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竜と信仰の奇譚  作者: 長月十九
第三章 サンクチュアリ・オブ・ウードン
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第二話 暗躍する者達


「――これは私達への背任行為ですよっ、背任行為!」


 クラレットと共に急いで溜まり場へ帰還すると、姐御がやっぱりご立腹であった。

 他にはカルガモ、ツバメ、スピカの姿はあるが……やはりと言うべきか、ウードンさんは見当たらない。気になるのは緑葉さんとのーみんだが、あの二人に関してはまだ保留でいいだろう。

 俺はとりあえず姐御の背後に回り込むと、屈み込んで足の間に頭を入れ、肩車の形で持ち上げる。何やら額をペシペシと叩いて八つ当たりをしてくるが、それは気にせず落ち着いてそうなカルガモに話しかけた。


「で、状況はどうよ? 姐御の様子見るに、話は通ってなかったっぽいけど」


「そうじゃな。ささやき連打しておるが、返事はちっともない。

 まあ、これは名前がアナウンスされたせいで、他のプレイヤーが声をかけておるのかもしれん。対応しておられんから、一括で無視しておると考えるのがあやつらしい」


「けど、緑葉さんとのーみんも同じ。

 あの二人もグルって考えていいんじゃないかな」


 表情を険しくしたツバメの言葉に、あ、こいつマジで怒ってる、と気付く。抜け駆けや裏切りは島人の習性みたいなものだし、ツバメもすっかり慣れたと思っていたのだが、今回は一線を越えてしまったか。

 だがささやきを飛ばしてはいるあたり、まだ言い訳を聞いてやろう、という程度には堪忍袋の緒が繋がっているらしい。怒るのはいいが、険悪になるのはちょっと嫌なので、その緒が切れないことを願う。

 さて、じゃあそのためにも、少し怒りを逸らしてみようか。


「まあぶっちゃけ、そこはどうでもいいんだよな俺。

 元々、ホーリーグレイルを売り払って一儲けしつつ、市場に出回る頃になったら安く買おう、って計画だったんだから。売れなくて使ったんなら、それはそれで問題ないさ」


「でもウードン帝国だよ!? あたし、そんなクランに入るの嫌だよ!」


 あ、論点そこなのね。

 そのあたりどうなのかなぁ、とカルガモに目を向けると、


「クランシステムには目を通してみたが、名前の変更はできんらしい」


 それよりも、とカルガモは渋い顔をして続ける。


「問題なのが拠点と支配圏のシステムじゃな。

 まだ見ておらんなら、軽く目を通しておくといい」


 そう言って表示フレームを投影し、そこにプレイガイドの該当箇所を投影する。クラレットと二人でどれどれと確認してみれば、読み進めるほど嫌な予感が膨れ上がるのを実感した。

 まず拠点システム。クランを設立すると、建設可能な空き地を選んで拠点を建てることができる。この空き地というのが食わせ物で、既存の都市にそんな空き地はない。ではどこが空き地なのかと言えば都市の外、街道に接する全ての場所、ということになる。

 そして支配圏システム。クランはその規模に応じて、拠点から一定の範囲を支配圏に置き、自らの土地とすることができる。王家や貴族といった、本来の領有者から権限を与えられるという形式らしいが、それ自体は街道の治安維持と未開地の開拓を行わせることで、彼らにも旨味があるということだろう。

 そしてこの支配圏には、クランに所属していないプレイヤーの通行を拒否する機能がある。拒否されているのに立ち入った場合、通行税を支払わなければならない。もしも支払いを拒否し続ければ、指名手配されてしまうこともあるという。

 概要を理解した俺は、震える声で問いかけた。


「う、ウードンさん……拠点、どこに置いたんだ?」


「ラシアの西。――臨時広場のすぐ近くじゃよ」


 や、やりやがったなあの野郎!?

 都市から近い一等地を確保しただけ、なんて無邪気な意図だとは思えない。ラシアから最も多くのプレイヤーが通る場所を支配圏に組み込んで、荒稼ぎしようって意図が見え見えだ。

 今はまだ、他のプレイヤーも情報収集の段階かもしれないが……こんなのはすぐに荒れる。大荒れする。下手しなくたって、血の気の多い連中は殴り込みに行くだろう。

 これが俺達と縁のないプレイヤーならまだよかった。しかしウードンさんとの付き合いはすぐにバレるだろうし、悪評は俺達にまで降りかかるかもしれない。


「ちっ、始末するなら早い方がいいな。

 姐御! こうなったら貯金も吐き出して、さっさと叩き潰そうぜ!」


「そうしたいのは山々なんですけどねー」


 頭の上で、姐御は悩ましげに――それでいて、怒りを押し殺した声で言う。


「ウードン帝国の拠点、立派な城壁のある砦になってるんですよー。

 あれを正面から攻略するには、かなり戦力が必要ですね」


「え、マジで? 拠点って最初からそんな立派なの?」


 大きな家ぐらいのイメージだったんだけど。

 しかしそれはすぐにカルガモが否定した。


「いいや、最初は掘っ立て小屋みたいなものらしい。

 じゃが資金を注ぎ込むことで拡張でき、最終的には堅固な城になるようじゃ」


「ほー……あ? 資金?」


 納得しかけて、それはおかしくないか、と首を捻る。

 だってホーリーグレイルを売ったわけでもないのに、そんな金があるのはおかしい。基本的には俺と同じで、装備品と消耗品に金をかけ過ぎていつも金欠なのがウードンさんだ。緑葉さんやのーみんが協力しているのだとしても、あの二人の懐具合だって大差ないわけだし。

 どうなってるんだと思っていたら、クラレットが推測を口にする。


「他にも協力者がいる……?」


「じゃろうな。厄介なのはその規模までは分からんことよ」


 確かに。金を出しているのは一人や二人じゃないだろう。

 ウードンさんはホーリーグレイルを売るため、あちこちに声をかけていたわけだが……おそらく支援しているのはその連中か。全容が明らかではない以上、下手に仕掛けるのは得策ではない。

 だけど静観するってのも不味いんだよなぁ。俺達とは対立しているってことを示しておきたいし、放置すると組織が肥大化するかもしれない。少人数で潰すなら、今しかないのだ。


「あのさー、兄ちゃん」


 悩んでいると、外見表示を服から狩り用のガチ装備(プレートアーマー)に切り替えたスピカが言う。


「とりあえず殴り込んでから考えない?」


「おう、そうすっか」


 流石は俺と同じ血の流れている妹。的確で冷静な判断だ。

 などと思っていたら、姐御が額をペシペシと叩いてきやがった。


「ダーメーでーすー。敵対するのは、向こうが仕掛けてからですよ。

 まずは中立の立場で、お話を聞いてからにしましょう」


 意訳すると、聞き出せる情報を聞き出してから殺すってことだな。

 そうなるといきなり殴り込み――威力偵察ってのは避けた方がいいか。あくまでも話し合いって姿勢で接触して、交渉の席を設ける。そこから先は相手の出方次第、と。


「とりあえず、方針はそういうことですから。

 これから話し合いに行きますけど、暴れちゃダメですからねー?」


 念を押すように言われたので、俺とスピカとカルガモが「はーい」と返事をする。

 いや、どうにもね。この面子だと俺とカルガモはもちろん、スピカも荒事担当ということになっているのだ。お兄ちゃんとしてはどうかと思うのだが、あいつ物怖じしないし、荒事に出ていい瞬間を読み取るの上手いんだよな。

 クラレットとツバメは当然ながらストッパーで、姐御は言うまでもなく判断役。一番大事なところに安全装置がなくて野放しな気もするが、細かいことを気にしてはいけない。

 そんなわけで、俺達はぞろぞろとウードン帝国の拠点に向かうのであった。


     ○


 ラシアの西門から出てすぐ、臨時広場からもその威容を眺めることができた。

 街からそう離れていない場所に見えるのは、高さ五メートルはあろうかという石の城壁だ。それはぐるりと敷地を囲っているようで、内側の様子までは分からない。しかし見張り櫓がいくつか見えるように、向こうからはこちらの様子なんて筒抜けなのだろう。

 臨時広場はいつもより人が少なく、その先の街道に人が集まっている。理由は尋ねるまでもない。街道と城壁が接するその場所には大きな城門があり、今は堅く閉じられているからだ。


「あれ? 思ったより騒ぎになってないね」


 拍子抜けしたようにツバメが言うものの、ありゃあ一触即発に近い。何かきっかけがあれば暴動が起こってもおかしくないぐらい、集まっているプレイヤー達の空気は張り詰めていた。

 まだ大人しくしているのは、ウードン帝国の出方を伺っているからだろうか。最低でも通行税を取らないなどの宣言があれば、あえて敵対する必要もない。いつまでそれを信用できるかは別として。


「むー。籠城するつもりでしたら面倒ですねー」


 まだ俺に肩車されたまま、ご不満そうに姐御がぼやく。立派な城壁があると聞いてはいたが、確かにこりゃあ立派過ぎる。どこかに穴を開けるにしても、大勢で協力する必要があるだろう。

 当面の目標である話し合いをするためにも、まずは外に出てくれなきゃ話にならない。城壁なり城門なりを大勢で壊していざ話し合い、なんてのは笑えない冗談だ。


「近くまで行って、大声で呼びかけてみるのはどうかな」


 クラレットが平和的な手段を提案するが、


「あいつら素直に聞いてくれるかなぁ」


「無理じゃろ。ウードンだけならばともかく、のーみんがおるんじゃぞ」


 だよね、と皆で頷く。あの女は平和的な解決なんて、絶対に妨害する。

 しかし他に取れる行動もなさそうなので、俺達は街道を歩いて城門の近くまで移動することにした。

 真近で見るといよいよその堅牢さが迫力を増す。オブジェクト扱いなら耐久度が設定されている筈だが、人力でどうこうするよりも、攻城兵器が欲しくなる。誰か破城槌とか作ってねぇかな。

 そんなことを考えていたら、集まっていたプレイヤーの一人が俺に声をかけてきた。


「いよう、ガウス。お前らも来たのか」


「お、トーマじゃん」


 親しげに話しかけてきたのは、フレンドで格闘家のトーマだ。噴水広場で意気投合して以来、たまに一緒に狩りする仲で、他の連中とも面識がある。当然、ウードンさんが俺らの身内だってことも知ってる。

 ……口封じしておくべきか?

 ノーアクションでスキル、バーサクを使用。効果時間中、スキルは使えないが攻撃力を大幅に高め、それに伴い身体能力も強化される。この間合なら奴が何をしようとしても、俺の方が速い。

 なお、俺の両サイドにクラレットとツバメが出て、無言で腕をホールドした模様。ちくしょう、ツバメだけならともかく、クラレットまで振り切って暴れるのは嫌だし、口封じは諦めよう。

 それはそれとして、俺は勝ち誇った笑みを浮かべてトーマに言う。


「お前は今日もソロか? ――俺は両手に花だぜ」


「頭にも一輪の花が咲いてるじゃねぇか……!」


 膝から崩れ落ちて、めっちゃ悔しそうにトーマは叫んだ。……はて、頭にも?

 不思議がっていたら、肩車している姐御がわりと上機嫌そうに笑った。


「ふふふ、大丈夫ですよ。いつかトーマさんの魅力に気付く人も、きっと現れますからー」


「だけどタルタルさんっ、こいつ自慢してくるんですよ!?」


「それはお二人で話し合ってくださいねー」


 拳で語り合えってことだな。俺とトーマは頷き合い、次に相見(あいまみ)える時が貴様の最期だと目で語る。お前は友と呼べる相手だが、臨時PTに参加したら俺よりモテるので殺さねばならないのだ。

 そんなことをしていると、流れをぶった切ってスピカが口を開いた。


「トーマさん、トーマさん。先に来てたっぽいけど、何か変わったことなかった?」


「あー。いや、ずっとこんな感じだぜ。

 痺れ切らした奴が城門に魔法ぶち込んだりしたけど、全然壊れなかったし」


「そっかー」


 と言いつつ、城門に目を向けるスピカ。そして一歩を踏み出そうとしたところで、慌ててカルガモが首根っこを掴んで引き止めていた。


「待たんかスピカ! 殴り込みはまだ早い!」


「ち、違うよカモさん! 物理ならどうかなって、思っただけ!」


「そもそも試すなと言っておるんじゃが!?」


 いやはや、うちの妹がすまんね。そいつ、たまに俺より思い切りがいいっていうか、疑問に思ったことを脊髄反射で確かめようとするっていうか。追求したがるんだよね。

 俺は賑やかにしている二人から視線を切って、再びトーマを見る。


「そんで、お前どうすんの?

 鉄砲玉に志願してくれるなら、喜んで送り出すけど」


 フレンドだけど身内じゃないよね、みたいな距離感が最高。

 しかしトーマは冷や汗を浮かべながら苦笑して、


「いやいや、俺はそういうキャラじゃないから。

 そちらさんと違って、俺はキャラの立ってないモブっぽさがキャラなんだよ」


 わりとキャラ立ってる気がするんだけどなぁ。

 そんな話をしていたら、不意に周囲のざわめきが波が引くように静まっていく。

 原因はすぐに分かる。堅く閉ざされていた城門が、重い音を上げて開き始めたのだ。

 知らず、固唾を呑んで見守ってしまう。

 俺の腕を抱くクラレットとツバメも、緊張からかその力を強くして、姐御も両足で首をキュッと絞める。絞めんな。死ぬわ。

 やがて城門が開き切ると、その奥から大声が響き渡った。


「――皇帝陛下の、おなーりー!!」


 先陣を切ったのは見知らぬ男だ。彼は堂々と声を張り上げると、手にした旗――きつねうどんの描かれた旗を振りながら歩み出し、その後には武装した複数のプレイヤーが二列で続いた。

 全員が門を通ると、彼らは二列のまま距離を開けて整列し、そこへ一人の男がゆっくりと歩み出た。

 凛々しい青髪に、風格のある顔立ち。まさしくウードン・カイザー、その人であった。

 彼は列の半ばで足を止めると、見守るプレイヤー達に向けて口を開いた。


「諸君。俺がウードン帝国のクランリーダー、ウードン・カイザーだ」


 どよめきが起こり、彼は右腕を横に張ってそれを鎮める。


「疑問は多くあるだろう。俺を恐れる者も、この首を狙う者もいるだろう。

 だがな諸君、まずは話を聞け。全てはそれからだ。

 俺達とお前達のこれからは、それから決めるべきだ」


 よく通る声が場の空気を支配していく。

 ウードンさんは話を聞けと言ったが、話し合おうとは言っていない。

 一方的に叩き付けられるその言葉は、まさしく演説だ。


「俺は偶然、ホーリーグレイルを手にしただけの男だ。

 ふざけて皇帝と名乗ってはみたが、お前達と何も変わらないプレイヤーだ。

 このゲームを楽しもうと考える、当たり前のプレイヤーだ」


 歩み寄っているかのように錯覚させる言葉。

 自分はそちら側だと主張して、敵ではないと欺こうとしている。


「そして俺は考えた。どうすればお前達と楽しめるかを、だ。

 ――いいか、ウードン帝国は何者も拒まない!

 所属したいと思う者は、誰であっても受け入れよう。

 クランという利益を、望む者全てに分け与えようじゃないか!」


 やはり腑に落ちない。確かにそれは、他のプレイヤーにとっては歓迎すべきことかもしれない。

 だが、メリットしかない。こんな美味い話には、必ず裏がある。

 そう思って聞けば、あまりにも胡散臭い言葉だ。


「クエストの前提条件に、クラン所属を求めるものがあるのは知っているな?

 未だ謎だらけの上級職にも、クランが関わるものはあるだろう。

 クランに所属する利益とはそれだ。

 俺はこの世界を切り開く資格を、お前達に分け与えたい」


 そして彼は右腕を胸元へ引き戻し、強く拳を握った。


「望む者は我が軍門に下れ! ウードン帝国の民となれ!

 世界を自由に冒険し、世界を切り開け!!」


「――やっぱりじゃねぇか!!」


 演説を遮るように、誰かが叫んだ。

 声の主は武装した大柄の男で、顔には怒りと嘲笑を浮かべていた。


「黙って聞いてりゃ、随分と耳触りのいいことばかり言いやがる!

 世界を自由に冒険しろだぁ? 馬鹿言っちゃいけねぇ!

 そりゃつまり、支配圏を広げるってことだろう。

 テメェのクランに入らねぇ連中から、搾取するってことだろう!?」


「……だとしたら、どうする?」


「へっ――こうするだけよ!」


 泰然と構えるウードンさんへ、男は剣を抜いて飛びかかった。

 周囲にいるウードンさん側のプレイヤーに動く様子はない。それなりにステータスが高いとはいえ、ウードンさんのジョブは商人。一対一では勝負にもならない筈だ。

 だが――次の瞬間、飛びかかった男は轟音と共に消えていた。

 何が起こったのか理解できた者は、この場にどれほどいただろう。俺もすぐには分からなかったが、後に残った物を見て理解する。

 それは地面を抉るようにして突き立つ極太の矢。

 どこから放たれたのかも定かではないが、その一撃があの男を跡形もなく消し飛ばしたのだ。


「ば、バリスタだ……!」


 誰かがその正体に気付いて、畏怖の声を上げる。

 バリスタ。それは攻城兵器としても使われた、据え置き式の大型弩砲だ。

 そんなものの直撃を受ければ、人間はああなる。


「当然――我々は大言壮語に見合うだけの武力も、用意している」


 だから攻め込もうなどと考えず、支配を受け入れろ。

 暗にそう告げると、ウードンさんは踵を返して歩き出した。


「諸君、よく考えることだ。

 どうすればこのゲームを楽しめるかを、な」


 最後に背中でそう語って、ウードンさんは城門の奥へと姿を消した。

 あちら側のプレイヤーも、門番らしい数人だけを残して引き上げ、城門は閉ざされる。

 ……誰も、何も言えなかった。

 圧倒的な力の差を見せつけられて、彼こそが皇帝に相応しいと認めさせられた。

 反旗を翻すのならば、姿を見せていたこの時こそが、千載一遇の好機だったというのに。


「ガウス……」


 クラレットが不安そうに俺の名を呼ぶ。

 どうしてこんなことになってしまったのか、悲しんでいるのが分かる。

 ……うん。姐御はまず話し合おうって方針だったが、これは駄目だ。

 ウードンさん。何か考えがあってのことだとは思うが、ちょっと悪ノリが過ぎた。

 俺は深く息を吸い込むと、城壁の向こうにまで聞こえるような大声で叫ぶ。


「お前ら知ってるかー!?

 ウードンの野郎、偉そうにしてっけど徳島県民なんだぜー!!」


 城門がズバーンと開いて、ウードンさんが顔を出す。


「食ってる量なら香川県民にも負けてねぇわ!!」


 魂の叫びを上げると、バシーンと城門が閉じる。

 そのやり取りを目撃した他のプレイヤー達は、何とも言えない微妙な顔をしていた。

 だがこれでいい。どうでもいいことでも、マウント取れる要素があるってのは大切だ。それがある限り、心まで屈したことにはならない。いつか、誰かが立ち上がれる筈だ。


「――やり遂げた顔してるけどさ」


 ツバメがジト目を向けて言う。


「あたし達、これで全面戦争になるんじゃないの? ねえ!?」


「どうしてこの子は、いつも後先考えないんでしょうねー……」


 姐御にも呆れられて、俺は切なげに「くぅ~ん」と鳴いた。

 クラレットが慰めに頭を撫でてくれたので、プラマイで言えばプラス。


     ○


【タルタル@戦争中の発言】

 で、何か申し開きあります?


【うどん貴族の発言】

 悪くないよー。俺悪くないよー。

 緑葉がやれって言ったんですぅー。


【緑葉の発言】

 ええ、確かに最初に持ちかけたのは私ね。

 二つ返事で引き受けたのは、この麺類(徳島産)だけど。


【うどん貴族の発言】

 おう、そのネタ引っ張ると戦争だべ。


【カルガモの発言】

 こやつら放っておいても空中分解しそうじゃなぁ。


【ツバメの発言】

 っていうか、ああいうことするなら相談してよ!

 緑葉さんが唆したっぽいし、正直、見損なったんだけど?


【緑葉の発言】

 あら、小娘がキャンキャンと吠えるわね。

 ゾクゾクするからもっと罵ってもいいのよ?


【ツバメの発言】

 怒ると逆効果だこの人……!


【うどん貴族の発言】

 あー。まあ落ち着け、ツバメ。悪かったとは思ってんだ。

 だけど俺らも考えた上での行動でな。


【クラレットの発言】

 ……戦争が必要だった、とか?


【のーみんの発言】

 クーちゃん大正解! 他にもあるけど、一番はそれだにゃー。


【タルタル@戦争中の発言】

 ま、そんなところでしょうねー。

 支配圏のシステムとか、直前に分かった感じですかー?


【緑葉の発言】

 ええ、忌々しいことにね。

 それなら最初のクランで、派手な前例を作った方が賢明だわ。

 馬鹿なことをしたクランは、寄ってたかって潰されると。


【ガウスの発言】

 つまり後続のクランが、支配圏で悪さするのを防止するってわけか。

 でも俺、緑葉さんがそんな善意で動くって信じられない。


【緑葉の発言】

 もちろん裏でお金ガンガン動いてるわよ。

 マジでこのまま帝国を維持しちゃおうかって思うぐらいには。


【タルタル@戦争中の発言】

 緑葉さん?


【緑葉の発言】

 安心なさいタルタル。私が皆を裏切るわけないじゃない……!


【のーみんの発言】

 そうだぞ、タルタル☆


【うどん貴族の発言】

 あ、こいつらが悪さできんように、クラン運営は他のプレイヤーと組んでるから。

 ぶっちゃけ俺も台本貰って、その通りにやってるだけだし。


【カルガモの発言】

 ほうほう。それなら安心じゃな。


【ツバメの発言】

 うーん。考えがあったのは分かったけどさー。

 ちょっとやり過ぎてない?


【緑葉の発言】

 あれぐらいでいいのよ、あれぐらいで。

 インパクトがないと効果も薄くなってしまうもの。


【スピカの発言】

 ねえねえ、ちょっと質問なんだけど。


【うどん貴族の発言】

 お、どうした。何か分からんところがあったか。


【スピカの発言】

 いつ殴り込みに行ってもいいってことだよね?


【大勢の発言】

 !?



 実はスピカも結構キレてたということが判明。

 そんなわけで、ウードン帝国との戦争という名の、壮大な茶番が幕を開ける。

個人的には蕎麦派です。

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