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奇跡  作者: 朝風由紀奈
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不安でいっぱいのカウンセリングの日2

市民病院に着けば精神科に向かった。精神科か……。別に精神を弱くしたわけではないがどこか身構えてしまう。

周りの目を気にしてしまう。

精神科の受付で保険証を出せば、簡単に問診票を書いて待っててくださいと言われた。

書き終わり提出しては、椅子に座り呼ばれるのを待つ。

「芦沢さん、診察室にどうぞ」

五分後呼ばれては、椅子から立ち上がり診察室に向かう。ドアをノックして中に入る。

診察室の中はアロマオイルが焚かれていた。暗いというより落ち着いた室内。

椅子に座って、俺は主治医を見て首を傾げた。なんか、佐那に似てる。

「初めまして。私は芦沢陽みなみ。君の旦那さんの従兄です」

ぺこりと軽く頭を下げ主治医はそう自己紹介をした。従兄……。なら、どうりで似ているわけだ。

頭を上げて先生は、カルテを開いた。

「さて、質問からいくね」

「は、はい」

「身構えなくて大丈夫だよ。リラックス、リラックス。ほら、深呼吸して」

先生に言われ俺は深呼吸をする。少しずつ落ち着いてきたので、先生に「落ち着きました」

それを聞いた先生はニコリと笑い質問を始めた。

「まず……、君は子供を宿し産む覚悟はあるかい?」

「はい、あります」

「受精が失敗しても、自身のせいだと悔やんで死を選ばないかい?」

「え……?」

先生の言葉に俺は目を丸くした。それは、過去にそういった人がいたのだろうか。先生はふぅ、と息を吐いて言葉を選びながら話し始めた。

「少し前の話。とある同性夫婦がね。受精に失敗したの。それで、旦那様にお前が悪いとなじられてね。心を病んだ奥様は、死を選んでしまったんだよ。自分のせいで子供を宿せなくて。生きていてごめんなさい。その遺書を残して。だから、それを防ぐためにカウンセリングを国は推奨しているんだ」

そんな酷い話があっていいのだろうか。受精に失敗したのは、パートナーの失態だなんて。

そして、彼が生を受けたことも後悔させてしまって。思わず佐那と自分で考えては、涙が浮かんできた。

佐那は、優しい。そんな事言うわけないと思っていても限りなくゼロに近いわけではない。

あんなに子供を望んでいるんだから。

「ごめんね、真登君。佐那は、言わないだろうけど……。でも、万が一を考えてほしいんだ」

「わかって、ます」

「……死を選ばないと約束してくれるかい?」

その言葉に俺は頷いた。例え、子供が出来なくても。後悔はするだろう。それでも、どんなことがあっても佐那といたい。

頷いた俺を見て先生は安堵の笑みを浮かべていた。

涙を拭い次の質問を待つ。

「真登君は、子供は好き?」

「え? ……分からない、です」

「なら、質問を変えよう。自分の子供を好きになれる?」

「もちろんですっ!」

俺は急いで返事をした。自分の子供だ。好きになれて愛せる自信はある。俺の両親みたいなんかにはならない。

佐那と温かい家庭を築くのだ。

俺の返事を聞いた先生はほっとして笑みを浮かべていた。

「君のその返事を聞けて安心したよ。でも、君みたいな人ばかりじゃないからね」

「そ、れは……」

「中には育児放棄をしてしまう親だっている。子供はほしかった。でも、思っていたのと違う。だから、簡単に棄てる。育児を諦める。暴力をふるう。この悪循環なんだよ」

そう言って先生は悲しそうに笑っていた。俺の家族は、お金は出すも愛はくれなかった。

愛をくれたのは、佐那だった。人のぬくもりはとても暖かいのだとそれも佐那が教えてくれた。

先生の言葉はどこか重みがあった。もしかして、先生も育児放棄された人なのだろうか?

推測でしかないが、なんとなくそうなんだと思ってしまった。失礼だな、俺。

「……カウンセリングは以上だよ。私の過去、気になってたら佐那に聞いてみてね」

彼の、過去。確かに気になるけど、踏み込んでもいいのだろうか。

「君は私の家族でもあるんだから。なんでも知っていてほしいんだ」

その言葉に俺は顔を上げた。家族。佐那と子供以外にも家族が出来るのか。

嬉しくて泣きそうになってしまう。こくりと頷き俺は先生に頭を下げて診察室を出た。

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