第九話 俺達は穴を掘る
新しい装備を作ろう!
夕食後、ゲオルにログインした俺は、溜まり場でそう宣言した。
集まっているのはツバメ、クラレット、スピカの三人。カルガモと姐御は掲示板で見かけたクエストを試してみたいと、溜まり場には来ないで別行動中である。
俺の宣言へ最初に反応したのはスピカで、元気よく手を挙げて言う。
「はいはい! 兄ちゃん、私は鎧が欲しいです! カッコイイやつ!」
タンクをする以上、スピカの防具は優先順位が高い。
純粋な防御力を考えれば、まずは鎧。次に攻撃を受け止めるための盾だろう。
だが現実はいつだって世知辛く、予算も素材もそんな余裕はないのだ。
「悪いが後回しだ。まずは俺の武器がないと話にならん。
いくら耐えれても、敵を倒せる火力がないとジリ貧になるし。
つーか昨日、青銅の胸当てを買ってやっただろ」
金属製の鎧としては最安値なので、性能もお察しなわけだが。
「うー。じゃあピラミッド行こうよ、ピラミッド。
レベル上げにもなるし、鉄鉱石集められるし」
「そのためにも俺の武器がいるんだよなぁ!」
今までのメイン武器だったハンドアックスは、昨日壊されちまったからなぁ。
鉄鉱石は俺が一括で預かっているし、姐御からも金をいくらか分けてもらっているが、これで新しい武器を作るのに足りるかは分からない。
最悪、ひとまずの間に合わせとして、またハンドアックスを買うという手もあるが……。
「それにピラミッド行くなら、問題はもう一個あるぞ」
「一階なら大丈夫じゃないの?」
不思議そうにするスピカだったが、そこでツバメが疑問に答える。
「タルさんがいないから、回復できないんだよ。
あそこ、ポーションだけで頑張ろうとしたら、たぶん赤字になっちゃうし」
「あと……アタッカーがもう一人欲しい、かも」
思案しつつ、クラレットがそう言う。
「私とガウスだけだと、私のMPがきついと思う。
カモさんほどじゃなくていいから、戦える人がいないと」
「そういうこったな。だから、このメンバーでピラミッドは無理。
駅馬車の代金だってあるし、ちょっと現実的じゃあない」
そこで話題は当初のものへと戻る。
俺だけに限らず、新しい装備を作ろうという話だ。
「ま、探せばラシアにも鍛冶屋ぐらいあるだろ。
俺とスピカはそこへ行くから、クラレット達は魔道士ギルドに行ってくれ。
そっちで杖の素材とか代金を確認したら、素材を集められる場所とか探そうぜ」
鉄鉱石は難しいかもしれないが、杖の素材はどうせ木材だろうし、それならラシア周辺でも確保できるかもしれない。何せ西に行けばいくらでも木が生えてるもんな。
そういうわけで方針は決まり、俺達は二手に分かれてラシアの街へと繰り出した。
○
俺は一人、薄暗い坑道を歩いていた。
トロッコでも走らせていたのか、地面にはレールが敷かれているものの、すっかり錆が浮いてしまっている。ここが採掘されなくなって久しい廃坑であることを、その無残な姿が物語っていた。
ピラミッドと違い廃坑には光源がなく、俺は道具屋で購入した松明を左手に持っている。光に指向性がないため、あまり遠くまでは照らせないのだが、とにかく安かったので不満はない。
「――――っ」
普段と違い、あえてカットなしに設定した嗅覚が獣臭を嗅ぎつける。
俺はくるりと方向転換すると、手近な横道へと駆け込む。そこで松明を消して息を潜めていると、やがて何かを引き摺るような音が接近し、獣臭が強烈さを増した。
元来た道を眺めていると、音と臭いの正体がゆっくりと通り過ぎて行く。
それは毛むくじゃらの巨人だった。
大きく醜い鷲鼻に、捻れた長い耳。体躯は俺を二回りか三回りは上回り、長い腕の先には短くも太く鋭い爪が並ぶ。腹には毛が生えていないようで、浅黒い肌がどうにか見える。
腹を見るのが困難なのは、匍匐前進のように腹を引きずって這っているからだ。
立ち上がれないほど坑道が狭いわけではなく、何らかの理由でああしているのだろう。耳が捻れていることからすると、耳はあまり聞こえないのかもしれない。だからひょっとしたら、ああして腹で振動を感じ取り、獲物を探しているのかもしれないと考えた。
この怪物の表示名は【トロール】……俺でも知っているメジャーなモンスターだ。
外見は作品によって様々だが、大抵は非常に力強くて頑丈で、高い再生能力を持つ。RPGだと中盤から終盤にかけて出現することが多く、それはゲオルでも同様らしい。
何せ姿を見る前から、レベル差補正という名の本能が逃げろと訴えていたのだ。
場違いにも程がある――のは、むしろ俺の方か。
俺はトロールが通り過ぎるのを確認してから、ほっと息を吐いた。
ここはラシアの北にあるプラメージ廃坑。
街の鍛冶屋で期待せずに近場で鉄鉱石が手に入る場所はないかと尋ねたら、ここを紹介されたのである。
じゃあ俺、ちょっとソロで様子見がてら特攻して来るね、なんて意気揚々と出発したのだが、あまりにも迂闊だった自分が恨めしい。街の北側には山脈が広がっているのだが、容赦なく空から攻撃してくる鳥のモンスターなどがいて、俺には逃げることしかできなかった。
幸い、レベルだけで言えば俺の方が高いのか、ダメージはそう大きくなかったが……とにかく逃げ回り続けて、ようやくプラメージ廃坑に転がり込んだ俺は、さらなる地獄を見せつけられた。
一番やばいのは間違いなくさっきのトロールだが、他にも洞窟暮らしに適応したらしいゴブリンの亜種であるノッカーや、泥のような不定形の体を持つアースエレメンタルが出現する。
どいつもこいつも本能が警鐘を鳴らすあたり、とても戦えるような相手ではない。つーか冷静に考えれば、まだ鉄鉱石が採れるのに廃坑になってるんだから、それ相応の理由があると考えるべきだった。
ちなみにトロールとはまた違った方向でやばいのが、ここに出現するゾンビだ。ステータス的にはピラミッドに出現したものと変わらないようだが、どうしてここに、と考えると非常にやばい。
単なる元鉱夫――というわけではないだろう。そりゃあ死亡事故も起こっていたとは思うが、それならそれで埋葬なり供養なりされるだろう。ゾンビになるとは、あまり思えない。
じゃあこのゾンビの正体は何かって考えたら……鉱山奴隷とか。
何だか王国の闇に触れてしまったような気がして、とてもではないが深入りしたくない。
……というか今の俺、鉱山奴隷よりもブラック労働なのでは?
嫌過ぎる事実に気付いてテンション落ちそうになったので、その記憶は封印して消去しておく。
ともあれ、モンスターに見つからないようにしながら、探索を進めていた時のことだった。
「おっ、あれか?」
廃坑の中、微妙にきらきらと光る壁を見つけた。
水が滲み出て光ってるだけじゃないだろうな、と近付いて確認するが、そんなことはなかった。
よしよし。街でNPCから聞いた通りだ。採掘ポイントはこのように光っているものらしい。
俺はインベントリから道具屋で購入したツルハシを取り出し、装備する。扱いとしては両手武器になっているが、攻撃力はゼロに等しい。まあ採掘専用のアイテムなのだろう。
松明を脇に立てかけて、鉄鉱石出ろと念じながら壁をガツンと叩く。
……っと、一発じゃダメか。何度も叩くとツルハシが壊れそうな気もするが、まあ仕方ない。消耗品だと割り切って何度かツルハシを振るうと、ついに壁から何かが転がり落ちた。
それはモンスターのドロップアイテムと同様のアイテムキューブだ。拾って確認してみると、表示された名前は【金鉱石】だった。
「はぁ――――!?」
え、俺は鉄が欲しかっただけなんだけど、金鉱石? ゴールド?
これはまさか有名な童話のごとく、正直者には金の斧と銀の斧を与えましょうってやつか。流石に金の斧が壁から出ると意味不明だから、せめて原材料をプレゼントってことですね女神様!?
へっへっへ、じゃあさらに採掘すれば銀も……?
「おおぉぉぉ……!!」
欲望に正直な俺は、雄叫びを上げて壁を乱打する。
まず転がり出たのは鉄鉱石。ちっ、だが当初の目的でもある。回収しておこう。
その次は……またしても金鉱石! 銀だなんてケチ臭いことはせずに金!
とんだゴールドラッシュに俺のテンションは青天井。ゲーム開始以来、常に悩まされた財政難もこれで一発逆転。俺は壁を掘っているのではない、今まさに未来を掘っているのだ……!
などと我を見失いながら採掘をしていると、首筋に生温かいそよ風。
坑道に風? と怪しんで振り返ったら、そこには大口を開けたトロールさんが。
あ、そっかぁ。振動感知してるんだったら、採掘作業なんてバレバレだよねー。
「お、美味しく食べてね?」
要求するまでもなく、美味しくいただかれた。
肉ばっかり食ってると栄養が偏るので、坑道に自生してる毒キノコも食って死ね。
○
死に戻った俺は、スキップしながら溜まり場へと帰還した。
先に鍛冶屋へ行ってもよかったのだが、その前に金鉱石を誰かに自慢したいという、可愛らしい衝動の結果である。装備の更新もままならない貧民どもを、見下して嘲笑ってやろう。
ウキウキとして溜まり場に戻った俺は、しかし閑散とした光景に肩を落とした。
カルガモと姐御が戻っていたが、クラレット達はまだいない。三人で自然破壊、いや、西へ木材を調達しに行っているんだったか。へへっ……ここも随分と広く感じちまうぜ。
ま、いないものは仕方がない。プラン変更だ。
カルガモのような俗物一人を相手に勝ち誇っても虚しいので、俺は姐御に駆け寄った。
「姐御〜! 俺、やったよ〜!」
「そうですかー。頑張りましたねー、えらいえらい」
何を、と確認することもなく、とりあえず頭を撫でてくれる。わぁい。
ついでに猫へするような感じでアゴも撫でてもらい、満足したところで俺は金鉱石を取り出した。
「プラメージ廃坑ってところで、こんなの見つけたんだ!」
「……え、金? ホントにお手柄じゃないですか!?」
「一個だけじゃないぜ、まだまだあるんだ!」
「きゃー! どうしたんですかガウス君、今までで一番素敵ですよー!」
積み重ねてきた交流をマネーパワーがぶっちぎる。
でも姐御が喜んでくれているなら、それに勝る喜びはないよ!
しかし手を取り合ってキャッキャとはしゃぐ俺達に、空気の読めないカルガモが言った。
「金鉱石なら、金の含有率で価値は変わるんじゃないかのぅ?」
「クックック、僻むのはやめろよなぁ、みっともない。
見ろよカルガモ、この色を! たっぷり金が入ってるに違いねぇぜ!」
金鉱石を突きつけるように示してやる。
まさに動かぬ証拠ってやつさ……惚れ惚れとするような、光沢のある淡黄色が輝いている。
が、カルガモはそれをひょいっと奪い、
「逃げたりせんから、ちと見ておれ」
そう言うと、右手で短剣――ではなく、その鞘を握った。
何をするんだ、と問うよりも早く、カルガモは鞘で金鉱石を強く叩いた。
打撃音と共に火花が散り、こいつまさか砕く気なのかと、俺と姐御は殺害計画をアイコンタクト。
だがカルガモは苦笑して、やっぱりな、と呟いた。
「これは金鉱石ではなく、黄鉄鉱じゃよ。
見た目が金とよく似ておるから、愚者の黄金などと呼ばれておる」
「は……? いやいや、いくら俺でもそんなホラ話にゃ乗せられないぜ。
だって書いてあんじゃん! 金鉱石って表示されてるじゃん! なあ、姐御!?」
信じたくない、否定してくれ、と姐御を見つめる。
しかし姐御は先ほどまでの様子が嘘のように、穏やかな微笑みを浮かべていた。
「うふふ。ガウス君は早とちりさんですねー」
こ、この反応……! この人は知っている! 黄鉄鉱とは何かを知っている!!
知ってて気付かなかったもんだから、全部俺のせいにしようとしている……!
「ま、これは騙すためのアイテムなんじゃろうな。
キャラの知力か、商人あたりのスキルで見破れそうじゃが」
あー。愚者の黄金、だから知力で、か。
確かに見破る手段が用意されてなきゃ、がっかりアイテムにしても悪質過ぎる。
しかし騙すためのアイテムか……。
「……ちなみにプラメージ廃坑の敵、PTで挑んでも勝ち目がないレベルだったぜ」
「……ほう。大雑把な見立ては?」
「受けたダメージから考えると、最低でも五十以上が適正帯」
「なるほど。で、いくつある」
「六個」
「充分じゃな」
カルガモがニヤリと笑い、俺も同じように笑った。
そして俺はわざとらしく言う。
「金鉱石と表示されてるんだから、これは金鉱石に決まっているじゃないか」
「おお、困ったのぅ。俺の目にも、そうとしか表示されておらん」
じゃ、そういうことで。
俺達はどこの露店がいいかなぁ、などと口にしながら溜まり場を、
「あのー。もしかしてお二人とも、詐欺ろうとしてませんかー?」
「「まさか」」
姐御の問いかけに異口同音に答え、肩をすくめて笑った。
「いいかい姐御。詐欺ってのは当然、よくないことさ。俺だってそのぐらい分かってる。
でもな、考えて欲しいんだ。騙そうとしなけりゃ、それは詐欺じゃない。
そしてカルガモがなんかほざいてたけど、俺はこれを金鉱石だと信じているんだよ」
「俺の判別法も絶対に正しいとは言い切れんからのぅ。
それなら専門家――商人にでも渡すのが、正しい行いだと思うんじゃよな」
「それにほら、本物か偽物か分からないなんて、よくあることじゃん?
そういう目利きをするのも、商人の仕事じゃないか」
「然り、然り。むしろこれは、経験を積ませようという善意……!
一人前の商人になるための勉強代……!」
完璧な理論武装をした俺達に怖いものはなかった。
姐御は諦めたように嘆息して、
「せめてロンさんをカモってください。
身内なら最悪、通報されたりはしないでしょうから」
この人、発想が俺らより邪悪な気がするんだけどどう?
ま、そうと決まれば行動あるのみだ。
俺はロンさんに連絡を取り、ついでなので場所を教えようと溜まり場へ召喚した。
のこのこと呼び出されたロンさんに、俺とカルガモは軽妙な営業トークを仕掛ける。
まだ需要はないかもしれないが、貴重な素材だから必ず売れると説き伏せて、金鉱石を買わせることに成功。
わぁい、懐があったかーい!
つーか結構金持ってんな、ロンさん。露店で地味に稼いでるのか。
ロンさんは良い取引ができたと礼を言い、何に使えるか鍛冶屋で調べて来ると溜まり場を離れた。
俺とカルガモは道具屋に向かった。
○
俺達は穴を掘る。
二人で深く、穴を掘る。
どんなものでも埋められるように。
土がどんなものでも、覆い隠してくれるように。
取り急ぎ購入したスコップは、充分にその役目を果たしてくれた。
○
「度し難いな貴様らは!? 立派な殺人だぞこれは!」
溜まり場にて。死体を埋めたのに死に戻ったロンさんが、激しく怒っていた。
やっぱプレイヤー相手に暴力的な手段での口封じは無理があったか。
まあまあ、と俺達はロンさんを宥めて言葉を紡ぐ。
「俺らもちょっと気が動転しててさ。
まさかあの金鉱石が偽物だなんて、まったく思いもしてなかったんだ」
「うむ。凄まじい剣幕で怒鳴り込んで来おったからな。
つい反射的に殺してしまったが、悪気はなかったんじゃよ」
「まったく……確かに私も冷静さを欠いていたが、もう少し手段を選びたまえ」
ホントちょろいなこの人。
人の悪意という概念をちゃんと知っているのに、悪意を疑いもしない。
ロンさんはインベントリを開くと、それを俺達にも見えるように投影して言う。
「結果として偽物を掴まされたがね。この黄鉄鉱、使い道がないわけではないらしい。
プレイヤーが必要とするのはまだ先だろうが、NPCにもそこそこの値で売れるようだ」
「あれ? じゃあ損はしなかったのか?」
「NPCに売れば、少し赤字ではあるね」
そう言いながら、ロンさんは不敵な笑みを浮かべた。
「しかし私ならば、これを黄鉄鉱だと説明した上で、プレイヤーにも売り捌ける。
どれほどの利益が出るかは分からないが、転売とはそういうものだ」
自信満々の様子に、俺達はこっそりとスクラムを組んで相談する。
飛び交う単語は「情報商材」、「詐欺グッズ」、「経済テロ」という不穏当なものであり、ロンさんがこれからろくでもないことをする前提での会話だった。
漏れる言葉を聞き取ったロンさんは眉をひそめて、
「カルガモ、ガウス。私を貴様らのような三下と一緒にしないでくれたまえ。
私は貴様らなんぞよりも、よっぽど上手くやってみせるとも」
本当かなぁ~?
非常に疑わしいのだが、本人がそう言っている以上、結果を待つしかないだろう。
ともあれ懐は温かくなったし、鉄鉱石もそれなりの数が手に入った。
俺はちょっと鍛冶屋に行って来ると告げて、溜まり場を離れることにした。
ラシアの鍛冶屋は何軒かあるが、俺が向かったのは壮年の鍛冶師がいるところだ。
この鍛冶師、工房を構えられるだけの腕はあるようだが、本人はまだ修行中だと謙虚に話す。そのこと自体はどうでもいいのだが、修行中の身だからと、手数料が少し安い点を大いに気に入っている。
実際のところ、一定以上のランクの装備の制作や強化を依頼した場合、他の鍛冶師より失敗率が高いのではないかと疑っている。それでも根気よく依頼したら成長するのかもしれないが。
俺は鍛冶師に鉄鉱石を渡し、新たな武器――バトルアックスを制作してもらう。戦闘用に作られたものだけあって、単純な攻撃力だけでもハンドアックスの倍はあった。
握った感触や、振った時の重心も悪くない。これならピラミッドの強敵にも通用するだろうと確信できた。
鉄鉱石は少し余ったが、他に何かを作れるほどでもない。
これは売らずに保管しておいて、防具を作る時にでも使い回すとしよう。
武器を新調した俺は、ほくほく気分で溜まり場へと戻る。
ロンさんは隅っこで虚空を見詰めていたが、たぶん意識を電脳に切り替えてネットでも見ているんだろう。
クラレット達も帰還しており、クラレットとツバメは新しい杖を持っていた。
どうやらあちらも装備の新調は上手くいったようで、嬉しそうな顔をしていた。
「あ。おかえり、ガウス」
俺に気付いたクラレットが声をかけてくる。
自然と杖を見せびらかすようにしているのは、やっぱり自慢したいからなのだろう。
その気持ちはとてもよく分かるので、俺もさり気なく斧を肩に担いで言う。
「それが新しい杖か。ますます頼りになるな」
「うん。火が通る相手なら任せてっ」
褒められて嬉しそうに笑う。
クラレットはこれが初めてのVRMMOだし、装備作りの楽しさに目覚めつつあるようだ。
まあ最終的にはどんなゲームでも、正気を疑うようなレアリティーの素材を要求されたりして、心が折れるんだけどな!
「ちょっとちょっと、ガウス君? あたしの方には何もないのー?」
ツバメが不満そうに唇を尖らせて言うので、でもなぁ、と俺は答える。
「お前のスキルって、別に火力とか関係ないし……」
「成功率が違うの、成功率が! なんならガウス君で試してみる?」
「それは勘弁してください」
ごめんごめんと平謝りしたところで、さて、と姐御が手を叩いた。
「装備も充実したところで、今日も狩りに行きましょうかー!」
なお約一名、ほぼ初期装備の子がいる模様。俺の妹なんですけどね。
まあ収入があったことだし、スピカにはそれを渡して、ちゃんとした盾を買ってもらおう。バックラーは小型で使いやすいんだが、タンクをするならもっと大きくて、防御力を重視した盾の方がいい。
とりあえず今日はピラミッドの一階か二階で、レベル上げを目的に狩りをしようということになった。
で、その前に消耗品を用意しておくことになったので、スピカにはその間に盾を買いに行かせた。
全員でぞろぞろ買い出しに行く必要もないので、溜まり場では俺とクラレット、ツバメがお留守番。
「ところでさー、ガウス君」
そしてツバメが、不意に溜まり場の片隅を指差した。
そこだけ土の色が違うことから、つい最近、掘り返したことが分かる。
「あそこ、何か埋めたの?」
「ああ、土に還るゴミを埋めておいた」
新たな肉体を得たゴミさんは、せっかくだから狩りに誘おうと声をかけたが返事はなかった。
ただの屍でもないのに返事がないとは、これいかに。
ま、義理は果たしたんだから、後で文句を言われることもないだろう。
新たな力を得た俺達は、再びピラミッドへと挑む――――。
ご安心ください。24日も25日も投稿されます。
いつもの予約投稿ではなく、手動投稿です。
そういうことなのです。