第二話 ゲームマスター
スピカのレベルが五になったところでログアウトして、俺達は晩飯を食べた。
それから風呂に入ったりして時刻は二十時。そろそろまたログインしたいところなのだが、困ったことに俺の部屋には奈苗がやって来ていた。
「うーん、ジョブ……どれがいいかなぁ」
奈苗はネットブラウザを投影して、ゲオルの情報をチェック中。そんなの自分の部屋でやれと言いたいが、こいつこれからログインして転職するまでは、俺を付き合わせるつもりなんだろうなぁ。
明日も学校あるんだから早く寝ろ、とか言ったら俺にブーメランとなって刺さるのでとても言えない。
仕方ない。真面目にアドバイスして、せめてさっさと終わらせるか。
「体動かすのは得意なんだし、前衛にしたらいいんじゃないか?
ああでも、格闘家はMP管理難しそうだから、それだけはお勧めしないけど」
「前衛かー。こう、魔法とかドッカーン! って使いたい気持ちもあるんだよね」
「けど迷ってるってことは、そういうの苦手だって自覚してんだろ?」
「そうなんだよねー……MPとか属性とか、あれこれ考えなきゃいけないんでしょ?
そういうのするぐらいだったら、シンプルに武器で攻撃した方がいいかなって思うしー」
なるほど、好みと適正の不一致か。たまにあるケースだ。
こういう時は目先を誘導してやると解決しやすい。
「別に攻撃するばかりが前衛の仕事じゃないぜ。
例えばタンク――敵の攻撃を引き受ける役割なんだが、これはなり手が少ない。
誰だって痛いのは嫌だし、攻撃されるのは怖いからな。
けど、だからこそタンクは尊敬されるし、カッコイイんだぜ」
「おおー……タンク」
よしよし、心が動いているな。それじゃあもう一押しだ。
俺はネットブラウザを投影し、ゲオルの掲示板――PT募集スレを表示した。
「ほら、見てみろよ。タンクの募集が目立つだろ?
皆がタンクを……勇者を求めているのさ」
「勇者――決めた! 兄ちゃん、私タンクになるよ!」
「おう。タンクってジョブはないから戦士だな」
奇しくも俺と同じジョブになってしまったが、目指すところが違えばあまり問題ない。
俺はアタッカーを目指しているからペア狩りも成立するし、二人で臨時PTに参加するといったことも可能だろう。まあペア狩りは可能でもバランスが悪いのは事実だし、臨時PTとかがメインになりそうかな。
そして俺は先輩として、心構えを説いておくことにした。
「タンクの仕事はとにかく耐えることだ。
攻撃されまくるから、必要ならオプションで痛覚設定を弄っておくといいぞ」
「オッケー! あ、兄ちゃんは痛覚とかどんな設定にしてんの?」
「俺? 基本的にカットなしだけど、嗅覚だけはちょっと落としてる」
「……それ、大丈夫なの?」
「慣れたら平気だぜ? 痛みは鮮明な方が、動きも冴えるからな」
それでも嗅覚だけは下げないと、ちょっとつらいんだよな。
基本的に本人のリアル感覚が基準になるから、俺みたいに鼻が利き過ぎると血の臭いとかで吐きそうになる。気配を探るなら視覚や聴覚でも充分なんだから、嗅覚は人並みっぽいレベルに設定しているのだ。
「ま、戦士になると決めたなら、あとは戦士ギルドに行って転職するだけだ。
別にそこまで付き添わなくてもいいだろ?」
「そうだけどさー。兄ちゃん、やけに離れたがるね」
「こっちにはこっちのPTがあるんだよ。
いつか一緒に狩りをするとしても、今はレベル差があり過ぎるから無理だ」
「ふーん。よし、じゃあすぐに追いつくから、楽しみに待っててね!」
死刑宣告をされたような気分だよ。
どう足掻いたところでレベルが上がれば上がるほどペースは落ちるから、いつか追いつかれるんだよなぁ……それまでにこっちから興味を逸らすか、ゲーム内で固定PTでも組んでくれたらいいんだが。
ともあれ、これで今日は奈苗の面倒を見なくてもいいだろう。俺は用があれば呼んでくれと断ってから、ベッドに寝転がってゲオルにログインした。
○
そこは石造りの薄暗い部屋だった。
光源は壁で揺れる燭台しかなく、窓の一つもない。広いと言える部屋ではないが、実際以上に息苦しく感じるのは窓がなく、そしてドアすらも存在しない完全密室だからだろう。
部屋の中、俺は一人の男と向かい合っている。金糸で装飾された白のローブを着た男で、彼は表情を最初よりも幾分かは柔らかくして言う。
「なるほど、なるほど……つまりスピカというプレイヤーは、あなたの妹だと」
「うっす。誓って言いますが、拉致ったわけじゃないです」
はい。つまりこの男、GMです。
スピカがゲームを始めた時のやり取りが誰かに通報されていたようで、ログインしたらラシアの街ではなくこの部屋に出た。まさかと思っていたらGMが現れて容疑を話したので、俺は弁明したというわけである。
「ログ見てもらえれば分かると思うんですけど、あいつレベル上がってるでしょ?
あの後、普通に狩りしてた証拠にならないっすかね」
「ああ、確かに。……しかしどうして、誤解されるようなことを?」
「……個人情報に触れる恐れがあった、と言えば分かってもらえます?」
その言葉に、GMは納得したように――ちょっと同情しているような顔をして頷いた。
「そこは深く追求しませんが、察しはつきました。
ところで話は変わるんですが、あなたは他にも何件か通報されていましてね」
「え? マジで?」
何か変なことしたっけ? カルガモが嫌がらせで通報したか?
いやでも、あいつは自分の手を汚すタイプだから、そんな嫌がらせはしないと思うんだが。
「街でPKをしているプレイヤーがいる、と」
「すんません。それ、じゃれ合いみたいなやつです」
そっちか~。俺らには日常的過ぎて、通報案件だとは思ってなかったな~。
GMもその件は誤解だと分かってくれているようで、苦笑して答える。
「PK判定はされていないのでご安心を。
ですが誤解を招く行為でもありますので、以後は注意してください」
「うっす。目撃者のいないところでやれってことですね」
「違うんだけどなぁ」
GMがマジかよこいつといった感じの目を向けるが、目撃者さえいなければ問題はないのだ。
そもそも街でのPKはシステム的に許容されている。人目につく場所でやると衛兵に殺されると思うが、運営としてはそれを罰しないだろう。その確信があるからこそ、俺もカルガモも街で殺し合えるのだ。
「まあいいでしょう。それでは用件は済みましたので、ラシアに転送させていただきます。
ご協力ありがとうございました。引き続き、ゲオルギウス・オンラインを――」
「――あ、ちょっと質問いいっすか?」
折角の機会なので、疑問に思っていたことを尋ねてみよう。
回答してもらえるかは怪しいが、相手も人間。面と向かって話したなら、応じてくれる甘さも期待できる。
「なんか衛兵にめっちゃ殺されるんですけど、これ教会で懺悔したらいいんですかね」
「指名手配されていないなら、そんなことは……」
言いながら、GMは何かのウィンドウを投影。おそらく俺のデータを細かく見ているのだろう。
それを確認したGMは顔を歪めて、
「まだ三日目なのに……」
思っていた以上に俺は何かが酷かったらしい。
「ゲーム内容に関することを話すのは、あまりよくないんですが……。
とりあえず懺悔してください。改善しなければ賄賂ですね」
「うっす、あざーっす」
「もういいですね? では、ラシアに転送しますので」
そうして視界がブラックアウトし、俺はラシアの街へと飛ばされた。
しかし物は試しと尋ねてみたが、懺悔が有効だというのは予想通り。意外な収穫は賄賂が有効だということか。
おそらく指名手配などはシステム的に処理しているのではなく、行為の情報をAIに与えることで、AIに設定させているのだ。そのAIは衛兵など、取り締まる側のNPCで――賄賂を送って買収することで、ある程度は罪を隠蔽できるのだろう。
……これってさぁ。他にも色々と、金で解決できるってことを示唆してるんじゃねぇの?
○
『おうガウス、遅かったのぅ。今日はお前が最後じゃぞ』
「色々とあったんだよ、色々」
ラシアに戻ったところで、カルガモからPTチャットが飛んでくる。
口振りからして他の人は揃っているようだし、俺も合流しておくか。
「で、今どこにいんだ? 俺は噴水広場の近くだけど」
『案内するから待っててー! 迎えに行くから!』
この声はツバメか。しかし案内……?
「なんだ? どっかの店に入ってんのか?」
『ツバメさんが良いところを見つけたんですよー。詳しくは見てのお楽しみでー』
おや、姐御まで。なんだろう、溜まり場に使えそうな場所でもあったんかな?
気にはなるが案内するとのことなので、大人しく待つことにする。
しばらくしてツバメがやって来たので、挨拶もそこそこにその後をついて行く。
「どこに向かってるんだこれ?」
「まーまー、タルさんも言ってたじゃん。見てのお楽しみって。
本当ならガウス君にも、夕方に教えたかったんだけどね」
あの時、声をかけるなって言ったのは俺だからなぁ。
ツバメは意外とそういうところ、義理堅いのかもしれない。害鳥から鳥にランクアップ。益鳥までの道程は遠い。
案内されるままに歩いていると、ツバメは入り組んだ路地へと入って行く。治安が悪いとか、そういった雰囲気ではないので、いわゆる下町のような場所なのだろう。ただし基本的に民家ばかりなので、わざわざプレイヤーが足を運ぶ必要がある場所ではないと思うのだが……。
そう思っていると、人一人が通るのがやっとな細い道へと入って行く。こんな場所に何が――そう思っていると視界が開け、こぢんまりとした空き地……いや、庭が広がっていた。
元々はただの空き地だったのかもしれない。だが民家に囲まれたその空間は誰かが手入れをしているのか、雑草は取り払われており、花壇のような場所には季節の花が咲いていた。
片隅には粗末ながらもテーブルとイスがあり、ここを使う人がいるのだと分かる。っていうかPTメンバーがそのイスに座っていた。おいおい、我が物顔じゃねぇか。
「ふーん、こんな場所があったんだな」
「街を探検してたら見つけてね。で、花壇の手入れしてる人がいたから、ちょっと話してさ。
そしたらたまに雑草さえ抜いてくれたら使ってもいいって」
「なるほど。大通りからはちょっと遠いけど、悪くないな」
溜まり場には利便性も重要だが、アクセスの良し悪しは一長一短でもある。
例えば噴水広場のすぐ近くの路上を溜まり場にしようもんなら、通行人の多さにうんざりするだろう。もう少し離れたところにしても、第三者が攻め込みやすい。このぐらい奥まった場所だとアクセスは面倒だが、安全性は高いのだ。
襲撃されることを前提に考えているのは、まあ悪癖ではあるんだが、愉快犯的に街で暴れるプレイヤーって必ずいるからなぁ。そういうのに襲われ難い場所にあるってのは、わりと重要だったりする。
俺とツバメはイスに腰かけている面々に近付いて、
「おーっす。ここ、溜まり場に決定ってことでいいのか?」
「はい。お金を出して確保できる拠点が見つかるまでは、ここでいいかなとー」
姐御の返事に頷いて、俺も空いているイスに腰を下ろす。
うん、意外と開放感もあるし、花壇もささやかだけど綺麗だし、良い場所じゃないか。心が休まるというか、俺のような平和主義者にはこういう穏やかな光景が似合う。
「ツバメのお手柄だね」
クラレットが微笑んで言う。そうだな、まだ益鳥認定にはポイントが足りないけど。
さて、そんなことよりも、だ。
「ちょっとGMと話す機会があったんだけど、やっぱ教会で懺悔するといいらしいぜ」
「お前、何やったんじゃ?」
「ばっかお前、そうやってすぐ人を疑うのよくないぜ。
ただの調査協力だよ、調査協力」
本当かなぁ、と疑惑の視線が集まる。嘘ではないのに。
「とにかくそういうわけだから、お布施用にちょっと稼いだら懺悔行こうぜ。
姐御、どこに行くとか決めてる?」
「それがですね、ちょうどいいのってゴブリンなんですよねー。
他の狩り場となると、別の街に移動して探した方がよさそうです」
「むぅ……ゴブリンか」
狩れる相手なのは証明済みだが、ゴブリンアーチャーが厄介なんだよなぁ。
あれを警戒しながらの狩りだと効率は落ちるし、精神的な疲労も大きい。ランクを落としてウルフ狩りをするとザルワーンが怖いし、コボルトだとPTで狩るような相手でもないし。
やっぱ運営としては、さっさと別の街に行ってもらいたいのだろう。
「そのことで皆さんと相談してたんですよね。
諦めてゴブリンを狩るか、危険を承知でウルフを狩るか」
「むぅ。カルガモ、ザルワーンは?」
どうせ調べているのだろうと、カルガモに話を向ける。
カルガモは残念そうに息を吐いて、
「ザルワーンなら元気に出現中じゃよ。まだまだ低レベルのプレイヤーは多いし、しばらく出ずっぱりじゃろうな」
「倒せたら再出現まで時間かかると思うんだけどねー」
だがゲームのどこを探しても、あれを倒せるプレイヤーはまだいないだろう。
そうなってくると今日の目的は――
「――懺悔しつつ、別の街に行くのが当面の目標って感じか」
「ですねー。駅馬車はPT単位での支払いですから、気軽に使えますし」
というわけで、俺達はあれこれ相談して、最終的にコボルト乱獲しようぜ、という方針に落ち着いた。
珍しく安全性を重視した形だが、効率よく数を倒せるので、金銭効率だけならゴブリンにも劣らないだろう。
方針が決まったところで、情報交換も兼ねて雑談タイム。
スキルエンハンスについては、カルガモが推測込みで情報を掲示板に流しており、ちらほらと開放に成功したとの報告があるらしい。その内容は十人十色で、狙って特定のエンハンス項目を開放するのは難しいのではないか、という意見が主流になりつつあるそうだ。
戦闘面では他にもダメージ計算の検証が進んでいるが、かなり複雑で難航しているらしい。物理攻撃なら筋力に武器の攻撃力、キャラクターレベルが絡んでいるようだが、実際に与えるダメージには器用も影響しているそうだ。
ダメージは乱数によって上下するが、器用が高ければその幅が狭くなり、ダメージが安定するとのこと。この幅は武器ごとに異なるのではないかと推測されており、さらなる検証が待たれている。
他にもスキルの使用感や属性相性など、参考になる情報を聞くことができた。
俺からはGMに聞いた賄賂の件を話し、どんな悪用……ああいや、どんな可能性がありそうかを相談したのだが、意外にも良い顔をしなかったのがツバメだ。ゲームでのこととはいえ、正義感が強いらしい。
どうやらツバメは、身内の範囲での悪ふざけはオッケーだが、システムに許容されたものでも犯罪行為は嫌うようだ。まあ俺らもPKとかするわけじゃないし、衝突することはないだろう。
「犯罪って言えばさー」
思い出したように、ツバメは少し強張った顔で言う。
「なんか近所で変質者が出たらしいんだけど、これがちょっとホラーなんだよね」
「なんじゃ、全裸で発光するおっさんでも出たか」
「そういうホラーじゃなくて」
ツバメは苦笑して、
「その変質者、捕まったんだけど……顔がなかったんだって」
「……のっぺらぼうですか?」
「ううん、――毟り取られてたんだって。もの凄い力で」
毟り取られていた。その表現が嘘臭く聞こえたのは、あんまりにも非現実的だったからだろう。
そんなことが可能なのは、サイバネ化した人間だと思うが……そういう人間は他者に危害を加えられないよう、電脳に安全装置を組み込まれる。事故で怪我をさせることはあっても、意識的に危害を加えることは不可能だ。
「信じられないでしょ? でも、変質者が病院で自白したんだってさ。
――セーラー服の女の子を襲ったら、顔を毟られたって」
だから学校にも警察が聞き込みに来て大変だった、とツバメは言う。
妙に事情を詳しく知っているのは、そこで警察から聞いたからなのだろう。近所と表現していたし、警察も何か心当たりはないか期待して話したのかもしれない。
「でも、うちの生徒じゃないと思う」
クラレットが否定の言葉を述べる。
「サイバネ化してる人がいるなんて、聞いたことないし」
「まあ隠せるようなものでもないしのぅ。
見た目では分からんが、学校なら体育の授業もあるし、何かと目立つじゃろう」
「学生なら成長途中ですし、常識的に考えて手術もしないでしょうしねー」
そうだよなぁ。一時期、ちょっと憧れて調べたことがあるけど、基本的に成長の止まった大人しか手術は受けられない。それに事故などでの欠損を補うためなら保険が適用されるが、趣味でやると自費になるから、とんでもない額になってしまう。
クラレット達の学校に、密かにサイバネ化している生徒がいるという線は薄いだろう。
「けど、正当防衛かもしれないけど、人の顔を毟るようなのが近所にいるのは確かなんだよね。
だからちょっと怖くてさー。今日も寄り道とかしないで、あか……クラレットと真っ直ぐ帰ったし」
こいついつか、ぽろっとクラレットの本名言いそうだな……。
クラレットはツバメの頬をつねりつつ、
「私は犯人の嘘じゃないかなって思ってるけど。
顔を毟られたのは本当かもしれないけど、脅されて違うことを言ってるとか」
「いやー、ひょっとしたら口裂け女みたいな妖怪かもよ?」
「馬鹿なこと言わないのっ」
「あいたたたっ!」
おいおい、そんなに頬を引っ張ったら裂けちまうぞ。
そこへカルガモが、冗談めかした口調で言う。
「いやいや、そういった妖怪や怪異の仕業という可能性は否定できんぞ。
人間離れした犯行ならば、人外の犯行と考えるのが道理じゃ」
「えー? カモっち、幽霊とか信じてる系?」
「信じておるというか……そういうのを調べるのは、まあ趣味でな」
確かにこいつ、妖怪とか都市伝説とか詳しいもんなぁ。
たまに島チャンで唐突に都市伝説を語り出したりするし。
「ま、もしそういう手合いに襲われたら、俺に助けを求めるといい。
すぐさま助けに行ってやろうではないか」
「絶対、自分が見たいだけでしょー!」
バレたか、と笑うカルガモ。
じゃれ合う二人を見ていたクラレットは、ふとこちらに目を向けて口を開いた。
「ガウスは幽霊とか妖怪とか、信じてる方?」
「んー、どうだろうなぁ。電脳でも色々と噂はあるし、否定はできないって感じ」
「電脳でも?」
不思議そうにするクラレットは、まだ聞いたことがないのだろう。
いわゆる電脳怪談と呼ばれるものは数多くあって、
「VRゲームで一緒に遊んでたプレイヤーがリアルでは死んでたとか、プレイヤーでもNPCでもない謎のキャラクターがいたとか、そういう話はちらほらあるんだよ。
俺自身が体験したわけじゃないけど、こんなに話を聞くなら何かあるのかな、って」
「よくAIのバグじゃないかって言われてますよねー。
私も一度だけバグったAI見たことありますけど、あれは不気味でしたよ」
腕を組み、うんうんと頷く姐御。
「見た目は崩れてますし、話すことも支離滅裂なんですよー。
何も知らなかったら幽霊だと思っちゃいますよ、あれ」
「へぇ……タルタルさんはその時、怖くなかったの?」
「すぐ運営に問い合わせたので――いえ、怖かったですよ? すごく怖かったですよ?」
「中途半端にアピールをするのが残念じゃなぁ」
「そういうところも可愛いけど、アホの子見て可愛いって思う感じだよな」
「はい、やめ! この話ここまで! 狩り行きましょう、狩り!」
隙を見せた姐御が悪いと思うが、追撃するほど俺達も外道ではない。
俺とカルガモは全てを許す菩薩スマイルを浮かべて、姐御の肩をぽんと叩いた。
「くっ……! 情けが逆に痛いですよこれ……!?」
そう思うから情けをかけてるんだよ。
恥辱に震える姐御を笑いながら、俺達はコボルト狩りに出発した。