第三話 砂漠の街クラマット
コボルトが生息するラシア南西のエリア。
平原と呼ぶには木々が多く、森と呼ぶには少ない半端な場所だ。
そんな場所では今、俺達の奇声がこだましていた。
「ダ!」
コボルトを三匹引き連れて走る俺は、前方で同じく二匹のコボルトを釣っているカルガモに叫ぶ。
それに頷きを返し、ハンドサインを送りながらカルガモも声を上げた。
「ぬ!」
オーケー。挑発を使ってその二匹のコボルトを引き受けると、自由になったカルガモは再び釣りに戻る。俺はその背中を見送りながら、念のために一声かけておく。
「ダっ」
「ぬ!」
よし。合計五匹になったコボルトを、引き離さないように注意しながら走り、やや遠回りの形でベース……主砲であるクラレットが待機している地点へと向かう。
到着した時には、護衛役のツバメがコボルト一匹と戦闘中だったので、
「ダ! ダダ!」
こっちになすり付けろと指示を飛ばす。
「何語!?」
「ダ!」
いいから早くと告げれば、姐御が苦笑して俺に言う。
「ガウス君、圧縮言語のままですよー」
あっ。いかんいかん、うっかりしていた。
俺はミスを誤魔化すように照れ笑いを浮かべて、
「そいつ引き受けるから、こっちになすり付けてくれ!」
「オッケー!」
ようやく話が伝わり、ツバメは俺の進路を横切るように移動する。
その後を追うコボルトを斧で小突いて、ターゲットをこちらに固定。流石に六匹ともなると油断したら袋叩きにされてしまうが、今回は姐御がいるので回復が間に合うし、いざとなればクラレットに吹っ飛ばしてもらえばいい。
そのままベース周辺をぐるぐると回っていると、カルガモがさらに四匹のコボルトを連れて来た。
「ぬー!」
「ダダ、ダっ!」
言葉を交わし、俺達は進路を変えて並走。コボルト達がごちゃごちゃと一塊の集団になったところで、さらに挑発を使用。それを見届けたカルガモは加速して離脱し、俺はクラレットが狙いやすいポイントまで移動した。
お膳立ては完璧。さあぶちかませと、俺はクラレットに叫んだ。
「ダ!」
「ファイアーボール!」
投じられた火球が炸裂し、コボルトは一匹残らず爆発四散。たーまやー。
あとにはドロップアイテムのキューブだけが残り、回収しているところを姐御のヒールで回復してもらう。
狩り始めてそろそろ三十分ぐらいだが、効率は中々のものだ。一度に十匹ぐらいは倒せるし、釣って来る間、ベース付近に出現したコボルトはツバメが処理すればいい。
「あの、ガウス。ちょっといいかな」
「ダ?」
クラレットに声をかけられて振り向く。MPが厳しいのかな?
「それ。カモさんもだけど、さっきから言葉が変」
ああ、そういやツバメにも通じてなかったもんなぁ。
説明した方がいいかと思い、カルガモに手招きしながら俺は種明かしをすることにした。
「ただの圧縮言語だよ。普通に話してる余裕がない時ってあるだろ?」
「そんなことできるの……?」
クラレットはツバメに顔を向けるが、ツバメは首を横にぶんぶんと振っていた。いや、お前ならできると思うんだけどなぁ。別に特別なテクニックがあるわけでもないし。
「複雑な会話をしているわけではないんじゃよ」
近寄ってきたカルガモが、説明役を引き継ぐ。
「語気やリズムで、何となく意思を伝えておるだけでな。
それだけでは足りんと思った時は、ハンドサインも混ぜればよい」
「俺はリズム重視だな。カルガモは微妙なニュアンスの違いで、一音に圧縮すること多いけど」
「言っておきますけどこれ、変態のテクニックですからー。真似しなくていいですよー」
えぇー。姐御もたまに使ってるじゃん。
俺達だけがおかしいみたいな扱いを受けるのは、ちょっと心外である。
「ま、強敵相手に使うってことはないかな。こういう乱獲する時に使うのがメインだよ」
「うむ。雑魚を乱獲しておると、ぶっちゃけ会話するのが面倒でなぁ」
「効率を追求すると、瞬間的な判断が要求されることも多いし」
そういった必然から自然発生したのが圧縮言語であり、ネトゲにはその使い手も結構いる。まあチームスポーツにおけるアイコンタクトを、音でも補助しているものだと考えれば、そう不思議でもないだろう。
「……私にはできそうにないから、普通に話してね」
「うっす、了解っす」
どちらかと言えば前衛の連携に使うものだし、クラレットには必要ないかもしれない。ツバメの方は今後、前衛としての動きもしていくなら、できるようになってもらいたいが。
ともあれ圧縮言語についての説明が終わったところで、俺はインベントリを開いて重量を確認する。管理しやすいようにドロップアイテムは俺がまとめて預かっているのだが、そろそろ重量限界に近い。
売ればそれなりの額になりそうだし、狩りはこのぐらいで切り上げようか、と提案する。
「そうですねー。装備を新調するわけでもないですし、充分だと思います」
姐御がそう判断したことで、街に戻って懺悔しようということになった。
……我ながら嫌な予定だよなこれ。
○
ラシアの教会へ行き、司祭に懺悔をしたいと告げると、そのまま礼拝堂で行うことができた。
姐御の解説によれば、正確には告解――赦しの秘跡とも呼ばれる儀式らしいのだが、ゲーム的な都合か、それとも設定が根本から違うのかは分からないが、ここでは懺悔という言葉で統一されていた。
内容はかなり簡易化されているらしく、司祭の前で罪の告白を行うと、司祭はそれを神の名において赦す。本当にそれだけの簡単なものだったが……婉曲表現で金を払えと要求されたので、お布施を収めておいた。
この生臭い感じは俺やクラレット、ツバメからは不評だったのだが、カルガモと姐御には好評であった。リアルだとか再現性が高いだとか、気持ちは分からないでもないが、聖職者には清廉潔白であって欲しい。
ちなみに懺悔をしたのは俺、カルガモ、姐御の三人だが、要求されたお布施の金額はそれぞれ異なっていた。
一番安いのが俺で、次がカルガモ。カルマ値は大差ないと思うので、やはり盗賊というジョブで何かしらの補正があるのだろう。これで胸を張って卑しい盗賊と罵ることができる。やったぜ。
で、最も高額なのが姐御だったわけで……本人はおかしい、間違っていると憤慨していたが、俺らは納得である。そもそも俺とカルガモ、街中でちょっと暴れたぐらいであり、トドメを刺した回数は姐御が圧倒的に多い。もう俺らとは比較にもならないぐらい、その手は血に染まっていたのだ。
いわゆるアライメントというものがあれば、姐御の属性は間違いなく混沌にして悪だろう。司祭を生臭と表現したが、こっちは血生臭い。破門とかされないだけ感謝した方がいいに違いない。
「タルタルさん。あんまり気軽に殺したらダメだからね」
「はい……以後気をつけます……」
クラレットからのガチ説教に肩を落とす姐御。いや、気軽でなきゃいいのかよ。
まあPTリーダーがお尋ね者になっても困るので、注意してもらいたい。
「どうしてもっていう時は言って。私がやるから」
「はい、その時はお任せしますねー」
おいやべぇよカルガモ、俺らの殺害計画が立てられてるよ。
恐ろしい光景に、俺達は揃って「くぅ~ん」と鳴いて体を震わせた。
ツバメは我関せずで笑っているが、お前はこっち側だろ……! なあ……!
人間関係が複雑さを増していく中、用を終えた俺達は教会を出て街を歩く。このまま駅馬車を使って他の街へ移動してもいいんだが、狩りを終えたところでもあるわけだし、溜まり場に戻って少し休憩しようということになった。
そうして街を歩いていると――――
「あっ、兄ちゃーん!」
「ガウスと呼べって言ったじゃーん!?」
元気よくかけられた声に嘆きの叫びを上げて、俺は膝から崩れ落ちた。
あんまり期待してなかったけどさぁ! その日の内に爆弾が爆発するだなんて、ちょっと思ってなかったよ!
皆は五体投地して涙を流す俺を怪訝そうに見て、駆け寄ってきたスピカに視線を移していた。
「ごめんごめん、忘れてた。あ、どーも。妹のスピカです」
「お、おう……俺らはガウスのPTメンバーだ」
珍しく素になったカルガモが、困惑した様子で答える。
こうなったら毒を食らわば皿までか……放置するよりも、せめて主導権を握るべきだ。
「まあ自己紹介は後にして……立ち話もあれだし、溜まり場に移動しようぜ」
そう告げた俺の肩を、ぽんとカルガモが叩いた。
同情はよしてくれ……お前に慰められたところで、ちっとも嬉しくねぇんだ。
「面白そうじゃからフレンド申請送ってもいいかの?」
「ぶっ殺すぞ」
この害鳥マジでさぁ! ホントさぁ! 死ねばいいのになぁー!!
しかしスピカの前で殺し合うわけにもいかない。いや、別にそれはいいんだが、俺だけ死んでこいつらを野放しにするのが怖い。さすがに不意打ちしなけりゃ、カルガモには勝てん。
殺意を必死に押し込めて、俺達は溜まり場へ移動する。道中、軽く自己紹介をしたら、スピカからフレンド登録をしようと申し出てしまった。うんうん、自然な流れだね。己の無力さが憎い。
そんなこんなで溜まり場に到着して、
「改めまして。お兄さんとお付き合いさせていただいているツバメです」
害鳥がいきなり爆弾ぶっ込みやがった。
「おまっ、ツバメェ!?」
「え、え、そうなの? 兄ちゃん、やるじゃん! おめでとう!」
「違う、嘘だ! こいつの嘘なんだ!」
「んもぅ、照れなくていいよガウス。
恥ずかしい気持ちは分かるけど……ちゃんと挨拶しなげぼっ!?」
あ。クラレットが杖でツバメの脇腹を突いた。
「ややこしくなるから、悪ふざけはそのぐらいにね」
「うぅ……はい、分かりました……」
「悪い、助かったよクラレット。
さて、これで分かったろ? 俺はツバメと付き合ってるわけじゃないんだ」
「……じゃあそっちの、クラレットさんと?」
「「違うよ!?」」
「気をつけてねスピカちゃん。クラレット、嫉妬深いところあるから」
「ああ見えてガウスを独占しようとしておるから、注意するんじゃぞ」
「ち、違う! 私そんなんじゃ……カモさんまで!」
わあカオス。誰かあの害鳥さんチームを止めてくれ。
ストッパーとして期待の姐御はダメだ、完全に面白がって眺めてやがる。
「でもさ兄ちゃん、ホントなの?」
と、クラレットの様子に疑問を抱いたか、スピカが問うてくる。
よしよし、流石は我が妹。嘘を嘘と見抜けるだけの賢明さはあったようだな。
「兄ちゃん、巨乳好きなのに」
――あ、死んだ。俺死んだわ。今死んだ。
急に場の空気がシン、と静まり返って、女性陣の冷たい視線が突き刺さる。
俺は咳払いを一つ。それから深く息を吸って、
「俺、おっぱいが好きだ」
ファイアーボルトを叩き込まれた。
吹っ飛んだところにバインドをかけられて、仕上げに姐御が俺を踏みつけた。
「うわぁ!? 兄ちゃんが一瞬でボロ雑巾に!」
「ガウス君。今の言い訳、最低だと思うんですよ」
「そうじゃぞガウス。胸よりも尻じゃよ尻」
焼き鳥が追加された。
だがまだだ、俺の言葉はあれで終わりじゃない。たとえ殺されるのだとしても、真意を伝えられないまま死ぬなんて嫌だ。だから俺は最後の力を振り絞って、叫ぶように声を上げた。
「確かに、確かに俺は巨乳好きだよ! それは嘘じゃない!
けど――他のおっぱいだって、好きなんだ!!」
「よーし、死んどきましょうかー!!」
俺はやり遂げた男の顔で死んだ。
クソっ、これだからリアルとネットは分けておきたかったんだ。ネットにおける俺のクールなイメージが、スピカのせいで台無しになっちまった。つーか巨乳好きとかどこ情報だよ、なんでそんなに俺を理解してんだよ。
で、リスポーンした俺は爽やかな笑顔で溜まり場に舞い戻った。
「やあ皆、愚かなガウスは死んでしまったよ。
新しい俺はあんなのと違うから、どうか安心して欲しい」
「え、別人設定……?」
正気かこいつ、という感じの目を向けてくるクラレット。
いいんだよ、無理があるのは分かってんだから。押し切れ押し切れ。
「つーか姐御、懺悔したばっかなのに殺すなよ。また悪化しちまうぜ」
「うっ……でもでも、あそこは殺した方がオチとして綺麗じゃないですかっ」
「それは仕方ねぇけど、ファイアーボールで爆発オチとかさぁ」
クラレットは手をぱたぱたと振って嫌だと意思表示をしているが、爆発オチは伝統芸だしなぁ。
つーかそういう理由で殺したのかってツッコミを入れないあたり、俺らに毒され過ぎである。
「そんでさー、兄ちゃん。待ってる間に聞いたけど、別の街に行くんだって?」
「おう、お前は来るなよ」
「えー。でも私、もう戦士になったんだよ」
「そうじゃぞガウス。あまり冷たくせず、一緒に遊べばよいではないか」
「俺確信持って言うけど、お前タンクが欲しいだけだろ」
「そうじゃけど?」
「……スピカちゃん。あれがダメな大人の見本ですよー」
「……体が目当てって最低だよねカモさん」
「……お兄さんに守ってもらってね」
「おうおう、随分と好き勝手に言いなさるのぅ!?」
でも今の、絶対にお前が悪いと思うよ。
荒ぶるカルガモを蹴り飛ばしつつ、俺はスピカに意地悪をしているわけではないと言い聞かせる。
レベル差が大きい現状、俺達がこれから行くような狩り場では厳しいし、はっきり言えば足手まといになってしまう。それよりもこっちで臨時PTにでも入って、タンクの練習がてらレベルを上げた方がいい。
そうしたことを話すと、少し不満そうではあったが納得してくれた。
「分かったよ。じゃあ明日、明日ね! 今日頑張ってレベル上げるから!」
「まあ引き離すけどな」
「もー! そこは楽しみにしてるとか言えばいいの!」
ぎゃあぎゃあと騒ぐスピカをあしらっていると、クラレットが覗き込むように、上目遣いで俺を見て、
「ガウス、もっと信じてあげて」
「……いや、まあ」
クラレットの言いたいことは、何となくだが分かる。スピカの力不足のことではなく、俺が危惧していること――リアルの情報を話してしまわないかという不安について、信じろと言っている。
俺はそれを避けたいがために遠ざけようとしているが、もっと信じろと。身内だからこそ軽んじがちになってしまっているが、そういった偏見を持たずに接するべきだと訴えているのだ。
……でもこいつ、俺が巨乳好きだってバラした前科が既にあるんだよな。
あれは話の流れのせいで、スピカも混乱していたからかもしれないが……つーかあれ以上に話されて困るネタって俺、あったっけ? 恥ずかしい話は多少あるが、巨乳好きのインパクトに比べりゃ弱い、か?
とすれば、むしろ警戒すべきはスピカに余計なことを吹き込まれることなわけで。
「うん、そうだな。クラレットの言う通りだ」
「……なんか違うような」
気にするな。信じる心は取り戻したが、信じるには値しなかっただけだ。
俺は仕方ないという態度を装って、皆に尋ねる。
「ちと迷惑をかけるかもしれねぇけど、こいつ、連れてってもいいかな?」
特に反対の声はなく、満場一致で受け入れられたのは言うまでもない。
こうして新たな仲間を迎えた俺達は、駅馬車に乗って違う街を目指すこととなった。
○
俺達が移動先に選んだのはラシアの南、クラマットという街だった。
距離的にラシアから近いのは西のドヴァリだが、そちらは運営の想定したルートだと推測して、かなりの数のプレイヤーが流れ込んでおり、情報もそれなりに集まっていた。
その情報が正しいと仮定した場合、ドヴァリ周辺はラシア周辺よりもワンランク強い敵が多いようだ。しかし俺達が移動先に選ばなかったのは、モンスターの数が少ないという情報もあったからだ。
もっと先へ進めばまた別かもしれないが、おそらくドヴァリ周辺はソロ向けのエリア。それならPT向けの狩り場がある街に行こう――ということで、選ばれたのがクラマットだった。
「うわ、ホントに砂漠になってる!」
駅馬車から真っ先に降りたツバメが驚きの声を上げる。
地面は言葉通りに砂が広がっており、吹く風にも砂粒が混じっている。照りつける日差しの厳しさは真夏のそれを上回っており、VRゲームということで軽減されていなければ、外には一秒だっていたくないと思えるほどだ。
砂漠の街クラマット――その名は誇張でも何でもないというわけか。
「つーかこれ、よく馬車が走れたな……」
「ま、そこはゲームじゃからな。何かしら裏設定があるのやもしれんが」
リアルだと馬車どころか、普通の車でも走るのは難しいだろう。
建造物の多くはベージュ色の砂岩で建てられているようで、角張った形のものが目立つ。たまに白や青の装飾が施されている建物もあるが、あれは特別な施設と言うより、裕福さを示すものなのだろう。
そんなことを思いながら街を眺めていると、姐御が奇声を上げた。
「んん~~~ッ!! アラビア風――ッ!!」
あ、そうでしたね。建物ガチ勢でしたもんね。
ってことはこれ、アラビア風の街並みなのか。砂漠だしエジプトだと思ってたけど、確かにアラビアも砂漠だもんな。まあぶっちゃけた話、エジプトっぽいものがこれでもかと主張しているせいでもあるんだが。
同じ感想なのか、カルガモもそれを見て半笑いで言う。
「アラビアにピラミッドとは、奇妙な組み合わせじゃのぅ……」
そう。街の北側には、巨大なピラミッドがそびえていた。
「あそこがダンジョンなんだよね」
クラレットの問いに頷く。
「ああ。上に行くと死ぬと思うけど、一階ならちょうどいい強さの敵が出るらしい」
クラマット大ピラミッド。それがそのダンジョンの名であり、俺達がこの街に来た理由だ。
先行しているプレイヤー……と言うよりは観光客の集めた情報によれば、あれはかつてこの地に栄えた王朝の遺跡で、内部は魔物の巣食うダンジョンと化しているらしい。
葬られた王族の怨念がモンスターをおびき寄せているそうで、ゾンビやスケルトンといったアンデッドモンスターの他にも、砂漠に生息しているモンスターの出現が確認されている。
「早く行ってみたいけど……タルさんがダメっぽいね」
恍惚として街を眺める姐御を見て、ツバメが苦笑する。
まあ姐御に配慮するわけじゃないが、少しは街を見て回った方がいいだろう。街が違えば店の品揃えだって違うだろうし、ラシアにはない施設だってあるかもしれない。
なので先にちょっと観光しないかと提案したら、
「はい! はい! 観光したいです!!」
「分かってるから落ち着け」
まあ新しい街だし、観光したい気持ちは皆同じらしく、特に反対はされなかった。
で、全員一緒に行くと店を回るだけでも結構な時間がかかりそうなので、二手に分かれることに。
「姐御は俺の担当じゃな。あれは誰かが手綱を握らねばならん」
「じゃ、あたしもそっちで。スピカちゃんはガウス君と一緒がいいでしょ?」
そんなわけで、姐御 With 害鳥さんチームが完成。
こちらはクラレットとスピカか……スピカにちょっと注意すればいいだけで、実に平和である。
「そんじゃ一時間ぐらいな。何かあったらPTチャットで連絡ってことで」
「うむ。集合場所はあのピラミッドの前でいいじゃろ」
そうして二手に分かれた俺達は、クラマットの観光に行く。
歩き出してすぐに、俺にはこの街の素晴らしいところが一つ分かった。
――ここ、衛兵いないじゃん。




