第二話 暗躍する者達
「――これは私達への背任行為ですよっ、背任行為!」
クラレットと共に急いで溜まり場へ帰還すると、姐御がやっぱりご立腹であった。
他にはカルガモ、ツバメ、スピカの姿はあるが……やはりと言うべきか、ウードンさんは見当たらない。気になるのは緑葉さんとのーみんだが、あの二人に関してはまだ保留でいいだろう。
俺はとりあえず姐御の背後に回り込むと、屈み込んで足の間に頭を入れ、肩車の形で持ち上げる。何やら額をペシペシと叩いて八つ当たりをしてくるが、それは気にせず落ち着いてそうなカルガモに話しかけた。
「で、状況はどうよ? 姐御の様子見るに、話は通ってなかったっぽいけど」
「そうじゃな。ささやき連打しておるが、返事はちっともない。
まあ、これは名前がアナウンスされたせいで、他のプレイヤーが声をかけておるのかもしれん。対応しておられんから、一括で無視しておると考えるのがあやつらしい」
「けど、緑葉さんとのーみんも同じ。
あの二人もグルって考えていいんじゃないかな」
表情を険しくしたツバメの言葉に、あ、こいつマジで怒ってる、と気付く。抜け駆けや裏切りは島人の習性みたいなものだし、ツバメもすっかり慣れたと思っていたのだが、今回は一線を越えてしまったか。
だがささやきを飛ばしてはいるあたり、まだ言い訳を聞いてやろう、という程度には堪忍袋の緒が繋がっているらしい。怒るのはいいが、険悪になるのはちょっと嫌なので、その緒が切れないことを願う。
さて、じゃあそのためにも、少し怒りを逸らしてみようか。
「まあぶっちゃけ、そこはどうでもいいんだよな俺。
元々、ホーリーグレイルを売り払って一儲けしつつ、市場に出回る頃になったら安く買おう、って計画だったんだから。売れなくて使ったんなら、それはそれで問題ないさ」
「でもウードン帝国だよ!? あたし、そんなクランに入るの嫌だよ!」
あ、論点そこなのね。
そのあたりどうなのかなぁ、とカルガモに目を向けると、
「クランシステムには目を通してみたが、名前の変更はできんらしい」
それよりも、とカルガモは渋い顔をして続ける。
「問題なのが拠点と支配圏のシステムじゃな。
まだ見ておらんなら、軽く目を通しておくといい」
そう言って表示フレームを投影し、そこにプレイガイドの該当箇所を投影する。クラレットと二人でどれどれと確認してみれば、読み進めるほど嫌な予感が膨れ上がるのを実感した。
まず拠点システム。クランを設立すると、建設可能な空き地を選んで拠点を建てることができる。この空き地というのが食わせ物で、既存の都市にそんな空き地はない。ではどこが空き地なのかと言えば都市の外、街道に接する全ての場所、ということになる。
そして支配圏システム。クランはその規模に応じて、拠点から一定の範囲を支配圏に置き、自らの土地とすることができる。王家や貴族といった、本来の領有者から権限を与えられるという形式らしいが、それ自体は街道の治安維持と未開地の開拓を行わせることで、彼らにも旨味があるということだろう。
そしてこの支配圏には、クランに所属していないプレイヤーの通行を拒否する機能がある。拒否されているのに立ち入った場合、通行税を支払わなければならない。もしも支払いを拒否し続ければ、指名手配されてしまうこともあるという。
概要を理解した俺は、震える声で問いかけた。
「う、ウードンさん……拠点、どこに置いたんだ?」
「ラシアの西。――臨時広場のすぐ近くじゃよ」
や、やりやがったなあの野郎!?
都市から近い一等地を確保しただけ、なんて無邪気な意図だとは思えない。ラシアから最も多くのプレイヤーが通る場所を支配圏に組み込んで、荒稼ぎしようって意図が見え見えだ。
今はまだ、他のプレイヤーも情報収集の段階かもしれないが……こんなのはすぐに荒れる。大荒れする。下手しなくたって、血の気の多い連中は殴り込みに行くだろう。
これが俺達と縁のないプレイヤーならまだよかった。しかしウードンさんとの付き合いはすぐにバレるだろうし、悪評は俺達にまで降りかかるかもしれない。
「ちっ、始末するなら早い方がいいな。
姐御! こうなったら貯金も吐き出して、さっさと叩き潰そうぜ!」
「そうしたいのは山々なんですけどねー」
頭の上で、姐御は悩ましげに――それでいて、怒りを押し殺した声で言う。
「ウードン帝国の拠点、立派な城壁のある砦になってるんですよー。
あれを正面から攻略するには、かなり戦力が必要ですね」
「え、マジで? 拠点って最初からそんな立派なの?」
大きな家ぐらいのイメージだったんだけど。
しかしそれはすぐにカルガモが否定した。
「いいや、最初は掘っ立て小屋みたいなものらしい。
じゃが資金を注ぎ込むことで拡張でき、最終的には堅固な城になるようじゃ」
「ほー……あ? 資金?」
納得しかけて、それはおかしくないか、と首を捻る。
だってホーリーグレイルを売ったわけでもないのに、そんな金があるのはおかしい。基本的には俺と同じで、装備品と消耗品に金をかけ過ぎていつも金欠なのがウードンさんだ。緑葉さんやのーみんが協力しているのだとしても、あの二人の懐具合だって大差ないわけだし。
どうなってるんだと思っていたら、クラレットが推測を口にする。
「他にも協力者がいる……?」
「じゃろうな。厄介なのはその規模までは分からんことよ」
確かに。金を出しているのは一人や二人じゃないだろう。
ウードンさんはホーリーグレイルを売るため、あちこちに声をかけていたわけだが……おそらく支援しているのはその連中か。全容が明らかではない以上、下手に仕掛けるのは得策ではない。
だけど静観するってのも不味いんだよなぁ。俺達とは対立しているってことを示しておきたいし、放置すると組織が肥大化するかもしれない。少人数で潰すなら、今しかないのだ。
「あのさー、兄ちゃん」
悩んでいると、外見表示を服から狩り用のガチ装備に切り替えたスピカが言う。
「とりあえず殴り込んでから考えない?」
「おう、そうすっか」
流石は俺と同じ血の流れている妹。的確で冷静な判断だ。
などと思っていたら、姐御が額をペシペシと叩いてきやがった。
「ダーメーでーすー。敵対するのは、向こうが仕掛けてからですよ。
まずは中立の立場で、お話を聞いてからにしましょう」
意訳すると、聞き出せる情報を聞き出してから殺すってことだな。
そうなるといきなり殴り込み――威力偵察ってのは避けた方がいいか。あくまでも話し合いって姿勢で接触して、交渉の席を設ける。そこから先は相手の出方次第、と。
「とりあえず、方針はそういうことですから。
これから話し合いに行きますけど、暴れちゃダメですからねー?」
念を押すように言われたので、俺とスピカとカルガモが「はーい」と返事をする。
いや、どうにもね。この面子だと俺とカルガモはもちろん、スピカも荒事担当ということになっているのだ。お兄ちゃんとしてはどうかと思うのだが、あいつ物怖じしないし、荒事に出ていい瞬間を読み取るの上手いんだよな。
クラレットとツバメは当然ながらストッパーで、姐御は言うまでもなく判断役。一番大事なところに安全装置がなくて野放しな気もするが、細かいことを気にしてはいけない。
そんなわけで、俺達はぞろぞろとウードン帝国の拠点に向かうのであった。
○
ラシアの西門から出てすぐ、臨時広場からもその威容を眺めることができた。
街からそう離れていない場所に見えるのは、高さ五メートルはあろうかという石の城壁だ。それはぐるりと敷地を囲っているようで、内側の様子までは分からない。しかし見張り櫓がいくつか見えるように、向こうからはこちらの様子なんて筒抜けなのだろう。
臨時広場はいつもより人が少なく、その先の街道に人が集まっている。理由は尋ねるまでもない。街道と城壁が接するその場所には大きな城門があり、今は堅く閉じられているからだ。
「あれ? 思ったより騒ぎになってないね」
拍子抜けしたようにツバメが言うものの、ありゃあ一触即発に近い。何かきっかけがあれば暴動が起こってもおかしくないぐらい、集まっているプレイヤー達の空気は張り詰めていた。
まだ大人しくしているのは、ウードン帝国の出方を伺っているからだろうか。最低でも通行税を取らないなどの宣言があれば、あえて敵対する必要もない。いつまでそれを信用できるかは別として。
「むー。籠城するつもりでしたら面倒ですねー」
まだ俺に肩車されたまま、ご不満そうに姐御がぼやく。立派な城壁があると聞いてはいたが、確かにこりゃあ立派過ぎる。どこかに穴を開けるにしても、大勢で協力する必要があるだろう。
当面の目標である話し合いをするためにも、まずは外に出てくれなきゃ話にならない。城壁なり城門なりを大勢で壊していざ話し合い、なんてのは笑えない冗談だ。
「近くまで行って、大声で呼びかけてみるのはどうかな」
クラレットが平和的な手段を提案するが、
「あいつら素直に聞いてくれるかなぁ」
「無理じゃろ。ウードンだけならばともかく、のーみんがおるんじゃぞ」
だよね、と皆で頷く。あの女は平和的な解決なんて、絶対に妨害する。
しかし他に取れる行動もなさそうなので、俺達は街道を歩いて城門の近くまで移動することにした。
真近で見るといよいよその堅牢さが迫力を増す。オブジェクト扱いなら耐久度が設定されている筈だが、人力でどうこうするよりも、攻城兵器が欲しくなる。誰か破城槌とか作ってねぇかな。
そんなことを考えていたら、集まっていたプレイヤーの一人が俺に声をかけてきた。
「いよう、ガウス。お前らも来たのか」
「お、トーマじゃん」
親しげに話しかけてきたのは、フレンドで格闘家のトーマだ。噴水広場で意気投合して以来、たまに一緒に狩りする仲で、他の連中とも面識がある。当然、ウードンさんが俺らの身内だってことも知ってる。
……口封じしておくべきか?
ノーアクションでスキル、バーサクを使用。効果時間中、スキルは使えないが攻撃力を大幅に高め、それに伴い身体能力も強化される。この間合なら奴が何をしようとしても、俺の方が速い。
なお、俺の両サイドにクラレットとツバメが出て、無言で腕をホールドした模様。ちくしょう、ツバメだけならともかく、クラレットまで振り切って暴れるのは嫌だし、口封じは諦めよう。
それはそれとして、俺は勝ち誇った笑みを浮かべてトーマに言う。
「お前は今日もソロか? ――俺は両手に花だぜ」
「頭にも一輪の花が咲いてるじゃねぇか……!」
膝から崩れ落ちて、めっちゃ悔しそうにトーマは叫んだ。……はて、頭にも?
不思議がっていたら、肩車している姐御がわりと上機嫌そうに笑った。
「ふふふ、大丈夫ですよ。いつかトーマさんの魅力に気付く人も、きっと現れますからー」
「だけどタルタルさんっ、こいつ自慢してくるんですよ!?」
「それはお二人で話し合ってくださいねー」
拳で語り合えってことだな。俺とトーマは頷き合い、次に相見える時が貴様の最期だと目で語る。お前は友と呼べる相手だが、臨時PTに参加したら俺よりモテるので殺さねばならないのだ。
そんなことをしていると、流れをぶった切ってスピカが口を開いた。
「トーマさん、トーマさん。先に来てたっぽいけど、何か変わったことなかった?」
「あー。いや、ずっとこんな感じだぜ。
痺れ切らした奴が城門に魔法ぶち込んだりしたけど、全然壊れなかったし」
「そっかー」
と言いつつ、城門に目を向けるスピカ。そして一歩を踏み出そうとしたところで、慌ててカルガモが首根っこを掴んで引き止めていた。
「待たんかスピカ! 殴り込みはまだ早い!」
「ち、違うよカモさん! 物理ならどうかなって、思っただけ!」
「そもそも試すなと言っておるんじゃが!?」
いやはや、うちの妹がすまんね。そいつ、たまに俺より思い切りがいいっていうか、疑問に思ったことを脊髄反射で確かめようとするっていうか。追求したがるんだよね。
俺は賑やかにしている二人から視線を切って、再びトーマを見る。
「そんで、お前どうすんの?
鉄砲玉に志願してくれるなら、喜んで送り出すけど」
フレンドだけど身内じゃないよね、みたいな距離感が最高。
しかしトーマは冷や汗を浮かべながら苦笑して、
「いやいや、俺はそういうキャラじゃないから。
そちらさんと違って、俺はキャラの立ってないモブっぽさがキャラなんだよ」
わりとキャラ立ってる気がするんだけどなぁ。
そんな話をしていたら、不意に周囲のざわめきが波が引くように静まっていく。
原因はすぐに分かる。堅く閉ざされていた城門が、重い音を上げて開き始めたのだ。
知らず、固唾を呑んで見守ってしまう。
俺の腕を抱くクラレットとツバメも、緊張からかその力を強くして、姐御も両足で首をキュッと絞める。絞めんな。死ぬわ。
やがて城門が開き切ると、その奥から大声が響き渡った。
「――皇帝陛下の、おなーりー!!」
先陣を切ったのは見知らぬ男だ。彼は堂々と声を張り上げると、手にした旗――きつねうどんの描かれた旗を振りながら歩み出し、その後には武装した複数のプレイヤーが二列で続いた。
全員が門を通ると、彼らは二列のまま距離を開けて整列し、そこへ一人の男がゆっくりと歩み出た。
凛々しい青髪に、風格のある顔立ち。まさしくウードン・カイザー、その人であった。
彼は列の半ばで足を止めると、見守るプレイヤー達に向けて口を開いた。
「諸君。俺がウードン帝国のクランリーダー、ウードン・カイザーだ」
どよめきが起こり、彼は右腕を横に張ってそれを鎮める。
「疑問は多くあるだろう。俺を恐れる者も、この首を狙う者もいるだろう。
だがな諸君、まずは話を聞け。全てはそれからだ。
俺達とお前達のこれからは、それから決めるべきだ」
よく通る声が場の空気を支配していく。
ウードンさんは話を聞けと言ったが、話し合おうとは言っていない。
一方的に叩き付けられるその言葉は、まさしく演説だ。
「俺は偶然、ホーリーグレイルを手にしただけの男だ。
ふざけて皇帝と名乗ってはみたが、お前達と何も変わらないプレイヤーだ。
このゲームを楽しもうと考える、当たり前のプレイヤーだ」
歩み寄っているかのように錯覚させる言葉。
自分はそちら側だと主張して、敵ではないと欺こうとしている。
「そして俺は考えた。どうすればお前達と楽しめるかを、だ。
――いいか、ウードン帝国は何者も拒まない!
所属したいと思う者は、誰であっても受け入れよう。
クランという利益を、望む者全てに分け与えようじゃないか!」
やはり腑に落ちない。確かにそれは、他のプレイヤーにとっては歓迎すべきことかもしれない。
だが、メリットしかない。こんな美味い話には、必ず裏がある。
そう思って聞けば、あまりにも胡散臭い言葉だ。
「クエストの前提条件に、クラン所属を求めるものがあるのは知っているな?
未だ謎だらけの上級職にも、クランが関わるものはあるだろう。
クランに所属する利益とはそれだ。
俺はこの世界を切り開く資格を、お前達に分け与えたい」
そして彼は右腕を胸元へ引き戻し、強く拳を握った。
「望む者は我が軍門に下れ! ウードン帝国の民となれ!
世界を自由に冒険し、世界を切り開け!!」
「――やっぱりじゃねぇか!!」
演説を遮るように、誰かが叫んだ。
声の主は武装した大柄の男で、顔には怒りと嘲笑を浮かべていた。
「黙って聞いてりゃ、随分と耳触りのいいことばかり言いやがる!
世界を自由に冒険しろだぁ? 馬鹿言っちゃいけねぇ!
そりゃつまり、支配圏を広げるってことだろう。
テメェのクランに入らねぇ連中から、搾取するってことだろう!?」
「……だとしたら、どうする?」
「へっ――こうするだけよ!」
泰然と構えるウードンさんへ、男は剣を抜いて飛びかかった。
周囲にいるウードンさん側のプレイヤーに動く様子はない。それなりにステータスが高いとはいえ、ウードンさんのジョブは商人。一対一では勝負にもならない筈だ。
だが――次の瞬間、飛びかかった男は轟音と共に消えていた。
何が起こったのか理解できた者は、この場にどれほどいただろう。俺もすぐには分からなかったが、後に残った物を見て理解する。
それは地面を抉るようにして突き立つ極太の矢。
どこから放たれたのかも定かではないが、その一撃があの男を跡形もなく消し飛ばしたのだ。
「ば、バリスタだ……!」
誰かがその正体に気付いて、畏怖の声を上げる。
バリスタ。それは攻城兵器としても使われた、据え置き式の大型弩砲だ。
そんなものの直撃を受ければ、人間はああなる。
「当然――我々は大言壮語に見合うだけの武力も、用意している」
だから攻め込もうなどと考えず、支配を受け入れろ。
暗にそう告げると、ウードンさんは踵を返して歩き出した。
「諸君、よく考えることだ。
どうすればこのゲームを楽しめるかを、な」
最後に背中でそう語って、ウードンさんは城門の奥へと姿を消した。
あちら側のプレイヤーも、門番らしい数人だけを残して引き上げ、城門は閉ざされる。
……誰も、何も言えなかった。
圧倒的な力の差を見せつけられて、彼こそが皇帝に相応しいと認めさせられた。
反旗を翻すのならば、姿を見せていたこの時こそが、千載一遇の好機だったというのに。
「ガウス……」
クラレットが不安そうに俺の名を呼ぶ。
どうしてこんなことになってしまったのか、悲しんでいるのが分かる。
……うん。姐御はまず話し合おうって方針だったが、これは駄目だ。
ウードンさん。何か考えがあってのことだとは思うが、ちょっと悪ノリが過ぎた。
俺は深く息を吸い込むと、城壁の向こうにまで聞こえるような大声で叫ぶ。
「お前ら知ってるかー!?
ウードンの野郎、偉そうにしてっけど徳島県民なんだぜー!!」
城門がズバーンと開いて、ウードンさんが顔を出す。
「食ってる量なら香川県民にも負けてねぇわ!!」
魂の叫びを上げると、バシーンと城門が閉じる。
そのやり取りを目撃した他のプレイヤー達は、何とも言えない微妙な顔をしていた。
だがこれでいい。どうでもいいことでも、マウント取れる要素があるってのは大切だ。それがある限り、心まで屈したことにはならない。いつか、誰かが立ち上がれる筈だ。
「――やり遂げた顔してるけどさ」
ツバメがジト目を向けて言う。
「あたし達、これで全面戦争になるんじゃないの? ねえ!?」
「どうしてこの子は、いつも後先考えないんでしょうねー……」
姐御にも呆れられて、俺は切なげに「くぅ~ん」と鳴いた。
クラレットが慰めに頭を撫でてくれたので、プラマイで言えばプラス。
○
【タルタル@戦争中の発言】
で、何か申し開きあります?
【うどん貴族の発言】
悪くないよー。俺悪くないよー。
緑葉がやれって言ったんですぅー。
【緑葉の発言】
ええ、確かに最初に持ちかけたのは私ね。
二つ返事で引き受けたのは、この麺類(徳島産)だけど。
【うどん貴族の発言】
おう、そのネタ引っ張ると戦争だべ。
【カルガモの発言】
こやつら放っておいても空中分解しそうじゃなぁ。
【ツバメの発言】
っていうか、ああいうことするなら相談してよ!
緑葉さんが唆したっぽいし、正直、見損なったんだけど?
【緑葉の発言】
あら、小娘がキャンキャンと吠えるわね。
ゾクゾクするからもっと罵ってもいいのよ?
【ツバメの発言】
怒ると逆効果だこの人……!
【うどん貴族の発言】
あー。まあ落ち着け、ツバメ。悪かったとは思ってんだ。
だけど俺らも考えた上での行動でな。
【クラレットの発言】
……戦争が必要だった、とか?
【のーみんの発言】
クーちゃん大正解! 他にもあるけど、一番はそれだにゃー。
【タルタル@戦争中の発言】
ま、そんなところでしょうねー。
支配圏のシステムとか、直前に分かった感じですかー?
【緑葉の発言】
ええ、忌々しいことにね。
それなら最初のクランで、派手な前例を作った方が賢明だわ。
馬鹿なことをしたクランは、寄ってたかって潰されると。
【ガウスの発言】
つまり後続のクランが、支配圏で悪さするのを防止するってわけか。
でも俺、緑葉さんがそんな善意で動くって信じられない。
【緑葉の発言】
もちろん裏でお金ガンガン動いてるわよ。
マジでこのまま帝国を維持しちゃおうかって思うぐらいには。
【タルタル@戦争中の発言】
緑葉さん?
【緑葉の発言】
安心なさいタルタル。私が皆を裏切るわけないじゃない……!
【のーみんの発言】
そうだぞ、タルタル☆
【うどん貴族の発言】
あ、こいつらが悪さできんように、クラン運営は他のプレイヤーと組んでるから。
ぶっちゃけ俺も台本貰って、その通りにやってるだけだし。
【カルガモの発言】
ほうほう。それなら安心じゃな。
【ツバメの発言】
うーん。考えがあったのは分かったけどさー。
ちょっとやり過ぎてない?
【緑葉の発言】
あれぐらいでいいのよ、あれぐらいで。
インパクトがないと効果も薄くなってしまうもの。
【スピカの発言】
ねえねえ、ちょっと質問なんだけど。
【うどん貴族の発言】
お、どうした。何か分からんところがあったか。
【スピカの発言】
いつ殴り込みに行ってもいいってことだよね?
【大勢の発言】
!?
実はスピカも結構キレてたということが判明。
そんなわけで、ウードン帝国との戦争という名の、壮大な茶番が幕を開ける。
個人的には蕎麦派です。