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竜と信仰の奇譚  作者: 長月十九
第三章 サンクチュアリ・オブ・ウードン
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第八話 流星のガウス


 とりあえずホーリーグレイルの受け渡しをしようということで、ダフニさんにはこちらの溜まり場まで来てもらえるようにお願いした。

 元々の予定だとクラン作ってウードン帝国へ嫌がらせするつもりだったが、感染者を元に戻す道具として使うなら温存するのも手だろうか。拠点に設置する必要がある以上、外へ持ち出すことはできないだろうし。

 いっそのこと、もう一個お願いしてみようか――なんて無茶を真面目に検討しているところへ、ダフニさんがやって来た。予想外だったのは、ニャドスさんとデル2さんまで伴っていたことか。


「皆さん、お待たせしました」


 微笑んでお辞儀するダフニさんに、どうもどうもと頭を下げる俺達。やけに上機嫌っぽいのは、あちらのクランの何人かが聖騎士への転職に成功したからか。

 へっへっへ、でかいシノギの匂いがしやがるぜ……! オズワルドとのコネを独占できている間に、もっと有効活用しなければ。利益がある内はズッ友だよ、オズワルド!

 友情の金銭への変換効率に夢見ていると、ニャドスさんが朗らかに言う。


「やあ、今回はうちのマスターがアレでごめんね。

 俺とデル2も、役に立てるかは分からないけど力になるよ」


 その横で同意するように頷くデル2さん。相変わらず寡黙な人である。

 一方、ニャドスさんの申し出に対し、姐御は胸の前でポンと手を合わせて喜んでいた。


「わー、助かりますー。ニャドスさんは知恵が回りますもんね。

 こちらの作戦に穴があったら、ビシバシ指摘してくださいなー」


「ははは。過信されても困るけど、まあ、やるからには精一杯やるよ」


 謙遜を忘れないこの姿勢、流石はニャドスさんだぜ。頼れる大人が周囲にいない現状、なんかもう無条件で従ってれば上手くいくんじゃないかって気さえする。

 しかしこれ、問題はどこまで話していいかだよなぁ。

 話したからって誰かに怒られるわけじゃないが、信じてもらえるか怪しいわけで。そのあたりどうしたものかと、それとなく姐御に目を向けてみる。

 おっと、首を小さく横に振ったということは、今は黙っておけってことだな。上手く誤魔化しつつ知恵を借りるってのは難易度高いが、仕方ないだろう。

 しかし俺達のアイコンタクトを見て、ニャドスさんが口を開いた。


「――事情は全部、ダフニから聞いてるよ。

 感染者やら何やら……今回のことに限らず、ね」


「うえぇ?」


 マジで? 話しちゃったの?

 思わずダフニさんに目を向けると、彼女は眉を下げて困ったように笑っていた。


「私だけで抱え続けるのも、無理があると思いましたから。

 お二人は信用できる人ですし、それに力を借りるなら打ち明けないといけないと思いまして」


「正直なところ、信じ難い話ではあるけどね。

 ダフニがそんな嘘をつく意味がないし、ガウスのこともある」


「え、俺っすか」


「だって君、そういう事情でもなかったら、既に一回か二回は殴り込みに行ってるだろう。

 勝てる勝てないの話じゃなくて、そうしないと気が済まないから」


 まるで俺を狂犬か何かのように言って、彼は笑んだ。


「どんなに信じ難いことでも、状況が嘘ではないと言っている。

 だったら自分の常識に執着するのは、ナンセンスだろう?」


 おお……思ってた以上に()()()ぞ、この人。

 論理的な結論と自分の常識を比較して、迷いなく論理を選択する。論理派を気取っていても、それができる人は少ない。何故なら人間は、自分が正しいと思いたがるからだ。

 彼が穏やかな物腰に見えるのは、ひょっとしたら平然と自己を切り捨てられるからなのかもしれない。だとすればこの人は、合理性が服を着て歩いているようなものだ。


「なるほどー。伊達にナップさんの右腕じゃありませんねー」


 似たような感想を抱いたのか、姐御もうんうんと納得する。

 でもナップのオプションにしては豪華過ぎるので、いっそ体を切り捨ててこっちに来てくれないだろうか。人材が潤うと同時にナップを嘲笑える、一石二鳥な最高のプランだ。

 しかしニャドスさん自身は謙遜の笑みを浮かべて、


「ま、それだけダフニを信用しているということさ。

 流石に他の誰かの言葉だったら、俺も疑っていたよ」


「もういいだろう」


 と、そこで珍しく、デル2さんが口を挟んだ。


「本題だ。どうする」


 あ、はい。腹の探り合いみたいな真似してないで、本題に入れってことですね。

 まあ隠し事しないでいいと分かったし、俺達はまずこれまでの推測を話すと、作戦――人を集めたらそのまま勢いで突撃しようという、改めて考えると乱暴な案を伝えた。

 最初は相槌を打ったりしていたニャドスさんも、どんどん表情が曇り、話し終えた今は頭痛を堪えるような有様である。ごめんねニャドスさん、島人って基本的にバーバリアンなの。


「……うん、うん。思っていたより酷いね!」


 歯に衣着せる必要はないと思ったのか、ニャドスさんがぶっちゃける。


「感染の性質上、時間をかけていられないし、乱暴な作戦になるのは仕方ないよ。

 でも大前提の人を集める手段、ほとんど何も考えていないじゃないか」


 あー。それなー。それ言われると痛いんだよなぁ。

 適当に人の多いところで声かけて、噴水広場にでも集めてから演説すれば、ノリである程度の数は揃うだろ、っていう雑な計算してるだけだし。

 なので俺は、俺達が馬鹿だと思われないよう、何か案を出せとツバメを見た。

 それは無茶振りだと目で語り返すツバメだが、黙っているのもよくないと思ったようで、胸を反らしていかにも自信満々といった様子で口を開いた。


「そこはほら! あたしの魅力があれば、声かけたら百人ぐらい!」


「………………」


 ニャドスさんは何故か真面目な顔でツバメを見た。

 頭のてっぺんから足の先まで、値踏みするように見て、


「うん。時間帯を選べば、八人ぐらいなら釣れるんじゃないかな」


「リアルで容赦ない数字はやめてー!?」


 叫んで落ち込むツバメに、スピカが声をかける。


「百人中の八人なら八%だから、もっとたくさん声かければいいんだよ」


「そういう問題じゃないです……」


 すげぇなあいつ。悪気ゼロでツバメの心を折りやがった。

 そして八%発言にデル2さんが頷いて、


「母数を増やすのは有効な戦術だ。

 だが時間がかかる。八%では有効性に疑問が残るな」


「八%の女に期待しちゃいけないってことだな」


 言葉を引き継いで結論を口にする。


「ねえ、さっきから流れおかしくない!?

 あたし、なんでこんなに大火傷してんの!?」


 まあまあ、と荒ぶるツバメを皆で宥める。

 ご立腹のツバメは、何か案を出せよと俺を睨んでくる。あわよくば大火傷しろと、視線に乗せる呪詛を隠そうともしていない。だから八%なんだぞお前。

 しかし俺だけ安全圏にいるのも可哀想なので、ここは俺も体を張っておこう。


「そうだなぁ。俺の魅力だったら百人ぐらい」


「絶対に負ける土俵で勝負する勇気だけは評価するよ」


 マジで? ニャドスさん的に俺の魅力ってそういう評価なの?

 別にいいんだけど、ツバメに負けるってのはなんか悔しいな。それなら魅力をもっと増やすしかないんだが……不特定多数を相手に通用する魅力を、簡単に増やす方法か……。


「――全裸になったらいいかな?」


 お色気路線で勝負する。これは名案ではなかろうか。

 しかし何故か場の空気が冷え、おいおい何だよこのいたたまれない雰囲気は、もっとアゲてこうぜ? 皆で俺という男の魅力を語り尽くしてくれてもいいんだぜ?

 話しやすいように色っぽいポーズなんぞを取ってみると、クラレットが言う。


「あのね、ガウス。勇気出して言うけど、マイナスだと思う」


「えー? わりといいボディーラインしてると思うんだけどなぁ」


「違うから。ガウスの魅力、そういうところじゃないから」


 違うらしい。このわがまま愛されボディーは駄目なのか。

 一応、評価はどうだろうとニャドスさんを見れば、彼は目を逸らした。おう見ろよ。ツバメの時みたいに頭のてっぺんから足の先まで、舐めるように俺を見ろよ。いっそ評価しやすいように脱いでやろうかと思ったが、実行するよりも先にニャドスさんは言う。


「た、たぶん、二%ってところかな……うん」


「ちっ。安易なお色気路線は駄目ってことか」


「あ、ああ。でも発想は悪くないな。

 大勢を釣ろうと思ったら、分かりやすい餌はあった方がいい」


 なるほど、分かりやすい餌か。金だな。


「んー。餌と言いましても、お金とかは厳しいですねー」


 それな。しかも俺、借金生活に突入してるからな。誰よりも俺が欲しい。

 なので金は却下するとして、それでも俺達に出せる価値があるもの、か。

 オズワルドのコネを売ってもいいのだが、あれで釣れるのって前衛の一部だけだろうしなぁ。やはりここは大衆の審美眼を信じて、俺の肉体美を……と考えていたら、ツバメが言う。


「やっぱりホーリーグレイルの情報じゃない?」


「多少は効果ありそうだけど、それだけじゃ弱いと思うよ。

 とにかく急ぎで欲しいのって、うちみたいな集団ぐらいだからね」


 ふむ。そのあたりの勢力の把握は、ニャドスさん達の方が正確だろう。それを踏まえての意見だと思うと、釣れそうなクランもどきの心当たりはなさそうか。

 でもなー。無い袖は振れないって言うし、他に出せるものってないんだよなぁ。

 ……いや、無い袖を餌にしちまってもいいんじゃないか?


「俺にいい考えがある」


「あ、兄ちゃんが悪い顔してる」


「これいつもの外道スマイルですから、皆さん騙されちゃいけませんよー」


 身内がまったく信じてくれなくて泣きそうになるが、まあ言うだけタダだ。

 俺はこほんと咳払いを一つして、


「ホーリーグレイルの情報を餌にして、手に入れるのも手伝うって言えばいいんだよ。

 で、レジスタンス側の連中で作るクランは、後で同盟組むってのはどうだ」


「ああ、それは悪くないな。何せこれから、クランを潰す戦争をするんだ。

 先にその予防となる同盟を提案して、安全を売るんだな」


「そうそう。ついでに掲示板とかで表明してもらって、そいつらの人気投票もしようぜ。

 活躍したら人気に繋がるし、その結果が同盟での序列になるとか言って」


「……君、ろくでもない発想するな」


 あれぇ? わりと名案だと思ったのに、どうしてちょっと引いてるんだい。

 一方、何故か満面の笑みを浮かべる姐御。


「私は高く評価しますよ! 少し変則的ですが、秀吉と同じやり方ですよね。

 同盟を餌にすることで、自然とクラン単位の小集団が発生しますよね? さらに序列をちらつかせることで競争を誘発し、人気投票にすることでクランに入らない外野も楽しめちゃいます。

 流石はガウス君。形のないものを売らせたらピカイチですね!」


 そこまで深く考えてないし、褒められた気が微妙にしねぇな!

 しかし姐御の解説に一理あると思ったのか、ニャドスさんは頷いてしまった。


「そう聞くと確かに名案だね。懐が痛まないのも嬉しいところだ。

 何よりその同盟、暴走するクランが出ないようにする監視役として再利用できる」


 そんな先のことまで俺は考えていないので、頭いい人ってすげぇな。

 この案の要は、事前に掲示板などで表明する方式だということ。つまり言うだけ言って俺達が表明しなければ、後は表明した連中で勝手に面倒なことやってくれるのだ……!

 俺の真意は悟られることなく、人集めの手段としてこの案が採用される。いや、たぶん姐御は気付いていると思うんだが、きっと同盟なんて面倒臭いと判断しているに違いない。だからこそニャドスさんの思考を誘導するかのように、いの一番で賛成派に回ったのだ。

 このコロポックルも大概邪悪だよなと思いつつ、議題はホーリーグレイルの扱いへ変わる。

 現時点でクランを作っても嫌がらせ以上の効果はないので、それなら感染者の治療用として温存しておこうということになり、ひとまずこちらで預かっておくことにした。

 で、最後にいつ仕掛けるかだが。


「これからだ」


 準備もあるし明日かなー、なんて意見が最初に出たところで、デル2さんが迷いなく言い切った。


「早ければ早いほどいい。時間は敵を利するだけだ。

 こうしている間にも、感染者とやらは増えているのだろう」


 それだけ言うと、デル2さんは腰を上げてしまった。


「手配は任せた。俺は消耗品を補充しておく」


 確定事項のように言い切り、そのまま立ち去るデル2さん。

 遠ざかる背中をやや唖然として見送っていると、困ったようにダフニさんが言う。


「あ、ええと……デル2さんの判断なら、正しいと思います。

 急な話ですが、皆さんはもう動けますか?」


「どうよ、姐御」


「特に問題はないですかねー。

 掲示板に情報流しておきますので、そちらはクランをまとめておいてくださいな」


 それから姐御はクラレット達に、消耗品の補充などを言いつける。

 じゃあ俺もその手伝いを、と思ったら肩を掴まれた。


「ガウス君は演説役ですよー。――台本、考えましょうね?」


「やっぱ明日にしない?」


「駄目です」


 そっか。駄目か。くそったれ。

 残された時間は一時間もないだろう。俺は必死の思いで台本を書き上げようとしたが、全然書き上がらずにタイムアウトした。

 じゃあ出発しようか、なんて気軽に言ってくるニャドスさんに交代してくれとお願いしてみたが、ナップが帝国にいる以上、変に勘繰られても困るからと断られてしまった。

 い、いいぜ……出たとこ勝負は嫌いじゃないからな!


     ○


 噴水広場には思っていた以上に多くのプレイヤーが集まっていた。

 野次馬目的で、実際には戦争に参加しないプレイヤーもいるのだと思うが、総数は三百人を超えるだろう。数だけで言えば帝国はもっと上だが、ログインしていない者もいるだろうし、これなら勝負になりそうだ。

 広場の中央には木箱を積んで作られた舞台があり、俺は今、そこに立っている。

 一人だけでは絵にならないので、傍らにはニャドスさんと、フル装備のスピカを立たせてある。ハッタリ用にもっと数が欲しいと思うのだが、あんまり多いと今度は俺が目立たないということで却下されてしまった。

 仕方がないので、せめてもの生贄として姐御を肩に座らせておいた。

 ……俺を見るプレイヤー達の視線に困惑を感じるが、姐御はカンペというか、俺が言葉に困った時に助け舟を出す役でもあるので、手元に置いておきたかったのだ。

 さて。いよいよ演説を始めるために、俺は前に一歩出て、声を張り上げた。


「まずは集まってくれてありがとう!

 もう分かっていると思うが、これはレジスタンスの決起集会だ!

 ウードン帝国を打倒し、新たな秩序を築くために、皆の力を貸して欲しい!」


 サクラとして仕込んでおいた、ナップクランの下っ端達が歓声を上げる。それに乗せられて他のプレイヤーからも歓声が上がり、掴みは上手くいったと安堵しながら言葉を続けた。


「俺はガウス! 流星のガウスと言えば、知ってる奴もいるだろう!」


 静寂が満ちた。

 一雫の涙を振り払い、叫ぶ。


「ねえ、誰か知らない!? 俺のこと!

 あ、トーマ! トーマいるじゃん! お前知ってるよな俺!

 おい目ぇ逸らすなよ、皆に俺のこと教えてやってくれよ!!」


 見知った人影に向かって熱烈に叫んでいると、後ろからニャドスさんが言う。


「話がズレてるぞ、真面目にやるんだ」


 大真面目なんですけど!?

 だが俺の内心を知ってか知らずか、姐御(カンペ)までもが言う。


「誰も興味ないと思いますから、本題話しましょう」


 名付け親からの興味ない宣言。これってネグレクトでは?

 俺は人々の無関心さに心の中で泣き、咳払いをして話を続けた。


「ま、まあ、俺が誰だとかどうでもいいよな、うん! な!

 問題はウードン帝国だよ! あいつら滅茶苦茶だと思わねぇか!?

 臨時広場も使えなくなっちまったし、許せねぇよな!」


 そうだそうだと叫ぶサクラ達。同調圧力の有効活用だが、これの言い出しっぺはニャドスさんである。あの人は人間心理なんて道具の一種だとしか思ってない、酷い人なのだ。

 そして煽る声が減った頃合いで、俺は皆を見渡した。


「だからよ、俺達の力を合わせて戦おうぜ!

 MMOってのは一人一人が主人公だ。皆が自由でなくちゃいけない。

 俺はそう思ってるけど、お前らはどうよ。

 自分が主人公だって思えるか? 自由でいたいって思えるか?

 そうだって言えるなら、力を貸してくれ。そうだって信じられるなら、力を貸してくれ。

 俺と仲間だけじゃ帝国には勝てねぇ! でも、お前らとなら勝てるって、俺は信じる!!」


 最早サクラを必要とせず、歓声が湧き上がる。

 野次馬をどれだけ取り込めたかは確かめられないが、少なくない数が乗ってくれた手応えがある。

 そもそもここに集まった時点で、こいつらはお祭り騒ぎが好きな馬鹿野郎どもなのだ。乗せてやるのに乗り遅れるなんて真似、まさかするわけがない。

 だからこれ以上の演説は不要だ。後は引っ張るだけでいい。

 俺は振り返ってニャドスさんと頷きを交わし、正面に向き直った。


「さあ行こうぜ! うどん食ってる奴らに、一泡吹かせてやろう!!」


 そして装備解除。この最高潮のシーンで全裸になり、俺の魅力で引っ張る……!

 股間は表現規制による謎発光で輝くので、何の問題もない。

 純粋な裸身の魅力をお伝えすることで、群衆のハートを鷲掴みさ!

 だが予想とは裏腹に、響き渡ったのは歓声ではなく悲鳴だった。あれぇ?


「やっぱニャドスさんが言ったように、理解者は二%しかいないのか」


 悲しいね? と振り返ったら、ニャドスさんは大口を開けて爆笑していた。

 肩に担ぐ姐御は「下ろして、下ろして」と暴れているが、がっちりホールド。逃さんよ。

 計画が狂ってしまったものの、こうなってはもう引き下がることもできない。

 俺はちょっと下がって助走をつけると、木箱の舞台から飛び降りた。


「とうっ!」


 着地。そのまま勢いで駆け出し、モーゼの海割りがごとく道を開ける群衆に叫ぶ。


「さあ俺に続け! プレイヤー代表として、帝国をぶん殴りに行くぞ!!」


「だ、誰かあの馬鹿を止めろ――!?」「あんなのを代表にしたの誰だ!!」「流星って股間のぼかしかよ!」「服着てよ兄ちゃん!!」「うああ続きたくねぇ!!」「でも待って、いいお尻してる!」「尚更見たくねぇよ!?」「ってか、あいつが先頭だと俺ら同類に思われるぞ!?」「殺してでも止めろ! 殺せ!」


 思い思いの言葉を叫びながら、皆は俺の後に続く。何言ってんのか全然聞こえないけど。

 でも、そっか……やっと、俺の魅力が伝わったんだね……。

 俺は笑顔で首だけ後ろに向けると、感謝の言葉を伝えることにした。


「ありがとなトーマ! お前が俺を信じてくれたおかげだぜ!」


「こっちに矛先向けんなぁ――!?」


 おいおい、モブキャラ気取るのもいいけど、感謝ぐらい素直に受け取れよな。

 なんかもう楽しくて高笑いを上げた俺は、そのまま帝国の拠点に向かって爆走する。

 ――そして街を出たところで魔法食らって殺された。

 大衆とはいつの時代も、芸術を理解しない愚かな生き物なのである。

光の戦士になりました。

……取材! これは取材だから!

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