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竜と信仰の奇譚  作者: 長月十九
第二章 顔剥ぎセーラーの怪
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第十一話 掘ったり埋めたり


 ナップ殺害計画は、いきなり頓挫しようとしていた。

 PTチャットでは真っ先にツバメが、続いてクラレットも反対した。スピカは中立と言うか、ナップの態度に思うところがあったのだろう、黙認するような形だったが。

 姐御はメリットがないから反対だと主張していたので、根っこのところがどうしようもなく外道だと思う。人の命を損得でしか判断してませんよこいつ。

 だがカルガモは、今後も付きまとわれる可能性があることを主張。ならば実際に殺すかどうかは別として、明確な敵対行動を取ることで、距離を置くべきだと言ったのだ。

 これにはツバメ達も消極的な賛成をしたが、やはり問題は姐御である。ぶっちゃけカルガモ個人の問題なので、自分達まで巻き込むのはいかがなものかと、正論を仰った。

 ぐうの音も出ないカルガモだったが、しかし流れを変えたのは誰あろう、ナップその人であった。

 彼がPTリーダーは誰かと問うので、姐御が自分だと答えた時、ナップは真顔で俺達に問いかけた。


「――最年少のようだが、本当にこの子が?」


 恐ろしく見事に地雷を踏み抜いた。

 姐御は小柄であることを認めているし、別にコンプレックスにしているわけでもない。だが子供扱いをされるのは大嫌いなため、この瞬間、姐御はナップ殺害を決意してしまった。


「ナップさん、ナップさん」


 姐御が笑顔で手招きする。俺とカルガモは震えて見守ることしかできない。

 あの怪物の本性を知らない他の面々は、きょとんとしているばかりだ。

 そして呼ばれたナップは、何か、自省するかのように小さく笑って、


「いや、すまない。人を見た目で決めつけるのは、よくないことだったな」


 あまりにも遅い謝罪の言葉を口にした。つーか口にする前に気付け。

 しかも手招きされたのをいいことに、近寄って謝りながら頭を撫でるという暴挙である。

 姐御は満面の笑みを浮かべて、口を開いた。


「ヒール」


 意外にもそれは回復魔法。

 燐光のエフェクトがナップを包み――視界を潰したその瞬間、足払いで転倒させていた。

 これが戦闘であれば、ナップも身構えるなりしていただろう。だが油断し切っていたところへの不意打ちでは、流石に抗う術もない。さらには彼の重装備が災いする。防御に優れる板金鎧だが、どうしても起き上がるのが遅れてしまう。

 突然の出来事への混乱もあったのだろう。彼は呆気なく姐御の追撃を許してしまった。


「ちょっと反省しましょうかー!」


 怒りの叫びと共に放たれたのは、股間への痛烈なキックだった。

 ナップの身を包む板金鎧も前面こそ守ってはいるが、関節の邪魔にならぬよう、真下はがら空きだ。そこへ突き刺さる足先。ナップは「あひゅっ」という息を洩らし、胎児のように身を丸めた。

 ……痛覚カットの設定にもよるが、ありゃあ痛い。とても耐えられるものじゃない。

 思わず俺とカルガモはナップに駆け寄り、励ましの言葉をかける。


「だ、大丈夫かナップ!? 呼吸だ、呼吸するんだ!」


「気をしっかり保て! 金玉にヒールを使うんじゃ!」


 確かに俺達はナップを殺そうと思っていたかもしれない。

 だけど、それにしたってこれはあんまりだ。

 どんな罪人であっても、玉を潰して殺そうだなんて思わない……!


「姐御……っ! 本当にここまでする必要があったのかよ!?」


 震えるナップが四つん這いになったので、その腰を叩いてあげながら叫ぶ。

 しかし姐御は酷薄な笑みを浮かべると、ナップの前にしゃがみ込み、目線を合わせて言う。


「躾のなっていない駄犬には、お仕置きが必要ですよねー?」


「……は、ぃ……!」


 ガクガクと震えながら、最後の力を振り絞るようにして首を縦に振るナップ。

 ああ、ダメだ。彼はもう死んでしまったのだ。

 牙を抜かれ、心を折られ。ナップという男は、戦士として死んでしまったのだ。

 この結末を嘆くかのように、俺とカルガモの慟哭が響き渡る。

 ちくしょう、俺達なら止められた筈なのに……!

 わりと頭おかしいのが揃ってる島人の中で、どうして姐御が恐れられているのか。それはルールの範疇であれば、目的のために手段を選ばない点だ。勝てる勝てないの話ではなく、敵に回したくないのが姐御という人なのだ。つまり止められた筈ではあるが、実際には絶対に止めない。俺だって命が惜しい。

 しばらくして、ようやく立ち上がれるようになったナップは、弱々しい笑顔で礼を言った。


「カルガモさん、ガウス……ありがとう」


 その眼差しに同情の色があったのは、苦労してるんだなぁ、とでも思っているからだろう。

 俺達三人の間には奇妙な友情が生まれ、固く手を握り合った。


「――さ、それじゃあ狩り行きますよー」


「「「はいっ!」」」


 声を揃えて返事をしたところで、俺とカルガモはナップを蹴り倒した。


「無礼じゃぞナップ! 飼い主への直答はまだ早い!」


「そうだぞ! へへっ、姐御ぉ〜。こいつの教育は俺らに任せてくれよな!」


「あれぇっ!? さっき俺達、友情を誓わなかったか!? なあ!」


 そんな俺達を女性陣が呆れたように見ていたが、男の友情ってこんなもんだよ。

 迅速に格付けを済ませて、俺達はピラミッドの二階へと移動した。


     ○


 ナップ達と合同での狩りは、小一時間ほどで終わった。

 特に問題があったわけではなく、ちゃんと休憩しようということで切り上げたのだ。

 狩りを通して分かったことは、やはりダフニさん――格闘家の瞬間火力の高さは侮れないということ。通常攻撃こそ低火力だが、スキルを連続で発動した時の火力は間違いなく俺以上。ただし燃費も相応に悪く、そこをどうするかが今後の課題だと彼女は語っていた。

 ナップは何て言うか地味だった。堅実にタンクをこなすのだが、俺とスピカがいて、ヒーラーの姐御まで揃ってるもんだから、あんまり出番がないと言うか……一人で戦線を支えるだけの力はあるんだけど、大人数のPTだとその長所がいまいち光らないんだよな。

 逆にナップから俺への評価は高かったようで、もし気が向いたら、ということでクランに誘われた。その勧誘現場には当然ながら姐御もいるわけで、おすわり(物理)させられていたが。

 で、姐御達はラシアの溜まり場へ帰り、ダフニさんは今日はログアウトするとのこと。

 そんなわけで俺とナップの二人は、プラメージ廃坑にやって来ていた。


「待って、ガウス待って、ずんずん進むなって……!」


 後ろからナップが小声で叫ぶものの、俺は歩調を緩めずに返す。


「直感を信じろ。敵がいたら反応する筈だ」


「さっきもそう言って、鉢合わせしてたじゃん!」


「アースエレメンタルは急に出るから仕方ねぇだろ!?」


 決して直感が頼りにならないわけではないのだ。俺はそう信じている。

 ……さて。どうしてこうなったかと言えば、狩りの最中の雑談が理由だろう。

 俺の斧の性能が微妙に良いことに気付いたナップが、店売りの量産品ではなく、鍛冶屋で作った品ではないかと尋ねてきたのだ。

 そうだと肯定すれば、どこで鉄鉱石を確保したのだという話になる。現状、鉄鉱石はピラミッドのモンスターがたまに落とすぐらいで、まとまった量を確保できていないんだとか。

 ナップ達がピラミッドで狩りをしていたのも、半ば鉄鉱石目当てだったらしい。素材を用意する手間はあるが、鍛冶屋で作った装備は性能がいいし、場合によっては安上がりだからだ。

 俺としても素材アイテムの流通量は増えてくれた方がいい。俺一人の金策として独占するよりも、大勢で採掘して相場を下げてやった方が、装備作りの面では恩恵が大きいのだ。

 なので快くプラメージ廃坑を教え、せっかくだからと二人でツルハシ担いで採掘ツアーに来たわけである。


「ガウス、あそこっ。あの横穴、今絶対何か動いたよな!?」


「ナップ、それは影だよ。松明の灯りで揺れただけさ」


「ガウス、ガウス! 唸り声が聞こえないのか!?」


「落ち着けよナップ。俺達の声や足音が反響しているだけだ」


「だけどガウス、見えないのか? あの暗がりに何かいるぞ!」


 俺は無言で走り出した。犠牲になるのは俺以外だけでいい。

 しかし松明を持っているのは俺なので、その灯りを頼りにナップは猛追した。


「そういう奴だと思ってたよ、ガウス……!

 俺はお前を信じていた。本当にやばい時は、必ず一人だけ逃げると!」


 ちっ、だからモンスターよりも俺を警戒してたってか。笑えない話だ。

 後方からは俺達に気付いたゴブリンの亜種、ノッカーの集団が追って来る。洞窟暮らしに適応しているだけあって、単純な足の速さでは勝てるが、地形的な問題で振り切れそうにはない。

 ナップを生贄に捧げるしかないが、こいつのステやプレイヤースキルを考えると、ダウンさせる前にノッカーが追いついてしまうだろう。

 だからこそ俺は、背後のナップに当たるコースで松明を投げ捨てた。


「が、ガウス……!!」


 人間のゴミなところはよォ……暗さに弱いって点だぜ……。

 さあナップ、条件は同じだ。転べばそこで終わりの、デッドヒートを始めよう。

 まあ俺は松明を投げる瞬間まで、必死に地形を頭に入れておいたけどな!


「ハッハァー! 尊い犠牲になってくれやナップ!」


 掴まれたりしないように、全力で加速する。ナップも少しは足掻くかもしれないが、悪足掻きの芽は潰しておくのが勝負の作法ってもんだ。

 だがしかし、ナップは予想外となる起死回生の一手を打った。


「ヒール!!」


「なっ、ンだとぉ……!?」


 スキルエフェクト……!!

 ナップは俺を対象にヒールを使うことで、そのエフェクトーー燐光によって光源を確保した。

 暗闇の坑道を切り開く光を手にして、立場は完全に逆転する。俺が迷いなく走れるのは、ほんの僅かな距離だけ。その程度ならば、追いつくまでにナップのMPが枯渇することもないだろう。

 事実、さらに二回のヒールを発動して、ナップは俺の横に並んで不敵に笑った。


「ヒールの使い方は工夫次第だと、あの人に学んだのさ……!」


 すかさずトレード申請を飛ばす。


「おわぁっ!?」


 ポップアップした表示フレームに視界を遮られて、ナップは転倒した。

 分かっちゃいないよ、ナップ。全然分かっちゃいない。姐御だったらそれこそ、俺が何かするよりも早く、俺の視界をヒールで潰していた筈だ。

 それができていないお前は、理解者には程遠い。この世には、憧れだけでは届かない地平というものがあるんだ。


「ゲーヒャッヒャッヒャ! あばよナップ!

 お前の愉快な死に様は、姐御に笑い話として伝えておいてやるよ!」


 高笑いして突き進む俺は、しかしすぐに足を止めた。

 この騒ぎに引き寄せられたのか、前方からはトロールがのっそりと迫っていたからだ。


「…………」


 後ろを振り返れば、よく見えないがナップはまだ無事らしい。ノッカーが追いつくのも時間の問題だとは思うが、今はまだ生きている。

 そうとなれば、俺のやるべきことは一つだけだ。


「ナップ! ここは俺に任せて先に行け!」


「綺麗な話にするなよ外道!? もう手遅れだ、手遅れ!」


 こうして俺達はラシアへ死に戻りすることになった。

 やっぱりプラメージ廃坑は恐ろしい場所だなぁ。


     ○


「ーーははっ、ついにやったなガウス!」


 血走った目をギョロギョロとさせながら、ナップが不気味なほど朗らかに笑う。

 きっと同じような顔をしている俺も、その肩を叩いて笑った。


「それもこれも、お前が諦めなかったからさ。

 もしも俺一人だったら、とっくに諦めていたぜ」


「ふっ……それは俺も同じだよ、ガウス。

 お前がいたから俺は、ここまで頑張れたんだ」


 互いの健闘を称え合い、俺達はプラメージ廃坑の採掘ポイントで笑った。

 あれから挑戦すること四度。幾度もの裏切りを乗り越えて、俺達はようやく当初の目的を果たせたのだ。


「さ、早く採掘しちまおうぜ。敵が来たらぬか喜びになっちまう」


 ツルハシを装備しながら告げた言葉に、ナップも頷いてツルハシを取り出した。


「ああ、そうだな」


 そうして俺達はツルハシを持ったまま、無言で向かい合った。

 破顔したのはどちらが先だったのだろう。

 俺達は敵意がないと示すために、両手を上に上げた。


「ここまで来て裏切ろうとは思っていないよ。ガウスもそうだろう?」


「ああ、もちろんさ。くだらねぇよ」


 俺達の気持ちは同じで。

 ツルハシ持ったまま手を上げてんだから、そりゃ脳天狙って振り下ろすよなァ!!

 激突したツルハシが火花を散らし、ここに俺とナップの最終決戦が幕を開けた。

 勝者は飛び入り参加した現地在住のトロールさん。


     ○


 ちゃんと鉄鉱石を採掘できたのは、不毛な争いにも疲れた七度目のアタックだった。

 散々殺し合って分かったこととしては、ナップの実力はやっぱり俺より上だということ。島人連中と争った経験がなければ、俺は何もできずに敗北していただろう。

 実力を認め合った俺達は、次は必ず殺すと約束してラシアで別れた。その後、尾行して油断したところを殺して埋めておいた。殺し合うと合意したばかりなので、当然、PK判定は回避だ。

 さーて、どうすっかな……鉄鉱石はそれなりに手に入ったが、鍛冶屋で防具を作るとなると金もかかるし、今の手持ちだと厳しいか。ソロでどっかに行く気分でもないし、溜まり場に帰るとしよう。

 溜まり場に顔を出すと、残っているのはクラレットと姐御だけだった。

 二人はイスに座って朗らかに会話しており、その光景に心が洗われるような思いがした。いや、片方は穢れている気もするが、クラレットの浄化パワーが上回っている。仮に浄化パワーが足りなくても、先程までの俺とナップの会話よりはよっぽど平和的だ。

 そうそう、これだよこれ。俺の帰るべき場所はこういう、光に溢れる場所なんだよ。冥府魔道から戻ったことを実感しつつ、俺は笑顔で二人に駆け寄った。


「ただいまっ!」


「あ、おかえりガウス」


「採掘はどうでしたかー?」


 何よりもまずアガリを確認してくる姐御らしさが、帰って来たんだなと実感させてくれる。

 俺は苦笑して頬をかきながら、


「かかった時間を考えると微妙かもしんねぇ。

 装備の一つや二つは作れると思うんだが、誰の何を優先するかだな」


 その返事を聞いて、二人は白い目を俺に向けた。

 うっ……そりゃあ俺だって、もうちょっと甲斐性のあるところを見せたいけど、ソロでもプラメージ廃坑は無理がある場所なわけで。そこにナップまで同行したんだから、これは仕方のないことだ。

 しかし俺の予想と違い、呆れたようにクラレットが口を開いた。


「やっぱりナップさんとケンカしたんだね……」


「この子は誰にでも噛みつきますからねー」


「おいおい、人をまるで狂犬か何かみたいに言うんじゃねぇよ。

 時と場所、それと相手を選ぶだけのインテリジェンスはあるつもりだぜ?

 それでも狂犬だって言うんなら、ちゃんと躾をするのが飼い主の責任ってもんだ。

 ほら、もっとちゃんと握って! 俺の手綱!」


 ふんぞり返って言ったら、姐御に手招きされたのでササっと傍に寄る。

 隣に座るように指示されたので腰を下ろすと、姐御は俺の膝に座り直した。


「それで鉄鉱石以外には、何か掘れたりしました?

 黄鉄鉱は使い道ないんで、またロンさんに売っちゃえばいいと思いますけどー」


「あー、精鉱石ってのが少しだけ。

 たぶん上位素材だけど、数が数だから今は使えないと思う」


「ふむふむ。名前的には魔法関係っぽいですねー。

 それは売らないでロンさんに預けて、調べてもらいましょうか」


 そういうことなら、また会った時にでも渡しておこう。

 それから鉄鉱石で誰の装備を優先しようかと話していたら、おずおずとクラレットが手を挙げた。


「あの……いいの?」


「「うん?」」


 何を問われているのか分からず、俺と姐御は揃って首を傾げた。

 その様子にクラレットは、何故か達観した様子で頷いた。


「あ、うん……何でもないです」


 よく分からんが自己解決したらしい。

 そう言えば、と俺は姐御の頭にアゴを乗せて話す。


「他の三人はどうしてんの? トリオで狩りとか?」


「カモさんはソロで検証したいことがあるからって、どこか行っちゃいましたね」


「ツバメとスピカちゃんは少し前に、今日はもう落ちるって」


 なるほど。まあ明日も学校あるんだし、そろそろ寝ないとダメだよな。


「……ん? クラレットはまだいいのか?」


 わりと夜更かしの多い俺はともかく、クラレットも落ちた方がいい時間だと思うのだが。

 尋ねられた彼女は、ほんの少し、困ったように眉を下げて笑った。


「おかえりって言わないと、拗ねちゃいそうな気がしたから」


「ああ、うん。それは」


 拗ねるわ。確かに俺なら拗ねる。

 他に誰もいなけりゃ、姐御だって溜まり場に残っていなかっただろう。

 そうなると廃坑から帰った俺は誰にも出迎えられず、寂しい心を慰めるべく無意味にナップにささやき連打して、拒否られるまで嫌がらせをしていたに違いない。

 だけど素直に認めるのも何か嫌で、俺はわざと不機嫌そうに言った。


「そんなに俺、子供っぽく見えるか?」


「じゃ、じゃあ、私もそろそろ寝るね」


「待ってクラレット! 本当に子供っぽく見えてんの!?」


 背丈は平均身長に届いてないけど、チビってわけじゃないんだぜ! もしも中学生とかに見えてるんだったら、断固として抗議しなきゃいけない問題だよこれ!

 しかしクラレットは曖昧に笑い、手を振って逃げるようにログアウトした。

 ……俺は膝の上に座る姐御の、小さな体をそっと抱き締めて言う。


「姐御……俺、大きくなりたい……」


「その願い、絶対に叶えさせません」


 人選を誤った。この金髪コロポックルは邪悪過ぎる。

 ちくしょう。俺と違って大人だから、もう希望がないからって、器まで小さいぜこの人。

 もっと縮めと脳天を突付いて、キレる姐御から逃げるように俺もログアウトした。


    ○


【暮井の発言】

 だーかーらーさぁー!

 パンチラ前提のデザインでパンツ見えたって、何も嬉しくないんだよ!

 見えないことに価値があるんだから、見せパンなんて邪道の最たるものだね!!


【緑葉の発言】

 珍しく気が合ったわね、暮井さん。ええ、実にその通りよ。

 いいこと野蛮人ども。パンツを恋心だと解釈してみなさい。

 オープンなのもいいけど、秘めた恋心の方が萌えるでしょう!?


【うどん貴族の発言】

 けど俺、やっぱ見えるだけでありがたいわ。


【コロの発言】

 だよな。なんか見えた瞬間、ゲージ溜まるよな。


【デュランダル斉藤の発言】

 そもそもパンツっていらなくね?


【大勢の発言】(4人)

 死ねよ異教徒。


【デュランダル斉藤の発言】

 ばっかお前ら、冷静に考えてみろよ。

 普段は見えなくて、見えるだけでありがたいだろ。

 つまりパンツを取り払った先にこそ真理がある。お分かり?


【のーみんの発言】

 あたい清純そうな子がえぐいパンツ穿いてるの好き。


【ガウスの発言】

 寝る前に顔出したらこの魔境だよ。一分ぐらい絶句したわ。


【暮井の発言】

 が、ガウスさん、何故ここに!?


【緑葉の発言】

 はっ、まさか……私達のパンツ談義が、彼を呼び寄せてしまったの……?


【コロの発言】

 言い伝えは本当だったんだ!

 おパンツパワーが高まる時、伝説の戦士……パンツァーが現れる!


【デュランダル斉藤の発言】

 くっ、穿いてない派はこれでは劣勢……!

 誰ぞ! 誰ぞおらぬか!?


【八艘@墜落中の発言】

 いるさ! ここにな!


【デュランダル斉藤の発言】

 いや八艘さん、あんた仕事中じゃん。名前で分かるよ。

 こんなとこにいないで仕事しろって。


【八艘@墜落中の発言】

 あばよ……ダチ公……!


【緑葉の発言】

 ところでパンツァー、私もゲオル始めたわ。

 明日にでもフレ登録させなさい。


【ガウスの発言】

 え、マジで?


【のーみんの発言】

 あたいが誘ったのさ!


【緑葉の発言】

 ま、そういうわけよ。のーみんとペアで頑張るわ。

 どうせならもう一人ぐらい欲しいのだけど……ああ、そこの麺類でいいわ。


【うどん貴族の発言】

 俺ぇ? 構わんけど、土日はメイスやるぞ俺。


【緑葉の発言】

 問題ないわ。ほらガウス、これで三人よ。

 フレ登録ついでに、三人分の装備も調達しておいてね。


【ガウスの発言】

 あの、財布握ってんのは姐御なんだけど。


【のーみんの発言】

 ……地道にコツコツ頑張ろうね、みっちゃん☆


【緑葉の発言】

 ええ、そうね。額に汗して稼ぐからこそ尊いのだわ。

 ああもう労働って最ッ高ーー! 資本主義バンザーイ!!



 姐御に資産管理を任せておくと、こういう時に役立つんだなぁ。

 まあちゃんと頼めば姐御も鬼ではないし、ポーションぐらいは分けると思うけど。

 ともあれ、明日も騒がしくなりそうだと思いつつ、俺は眠ることにした。

メリークリスマス!!!!!

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