ、あれ。

 ちょっと触ってみたいなと思うが、蹴られたら死にそうなので近付くのはやめておこう。あの体格から繰り出される蹴りは、比喩抜きで死ねそうだ。いくら俺でも、馬に蹴られて死ぬのは嫌だ。

 などと思っていたら、姐御が近付いて御者と話していた。

 お、なんだなんだ。わりと大人しそうじゃん。今なら御者もこっちにまで意識を向けてないだろうし、怒られるってことはないだろう。俺はこっそり馬に近付いて、腹を撫でてみる。……あったけぇ。それにこの分厚い筋肉のたくましさはどうよ? 惚れ惚れとしちまうね。おいこら、褒めてんだから頭を噛むな。ゴリゴリすんなよ痛いんだよ。


「――ガウス君、分かりましたよ。駅馬車は……って、何やってるんですか!?」


「リンゴの気分」


 HPゲージがもりもり減って赤くなってるので、食べ頃ってことだと思う。

 姐御は慌てて俺を馬から引き離し、変なものを食べさせてごめんなさいと御者に謝る。御者はそれでいいのだろうかと微妙な表情をしているが、そうだよな、謝ってもらうのはこっちだよな?

 ちょっと文句を言おうかと一歩前に出たら、姐御に捕まった。


「ダメですよガウス君。動物は変なものを食べても、それを人に言えないんですから」


「姐御は優しいんだなぁ」


「え、ええっ? ほ、褒めてもダメですよ! ちゃんと反省してくださいねー?」


 怒ってるんですよ、なんてポーズで示す姐御。

 その優しさを俺にも向けてもらいたいが、もう可愛いからどうでもいいや。


「うっす。そんで姐御、なんか分かったって言ってなかった?」


「あ、はい。駅馬車ですけど、私達もお金を払えば他の街まで運んでもらえるみたいです。

 料金は行き先によって違いますけど、千ゴールド前後ですね」


「なるほど、ファストトラベルか」


 ゲームによって細かいところは違うが、言ってしまえば任意の場所に瞬間移動する機能だ。

 瞬間移動と言っても時間経過を伴う場合もあるが、それはあくまでゲーム内での時間経過であり、MMOであればその心配はいらないだろう。他のMMOでも、こういうのは料金を払えば即座に瞬間移動となることが多い。雰囲気を出すために、一時的に馬車なり船なりに移動させられることもあるが、それだってほんの数分だしな。

 駅馬車は千ゴールドという価格設定からして、気軽に使えるようになっている。それだけ稼げるなら転職は終えているだろうから、初心者が無職のままどこかへすっ飛ばされるという心配もない。


「……ああ、だからか」


「? 何がですか?」


「いや、カルガモが掲示板で見た情報なんだけど、街の周辺がわりと人外魔境でさ。

 西のエリアぐらいしか、まともに進めそうになかったんだよ。

 でも駅馬車があれば他の街へ行けるだろ?」


「なるほどー。転職して少し稼いだら、他の街へ行くようになっているんですね」


 運営の狙いとしては、プレイヤーを各地に分散させることか。

 ストーリークエストを追うようなMMOだと、レベル帯によって滞在する街がほぼ固定されてしまう。そしてレベルは上がり難くなっていくのだから、どこかで街と狩り場が混雑することになるのだ。

 これを避けるために、ゲオルの運営はプレイヤーを分散させることにしたのだろう。

 そんな推測を話すと、姐御はちょっと困ったように笑った。


「それもあると思いますけど、それだけじゃ寂しいですよー。

 世界を広く旅してもらいたい。そんな思いも、きっとあると思いますよ」


「けっ、そんなこと言っても俺の好感度しか稼げないぜ」


「えっ……稼いだら何か、いいことでもあるんですか?」


「ヒモにしてくれって告白する」


「もぅ!」


 腹パンされた。腰の入った素晴らしい一撃だ。

 馬に(かじ)られて瀕死だった俺は、気持ちよく昇天した。


「わー!? ごめんガウス君!」


 気にするなよ、と霊体になった俺が微笑む。

 少し涙目になった姐御に手を振り、俺は空へ溶けるように消えた。


     ○


 そんなわけでまた噴水広場である。今日何度目だよおい。

 姐御にささやきを送り、すれ違っても面倒なので噴水広場で待ち合わせすることにした。

 待つことしばし。カルガモが来た。


「チェンジ」


「何を言っとるんじゃお前」


「うるせぇな、せっかく姐御と楽しんでたってのによ。

 頼むから消えろよ、消えてくれよカルガモぉ~」


「こんなのに懐かれて、彼女もかわいそうにのぅ……」


 他人事のように言うけど、お前も大概だと思うよ俺。

 そんな俺の白けた目を無視して、カルガモは言う。


「そうそう、盗賊ギルドはやっぱり下水道にあったぞ。

 転職試験がスニーキングミッションでな、少し手間取ったわい」


「ってことは、盗賊に身をやつしたんだな」


「転職したと言え。リアルに考えれば、確かにその表現が妥当じゃがな」


 苦笑してカルガモがローキックを放つ。表情を怪しんでいた俺は警戒態勢であり、当然回避した。

 いやはや、さすがは卑しい盗賊だけあって、汚い手段がお得意だこと。俺達は笑いながら睨み合うと、どちらともなくナイフを抜き放って、ここで雌雄を決しようと――――


「ストーップ! 二人とも、ストップ!」


 惨劇に間に合った姐御が、声を張り上げて駆けてくる。

 俺達はぽいっとナイフを捨てて、笑顔で走り出した。


「「姐御~!」」


「せッ!!」


 ラリアットだった。的確に首を捉えるえぐいラリアットだった。

 吹き飛び、ゴミのように地面へ横たわる俺達へ、姐御は腰に手を当てて言う。


「もー、なんでケンカしてるんですか!

 VRだからって、命を粗末にするのよくないですよー」


「じゃがのぅ。男は一歩外に出れば、八人の宿命の敵がおってな?」


「そうそう。俺達は運命に導かれてしまったんだよ」


「これはもう仕方ない。そうじゃよなガウス」


「おう。抗えないこの身が悔しいぜ」


「しかしこれも天の定め! いざ命を燃やせ、我らは倶に天を戴かず!」


「その覚悟……俺も全身全霊で応えようッ!」


 アチョー、と構えて対峙する俺とカルガモ。

 さすがはカルガモだぜ、隙がない。人間性は発酵しても肥料にならない糞みたいなものだが、こいつリアルで剣術やってるだけあって、土台の戦闘技術が無駄にハイレベルなんだよな。

 だが俺だって数々のVRゲームで、果てなき戦いに身を投じた男だ。勝つことはできないにしても、せめて一矢報いん。路傍の石に過ぎぬとしても、石で頭を殴れば人は死ぬのだ……!


「せッ!」


「「おぶぅ!」」


 また姐御のラリアットである。俺達はゴミのように転がった。


「なんで流れるようにケンカしてるんですか!

 それともそんなに死にたいんですか? 手伝いますよ?」


「いやごめん、マジごめん」


「ちょいと悪ノリが過ぎたのぅ、すまぬすまぬ」


 俺達は平謝りして許しを請うと、ちょっと悪目立ちしちゃったので場所を変えて話すことにした。

 噴水広場から少し離れた路地に入り、やっと真面目な話を始める。


「さて、これで全員の転職が終わったわけじゃが、これからどうする?」


「とりあえず、どっか狩り行こうぜ。レベルも上げたいが、それより金だよ金」


「金がないのは首がないのと同じじゃしのぅ……」


 世知辛いわー。せめてちゃんとした武器ぐらいは欲しいところだ。

 姐御もうんうんと頷いて、


「服も欲しいですもんねー。今、皆さん似たり寄ったりですし」


 どうでもいいと思った俺とカルガモだが、あえて何も言わない程度には空気を読めた。

 頷くだけ頷いておいて、話題を変える。


「消耗品も欲しいよな。回復アイテムなしで狩りに行くって、結構命知らずだぜ」


「そうじゃな。神官の姐御がおるとはいえ、非常時にはアイテムも必要じゃろうし」


「あ、そう言えばまだスキルの確認してませんでした」


 言いながら、姐御はスキルウィンドウを投影して俺達にも見せる。

 あー。これ、スキルレベルのあるツリー形式か。無条件で取得できるスキルもいくつかあるけど。ヒールやプロテクションなど、スキルそのものは神官らしいものが揃って……うん?


「姐御、姐御。このスキル何よ?」


 俺が示したのは、霊体看破というスキルだ。

 他のゲームでは馴染みがない名前だけに、姐御も首を傾げて詳細を開く。


「えーと……パッシブスキルですね。

 これがあると、姿を消した霊体も見えるようになるって書いて……ますけど……」


「「うわぁ」」


 俺とカルガモがげんなりとした声を出す。

 そういうスキルがあるってことは、要するにゴースト系の敵、何かしらの対策がないと見えないってことでは。さすがに攻撃する時は姿を現すだろうけど、対策してなきゃ奇襲され放題ってわけだ。


「ソロでもPTでも、このスキルは必須になりそうですねぇ」


「狩り場を選べば必要ないとは思うが、あった方が無難じゃろうなぁ」


 敵がいると教えてもらえるだけでも、前衛にはありがたい。

 ……つーかそういう仕様があるってことは、俺らを散々殺してくれたハイドベアもゴースト系と同じで、霊体看破のようなスキルで見えるようになるんじゃないか?

 俺もスキルウィンドウを投影して、そんなスキルがないか確認する。えーと、ブレイクにシールドバッシュ、挑発、バーサク……直感? おお、これだこれ!


「あったぞカルガモ! この直感ってスキルがあれば、奇襲を察知できるってよ!」


「ほほう。……ん? 察知?」


「うん。姿を消した敵が近くにいると、存在するっていうのが分かるらしい」


「控え目に言ってゴミでは?」


「俺もそう思う!」


 使えねぇなこれ!? いや、気休めにはなると思うけどさ!

 存在するのが分かっても、見えなきゃ片手落ちだろうに。

 カルガモは同情の眼差しを向けながら、スキルウィンドウを投影する。もっとマシなスキルがないか確認しているのだろう。直感を見つける。一縷の望みをかけて詳細を見る。戦士の直感と同じだった。


「こっちもか!!」


「カルガモくぅん、ゴミ同士仲良くしようぜぇ~……」


「うへへぇ~……まあこれ、他のジョブに動物版とかあるんじゃろうなぁ」


 だと思うよ。猟師とか、実にそれっぽいジョブだし。

 前衛は少し不便なぐらいにしておくことで、PTを組むように仕向けているんだろう。余計なお世話だ。


「でも、さすがにスキルも色々とありますねー。

 何を取るか、ちょっと悩ましいです」


「のんびり決めればええじゃろ。最初はヒールとかの基本的なスキルを中心にして」


「ですねー……って、あれ?」


 スキルの確認をしていた姐御が首を傾げて、俺達にも見ていたスキルを示す。


「これ、ヒールなんですけど、詳細見てたらこんなのが」


 そこには効果や消費MPの説明があり、最後にエンハンスという項目があった。

 表示が灰色になっているので、今はその詳細を確認することはできないようだが……日本語で言えば拡張とか、そんなところだろうか。


「何だろうな。スキルレベルが上がったら、特殊効果を付けられるようになるとか?」


「そんな感じでしょうか? これ、公式サイトの説明には載ってなかったんですよね」


「……それ、ヒールだけではないみたいじゃな」


 カルガモが己のスキルウィンドウを示して言う。


「ざっと見た限り、全てのスキルにエンハンスの項目があるようじゃ」


「ほへー……全部ですか」


「うむ。具体的なことは分からんが、しかしこれで可能性が示されたのぅ」


 ああ、確かに。拡張ができるってんなら、色々と話は変わってくる。


「直感は化けるかもしれんぞ……!」


「でもよー、カルガモ。先駆者になる勇気、ある?」


 カルガモは目を逸らした。

 うん、だよな。基本スペックはわりとゴミだもんな、これ。可能性だけを頼りに、こいつにスキルポイントを突っ込むのはちょっと嫌だよな。もうちょっと実用性があるのなら、俺も挑戦してみるんだが。


「まあ直感、ないよりはマシだろうし、スキルポイントが余ったら考えようぜ」


「そうじゃな。そのためにも、何より金のためにも、そろそろ狩りに行こうか」


「おー! 行きましょう行きましょう!

 事前の計画も大切ですけど、狩りをするのが一番楽しいですもんねっ!」


「「殺意高いなぁ」」


「ちょ、ちょっと! なんでドン引きしてるんですか!?」


 俺らも大概だけど、姐御には負けるんだよなぁ。

 何とも言えない気分になりつつ、俺達はとりあえず西へ行ってみようと街を出るのであった。

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