第二話 お前は王国に対して罪を犯している
街から南に進み続けると、次第に地面の草が薄くなり、剥き出しの土が目立つようになってきた。
VRMMOと言っても、無駄に広い世界は嫌われやすい。黎明期はそれこそ実際の地球みたいな広い世界を再現した、なんてのをセールスポイントにしていたゲームもあったが、普通に考えて目的地まで何時間も――下手したら数日も歩くようなゲーム、誰だって嫌に決まっている。
近年だと設定上はこれぐらいの距離があるとしつつ、十分も歩けば明確に違うエリアへと切り替わるものが主流だ。ヴェーダ・オンラインもそうだったらしいが、ゲオルギウス・オンラインもそこは同じようだ。このままさらに南下すれば、荒野や砂漠が広がっているに違いない。
「しっかし、この辺りは命知らずが多いのぅ」
風景をぼんやり見ながらカルガモが言う。命知らずとは、街周辺の混雑を嫌ってここまで遠征しているプレイヤーのことだ。サービス開始直後で、情報らしい情報もない。どんなモンスターが出現するか分からないし、一撃で殺されたっておかしくはないのだから、命知らずと呼ぶに相応しい。
だがちらほらと他のプレイヤーを見かける以上、そこまで警戒する必要はないだろう。レベル一のプレイヤーが普通に歩けるぐらいには安全だと思っていいし、いざとなればカルガモを盾にして逃げる。
さて、そんなことよりもモンスターだが――――
「カモさんや。あそこのクマさん、俺らが挑んでいい相手だと思う?」
遠くに見える、余裕で二足歩行をしているクマっぽいモンスターを指して言う。
表示される名前は【ハイドベア】だが、ハイド……隠れるって意味だよな? 全然隠れてねぇんだけど? なんならケンカ売った瞬間、俺らがこの世から隠されそうではある。だとしたら皮肉の利いたネーミングだ。
わりと同感のようで、カルガモは「え? そんなのいる?」なとど見えないフリ。現実を見ろよ。
「まあ明らかに格上っぽいし、このレベルだと――あ、やべっ。こっち来てる、逃げろ」
クマさんがこっちに気付いたようで、のっしのっしと歩いてくる。
走れば問題なく逃げられそうなのだが、カルガモの野郎はまだきょろきょろとしていた。
「何にもおらんぞ? ガウス、雑な嘘では流石に釣られんぞ」
「いやいや、あそこに――」
言いかけて、まさか、と思う。
「……カルガモ。マジな話なんだけど、本当に見えない?」
「……見えないね?」
カルガモも察したようで、引きつった笑みを浮かべる。
なるほど、ハイドベアね……あいつ何かのスキルで、見えたり見えなかったりするとか、そういうやつか!?
「ダッシュ! あっちにダッシュ!」
俺はハイドベアを指差して叫んだ。
「おうよ!」
もちろん逆方向へとカルガモは走り出した。ちっ。
俺もすぐに走ったのだが、幸い、ハイドベアが追ってくるようなことはなかった。そりゃそうか、姿を消して奇襲するモンスターなんだから、そのメリットを捨ててまで追いかけるのは不合理だ。
無事に逃げ切った俺達は、周辺に他のモンスターがいないか確認してから口を開いた。
「これ、明らかに適正レベルの違うエリアじゃね?」
「そのクマとやら、対策必須みたいじゃしなぁ」
そうなのだ。今回はたまたま、俺が見えていたから助かっただけ。本来なら何かしらのスキルやアイテムで対策しなければならない相手なのだが、そんなものをレベル一に求められても困る。
「じゃが北に戻っても、ペングーしかおらんぞ」
「そうなんだよなぁ……」
街周辺のエリアではプレイヤーが飽和状態なので、レベル五まで上げるのにどれだけ時間がかかるか分からない。別にスタートダッシュを決めたいわけではないが、無職はさっさと脱したいわけで。
「ま、クマに襲われたら運が悪かったと諦めるか」
「そうじゃの。他のモンスターと戦って、それもやばかったら逃げるべ」
そういうことになった。
別のモンスターを求めて付近を探索していると、地面を黒いものが横切るのが見えた。……嫌な予感しかしないのだが、これはゲーム、ゲームなんだ。そう自分に言い聞かせて、視線を向ける。
「……カモ先生、お願いします」
「いやいやガウス先生、そちらが」
「いやいやいや」
「いやいやいや」
などと譲り合うが、やっぱダメかなぁ。あれ倒さなきゃダメぇ?
見つけたモンスターの名前は【ヨロイムシ】とあるが、その見た目はゴキブリとダンゴムシの間に生まれた子供のような感じ。しっかり六本足が見えるし、なんかカサカサ動いてるし、父母のどっちかは知らんがゴキブリの血が濃いらしい。大きさは小型犬ほどで、犬と違ってちょっと愛せそうにない。
カルガモはそんなヨロイムシを見て、がっくりと肩を落とす。
「虫系はデフォルメしてくれんかのぅ、運営……」
まったくもって同感なのだが、デフォルメした結果が翅のオミットなのかもしれない。
そしてカルガモは腹を括ったようで、決意の眼差しを俺に向けた。
「やるぞ、ガウス。あんなのに攻撃されるのは嫌じゃし、同時に仕掛けよう」
「お、おう」
俺はまだ腹を括れていないのだが、カルガモ案が最適解だろう。
あれは経験値、あれは経験値……そんな自己暗示をかけて、少しでも嫌悪感を減らしておく。
俺達はヨロイムシを挟み込むようにじりじりと動き、間合いに捉えたところでアイコンタクト。頷きを交わし、恐怖を塗り潰せと奇声を上げて襲いかかった。
「「キョエエェェェ――――ッ!!」」
二本のナイフがヨロイムシを斬り裂く! 体液が飛び散る! ヨロイムシが「ギィ!!」と鳴く!
……ログアウトしてぇ。めっちゃ帰りてぇ。
あーあー、しかも仕留めきれてねぇよ。ヨロイムシは体液を撒き散らしながら跳び上がり、カルガモの方へ体当たりをする。やったぜ。
「おほぅ!?」
カルガモは変な声を上げて、なんかバネ仕掛けのオモチャみたいに跳んで回避。
そのまま着地と同時にナイフを突き立てると、それがトドメになったようでヨロイムシは光になって消滅した。
「へ、へへっ、ビビらせおって……!」
「お、なんか落ちてるぞ」
カルガモの足元を指差す。そこには拳大のキューブが、きらきらと光りながら回転していた。
たぶんあれがこのゲームでのドロップアイテムの表現なのだろう。カルガモはほっと一息を吐いて、キューブを手に取った。
「うへぇあ」
「……どうした?」
カルガモはすっげぇ嫌そうな顔をすると、アイテムインベントリを開いて俺に見せる。
……虫の体液。瓶詰めになった緑黄色の液体があり、そう表示されていた。
「やばいよガウス~。このゲーム、心を折りにきてるよ~」
ヨロイムシはともかく、ペングーの件はお前の自爆みたいなもんだと思うんだけどなぁ。
俺は曖昧に笑いつつ、ステータス画面を開いて経験値を確認する。
――――ほう。
「さあカルガモ、次のヨロイムシを探そうぜ!」
「えぇ?」
眉根を寄せるカルガモであったが、俺がステータス画面を見せてやると目の色を変えた。
奴はニヤリと太い笑みを浮かべ、
「急に可愛らしく思えてきたのぅ……!」
「それはねぇよ」
「うん、ごめん。言い過ぎた」
「いいよ」
今なら俺達は何だって許し合える。だってレベル三になっていたんだもの。
これならあと二、三匹もヨロイムシを倒せば、転職条件であるレベル五になれるだろう。
「さあ、行こうぜカルガモ!」
「ああ!」
俺達は意気揚々と歩き出し、ヨロイムシ狩りを開始した。
この辺りでは他のモンスターを見かけることはなかったので、ハイドベアにさえ注意すればいい。途中、いきなりカルガモの頭がトマトのように潰れたと思ったら、次の瞬間には俺も死んでいたのでクマさんマジ怖い。
死に戻りしつつ、ヨロイムシ狩りを続行。一度だけ反撃を食らってしまったが、瀕死で助かった。やっぱここ適正レベルじゃねぇわ。それとも人間がゴミ過ぎるだけなのか。
ともあれ狩り始めてから二十分ほどで、俺達はめでたくレベル五を達成したのであった。
○
「ステータスの振り分けどうすっかなぁ」
噴水広場に戻った俺が呟く。レベル上がって喜んでたら、またクマさんにむしゃむしゃされたよ。
デスペナは経験値の減少だが、それでレベルが下がったりはしないのが安心である。
「まだ情報もろくに出ておらんしなぁ」
隣ではカルガモが、表示フレームを投影して悩んでいた。
どこのサイトかは知らないが、ゲオルの掲示板を見ているようだ。
「やっぱヨロイムシが美味いのぅ。たぶん俺ら最速の部類じゃよ」
「掲示板はどんな感じよ」
「大半はペングー不味い、人多過ぎ、東やばい、って感じかの」
カルガモの話によると、街から東に進んだエリアがやばいらしい。森林地帯をクソでかいハチの大群に追い回され、木々に擬態した巨大な植物モンスターが岩を飛ばす魔法を使ってくるのだとか。
他のエリアはどうかと聞けば、北側は山脈になっているそうで、鳥などの飛行モンスターが多くて危険。少なくとも遠距離攻撃手段を手に入れるまでは、踏み込まない方が賢明。西側は比較的安全で、ペングーの色違いや丸々と太ったウサギなど、それなりに経験値をくれてレベル一でも戦えるモンスターが出るそうだ。
……これ、運営の想定は明らかに西側ルートだよなぁ?
「ともあれステ振りじゃが、ジョブによって重要そうなものは察しがつくじゃろ?」
「まあな。俺は前衛やるつもりだし、筋力と体力を伸ばしておくよ」
まだ低レベルだから、取り返しがつかないってこともないだろう。
そう判断した俺は、筋力と体力をそれぞれ十まで伸ばして、ステータスポイントを使い切った。
「おいおいガウス、蛮族はジョブではないぞ」
「俺の溢れる知性はリアルで証明済みだから」
「覆水盆に返らずって知っとる?」
「こぼしたわけじゃねぇよ」
頭を使うよりも、とりあえずぶん殴るのが好みなのは確かだが。
カルガモの方はバランスを意識しているようで、筋力、敏捷、器用にステを振っていた。小賢しい。
「俺は盗賊志望じゃしの。ガウスは戦士か?」
「あー……」
そもそもどんなジョブがあるか調べてねぇや。
今決めると告げて、俺も表示フレームを投影してゲオルの公式サイトを開いた。
えーと、最初になれるジョブは戦士、盗賊、格闘家、神官、魔道士、呪術師、商人、猟師、吟遊詩人の九種類。これだと力押しができるのは戦士と格闘家っぽいが、格闘家はテクニカル系っぽいんだよなぁ。
「うん、戦士だな」
「じゃろうな。ではサクっと転職しようではないか」
などと言うカルガモであったが、はて、ちょっと待って欲しい。
各ギルドで行う転職クエストを受けなければいけないわけだが、
「ギルドってどこだ?」
「衛兵にでも聞けば分かるじゃろ?」
「まあ、そうだよな。俺はそうだと思うけどさ。
……お前の盗賊ギルドって、場所を教えてもらえるのか?」
「あっ」
今初めてその可能性に気付いたようで、カルガモが冷や汗を流した。
「うっわ、ありえそうじゃな。世界観とか重視してるっぽいしのぅ。
見つけるところから始めなきゃならんか……」
「はっはっは、頑張りたまえよカルガモ君」
朗らかに告げて、俺は戦士ギルドの場所を教えてもらおうと衛兵を探す。
そんな俺の肩をガッと掴んで、カルガモは笑った。
「はっはっは、僕らは友達だろう? 手伝ってくれるよね?」
「盗賊が薄汚い手で触れるなよ。あっ、まだ盗賊じゃないんだっけ?」
「クケェ――――!!」
俺達はナイフと拳で友情を深め合い、衛兵にぶっ殺された。
○
さて。今更ではあるが、スタート地点であった街の名前はラシア。セルビオス王国の首都である。
いや、戦士ギルドを探すのはいいんだが、その前に公式サイトにマップとかないかなって見ていたら、そんな解説があったんだよ。ちなみにマップはなかった。
そんなわけでカルガモと死に別れた俺は、ラシアの街をぶらぶらと散策していた。呼んでない時は飛んでくるのに、いざ探したら衛兵が見つからないのはどうしてだろうね。
「しっかし、作り込みすげぇな……」
街の様子はゲームの中ではなく異世界だと言われても、うっかり信じてしまいそうなほどリアルだ。
俺が注目したのは、例えば子供が落書きした民家の壁。あるいは長年の風雨で、角の丸くなった石塀。ごくごく自然で、取るに足りない歴史の積み重ねが、細部に至るまで作り込まれているのだ。
さすがにこれ、手作業でやってたら正気じゃないし、事前に何十年か、ひょっとしたら何百年か。NPCだけで実際に生活させつつ、設定から逸脱しないように管理して、この歴史を作り上げたのだろう。
もう一つ、リアルだと感じるのは石畳だ。
馬車が通るような大通りはしっかり石畳が敷かれているが、少し道を外れると地面が剥き出しになっているところも多い。そんな道の端には草がぼうぼうに生えているし、市場にでも連れて行くのか、家畜がその草を食んでいる。
いつだったか、カルガモが語っていたのを思い出す。実際の中世ヨーロッパでは、道なんて整備されている方が珍しかった。いわゆる窓から糞ってのはマナーの悪い連中の仕業だが、社会問題になることでもあり――つまり中世の都市の道ってのは汚かったのだ。
ラシアの道はそれを再現している。さすがに汚物までは再現していないようだが、よくある中世風ファンタジーとは違って、史実的な要素をしっかり参考にしていることが窺えた。
同時に確信する。これ絶対、冒険者の扱いゴミだわ。ここまでこだわる運営なら、絶対そうするわ。
「早く就職しねぇとなぁ……おっ」
道の向こうにようやく衛兵を発見。
早速、戦士ギルドはどこか尋ねようと、俺は笑顔で駆け寄った。
「衛兵さーん、ちょっと道を訊きたいんですけど~」
しかし衛兵は俺を見ると――そう、まるで豚を見るような目をして、眉根を寄せた。
「ここで何をしている? 面倒を起こす気か?」
おおっと、いきなり酷い対応である。俺が何をしたってんだ。
まあ治安を維持する衛兵からすると、冒険者なんて厄介者なんだろうなぁ。
「いやいや、何もしないさ。道を訊きたいんだよ」
「本当か? 嘘じゃないだろうな?」
「本当だって! つーか疑い過ぎじゃね!?」
「お前は王国に対して罪を犯している。心当たりはあるだろう」
あっ。
「……そのことは深く反省しているんだ。
だからそう、戦士になって真っ当に生きようって思ってるんだ」
「ふん……まあいいだろう。戦士ギルドの場所か?
それなら西門から北に進んだところだ、行けば分かるだろう」
「ありがとう、世話になったな衛兵さん」
俺は礼を言って、逃げるようにその場を離れた。
……ちくしょう、そういうことか!? これ冒険者がゴミってだけじゃねぇわ。カルガモと揃って二回も衛兵にぶっ殺されたのが、しっかりカウントされてやがる。カルマ値か何かがあるっぽい。
きっと街で騒ぎを起こせば起こすほど、衛兵の態度が悪くなるんだろう。下手したらPKじゃなくても、指名手配されたりするかもしれん。これからはカルガモを殺すなら街の外でやろう。
で、数分後。俺は無事に戦士ギルドへ辿り着いた。
石造りの大きな建物で、敷地はぐるりと石壁で囲まれている。広い庭があり、そこでは汗臭そうな男達が数人、声を上げて模擬戦のようなことをしていた。……道場みたいなもんか?
何となく気にしながら、俺は正面の扉をバーンと開けて中に入る。そのまま肩で風を切り、大股でズンズンと進む。やっぱ第一印象って大切だし、元気のよさをアピールをしておかんとね。
エントランスはそれなりに広く、奥には受付なのか、カウンターが置かれている。他にはテーブルやイスがあり、まだ明るい時間帯だっていうのに飲んだくれてる奴らがちらほらと。……そういやこれ、職業ギルドなんだよな。戦士を職業とするなら――傭兵か? だとすれば、仕事がなけりゃ飲んだくれているのもおかしくはないか。
納得した俺はそのままカウンターに向かい、受付係らしい眼鏡の青年に声をかけた。
「おう、冒険者のガウスってもんだ。戦士になりたくて来た」
「そうかい、表に出な」
ニヤリと笑って言う眼鏡青年。ほほう、話が早くて助かるぜ。
頷いて表に移動すると、飲んだくれ連中の何人かがぞろぞろとついて来る。生意気な新人をボコる流れではないことを祈る。だって初手で舐められたら負けじゃん? しかし傭兵稼業だとすると、こいつらも舐められたら負けなんだろうな。今から土下座して許してもらえるだろうか。
そんなことを考えていると、飲んだくれの一人が腰に差していた剣を抜いて口を開いた。
「ようこそ戦士ギルドへ、歓迎するぜ命知らず。
だがお前さんが真の戦士かどうか、確かめてみなくちゃならねぇ」
「へっ、安心したぜ。袋叩きにでもされるのかと思ったよ」
「生意気な奴め――口だけじゃねぇところ、見せてみな。
おら、かかってきやがれ!」
と、相手が叫んだところで、視界にメッセージが表示された。
【戦士転職クエストを開始しますか?
※このクエスト中は痛覚カット設定が適用されません】
あー、なるほどね。倒せるかどうかではないんだ。
痛みを恐れずに戦うこと。それが真の戦士とやらの条件なのだろう。
だったら迷うことはない。俺はメッセージに「YES」と返して、転職クエストを開始する。
何せこちとら、痛覚カットはゼロにしてるからな!
○
「ハッハッハ! 歓迎するぜ兄弟!
強い男といい女は、いくらいても足りるってことはねぇ!」
「お……おう……よろしくな兄弟……」
無事に戦士への転職を終えた俺は、タコ殴りにされて地面に転がっていた。
無理だって、ステータスが違い過ぎる。手加減されてはいたが、こっちの攻撃が当たる気しねぇもん。
しかし戦士ギルドの面々には気に入られたようなので、俺の行動は悪くなかったのだろう。今時のVRMMOは、NPCにも高度なAIが搭載されている。その感情の働きはそれこそ人間と大差ないので、気に入られるのは重要なのだ。
強いて問題点を挙げるなら、クールな俺にこのノリは厳しいってことかな。
「ハハッ、しばらくそこで休んでな。
何か聞きたいことがあったり、仕事を紹介して欲しければ、カウンターに来い」
あ、そういうシステムなんすね。やっぱ冒険者ギルドなんてないよな、この世界。
それにしても仕事か……金策として用意されてんのかな? 上級職とかにも関わってきそうだし、あとでチェックしておかねば。あと装備を揃える金が切実に欲しい。
地面とスキンシップしながらそんなことを考えていると、カルガモからささやきが飛んできた。
『ガウス、そっちの調子はどうじゃ?』
『おう、さっき転職終わったところ』
『早いのぅ。こっちはまだ手こずっておるよ』
さては盗賊ギルドを探すのを手伝えってことか。
『まあそろそろ姐御も来るだろうし、それまでなら手伝ってやってもいいぜ』
『わぁい! じゃあ留置場まで迎えに来て』
俺はささやきの受信を拒否した。
そしたら解散してなかったせいで、PTチャットに汚い声が響いた。
『見捨てんなよぉ~! 引き取ってくれんと、時間経過待たなきゃならんのじゃよ~!』
『つーかさぁ……お前、マジで何したの』
『それっぽいゴロツキに声かけまくってたら、ケンカになりました』
こいつ無実の一般NPCに攻撃しやがったのか。そりゃ捕まるわ。
『で、釈放に金とかいるの? いるならお前が出せよ』
『おおガウス、心の友よ……! そのあたりは衛兵さんに確認してください』
こんな奴に友認定されるって、俺の前世はよっぽど悪人だったのだろうか。
まあ放置してもうるさそうだし、嫌だけど迎えに行くとしよう。