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竜と信仰の奇譚  作者: 長月十九
第一章 冒険の始まり
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プロローグ ゲオる


『お前もゲオルやらんか?』


 午前二時過ぎ。そろそろ寝ようかと思っていたら、視界の正面にそんな表示フレームがポップアップした。メッセージの横にあるアイコンは、レトロが過ぎるビットマップフォントで「かるがも」と書かれたシンプルなもの。リアルでの付き合いは一切ないが、色んなゲームを一緒に遊ぶ悪友のカルガモからのメッセージだった。

 こいつの言うゲオル――正式名称ゲオルギウス・オンラインは、ネットの一部で話題になっている新作VRMMOだ。十年ぐらい前に流行ったヴェーダ・オンラインの中核スタッフが再集結して開発しているとかで、往年のファンが盛り上がっている。

 俺は少し考えてから表示フレームをタップして、仮想キーボードを表示。思考入力で文字を打つと雑念なども拾って面倒臭いし、音声入力は時間的にどうかと思う。なので仮想キーボードを打鍵して、カルガモに返事をした。


『どうすっかなぁ。そっちと違って、俺はヴェーダ世代じゃないし』


『あれ? ナチュラルに俺をヴェーダ世代扱いしとらん?』


『おじさん、明日も仕事でしょ。寝なくていいの』


『夜はこれからじゃよ。具体的にはBen-KのRTAする』


『クソゲーじゃねぇか』


 そりゃ一時間もあれば終わるけどさぁ。寝る前の運動にしては脂っこくない?

 まさか俺の呆れが伝わったわけでもないだろうが、カルガモが話を戻す。


『そんなことよりゲオルじゃよゲオル。

 明日――いや今日か、今日からサービス開始じゃしやろうぜ』


『あれ、今日からだっけ?』


『んだ。一ヶ月は無料じゃから、とりあえずやってみたらどうじゃ』


『まあいいけどさ。他には誰かやるのか?』


『姐御はやると言っておったが』


『ですよねー』


 姐御は俺やカルガモと同じコミュニティーと言うかゲーム仲間、通称島人の一人だ。あの人はヴェーダ経験者だし、そりゃあやるだろう。MMOの話題になると、ヴェーダへの愛憎を語って回線を汚染するし。


『あとはロンロンとか迷っておったのぅ。たぶんやると思うが』


『あー。ロンさんはやるね。あいつはそういう奴だ』


 ロンさんは気乗りしないポーズしておいて、誰かがやってると寂しくてやっちゃうタイプだ。もう皆にバレバレなので、面倒臭いから誰も誘わない。あいつは放置しておいた方がログイン率高いんだ。

 しかしそうなると、俺を含めて四人は確定か……ログインする時間帯にもよるが、とりあえず気心の知れた連中でPTを組める人数ではある。言い換えれば、何か面倒臭いクエストとかあっても連行できる。わぁい。


『けど、どうせならもうちょっと人数欲しいよな』


『だから君を誘ったんですけどね?????』


『おうカモ、もっとネギ背負って勧誘してこいよ』


『クケェーーーーッ!!』


 なにもしてないのにこわれた。

 まあ今から勧誘したって、他の島人が釣れるかは怪しい。


『落ち着けカルガモ。プレイして感想言って、誰か食いつくのを待とうぜ』


『まあなぁ。あんましつこく誘ってもアレじゃし』


『じゃ、そういうことで。さすがに寝る』


『うぃうぃ。おやすー』


 俺は表示フレームを閉じると、電脳の通知をオフにしてベッドに寝転がった。

 純真な学生をこんな時間まで付き合わせるなんて、カルガモはなんてクソ野郎なんだろう。


     ○


 湿り気を帯びた風が平原を吹き抜ける。

 空は曇天。厚い雲の向こうで輝く太陽が、正午であると告げている。

 平原には二組の勢力が布陣し、睨み合っていた。赤い旗を掲げた一団と、青い旗を掲げた一団である。どちらも細部の違いこそあれ、甲冑に身を包んだ騎士。その数は共に千という大群であった。

 不意にどこかでラッパの音が鳴り響く。開戦を告げる合図だ。

 騎士達は蛮族さながらに吼え、敵を殺せと正面から激突した。


 最大で千対千の合戦を楽しめるVRアクション、Thousand Sword。これはその試合開始の光景である。

 俺こと守屋幹弘も声を張り上げ、左手に盾、右手にメイスを構えて突撃する。このゲーム、キャラクターのステータスに差はないが、装備は種別によって性能が違う。しかし他のプレイヤーも俺と同じように、大半が盾にメイスという装備だった。

 何故なら甲冑を剣でぶった斬ろうと思えば、クリティカル判定が必要になる。槍を活用しようと思えば陣形を整える必要があり、クイックマッチの野良試合でそんな連携は望めない。つまりメイスでどつき回すのが最強なのだ。ちなみに弓は永遠に未実装です。


「おらおらおらァ!! 死ね、死ね、もいっちょ死ねおらァ!!」


 どこからどう見ても騎士にしか見えない、完璧なロールプレイだ。

 メイスで頭を殴ればほぼ確殺。そのため敵はどいつもこいつも盾で頭部をガードするが甘い甘い、腹に突きィ! おらガード崩れてんぞ、野球しようぜ! お前の頭でホームラン!! ゲーヒャッヒャッヒャ!

 が、調子良く敵陣に切り込んでいたら、視界の端で何かがポップアップ。気を取られた瞬間、敵によって俺の頭がホームラン。おお、今宵の頭はよく飛ぶなぁ。頭が地面に落ちたところで、視界は戦場を俯瞰する観戦モードに切り替わった。

 さて、俺の邪魔をしてくれたポップアップは何かと確認すれば、カルガモからのメッセージ通知だった。

 えーと、なになに。『始まったぞ』だって? 俺は思考入力でメッセージを送り返した。


『じじz邪mmああああああああ!!!!』


『思考バグっとるぞ』


 ええい、これだから思考入力は。仕方ないのでThousand Swordの試合から出て、電脳のVR接続を解除。改めて視界正面に表示フレームを出し、音声入力で応答する。


「あのなカモ、お前、あれだよカモ、メイス中に邪魔すんな!」


『こやつ、なんでメイスやっとるんじゃろう』


「だってお前、ゲオル二十時オープンだろ? 時間潰しにちょっとあれよ、準備運動」


『おう時計見てみんか節穴』


 言われて部屋の壁時計を見る。おいおい、二十時過ぎてんじゃん。


「俺は何故、あんな無駄な時間を……」


『知らんがな。もうゲオル始まっとるから、おぬしもゲオれよ』


「うぃっす。じゃあ中で合流な」


『うぃうぃ。したらなー』


 表示フレームを閉じて、電脳をまたVR接続する。ホーム空間でゲオルギウス・オンラインを指定して起動。BGMが流れ始め、タイトル画面が表示され……VRゲームのお約束、怒涛の利用規約ラッシュが始まった。

 こんなの誰も読まないんだよなぁ。俺も思考入力で「YES」を連打して、ラッシュを片付ける。

 さーて、まずはキャラメイクからだな。

本編は1話あたり、8000文字前後を目安に書いています。

多少、長かったり短かったりしますが、1万文字超えることは滅多にないかと。

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