第七話 ホーリーグレイル
古戦場から逃げ、逃げ……。
酒場を回って借りた金で吟遊詩人を買収しつつ、俺は街の様子を見ていた。
明らかに空気が昨日と変わっている。プレイヤーの間では、ウードン帝国に対して向ける感情の主流は警戒と猜疑だった。しかし今、漏れ聞こえる声は肯定の割合が増え、空気も弛緩してしまっている。
ゲーム内でも急速に感染が広まっているのだ。このままではそう遠くない内に、それこそ数日もあればごく少数の例外を除いて、全てのプレイヤーがウードン帝国へ所属することになるだろう。
そんなことを考えていると、PTチャットからツバメの声が響いた。
『様子見して来たけど、向こうも動き始めたみたい。
臨時広場まで広がった支配圏で、通行税を取り始めてるよ』
状況の悪化を告げられる。その行為に踏み切ったのは、もう他のプレイヤーと全面的に事を構えても平気だと確信したからか。そうでなくとも、烏合の衆が襲撃した程度では相手にもならないだろう。
厄介なのは支配圏に入るだけで通行税を取られるということ。所持金から直接引かれるシステムだが、偵察するだけでもコストが必要になってしまう。支払いを拒否することもできるが、それが原因で指名手配でもされてしまったら、今度は街での行動が困難になってしまう。
『料金設定は千ゴールド、駅馬車と同じぐらいだね。
一回払えば一時間は滞在できる設定になってるよ』
『臨時広場の様子はどうですかー?』
『感染してない人は引き上げて、南門の外に集まってるみたい。
西門に何人か残って、案内と注意喚起してるよ』
まだまともな連中は、対立を避けて移動した形か。
気になるのは通行税の金額だが、不特定多数から徴収できるとしても安い。設定できる上限があるのだとは思うが、それにしてもだ。狙いとしては法外な額を避けることで、在野のプレイヤーに敵対よりも放置を選ばせようとしている、といった感じだろうか。
正気だった頃の緑葉さんは裏でガンガン金が動いていると言っていたし、帝国の中枢にいるのは商人達。想像でしかないが、内部では搾取に近い形で商売が行われているのかもしれない。
『私からも報告。ラシアの井戸、全部帝国が押さえてる』
クラレットの言葉に、なんで井戸? と不思議に思う。
疑問に対する答えは、呆れ混じりの声で姐御が告げた。
『うどんを茹でる水が欲しいんですね、分かります。
こっち、市場に来てますけど、案の定小麦粉が消えてますねー』
『タル姉ちゃん、あそこでネギ買い占めてる人いるよ』
『薬味も抜かりなしですかー』
「……あいつら、ゲーム内でもうどん作る気なの?」
そりゃまあ、大抵の材料は手に入るだろうけどさぁ。
ゲーム内で食ったところで、規制されてるから不味いだけだろうに。
『たぶん、理屈じゃないんだと思いますよー?』
「ってーと?」
『彼らはうどんを主食だと思い込まされ、行動原理はうどんが最優先になってるんですよ。美味しいとか不味いとか二の次で、うどんであるか否かが重要なんですね。
で、次はいつでもうどんを食べられる環境を、ゲーム内にも用意しようと。そんな感じで動いてるんじゃないですかねー』
「食えればいいってわけか」
そりゃまた、何とも雑な話だ。
米不足の時、輸入米が口に合わないってんで嫌がった日本人は多かったらしいが、帝国にそんな選り好みはない。不味いどころか汚物同然の代物であっても、それをうどんと認識できるのなら、奴らは喜んで食べるのかもしれない。
「……いや、尚更シャレになってねぇな」
『リアルでもそうなると、察せますからねー』
うどん不足からの暴動なんて、まだ可愛い想像だった。
小麦粉の不足を補おうとして、混ぜられる物はとにかく何でも混ぜて、食べれば死ぬようなうどんまで食べる。そんなおぞましい事態が、起きようとしているのだ。
事態は一刻を争う。だが解決する手段はまだ、掴めていない。
「なあ皆、どうやったら解決すると思う」
漠然とした問いかけは、手がかりのなさを物語っていた。
顔剥ぎセーラーの時とは違う。ただ殺せばよかったあの時とは違って、今回は感染者を殴ったところで正気に戻るとは思えないし、元に戻す手段を考えなければならない。
こういう時、眉唾ものでもいいから推論を述べられるカルガモがいないのが痛い。役立ちそうな時に使えないとか無益過ぎる。敵に回した時だけ異様に邪魔なのも害悪ポイントだ。
「ああもう、ホント死なねぇかなあの害鳥――!!」
『真面目な話から急にえぐい角度でキレるよね、この人』
呆れを持った響きはツバメの声だ。
彼女はさらにため息の音をPTチャットに乗せて、
『解決って言っても、まず何が原因か考えなきゃ。
正気に戻す手段が見つかっても、再発したら意味ないじゃん』
『帝国か、ウードンさんが原因だと思うけど……』
『――あ、それでしたら一つ、心当たりが』
お。流石は頭脳労働担当、冴えていらっしゃる。
相槌を打って続きを促すと、姐御はたぶんですけど、と前置きして言う。
『原因はクラン設立に使ったアイテム、ホーリーグレイルだと思うんですよね。
大勢に信仰されるものは、それに比例した強い力を持つんじゃないかと考えまして。そういった対象になりそうなものと言えば、ホーリーグレイルしかないじゃないですか』
『タル姉ちゃん、ホーリーグレイルって何?』
「うちの妹が馬鹿でごめんな。俺も詳しく知らないから教えてください」
『兄ちゃんも馬鹿じゃん!』
「名前ぐらいは知ってますぅー!」
『この兄妹、悲しいレベルでケンカするよねホント』
ツバメにだけは憐れまれたくねぇ……!
しかしスピカとツバメ、どちらを優先するか一瞬迷ってしまったせいで、何か言うよりも先に姐御がホーリーグレイルの説明を始めた。
姐御の語るところによれば、ホーリーグレイル――いわゆる聖杯と呼ばれるものはいくつかあるそうだが、世に広く知られているのは聖杯伝説のものだという。
磔刑にされたキリストの血を受けた杯こそが聖杯であり、それは傷や病を癒やしたり、死者を復活させる力を持つとされて、様々な物語に登場することとなった。
物語の中では時に奇跡としか言いようのない力を発揮することもあり、身も蓋もない言い方をすれば、作者に都合よくどんな願いも叶えられる便利アイテム、ということになる。
『そのあたりが原因なんじゃないかなー、と思うんですよ。
ウードンさんなら、うっかり聖杯に願ったりしそうですし。皆がうどんを好きになれ、とか』
「微笑ましい願いに聞こえるけど、結果がこれなんだよなぁ」
『無限の愛って恐ろしいですよねー』
知った風な口を利いてるが、あんたのそれは耳年増だと思う。
しかし都合よく、どんな願いも叶えられる便利アイテム、か。他に心当たりもないし、原因はこれでいいだろう。
そうなると対処法だが……案外、簡単なんじゃねぇか?
「なあ姐御、確認なんだけどさ。
クランを潰す条件って、拠点に置かれたホーリーグレイルの破壊だよな」
『はい。クランの規模によって、耐久値は異なるそうですけど。
つまり戦争に勝っちゃえば、ひとまず再発は防げるということですねー』
なるほど。そのあたりの推測をしていたから、姐御にはちょっと余裕があったのか。
そういう大事なことはちゃんと共有しろよ、コロポックル……!
密かに忠誠値を下げていると、コロポックルが声のトーンと落として言う。
『問題は再発を防げるだけで、元に戻せるわけじゃないことですねー。
ホーリーグレイル壊して、元通りになったら楽でいいんですけど』
ああ、根本的な解決になっていないから、聞かれるまで言わなかったのか。
ホーリーグレイルを破壊したら元に戻るかもしれないし、戻らないかもしれない。そこは試してみないと分からないが、元に戻す手段も考えておきたかったのだろう。
と、そこへクラレットが言う。
『待って、タルさん。聖杯って傷や病を癒せるんだよね?
それなら別のホーリーグレイルを使って、治療できないかな』
『あ――いいですね! それ名案ですよ名案!
便利な道具があるんですから、こっちでも活用しちゃいましょう!』
「毒を以て毒を制すってやつだな」
いや、何か違う気もするけど。
個人的にはホーリーグレイルを破壊すれば、感染者は元に戻るのではないかと思う。イメージとしては電波だ。送信するのがホーリーグレイルで、受信するのが感染者。常に影響を与えることで、洗脳状態を保っているように思う。
もっとも確証がない以上、保険としてホーリーグレイルを用意しておきたいのは事実だ。
「けど、根本的な解決も考えておかねぇとな。
誰かがクラン作るたびに、こんな騒動が起きたら大変だぜ」
『そこも問題なんですよねー。
ホーリーグレイルにそんな力があると私達が確信すれば、より強力にもなりますし』
あ、そうか。確かにそうなるか。
思っていた以上に面倒臭い性質してるなぁ。どういう理屈なのか考えるだけで、強化に繋がってしまう。不幸中の幸いというか、今回はアイテムだからそこまで困らないが、これが生物だったらやってられない。攻略法を考えるだけで強化されるとか、クソゲー過ぎる。
そんなことを考えていたら、スピカの声がした。
『あのさー。二度と願いを叶えるなって、聖杯に願うのはどう?』
『…………そ、その手もありますね、うん』
「おい待てコロポックル、何だ今の間は。
それでホーリーグレイル使えなくなったら惜しいとか、ちょっと思っただろ」
『き、気のせいですよ? ええ!
私がそんな、俗っぽいこと思うわけないじゃないですか―!
っていうか誰がコロポックルですか誰が。潰しますよ』
「くぅ~ん」
『ガウス君も余計なこと言わなきゃ長生きできるのに。
あ、ホーリーグレイル手に入っても、タルさんには渡さない方針で』
『同じ発想ができたガウスに渡すのも危ない気がする』
「くぅ~ん」
『ぐすん。皆さんが私を信じてくれなくて悲しいです』
身から出た錆だよコロポックル。
けどまあ、根本的な解決としてはスピカの案が妥当か。二度と使えなくなるのは惜しい、本当に惜しいが、コントロールできるとも思えないし、仕方ないだろう。
その後、それぞれに偵察などを終えたら、一度溜まり場に集まろうということになった。
○
「――というわけでまあ、全面戦争に勝利する必要がありますね」
溜まり場に集合し、スピカに肩車されたまま姐御が結論を述べる。
原因と対策も思いついたが、そもそも帝国に勝たなくては話にならない。なのでここからは、どうやって数で上回る帝国を倒すか、というのが最重要事項だ。
「幸いなのがうどん作ってることですねー。
総資産がどうなってるか分かりませんけど、彼ら戦場でもうどん茹でる気ですよ。
装備や消耗品に関しては、最低限のものになってるでしょうね」
「普通なら馬鹿な話なんだが、あいつらそれをおかしいって思わないもんな」
そのためレジスタンス側が金の使い方を間違えなければ、その点では優位に立てるだろう。極端な話、普通に狩りして稼いでるプレイヤーなら、余裕を持って戦える筈だ。
問題は、と姐御が言う。
「死に戻りにどう対処するかですねー。
クランシステムの説明見るに、戦争中はペナルティーあるみたいですけど」
「ああ、戦力に応じて待機時間が増えるってやつな」
攻めるにしろ守るにしろ、戦争中と判断されたクランのプレイヤーと、その支配圏の中で死亡したプレイヤーは、復活までに時間がかかる。レベルなどから算出される基礎評価に、戦争中の活躍を加味したものが待機時間となり、強いプレイヤーほど復活が遅くなる仕組みだ。
具体的な長さはまだ前例がないために分からないが、しかし死に戻り可能だというのは要注意だ。強敵は倒すよりも、場合によっては消耗させて足止めする方がいいのかもしれない。
「基本、後衛は前に出ないと思いますけど、そこを死に戻りしてきた敵に強襲されたら面倒なんですよね。
ですけどあんまり護衛を増やすと、前線を突破できないでしょうし」
「タルさん、短期決戦はどう? 一気に押し切っちゃえば、考えなくていいしさ」
「それができれば理想的ですねー。
ただその……第一陣は半壊すると思うんですよ」
真面目な顔をした姐御は下を見て、スピカに問いかける。
「スピカさん、スペック的にはトップクラスのタンクですよね。
どうです? 帝国が使ってたバリスタ、受け止められますか」
「うーん。タイミング合わせられたら、スキル使って……。
いきなり飛んできたら、たぶん無理かなー」
迷えるだけの硬さがある時点で頭おかしいと思う。
一方、姐御は返答に頷いて、
「どれだけ数を揃えてるか分かりませんけど、第一陣はあれを受けるんです。
あの威力と貫通力ですから、ごっそり削られますよ。
流石に連射はできないでしょうし、第一陣を捨て石にして、本命は第二陣ですねー」
「つっても、ある程度は数を出さねぇと、第一陣にバリスタを使い惜しみされるかも、ってところか」
「ですです。そうなってくると、短期決戦で押し切れる戦力を用意できるか……」
難しいでしょうね、と嘆息して。
そこへ代案とばかりにクラレットが口を開いた。
「……少数精鋭で、強引に切り込むのは?」
「一番駄目な手ですね。いえ、普通ならそれもありなんですけど。
今回は剣まで持った本気のカモさんが、敵になってますので……」
「ナップ程度なら、俺一人でも抑え込めるんだけどなぁ。
カルガモは無理。あれ人間の形したレイドボスだから」
少なくともプレイヤーという、同じ土俵で勝負する場合において、あいつはそういう評価になる。少数精鋭で乗り込もうもんなら、こっちがカモにされるのがオチなのだ。
それにあれこれ考えるのはいいが、可能かどうかも考えなくちゃいけない。
「あんまり複雑な作戦にすると、連携取れないだろうしなぁ。
だからまあ。いくつかの塊に分けて、順番に突撃するのが精一杯だと思うぜ」
「もー! バリスタさえなければ!」
スピカの上で荒ぶった姐御は、
「でもロマン溢れるので、実装した運営はナイスです」
「おっきい武器ってカッコいいよね!」
「ねー! 良いですよねー!」
はしゃぐコロポックルとスピカ。深刻さが深刻に足りない。
俺は二人から目を逸らし、ツバメに目を向けた。
「どうよツバメ。悪辣な名案とかない?」
「ガウス君はあたしをどう思ってるのかな?」
そういうのが得意な奴だと思ってるよ。
「んー、でもバリスタってあれ、基本は城壁の上でしょ?
城門の奥にも置いてそうだけど、例外はそれぐらいだろうし」
話すと言うよりは、思考をまとめるように呟いて。
次の瞬間、ツバメがニヤリと悪い笑みを浮かべるのを俺は見た。
「火矢とかさ。そういうので燃やすってどう?」
「あー、それ有効そうですね。
結構精密ですし、ちょっと燃やすだけで撃てなくなるかもしれません」
「流石だなツバメ! 嫌がらせを考えさせたら天下一だぜ!」
「褒めてないよね? 絶対褒めてないよね!?」
まあまあ落ち着いて、と皆でツバメを宥める。
ほら、俺達は性根が真っ直ぐだからね。こういう鬼畜の所業を考えられるのは、ツバメだけの大切な役割なんだよと言い聞かせたら、めっちゃ蹴られた。解せぬ。
そんな俺達に苦笑を向けて、クラレットが言う。
「で、でもほら、一歩前進だよツバメ」
「こんな一歩、あたしは踏み出したくなかった……!」
諦めろって。お前、今後もそういうポジションだよたぶん。
不満そうなツバメは唇を尖らせて、
「あと敵の戦力、先に削れるだけ削っときたいよね。
井戸に毒でも入れたら、うどん作って自滅してくれるんじゃない?」
「「「「うわぁ」」」」
おまけみたいに言った作戦がマジ鬼畜の所業でドン引き。
スピカまでドン引きするとか、よっぽどだぞお前。
「べ、別に変なこと言ってないでしょ!?
街の人まで巻き込むのはどうかなーって思うけど、手段選んでられないし!」
「あのね、ツバメ。それならそれで、毒を混ぜた小麦粉を売ればいいと思うの」
「あっ」
「それとですね。井戸に毒とか、バレたら王国軍に殺されますよ。
もっと人道的な作戦がいいなって、お姉さん思います」
バレなきゃいいって思ってそう。
しかし姐御にまで言われたのは堪えたようで、ツバメは膝を折った。
「うそ……あたし、タルさんほどじゃないって思ってたのに……」
「この子も私をどう思ってるんですかね」
ジト目でツバメを見下ろし、気を取り直したように姐御は言う。
「いずれにせよ毒は確実性に欠けますし、それはなしですねー。
火矢なり魔法なりで燃やして、突撃するのを基本戦術にしましょうか」
「ま、失敗したらしたで、再戦すりゃいいもんな」
うどん最優先の帝国は、ろくに補給とかもしないだろうし。
そんな感じでおおまかな方針は決まり、あとはいつ、どうやってレジスタンスの勧誘をするかが議題となった。
「数は欲しいんですけど、事前に集めても感染して裏切られたら困るんですよねー」
「やっぱ仕掛ける直前がいいんじゃねぇか?
どっかに人集めて、煽って勢いで突っ込むのが一番だろ」
「それが無難ですかねー。
ただ私、演説っていうか、大勢を煽動するのって苦手なんですよね」
「そうか?」
「だって恥ずかしいですし、私は清純派ですからー」
しなを作って照れたように笑う姐御。
皆は鼻で笑った。
「ちょっと何ですかその反応!」
「魔王って呼ばれてる人がそれはないわ」
「急に真顔で言うのやめませんか」
どうしろってんだ。
苦笑しつつ、俺はクラレットの方へ軽く目を向けた。
視線に気付いたクラレットは、大丈夫だよ、と。唇の動きで伝えて、微笑んでくれた。
よし。背中は押してもらえたし、それなら俺も頑張らなきゃな。
「じゃ、姐御がやらねぇんなら、その役は俺がするよ」
「えぇー? ガウス君、そういうのできる人ですかー?」
「いやまあ、俺もそういうキャラじゃねぇよな、とは思うんだけど」
俺でも主役になれると、思ってくれてる人がいるわけだし。
「たまには民衆を導くヒーローってのも、悪くはないだろ」
「兄ちゃんの場合、ハーメルンの笛吹き男って感じ」
「もっとお兄ちゃんを信じろよ……!」
しかしツバメと姐御からも、そういう感じだよね、みたいなことを言われてしまう。
おかしい。どうしてだ。状況的には皆のために立ち上がったヒーローじゃないか。そう、俺もヒーローになれるんだよ……! なあ、そうだよなクラレット!?
ぐりんと首を回してクラレットの方を向けば、クラレットは高速で顔を逸らした。
だ、大丈夫。知ってる、俺知ってるよ。
笛吹き男の方が似合ってると思ったとかじゃなくて、励ます言葉が思い浮かばないだけなんだろ? 下手な励ましは逆効果って相場は決まってるし! 正解は沈黙……! そういうことだよな!
必死に自分を騙していると、ささやきが飛んできた。
『ガウスさん、ホーリーグレイル出ました』
早くない?
どんなペースで乱獲したのか、尋ねるのはちょっと怖かった。




