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竜と信仰の奇譚  作者: 長月十九
第三章 サンクチュアリ・オブ・ウードン
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第五話 うどん星人


 夜半過ぎから降り始めた雨は、朝になってもしとしとと降り続けていた。

 この感じだと今日は一日中雨だろう。梅雨は雨が多くて嫌になるが、天気に文句を言っても仕方がない。とはいえ、そろそろ湿気対策をしなきゃいけないよなと、俺は朝から学校の体育倉庫に来ていた。

 剣道の防具は備品として体育館の倉庫に突っ込まれているのだが、管理は剣道部に丸投げされていたりする。真面目な連中は自分の防具を買ってるので、結果として管理は幽霊部員である俺の仕事になるのだった。マジ面倒臭いが、カビた防具を着るのは俺も嫌なので仕方ない。

 まあ管理と言っても、やることは大したものじゃない。いくつかの防具を袋から出して、空きスペースに並べて干しておく。何日かしたら入れ替えて、別の防具を干すというだけ。


「よし、こんなもんか」


 防具を干し終えて倉庫を出る。体育館では剣道部も朝練中なわけだが、いやー、俺は防具を干してたからなー。仕事してたから、真面目に練習する時間ないわー。時間あったら真面目にやるんだけどなー。

 でもまあ、一応ね? 練習に参加した……って形式だけは作っておかないとね? いつものようにフル装備で俺を待っているテッシーは無視して、列になって素振りしているところへ混ざっておく。

 時間も時間なので、ちょっと素振りをしたら朝練終了。ふぅ、いい汗かいたぜ!


「――あ、守屋。ちょっと待った」


 剣道少年らしい爽やかな空気を醸し出し、さあ部室に戻って着替えるかと歩き出そうとしたら、伊吹先輩に呼び止められる。はいはい、何でございましょうかと、お傍へ。

 先輩は少し申し訳なさそうに、眉を下げて笑いながら言う。


「この前、あんたに教えてもらったゲームあるでしょ。EoT。

 やってみたんだけどさ、あれね、ちょっと肌に合わないわ」


「あー。わりとリアル志向な筈ですけど、どのあたりがダメでした?」


 やっぱ合戦で弓とか銃とか出るあたりかなぁ。そこさえ気にしなかったら、いくらでもチャンバラできて楽しいバカゲーなんだけど。

 しかし俺の予想とは裏腹に先輩は、


「斬った感触が半端で、どうにもしっくりこなくてね」


 マジか。そのあたりの感触に関しては、規制スレスレの再現度だぞあれ。

 それを半端と言い切るなんて、まさか本当に人間斬ったことあんのかこの人。

 危ない人を見るような俺の視線に気付いたのか、先輩は慌てて言い訳する。


「あ、いや、出入りしてる道場の先生が本格派でね。

 一度ぐらい経験しておけって、鹿肉を刀で斬らせてもらったんだよ」


 猟師の知り合いでもいれば、まあ調達はできるだろうけど……。

 女子高生に真剣持たせて肉塊斬らせるって、本格派で済ませていいのだろうか。

 これ通報案件じゃねぇかなぁと訝しむが、先輩の中では問題ないらしく、話題を変える。


「ま、感触も理由だけど、遊び相手がいないってのもね」


「友達誘えるようなゲームじゃないっすもんね」


「いや、仕合って楽しい相手がランカーぐらいでさ」


 遊び相手ってそういう意味?

 Empire of Tycoonは確かにガチ勢の少ないゲームだが、それでもランカーじゃないと勝負にならないって、ひょっとしてあれか。この人、剣道よりも剣術の方が上手いタイプか。

 やだ怖い。こんな身近にカルガモみたいな女がいた。


「それでさ守屋。他にいいゲーム知らない?

 斬った感触はもうちょっと甘かったら、逆に気にならないんだけど」


「えぇー……もういっそのこと、撃剣興行にでも参加したらいいんじゃないっすか」


「その手もなくはないけど、面倒事があったら嫌だしね。

 やるにしても夏が終わって、引退してからさ」


 やる気ではあるのかよ……。

 ちなみに撃剣興行は物好きが始めた剣術の賭け試合で、ARを利用した視覚的にも派手なスポーツだ。名前は明治時代に行われていた興行に由来するらしいが、まったくの別物になっている。

 賭博としては少額なので健全な部類ではあるのだが、まあ金が絡むと熱くなる奴はいるもので、たまーに揉め事も起きている。先輩はそれで部に迷惑をかけるのを嫌ったのだろう。

 しかし撃剣興行も駄目となると、やっぱりVRゲームか。


「んー。ゲームだとリアル志向の格ゲーぐらいになっちゃいますね。

 リアリティー求めないなら、対人要素のあるMMORPGでもいいとは思いますけど」


「そうなるか……ん、サンキュ。参考にさせてもらうよ」


「うっす。そんじゃ、俺はこれで」


 軽く頭を下げて、ちょっと話し込んだもんだからいそいそと部室に向かう。

 つーか伊吹先輩、引退したら撃剣興行やるかもしんないのか。俺もバイトがない時の小遣い稼ぎに参加してるので、遭遇しないように注意しておこう。

 怒られるのが嫌とかではなく、正々堂々の勝負しかできない撃剣では勝ち目がねーのだ。


     ○


「ミッキー、学食行こうぜ学食」


 昼休み。弁当を食べようとする俺の平和を乱す馬鹿(テッシー)が現れる。

 雨だから外へ食べに行くのが億劫なのは分かるが、それなら通学中にコンビニ弁当とかを買っておいて、混雑する学食を避けるテッシーにしては珍しい提案だ。


「ははーん。さては学食のおばちゃんに惚れたか」


「どういう推理だよそれ」


 露骨に嫌そうな顔をする。女なら何でもいい境地に達したわけではないらしい。

 テッシーはうんざりした顔で窓――降り続ける雨を見て言う。


「こんな天気だしね。寒いわけじゃないけど、温かいものが食べたいと思ってさ」


「温かいものは食えても、人の温もりは買えないぞ」


「僕を何だと思ってるんだ……」


 そういう奴だと思ってる。


「ま、学食ぐらいなら付き合ってやるよ」


「お、今日はサービスいいじゃん。何かいいことあった?」


「たまには善行で徳を積むのも悪くないと思って」


「友情を徳に変換するのやめない?」


 友情がないから徳になるのだが、そこまで言うと泣きそうなのでやめよう。

 俺達は気持ち早足で学食に移動し、券売機に並ぶテッシーへ先に席を取っておくと告げて、俺は空いている席を確保した。

 学食は天気のせいもあってか、普段よりも混み合っている気がする。俺は弁当を忘れた時か、テッシーが気まぐれを起こした時ぐらいしか利用しないので、これは大雑把な感想だけど。

 で、のんびり弁当を食べていると、やがてトレーを持ったテッシーが対面に座った。


「うわ、先に食べてるし。待っててくれてもいいじゃん」


「ぼけーっと座ってたら、ただの迷惑な奴だろ」


 そういうマナー違反はよろしくない。俺だったらそんな奴は蹴り倒したくなるので、俺もやらない。やっぱ人間、自分がされて嫌なことを人にやっちゃいけないわけよ。

 さて、テッシーは何を食べるのかと思えば、きつねうどんか。それなら一味唐辛子が欲しいだろうと、テーブルの上に置いてある小瓶を取って、ドバドバとぶっかけてあげる。


「ば、ストップ! 多い多い!?」


「体を温めてあげようと思ってさ。善意、善意」


「ハ。仮に善意だとしても、結果が最悪なら悪鬼の所業だよ」


 赤くなったつゆを見て、うわー、と声を洩らすテッシー。恐る恐る割り箸で麺を取って口に運び、最初は顔をしかめたものの、このぐらいならイケると判断したのか麺をすすり出した。

 ちっ、食えなかったらダメだよなと手加減したが、もっと攻めてもよかったか。


「――ふぅ。学食で食べるのも久々だけど、うどんっていいよね」


 それでもちょっと休みたいのか、手を止めてテッシーは言う。


「別に僕ぁどうでもいいんだけど、安くて美味しいしさ。

 薬味とトッピングだけでも充分に変化を出せるし、完成度高いよね」


「えらく持ち上げるけどお前、うどん好きだっけ?」


 家が家だから、わりと渋い和食が好きなのは知ってるけど。

 だが問われたテッシーはきょとんとして、


「変なこと聞くね、ミッキー。うどんに好きも嫌いもないでしょ」


「お、おう……?」


「ああでも、うどんの好みはあるよね。

 僕はコシのある讃岐うどんも好きだけど、ふわっと柔らかいうどんも好きだなぁ」


 意外な一面というか……こいつ結構なうどんフリークだったのか。

 俺は適当に相槌を打ちつつ、だけど同じ麺類ならばと考えたことを言う。


「でも俺、うどんより蕎麦の方が好きだな」


「――――は?」


「うどんも確かに美味いけどさ、蕎麦の風味が好きなんだよな」


「何それ、全っ然意味分かんない」


 ……おや? 心なしかテッシーの視線が殺意を帯びているような?

 テッシーは親の仇とばかりに俺を睨み、低い声で言う。


「蕎麦なんて貧しい土地の食べ物じゃん。

 それ以外に食べ物がないなら、まあ仕方ないと思うよ?

 だけどうどんか蕎麦を選べって言われたら、うどんに決まってるでしょ。

 え、何? ひょっとしてミッキー、頭おかしくなった?」


 おかしくなったのはお前だと大声で叫びたい。でも怖い。

 つーかこいつ、うどんフリークなんてレベルじゃねぇ。うどんに魂を捧げた狂信者だ。下手なことを言おうもんなら、信教の違いを理由に殺されかねない。


「は、ははは、冗談に決まってるだろテッシー!

 お前もマジに受け取るなよ、ツッコミ待ちなんだから!」


「ああ、やっぱり? ちょっとだけさ、僕を試してるのかと思ったんだけど」


 試すって何だよ。どういう意味だよ。信仰を試すってことか。

 本格的に理解を超えてきたので、この話題にはもうノータッチでいたい。俺は多少強引ながらも、テッシーが安堵して笑っている隙に話題を変えることにした。


「しっかし梅雨とはいえ、雨が続くと嫌になるよな。

 スカっと晴れた方が気持ちいいのに」


「そうは言っても、雨が降らないと僕らも困ることになるんだぜ?

 もし渇水にでもなったら、うどんを茹でるのも大変だし」


 えぇぇ? この路線からでもうどんに繋げられるのぉ?

 駄目だ、もう何を言っても駄目な気がする。ここは閉じた円環なんだ。うどんに完全包囲されているから、何を話したところでうどんの話になるんだ。無限ループするんだ。

 なんか背筋がうすら寒くなってきたので、俺は弁当をかっ込み急いで食べ終える。


「――じゃ。俺、教室戻るわ」


「え、早くないミッキー!?」


「お前も急げよ、麺がのびちまうぞ」


 指摘された途端、それもそうかとうどんに集中するテッシー。

 俺は逃げるように学食を出て行くが――あれ?

 急いでたからはっきりとは見えなかったが、うどん食ってる奴、多くね?


     ○


 放課後。うどん星人になってしまったテッシーは、部活に行こうとまとわりついてきたが、そもそも今日の放課後は休みなのである。体育館も使えないから、やるにしても適当な場所で筋トレぐらいしかできないのに、あいつは何を考えているのか。

 何にせよ、人と会う約束があるからと断って、駅前のザウルスバーガーに向かう。

 城山さんには昼休みにメッセを送っており、じゃあ会って話そうということになったので、ザウルスを指定した。場所に深い意味はないが、強いて言うならポテト食べたかった。

 移動中、もうすぐ駅前というところで、城山さんから到着したとメッセが入る。別に測ったわけじゃないけど、やっぱ星華台高校からの方が近いのか。

 数分後には俺もザウルスに到着したので、まずはポテトとジュースを注文。それからトレーを持って店内を見回せば、窓際の席に城山さんがいたのでそちらへ向かった。


「うっす、待たせちまったみたいで」


「いえいえ、気にしないでください」


 穏やかに微笑む城山さん。顔剥ぎセーラーの件が解決したことを伝えて以来、あの怪我をした猫のような、張り詰めた雰囲気はすっかり和らいでいる。

 これが本来の彼女の姿なのだと思えば、俺も首を突っ込んだ甲斐が――おい待て、マジか城山さん。ポテトぐらいは食べてるかと思ってたが、あんたのトレーに乗ってるのシャスタバーガーじゃねぇか……!

 最大の魚竜、シャスタサウルスに由来するこのシャスタバーガーは、白身魚のフライを挟んだいわゆるフィッシュバーガーだ。しかし魚ならヘルシーだよね、みたいな戯言を一蹴するかのごとく巨大! 専用のパンズを使用したその直径、通常のバーガーと比較すれば圧巻の一・五倍! 凶悪なサイズとカロリーで満腹中枢を殴りつける、フイッシュバーガー界の異端児なのである……!

 まさか学校帰りの間食にこれを食う女がいるとは……。戦慄する俺に気付いたのか、城山さんは目を伏せて赤面し、言い訳のように口を開いた。


「お、お昼が少なかったんです」


「この場合、問題になるのは胃袋のサイズじゃねぇかな」


「…………っ」


 いや、ごめんね? 恥ずかしい思いをさせる気は本当にないんだけど、ツッコミ入れずにはいられなくて。うちの奈苗ぐらい体がでかけりゃともかく、城山さんはそうでもないしなぁ。

 ああでも、姐御も健啖家だったし、体格はあんまり関係ねぇのかな?

 そんなことを考えながら座ると、まだ赤面している城山さんが、ちょっと怒ったように言う。


「守屋さんだから言いますけど、仕方ないじゃないですか。

 あの事件からこっち、何故かお腹が空くんですから」


「それは――平気、なのか?」


 城山さんが言うあの事件とは、彼女が痴漢に襲われ、その顔を剥がすことになった一件だろう。


「はい。今のところは、ですけど。

 たぶん……代償みたいなものだと思いますし」


 超常の力を振るえるとしても、そのエネルギーは必ず必要になる。城山さんの場合、それはカロリーという分かりやすい形なのかもしれない。

 思えば握力や腕力の単純強化だろうし、パッシブスキルみたいな感じになっていて、基礎代謝が上がっているのだろうか。


「まあ、元気そうだし大丈夫か。……逆に考えるとダイエットとか考えなくていいのか」


「それはちょっぴり、得をしたと思っているところですね」


 なんて、イタズラがバレた子供のように笑って。


「――それで、守屋さん。今日の本題ですけど」


「ああ、そうそう。ナップとそっちのクランの話な」


「結論から言えば、ナップさんの暴走ですね。

 勢いがあるのはいいんですけど、それが裏目に出た形です」


 眉間を揉みながら、重い溜息を吐く。


「……クランは後で説得しようと思っていたのかもしれませんけど。

 こちらの総意としては、ウードン帝国を認めるわけにはいきません」


「それじゃあ」


「はい。改めて、私達はレジスタンスに参加しようと思います」


「ありがてぇ、これで百人力だ! あ、ポテト食うポテト?」


「あ、どうも」


 二人してポテトをもぐもぐする。

 いやー、でもすんなり協力してもらえて助かったぜ。やっぱり数は力だし、質だって悪くない。しかも気心の知れた連中だから、ある程度の連携もこなしてくれるのは重要だ。

 個々の実力で言えば同じようなレベルの連中を同数揃えた時、明暗を分けるのは連携だ。レジスタンスの最大戦力として、大いに活躍してもらおう。


「けど、本当にいいのか? ナップとケンカになるかもしれないけど」


「いいんですよ。馬鹿が馬鹿をした時は、殴ってでも止めるべきですから」


 あ、なんか親近感。主にナップの方へ。

 城山さんはそのまま、苦笑を浮かべて言葉を続ける。


「それに――結局、あの人が私達のリーダーですから。

 負けてもいいし、頭の上がらない人がいてもいいんです。

 みっともない姿を曝け出しても、別に構いません。

 ですけど、誰かに従うことだけは認められないんです」


「……ナップも大変だなぁ」


 合わせるように俺も苦笑して、そんな感想を口にする。

 要はいくらでもサポートするから、お山の大将を貫けって話だ。あれはあれで慕われているんだなと思うが、裏切っちゃいけない信頼もこんなに寄せられている。

 今のあいつは、この重荷を背負ってみせろと尻を叩かれているわけだ。


「そんじゃ城山さん、そっちのクランをまとめるのは任せたぜ。

 意思の統一ができたら、俺か姐御にでも教えてくれたらいいから」


「分かりました。他のプレイヤーのレジスタンスへの勧誘はどうします?

 動いてもいいなら、そちらはすぐにでも動きますけど」


「あ、それは一旦保留で。帝国の動きも気になるし。

 それと申し訳ねぇんだが、いくらか金を貸してもらいたい」


「構いませんけど……額によりますね。資金はこちらにも必要ですし。

 一応、三百Kぐらいならすぐに用意できますけど」


 Kはよくネトゲで使われる単位で、一Kが千を表す。つまり三十万ゴールドなら、ポンと出せるってことか。……羽振りいいなぁ。あやかりてぇなぁ。

 一瞬、限界まで借りようかという邪念が湧き起こったものの、これはちゃんと返す金だ。必要そうな額だけでいい。踏み倒すのは最後より少し手前の手段だ。


「えーと、五十Kもあれば充分かな。

 絶対に返すよ。約束する。返す。必ず」


「連呼されると不安になるんですけど」


 信用して大丈夫かなぁ、みたいな感じのジト目を向けられる。

 ああ、なんて悲しいことだろう。協力することを約束したばかりなのに、信頼関係に亀裂が生まれてしまった。やはり金は悪に違いない。資本主義は間違っている……!

 でもお金は必要なので、へいこらと頭を下げておく。


「まったくもう。冗談だと分かってますけど、やめてくださいね」


「……? あ、ああ、気をつけるよ」


 冗談なんて口にした覚えはないが、心象のために話を合わせておく。

 とりあえずこれで話はまとまったので、帝国もレジスタンスも関係なく、ゲオル関連の雑談なんぞをしている時だった。

 窓の外、道をレインコート姿の誰かが通る。その人物は何気なく店内を見て、乗っていた電動スケボーを停止。動きに気付いた俺が視線を向けると、目がばっちり合ってしまう。

 ……そっか。この辺り、お前の行動半径だったよな。

 目が合ったのは誰あろう、学校帰りの朝陽さん。

 面白いネタを見つけたとばかりに笑い、手を振ってスケボーを走らせ去って行った。


「くそっ、迂闊だった……!」


「えーと、お知り合い……ですか?」


「いいえ、裏切り者です」


「は、はあ……?」


 困惑する城山さんだったが、リアルで紹介するのはやめておこう。

 顔剥ぎセーラーの件を気遣っているとかではなく、俺の知らないところで人間関係が複雑になるのを避けるためだ。

 あの害鳥が城山さんと繋がりを持った場合、絶対、ろくでもないことになる。

 そう言い切れるぐらいには、奴の見せた笑顔は不穏なものだったのだ。


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