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竜と信仰の奇譚  作者: 長月十九
第一章 冒険の始まり
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第九話 痛む心を誇れ


 ログインしたら目の前に衛兵がいた。

 挨拶代わりに殺されるのか、それともいよいよ投獄か。咄嗟に身構える俺を一瞥し、何事もなかったかのように衛兵は立ち去る。……驚かせんなよ、単に通りがかっただけかよ。

 そういや掲示板情報ではあるが、どうも衛兵は多少の軽犯罪や迷惑行為なら注意するだけらしい。一定基準を超過したら、プレイヤーの命をあっさりと奪う。が、さらに重い罪となると、殺さずに留置所へ送られたりするそうだ。

 妙な話ではあるが、ゲーム的にはそれで正しいのだろう。微罪ならさっくり殺して反省させたり、その場から排除する。ちゃんとしたペナルティーが必要と判断されれば拘束して時間を奪ったり、罰金として資産を奪う。

 つまりお手軽に殺されまくっている俺は、意外とカルマ値が深刻なわけではないようだ。……それもどうなんだ?

 命とは、人権とは、生きる意味とは、そして宇宙の答えとは……思わず哲学的なことを考えるが、リアル知力が足りない。まあ人間なんてゴミだよねと結論を出して、俺はPTの管理画面を開く。姐御もカルガモもまだログインしていないようだったので、暇潰しにぶらぶらとラシアの街を歩くことにした。


 サービス開始から一日が経過して、街の様子は少しだけ変わっている。初日のように駆け回るプレイヤーの姿は減り、俺のようにのんびりしているプレイヤーの方が多い。たぶん攻略を急ぎたい連中は狩りに熱中しているか、もう他の街へ移動してしまっているのだろう。

 それ以外の大きな変化と言えば、大通りに露店がちらほらと出店されていることだ。ジョブを商人にすると露店を出す機能がアンロックされるそうで、彼ら商人プレイヤーは(むしろ)を敷いて、そこに商品を並べていた。

 露店はAFCで放置しているプレイヤーが中心のようだが、商品には何かしらの保護機能があるらしく、強盗の心配はしなくていいらしい。ま、それぐらいできないとジョブにする恩恵が薄いもんな。

 ただ露店の品揃えはどこも似たり寄ったりと言うか、不要になった装備品ぐらいか。モンスターからドロップしたらしいジェムを売っている露店もあるようだが、ありゃあ自慢だな。売る気のない値段設定になっている。

 あ、金と言えばウルフ討伐クエストの報酬。……俺だけで報酬を受け取りに行ったら、着服を疑われそうだな。懐が寂しいのは辛いが、せめて姐御がログインするのを待とう。っていうか、ドロップアイテムの管理とか姐御に一括で任せていたから、懐が寂しいどころか無一文だぞ?

 うーん。大した稼ぎになるとは思えないけど、街周辺の雑魚を狩ってちょっとでも稼ぐか? ポーション使ったら赤字になりそうだから、あんまり無茶はしたくないし。

 そう考えた俺は、ラシアの西側へ行ってみることにした。昨日はさっさと先に進んでウルフ狩りをしたが、ソロならあの辺りが適正――と言うよりは、赤字にならないギリギリのところだと思う。

 そんなわけで俺は西門から街を出たのだが――――


「おお……」


 西門を出たところには、大勢のプレイヤーが集まっていた。いや多い多い、これ何人いるんだよ。ざっと見た感じ、百人や二百人はいそうだぞ。

 ただ、どうしてこんなに集まっているのかは理解できる。PT募集のためだ。

 誰もが知り合いとPTを組んでいるわけではないし、都合が合わないということもある。それでもPTを組みたいと思ったら、ゲーム内でどうにかするしかないわけだが……そのための場として、ここが選ばれたのだろう。

 見ればPTリーダーらしいプレイヤーの多くは表示フレームを頭上に投影して、募集するジョブや人数、行き先などを記している。システム側でマッチング機能を用意していないMMOでは、よく見られる光景だ。

 マッチング機能――自動でPTを組む機能は、主にインスタンスダンジョンを採用しているゲームでよく見られる。インスタンスダンジョンってのは、個人やPT単位で一時的に生成されるダンジョンのことで、他のプレイヤーは入れないというものだ。

 それをメインコンテンツにしているゲームだと、素早くPTを組むために自動マッチングされたりする。ゲオルではそれがないので、このように募集をかけて人を待つ必要があるというわけだ。

 こういう形式で組むPTのことを、一般的には臨時PTと呼ぶ。知り合いと組む固定PTと違い、その場限りの臨時で組むPTだからだ。で、臨時PTを募集する場所のことも、臨時広場と呼ばれるようになる。

 臨時PTは効率重視のPTもあるが、いわゆるエンジョイ勢も結構多いので、気軽に参加して遊べるのがいいところだ。効率度外視で大勢集めて、高難易度マップを観光しに行くツアーもあったりするし。

 実際、今も行けるところまで行ってみよう、みたいなノリで観光PTの募集がいくつかある。まだまだ未開拓のエリアが多いので、ああいう観光ツアーはゲーム初期において結構重要だったりするのだ。

 とはいえ、面白そうだが観光PTには参加できないな……姐御やカルガモがログインしたら抜けなきゃいけないし、予定があるのに参加するってのは気が引ける。

 でも時間潰し的に、誰かと適当にペア狩りするってのはいいかもしれない。一人で黙々と雑魚狩りするのは、ちょっと心が荒むもんな。話し相手がいるだけでも、結構気分が楽になったりするのだ。


 そんなわけで、誰かペア狩りの募集を出していないか、臨時広場をぐるっと見て回る。うーむ……一時間だけとか、時間指定での募集が多いな。途中で切り上げてもいいような条件がベストなんだが。

 仕方ない、自分で募集をかけるか。えーっと、ペア募集。当方レベル十三戦士。時間潰しなのでお気軽にどうぞ。初心者も歓迎、と。内容を確認して、表示フレームを頭上に投影する。

 あとは待つだけだが……こうして見ると、俺のレベル高いな。ウルフ狩りの成果は大きいようで、ここで募集しているプレイヤーの大半はレベル十に届くかどうかといったところ。転職して、適正レベルの狩り場で一度狩りをしたって感じか。

 非VRMMOと違って、VRMMOでは長時間の狩りは難しい。非VRでも長時間の狩りは疲れるっちゃ疲れるんだが、VRだと精神疲労が大きい。一時間の狩りを一回、もしくはちゃんとした休憩を挟んで二回。それぐらいが一日の限界だろう。

 個人差もあるが、それ以上は集中力が切れて効率もガタ落ちする。いつ敵と遭遇するか分からない狩りを続けるのは、とにかく負担が激しい。無理をしてデスペナ食らったりすると、高レベルでは数日分の成果が水の泡になったりするので、慣れたプレイヤーほどしっかり休憩を取るのだ。

 まあ雑魚を相手にだらだらと狩りをするなら、そんなに疲れるものでもない。これから一時間ほどペア狩りが続いたとしても、姐御達との狩りにはあまり影響はないだろう。


「ちょっといい?」


 ぼんやりしていると、募集を見たのか声をかけられた。

 そこにいたのは烏の濡羽色とでも言うのか、深い藍色を帯びた黒髪の女プレイヤーだった。年齢設定は十代半ばから後半で、顔立ちはどことなく冷たいものを感じさせる。背丈は……俺と同じぐらい。ほんの僅かに俺の方が高いか。一センチもない僅かな差……俺でなきゃ見逃しちまうね。

 精神的にやや優越感を得た俺は、余裕を持って彼女に答える。


「おう、狩りのお誘いかい?」


「そのつもりだけど……途中で呼ばれるかもしれないから、長くは行けないかも。それでもいい?」


「そういうことなら、こっちも似たようなもんさ。お互い様ってことで気にせず行こうぜ」


 そう答えると、彼女はほっとしたように薄い笑みを浮かべた。


「じゃあよろしく。私はクラレット、ジョブは魔道士でレベルは九」


「俺はガウスだ。そんじゃあPT申請飛ばすな」


 あ。しまったな、PTにカルガモと姐御を入れたままだが、解散するとPTで受けたクエストがどうなるか分からない。うーん……カルガモがログインしていきなり妄言を吐く恐れはあるが、背に腹は代えられないか。

 俺は事情を説明して、こっちのPTに入ってもらえないか確認する。


「別にいいよ。それで……どこへ行こうか?」


「ああ、二人だし少し先のエリアで狩ろうぜ。ウルフまで狩るのは、ちょっと厳しいだろ。

 ザルワーンが暴れてたら、狩りどころじゃないし」


「ん、分かった」


 そういうことになった。

 出発した俺達は、道すがら自己紹介を兼ねてどんなことができるのかを話す。俺は挑発でタンクの真似事もできるが基本はアタッカーで、タンクをするのは苦手だと説明し、クラレットさんは火属性の魔法を中心に取得しているとのこと。

 そういや属性相性って詳細判明してんのかな……物理な俺には関係ないと思って、そこ調べてなかったんだよな。


「――お、いたいた」


 歩いているとモンスターを発見する。丸々と太った白いウサギで、表示名は【ファットラビ】とある。正直、耳がなければ白い毛玉にしか思えないが……サイズは柴犬と同じぐらいか。

 一匹だけなら魔法も必要ないだろうと、雑に近付いて斧を振り下ろした。


「おらァッ!」


 あら一撃。ファットラビは光になって消え、アイテムキューブだけを残す。

 雑魚狩りのつもりだったとはいえ、これはちょっと……あまりにも手応えがなさ過ぎる。俺一人なら別にいいんだが、これではクラレットさんに悪い。均等とまではいかなくても、全員に活躍の機会がなきゃ楽しくないもんな。


「思った以上に弱いなぁ……クラレットさん、物は相談なんだけど、ちょっと南に行ってみないか?」


「私はいいけど。どんなモンスターが出るか分かる?」


「ああ、コボルトってモンスターが出るらしい。アクティブだけど、ウルフよりは弱いってさ」


 これも掲示板情報だ。ソロで狩りをするのに備えて、街周辺の情報はちゃんと集めておいたからな。

 クラレットさんは頷いて、


「ん、分かった。行こうか」


 と、不安や不満といったものを感じさせない態度で、南に向かって歩き出した。

 彼女は愛想が悪いって言うよりも、結構クールな人なのかもしれない。俺の周囲にはいないタイプっつーか、島人なんかは外道ばっかりだからなぁ。接し方を間違えないように注意しておこう。

 で、数分ほど移動した俺達は、平地と呼ぶには森の割合が多いエリアに到着していた。

 この辺りにコボルトが出るって話だが、さてどんなモンスターだろう。と言うのも、コボルトってそこそこメジャーなモンスターではあるんだが、作品によって姿も特徴も違うことが多いんだよな。犬の頭をした人型のモンスターってのが一般的だが、狼っぽい顔の作品もあれば、やけにモフモフした可愛い顔の作品もあるし。

 可愛い系だとクラレットさんが抵抗あるかもなぁ、なんて危惧していたら直感に反応あり。俺は足を止めて、小声であそこに隠れていると木陰を指差した。

 ほんの少し、彼女は驚いたように目を丸くした。


「よく分かるね」


「直感っていう便利スキルがあってね。

 じゃ、俺が追い立てるから、そこへ魔法を頼む」


 そう告げると、クラレットさんは頷いて杖を構える。……構え方がその、魔法を使いますよって構えじゃなくて、槍とかに近いんだけど……まあどんな構え方でも魔法は使えるだろうし、接近されても杖で叩けると思えば合理的か。

 納得して、俺は斧を振り上げながら木陰に突撃する。まず視界に捉えようと回り込めば、そこには確かにコボルトがいた。

 その顔は犬と言うよりは、ハイエナに近いかもしれない。背丈は俺の胸元ほど。右手には粗末な石斧を握っており、体は革の胸当てで守られている。表示名はただの【コボルト】だが、個体によって装備が違う可能性もありそうだ。

 だが奇しくも斧対決。この勝負だけは負けられねぇな!


「おお……!」


 わざとらしいほどの大振りで、斧を水平に振り回す。コボルトは唸り声を上げながら後退し、俺を馬鹿にするかのようにその口を歪めたが、しかし次の瞬間には悲鳴を上げるために大きく開けられた。


「ファイアーボルト!」


 クラレットさんの放った炎の矢がコボルトに直撃する。炎は着弾したところから燃え広がり、コボルトの全身を包む。コボルトは声にならない悲鳴を上げ、数秒と経たずに光の粒子となって消えていた。

 おお……これが魔法か。一発で倒せるとは、流石の火力だ。


「すげぇ威力だな。クラレットさん、それ何回ぐらい使えそう?」


「休憩なしだと四回かな。……ガウスさん、ちょっと提案なんだけど」


 クラレットさんは少し後ろめたそうな顔をして、言葉を続けた。


「私、範囲攻撃のできる、ファイアーボールも取ってるんだ。

 悪いけどMPに余裕がないから、その、そっちを使いたいんだけど……」


「ああ、なんだそんなことか。オーケー、何匹か集めりゃいいんだろう?」


 範囲攻撃ができるなら、それを使った方が効率はいいもんな。コボルトの動きはさっきの感じだと、あまり警戒するほどでもない。斧で牽制しつつ相手をすれば、何匹かはまとめて引き受けられるだろう。

 しかしクラレットさんは小首を傾げて、不思議そうにしていた。


「あの……いいの?」


「何が?」


「だって、タンク苦手だって」


 ああ、それを気にしていたのか。俺は心配ないと笑って答える。


「全体を見たり、ヘイト管理するのが苦手ってだけさ。

 守るのがクラレットさんだけでいいなら、何も問題ないぜ」


 それにクラレットさんの火力なら、仕留め損ねてタゲが移るって心配もないだろう。確かにタンクは苦手だが、その役割をこなせるぐらいの腕はあるし、ここは大船に乗った気持ちでいてもらおう。

 そういったことを話すと、クラレットさんは曖昧に笑って頷いていた。

 なるほど、慎重だな。大言壮語ってこともあるし、その目で確かめるまでは信用しないってわけだ。それでも空気を悪くしないように振る舞えるのだから、結構いい人なのかもしれない。

 よし。ここは一つ、俺の実力を披露しようじゃないか。


「それじゃあコボルト釣るから、少し離れてついて来てくれ」


 俺がやるのは釣りの変則パターンで、トレインとも呼ばれるものだ。移動して発見したモンスターを狩るのが移動狩りなわけだが、それだと少数しか倒せない。なので発見したモンスターを攻撃するなどして引き連れ、ある程度の数になったところでまとめて叩くのだ。

 このやり方は事故が起きやすいので、しっかり準備をするか、格下を相手に行うことが前提となる。ゲームによってはモンスターを長時間独占するなどで、迷惑行為になってしまうこともあるが、他のプレイヤーを見かけないぐらい空いている狩場だし、ここなら問題ないだろう。

 俺は直感に頼りながら索敵し、発見したコボルトには石を投げて注意を引く。なるべく距離を保ち、近付いて来たら斧で牽制。そんなことを繰り返していると、すぐに八匹ほどのコボルトが集まった。

 ちょっと釣り過ぎたなこれ! うっかり攻撃食らうと、そのまま袋叩きにされてHPが溶けかねない。それでも俺は内心の焦りを顔へ出さないようにしつつ、早く助けてと祈りながら叫ぶ。


「こんなもんだろ! クラレットさん、頼んだぜ!」


「うん、任せて!」


 左手で杖を構えるクラレットさんが、表示フレーム(カンペ)を投影して呪文の詠唱を始める。あ、ファイアーボールは詠唱が必要なんすね。確認してなかった俺が悪いけど、余裕がないの! 助けて! 早く!!

 斧と盾を振り回して必死で耐えていると、詠唱を終えたクラレットさんの手元に火球が浮かぶのが見えた。拳大のそれを、彼女はアンダースローで――いやそれ絶対違ぇよ!? そういう使い方じゃねぇよ!


「ファイアー……ボールッ!!」


 投じられた火球はリリースポイントから角度を以って走り、緩やかな弧を描く形でコボルトの群れに突き刺さる。

 瞬間、爆ぜた火球が光と熱を生み、視界が白く染まる。一拍の間を置いて爆風が全身を叩き、至近距離で炸裂した圧力が俺をも吹き飛ばしていた。

 見えないなりに受け身を取って地面を転がり……目を開けた時、そこにコボルトは一匹として残っていなかった。


「ははっ……笑うしかねぇ威力だな」


 敵が使ったらと思うとゾッとするが、味方が使う分には頼もしいったらありゃしない。

 俺は身を起こして、クラレットさんに言う。


「流石は魔道士って感じだな。MPはどう?」


「もう一発なら。それ以上は休憩しないとダメかも」


「いや、充分だよ。つーかこんなの連発できたらおかしいって」


 笑いながらそう言って、俺も挑発を使っていたのでMPは大丈夫かなと確認を――あえぇ?

 おかしいな、目の錯覚だろうか。コボルトの攻撃、盾で受けても少しHPが削れていたんだが……いくら何でも、それだけでHPゲージが半分以上削れたりはしないだろ。

 つまりこれ、どういうことかってーと……俺は恐る恐る、クラレットさんに話しかけた。


「あのー……ひょっとしてクラレットさん、魔力制御を取ってない?」


「? うん。魔法のコントロールが良くなるって書いてあったから、まだいらないと思って」


「なーるほど。……運営ぃぃぃぃ!!」


 思わず怒りを吼えたら、クラレットさんがビクッとしていた。ごめん。

 でも運営、それはダメだろ! 確かにそういう効果なんだろうけど、ちゃんと仲間を巻き込まなくなるってことも書けよ! 俺は死ななかったからまだいいけど、各地で意図しない悲劇が量産されるぞこれ!


「あの、私……何か」


「いやいや、悪くない。クラレットさんは悪くないよ。

 でもスキルポイントに余裕があったら、魔力制御を取ろう。今すぐ取ろう」


 慌ててフォローしつつ、俺はどうして魔力制御が必要なのかを説明した。

 するとクラレットさんは顔を青くして、頭を下げてくれた。


「ごめんなさい、ガウスさん。ゲームだし、大丈夫だと思ってた」


「まあフレンドリーファイアのないゲームも多いしなぁ。

 これに関してはクラレットさん悪くないから、ホント気にしないで」


 つーか直感もそうだったけど、このゲーム、スキルの説明文をあんまり信用しちゃいけないやつだな?

 効果の説明としては間違ってないけど、全てではないというか……これ、特殊効果のある装備品とかもそうなんだろうなぁ。プレイヤーに手探りで色々やらせたいんだろうけど、PTがギスりそうな要素はちゃんと説明して欲しい。

 その後、クラレットさんのMPもだが、何より俺のHPを回復させないとまずいので、開けた場所で休憩することにした。

 そうしていると、クラレットさんがぽつぽつと話し始めた。


「……実は私、こういうMMO? っていうの、初めてなんだ」


「あー。だから不慣れっぽかったのか」


 特にあのファイアーボールな。綺麗な投球フォームだったが、ゲーム的な意味はないし。


「うん。友達に誘われて、新作だから一緒にやろうって。

 けど、迷惑かけちゃったし……向いてないのかな」


「いやいや、誰でも最初はそんなもんだって。

 つーかそうやって痛む心があることを誇ってもいい。マジで」


 特に某カルガモとか、街中でいきなり襲いかかってくるからな。信じられない外道だよ。

 ちょっと魔法に巻き込んだぐらいで落ち込むなんて、あまりにも優し過ぎる。聖人か天使では?


「まあ慣れていけばいいだけのことだって。

 俺ならあんなの気にしないし、せっかくのゲームなんだから楽しまなきゃ損だよ」


「そうかな……ううん、そうかも」


 小さく笑って、クラレットさんは俺にフレンド申請を飛ばしてきた。


「もしよかったら。ガウスさんとなら、楽しめそうだから」


「もちろん。都合もあるけど、声をかけてくれたら――」


 ……いや、待てよ? 友達に誘われて始めたということは、相手は一人か。ペアを組んだ時、呼ばれるかもしれないと言っていたから、その可能性は高い。複数人だったら、そもそも臨時PTを組むか怪しいところだ。

 これはひょっとして、とんでもなくお買い得な人材なのでは?

 我がPTに不足している魔法火力で、人間性は問題なし。むしろ他の連中よりよっぽど信頼できる。あわよくばお友達も一緒にゲット……! こんなの誘うっきゃねぇよ!


「なあクラレットさん。ちょっと相談なんだが」


 思いつきは即実行。うちのPTに入らないかと誘ってみる。

 常に固定PTというわけではなく、それぞれの都合がいい時に参加するような、緩い形でいいからと。


「うーん……私だけじゃ決められないから、友達に相談してみる」


「ああ、難しく考えないでくれ。魔法火力が欲しいなって思ってたところなんだ。

 断ってくれても構わないし、その場合でも一緒に遊べないわけじゃないから」


 まあ逃さねぇけどな……!

 最初の印象はよくしておきたいし、まずは姐御に会わせて女子もいるから安心と思わせよう。

 俺がそのような計画を立てていると、PTチャットに聞き覚えのある声が響いた。


『昼に激辛ラーメン食ったんじゃが、ケツが超痛い』


「「……………」」


 俺とクラレットさんの間に深い沈黙が下りた。

 あの害鳥、殺しちゃってもいいよね?

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