第三話 俺のように泣き叫べ
「俺思ったんだけど、処刑すれば罰金とかいらなくね?」
「「えぇぇ……」」
ラシアの街の南西に位置する留置場で、俺は素晴らしい提案をした。
しかし牢屋の中にいるカルガモだけでなく、案内してくれた衛兵さんまでドン引きである。
「こ、この者は王国に対して罪を犯した。
だがそれは命で贖わなければならないほど重いものではない」
「いやいや、どうせ再犯しますよこいつ。
ここは王国の未来のために……ね?」
「……私も鬼ではない。罰金が払えぬというのなら待とう。
代わりと言っては何だが、頼みを聞いてもらいたい」
などと衛兵さんが言ったら、メッセージがポップアップ。
【ユニーククエスト、善なる悪徳が発生しました。引き受けますか?】
もちろん「NO」を突きつけて、衛兵の肩に腕を回す。
「何もあんたに手を汚せとは言っちゃいねぇさ。
黙って見ていてくれりゃあいい……それだけで秩序は保たれるんだぜ」
「くっ……し、しかし……!」
葛藤する衛兵。さすがに静観はできないと思ったのか、カルガモが口を挟む。
「衛兵さんや、罰金の代わりに物納はダメかのぅ?
虫の体液ならいくらかあるんじゃが」
「お、おお! いいだろう、認めようではないか。
……それとこの者を野放しにするな。いいな?」
どうして何もしてない俺が危険人物扱いなのか。解せぬ。
ともあれカルガモは虫の体液を渡すことで釈放され、お天道様の下に出た。
前科者となったカルガモは留置場を振り返り、
「ふっ、ちょろいわ」
「反省してないってチクってきていい?」
「やめて」
そんなこんなで、俺達は留置場を離れてラシアの街を歩く。
道中の話題はまずジョブに関することで、俺は戦士のジョブについて話していた。
「キャラクターレベルとは別に、ジョブレベルがあってな。
ジョブレベルが上がるとスキルポイントがもらえて、スキルを覚えるって形みたいだ」
「ほうほう。他に何かあるか?」
「んー。HPとか微妙に増えてるから、ジョブにもステ補正があるんじゃねぇかな。
ちなみに転職クエだけど、ギルド員と戦闘するだけだったわ」
「ふーむ、意外とお手軽じゃな」
まあ扱いとしては新入り――下っ端の見習いみたいなもんだろうしな。最低限のことだけ確認したら、ギルドに所属させてもいいってことなんだろう。よく他のゲームだと、転職試験だとか言って面倒なお使いをさせられたりするが、そういう無駄を省いてくれたのは素直にありがたい。
「あ、ちなみにその戦闘だけど、デフォの痛覚カット率を強制されたぞ。
そういうことするってことは、痛覚に干渉するスキルとかありそう」
「あー。そういう仕様なら、痛みに耐えられんと戦士なんてできんわな。
ガウスはカットしない変態じゃから問題ないが」
「失敬な。カットすると動きが鈍るだろ」
痛覚カットを使うと、どうしても他の感覚にも影響してしまう。それは微々たるものではあるが、結果として動きが鈍るのも事実。俺はそれを嫌って、基本的にVRゲームでは痛覚カットを使わないことにしていた。
そもそもカルガモと違って、俺は特別にプレイヤースキルが高いってわけでもない。それでも結果を出そうと思ったら、痛覚カットなんぞに甘えていられない。っていうかもう、痛くないと調子が悪い。
「それから留置場でのことだけど、なんかユニーククエストってのが発生したぞ。
お前を助けることになりそうだから拒否ったけど」
「ブレんのぅ、おぬし。人の心がないの?」
「損得勘定だけで動いてたら、引き受けてたと思う。だから逆説的に俺、すげぇハートフル」
「ははは死ねよ」
いい笑顔で言って、しかし、とカルガモはアゴに手を添えた。
「ユニーククエストなぁ……何かしらの条件が揃ったら開始する、自動生成のクエかのぅ?
誰か一人しか受けられんような、固有のクエを仕込むとは思えんし」
「そんなところじゃね? 報酬もちょっとした金とアイテムだと思うぞ」
「じゃろうな。あんまり有利になり過ぎると、ゲームとしてバランスが取れんし。
あ、詳細メッセでくれんか。掲示板に情報流しておきたいからの」
カルガモはわりと共有主義というか、情報の独占というものを嫌う。皆で仲良くしようとか、そんな心温まる話ではなく、自分の知りたい情報を秘匿されたら嫌だから、というのが理由らしいが。
俺はログアウトした後にでも送ると答えて、とりあえずログに残っていたメッセージのスクリーンショットを撮っておく。
「問題は盗賊ギルドじゃな。牢の中でも掲示板チェックしとったんじゃが、全然情報がない」
「お前なら本能で分かったりしない?」
「俺にどんなイメージを抱いておるのか、話し合う必要がありそうじゃな」
いいよ、社会のゴミの一言で片付くし。
それよりも盗賊ギルド……まあ地下組織みたいなもんだろうし、そう簡単には見つからねぇよなぁ。
「ああいや、待てよ。カルガモ、リアルに考えたらどういうところにありそうだ?」
「む……なるほど、ここの運営ならそう考えて配置するか」
そういうことだ。さすがにノーヒントで探せってのは鬼畜過ぎる。
レベル五を転職条件とすることで、この世界に放り出されたプレイヤーは、嫌でもここがどんな世界かを肌で感じることになる。親切なチュートリアルがないことも、運営の思想をそういうものだと物語っている。
カルガモは思案顔で、
「まずはスラム街かのぅ。じゃがこの街にそんな場所はなかったはず。
次に酒場なんかを隠れ蓑にしておる可能性じゃが……ギルド、という規模でそれは厳しいか」
まだどういう国かは分からないが、ここはセルビオス王国の首都だ。さすがに王家のお膝元で、盗賊ギルドなんてものが堂々と居を構えているとも思えない。だからカルガモは何かに偽装していることを考えたらしいが、それも違うと判断していた。
「理想的なのは広さがあり、人が出入りしても怪しまれんことじゃが……あっ」
「おう、閃いたか?」
「うむ。ほれ、最初にログインした場所はどこじゃった?」
「噴水広場か? けど、あんな目立つ場所にはないだろ」
もしも噴水広場に盗賊ギルドがあったら、もっと忍べと言いたい。
しかしカルガモはニヤリと笑って、
「それがヒントじゃよ。噴水があるということは、水道が整備されておるということ。
となれば、下水道があってもおかしくはあるまい」
「あー」
なるほど、確かにカルガモの言った理想的な条件を満たしている。
広さがあり、入り口も複数あるだろうから、人が出入りしても目立たない。下水道なんて衛兵も巡回しないだろうから、国の目からも逃れやすい。
「決まりじゃな。さあ、下水道を探すぞ」
「行ってらっしゃい」
「……来ないの?」
いや、だってさぁ。
「臭そうだし、俺には関係ないし……」
「薄情な奴め……行ってくるわ」
「おう、俺は街を探検しとくよ」
肩を落として立ち去るカルガモを見送り、俺はさてどこへ行こうかと考える。
金は全然ないけど、一通りの店がどこにあるかぐらいは調べておこうか。
○
そんなわけで、俺はぶらぶらとラシアの街を歩いていた。
同じようなことを考えているのか、目的もなさそうに歩くプレイヤーの姿をちらほらと見かける。逆に駆け回ってるのは何かしらのクエストの最中か、溜まり場を探しているプレイヤーだろう。
基本的に最初の街というものは、プレイヤー人口が過密になりがちだ。そうなると仲間内で集まる場所――溜まり場の確保にも苦労することになる。ある程度、金に余裕ができれば酒場などを利用するが、今はそんな余裕もない。だから暫定的に路上を使おうとして、良い場所の争奪戦となるのだ。
裏技として民家などに上がり込んで、我が物顔で利用するという酷い手段があるが、このゲームはカルマ値とかあるっぽいからなぁ……何より住民が通報しそう。衛兵の具体的な強さは不明だが、即死攻撃でも不思議ではない。
さて、実際に街を歩いていると、この街にはVRMMOならではの嘘がある。
街を囲む城壁の外からこの街を見ると、とても広いように思える。はっきり言えば、とても歩いて回りたくないと思える程度の広さだ。しかしその中を歩いてみると、あまり広いようには思えない。
実は外から見えるのはハリボテみたいなもので、設定上の広さが風景に反映されているだけだ。内側はぎゅっと圧縮されていて、二十分も歩けば横断できる。これはVRMMO以前からあった問題――オープンワールドゲームなどの、無駄に広いマップへの回答だ。
最初は広さに感動するが、何度も通る場所であれば、設定に忠実な広さなんて面倒臭い。雰囲気作りも兼ねてある程度の広さを残しつつ、機能性を追求したマップ作りが昨今の主流である。
まあその結果として、プレイヤーが溜まり場に使える場所も減ってしまっているわけだが。
しかし溜まり場なぁ……俺らも確保しておくべきか?
島人が何人、ゲオルをやるかは分からないが、あって損はない。ゲオルで新しい友人ができた場合にも、溜まり場があれば何かと便利ではある。普段は無人でも、集合場所として使えるし。
でも路上はちょっと困る。いや、俺は平気だと思うんだが、前科者になったカルガモがいるしな。溜まり場で雑談してたら衛兵が現れて、いきなりカルガモを殺すかもしれない。それはそれで愉快痛快だが、巻き込まれても困る。
だが金を使わずに屋内の溜まり場……教会とか? ダメだな、空気が肌に合わん。騒いだら怒られそうだし。
まあいいや。俺だけで決めても文句言われるだろうし、姐御とも相談して考えよう。
「おっ」
そんな感じでつらつら考えながら歩いていると、路地の途中に看板を出している店を発見した。
ここ、大通りからは外れているんだが、店なんてあるんだな。近寄って看板を見ると、アルファベットを崩したような文字で何か書いてある。読めるわけがない。意識を集中するとメッセージがポップアップして、「ジェムの店・タンホルキン」と表示された。
ジェム……宝石か? アクセサリーの素材にでも使うんだろうか。ちょっと気になったので、店を冷やかしてみる。
店内はやや薄暗く、胸元ぐらいの高さの陳列棚が並んでいる。棚には磨き布などの小物も置いてあるようだが、大半はビー玉ぐらいの宝石を詰めたカゴだった。
詳細を確認してみようと宝石の一つを手に取った時、胴間声が響いた。
「おぉい! 兄ちゃん、金はあンだろうな?」
びくっとして声の方を振り向けば、店主らしき禿頭のおっさんがいた。……商品と店主のイメージが離れ過ぎてない?
俺は引きつった笑みを浮かべて、
「あ、ああ。大金持ちとは言えねぇが、多少の持ち合わせはあるぜ」
もちろん嘘だ。ドロップアイテムはカルガモに任せていたので、無一文かつ初期装備のみである。
しかし客ではないと判断されたら叩き出されそうなので、これは必要な嘘である。
「それよかおっちゃん、この宝石……ジェムだっけ?
雑に置いてあるけど、何に使うものなんだ?」
「ンなことも知らねぇのか」
ぺっ、と唾を吐き捨てるおっさん。おい、お前の店だぞ。
「ジェムってのはな、モンスターがたまに落とす魔力の結晶よ。
武器や防具にその魔力を移すことで、さらなる力を得られるってわけだ」
「へー、なるほどなぁ」
強化アイテムってわけか。俺は手元のジェムに意識を向けて、改めて詳細を確認する。
表示された名称は【ペングージェム】で、効果は足防具にセットすると敏捷+1。
「おっちゃん、これって俺にも使えるのか?」
「素人にできるかよ。ある程度までなら、うちで引き受けてやる。
扱いの難しいジェムは、専門の宝石職人に頼むしかねぇがな」
おっと、誰でも使えるってわけじゃないんだな。
専門の宝石職人……商人ジョブあたりの上級職か? いや、魔道士の上級職かもしれないな。どっちにしろ生産職ほど特化した印象は受けないから、戦闘職でも片手間にやれる要素だろうか。
まあどうであれ、今はこれを買う必要はなさそうだ。
俺は店を出る前に、もう一つだけ聞いておくことにした。
「それでおっちゃん、これっていくら?」
「ピンキリだが、ペングージェムなら三百ゴールドだ」
あらお安い。いやでも、ピンキリって言ったもんな。
強いモンスターや、需要の多いジェムなら値段も跳ね上がりそう……っつーより、店売りはしてないんだろうな。何もセットしないよりはマシ、ってぐらいのジェムだけが店売りされていると見た。
俺はおっさんに礼を言うと、背中に罵倒を聞きながら店を出る。
それにしてもこのゲーム……ジェムは色々と種類がありそうだし、ステも自由に振れる。装備やスキル構成も込みで考えると、どんなキャラでも実現できるんじゃないか? 圧倒的に不向きなものは別として。
誘われて始めただけだが、本腰入れてみるのもいいかもしれないな――なんて、思っていたら。
『はろはろー。ガウス君、今何してますー?』
ささやきが飛んできた。
視界右上のフレームには「wis:タルタル」とある。……念のために家名を確認すると「ステーキ」だった。
食べ物の名前なら可愛いよねとか考えて、タルタルステーキなんて名乗る残念女子力の持ち主なんて、俺は一人しか知らない。
「姐御~!」
島人の一人にして、ヴェーダ・オンラインに青春を捧げた姐御だぁ!
姐御はテンション上がってるのか、弾んだ声で言う。
『私ね、今始めたところなんですけど、お暇です?
よかったら狩り行きませんか狩りー』
ゆるふわな雰囲気で殺意高ぇなこの人。
よっしゃ、それじゃあヨロイムシ狩りに誘おう。俺のように泣き叫べ。
南門前広場で合流しようと約束して、俺は街を駆けるのであった。
○
姐御のキャラは長い金髪の、柔和な顔立ちの少女だった。
年齢設定は十代後半ぐらいか。それにしては小柄だが、これは姐御がリアルでも背が低いから。特に理由がない限りはリアルの背丈に寄せておかないと、感覚のズレが結構気持ち悪いんだよな。
姐御と合流した俺は現時点での感想なんかを話したりして、これから狩る獲物を伏せる。いやぁ、いきなり攻略情報とか聞いちゃったら興冷めじゃん? これは俺なりの善意……! 善意なのだ……!
「へー、転職まですぐなんですねー」
ただ、経験値が美味いということだけは教えておく。
そうすると自然、姐御はジョブをどうするかに意識が向くもんな!
「俺は戦士にしたけど、姐御はどうすんの?
カルガモは盗賊になるし、魔法職とかの後衛系だったら助かるけど」
「それはもちろん、神官ですよー。私、ヴェーダでもメインはヒーラーでしたから」
おお、ありがてぇ。俺は被弾上等だし、ヒーラーはマジでありがたい。
そんな話をしていると、ヨロイムシが出現するエリアに到着する。俺とカルガモが狩っていた時よりも、若干ながら人が減っているような……掲示板見て、西の方に流れたか?
さてさて、ヨロイムシちゃんはどこに――見っけ!
「姐御、あれを狩るぞ!」
「あれって――」
指差した先、元気にカサカサするヨロイムシを見て、姐御が笑った。
笑顔のまま俺を見る。無言。やべぇ怖い。
あ、フレンド申請飛んできた。復讐リストか何かかな? 断ると後が怖いので許可。
すると姐御はヨロイムシに向かって歩き出したので、これは覚悟完了しちまったか。いや、まだだ。ナイフでぶっ刺すと体液撒き散らすし、あれがまた心にダメージでかいんだ。
その瞬間を心に焼き付けるべく、俺はスクリーンショットの用意をして後に続く。
そして姐御は――ナイフを抜くこともなく、ヨロイムシに殴りかかる!
「でやぁッ!!」
ちゃんとダメージが通り、ヨロイムシが悲鳴を上げる。俺が聞きたかったのはそっちじゃない。
反撃の体当たりに合わせて、姐御の踵落としが突き刺さる。ヨロイムシが動きを止めたところで、柔らかな横腹へ追撃の蹴り。なんとか反撃しようと動き出したヨロイムシの頭を掴み、捻りながら放り投げる。
……めっちゃ雄々しいスクリーンショットが撮れちゃった。
投げられたヨロイムシは光になって消え、ドロップアイテムのキューブがくるくる回る。
姐御はそれを拾いもせず、俺に向かってにっこりと微笑んだ。
「こいつはHP低いですから、クリティカル狙えば素手でもいけるんですよー。
これなら体液も出ないですし、女の子にもお勧めです」
「お、おう。っていうかなんで知ってんの?」
「ヴェーダでも似たようなのがいましたからー」
なるほどなぁ。俺の狙いも見透かされてるなぁ。
俺は土下座した。
「で、出来心だったんです……!」
「いいですよー、気にしてませんから。ガウス君、そういうとこありますもんね」
じゃあさっきのフレンド申請は何だったの? 気にしてないだけで、許されてないよね?
内心でガクガク震えていると、姐御はくすりと笑った。
「経験値も低レベルだと確かに美味しいですもんね。
あ、ヴェーダと同じならルートモンスターですから、数も狩りやすいんですよー」
ルートモンスターっていうのは、落ちてるアイテムをパクるモンスターのことだ。
そっか。そういうお邪魔キャラだからこそ、ステータス自体はレベルに対して低く設定されてるのか。
……つーか姐御がドロップアイテム放置してるってことは。
「ひ、ひぃ!? 集まってきてるよ姐御ぉ!!」
「入れ食いですねー。ちゃっちゃと片しちゃいましょう」
えぇ……俺も戦わなきゃダメぇ……?
結果から言うと、姐御はさらに数匹のヨロイムシを屠り、レベル五を達成した。俺は死んだ。
○
というわけで、ラシアの街である。
死に戻った俺が噴水広場で待機していると、狩りを終えた姐御が歩いて帰ってきた。
「お疲れさまでしたー。すぐにレベル上がっちゃいましたね」
「おかえりー。で、神官になるんだっけ?」
「はい。たぶん教会に行けばいいですよね? 場所分かります?」
姐御を待っている間に衛兵から聞いておいたので問題ない。
俺は道案内を引き受けて、街の南西へと移動する。
その道中、思い出したように姐御が口を開いた。
「そういえばガウス君、ちゃんと公式サイト見ましたー?」
「あー……スタートガイドとか、そういうのは軽く目を通したけど」
細かい説明を読むよりは、触って覚える派なんだよな、俺。
でしょうね、と姐御は予想していたようで、苦笑いを浮かべていた。
「でもストーリーぐらいは見ておいた方がいいですよー。
色んなクエストに関わってくると思いますし」
「……そもそもゲオルギウスって、どういう意味なん?」
「あはは、そこからですかー……」
いや、どっかで聞いた覚えはあるんだよ、ゲオルギウスって単語は。思い出せないけど。
姐御は人差し指を立てて、
「ゲオルギウスというのは、聖ジョージのことですね。
キリスト教の聖人で、邪悪な竜を倒した伝説がある人ですよー」
ほうほう。宗教は俺、全然詳しくないからなぁ。
「このゲームも、ストーリーには竜が関わっているんですよ。
世界を創った神様に反旗を翻した天使達がいて、彼らは悪魔と呼ばれるようになったんです。
悪魔の中でも強い力を持つ存在は、姿を竜に変えて神と戦い、敗れて地上に落とされました。
ですが竜達もただやられたわけではなく、地上へ神の力が届かないようにしたんです。
で、このゲームでは、その邪悪な竜達を倒すのがメインストーリーですね」
「なんか聞く限り、神様のアフターケアが手抜きな印象がすげぇんだけど」
「それは私に言われてもー……」
ですよねー。まあ神に敵対する竜を討つ物語だから、ゲオルギウスってわけか。
ゲーム的にはキリスト教なんて出すわけにもいかないし、武器や称号の名前にでもなっていそう。
納得していると、姐御はそれと、と言葉を続けた。
「このゲーム、キャッチコピーは自由と信仰のVRMMOなんですよ」
「信仰……冒険とかじゃなくて?」
「はい、信仰です。どういう意味かは、まだ分からないですけど」
そして姐御は、いたずらっぽく微笑んだ。
「何かを信仰することが、大きな意味を持つゲームだと思いますよー」