不安でいっぱいのカウンセリングの日
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真登と子供を作ると決めて数日が経った。翌日にはパンフレットに掲載されていた病院に電話をした。
不思議と……なのか、やはり、なのか。男性同士で子供を欲している人は他にいて。
予約がいっぱいなため、数か月先に真登の手術が決まった。その前に簡単に検査やカウンセリングをするみたい。
人工子宮を埋め込むため、ドナー先の相手と相性もある。それに、本当に子供をその身に宿したいのか。そんな話もするらしい。
全部パンフレットをくれた人からの話なので、憶測でしか言えない。だから、カウンセリングと検査日の日に分かる。
手術前の検査を昨日した。結果はすぐに出てきて、合うドナーがいた。そのおかげで術後は安定だろうと医師から言われ二人ほっとしていた。
「真登。大丈夫? 一人で行ける?」
「心配してくれてありがと。大丈夫」
検査日から三日後。パートナー同伴なしのカウンセリングの日。玄関で靴を履いている真登に不安そうに僕は尋ねたのだ。
靴を履き終わり真登は立ち上がった。くるっと僕のほうを見て真登は優しく微笑む。
「お前との子、楽しみだ」
まるで、今から子作りするみたいなそんな言い方。でも、近々それが本当になるんだ。そう思うと僕も嬉しくなる。
こくんと頷いて、真登の唇に触れるだけのキスをした。
頑張れ、と愛してる、その二つの意味を込めて。意味をくみ取ったのか真登は頬を赤らめていた。
もう、そんな可愛い顔されたら引き留めてベッドに連れ込みたくなる。けど、それはぐっと抑え込んでニコリと笑いかけた。
「帰ってきたら簡単に今日のこと教えてね」
「おう。行ってきます」
「行ってらっしゃい」
手を振り玄関を出る真登を見送った。久々の休日に、パートナーと過ごせないのは寂しいけど我慢しなきゃ。
《真登視点》
家を出て俺は、病院に向かう。カウンセリングなんて初めてだから、不安でいっぱいだ。
ちらりと少し遠ざかった我が家を見やる。佐那は、頑張ってと応援してくれていた。それは、無理せずにとの意味合いも含まれている。
誰に語るわけでもないけど、俺は佐那と初めて出会った日を思い出していた。
大学の合コンで俺と佐那は、出会った。その当時俺は当然佐那と付き合うなんて思いもしなかった。
少し遅れてやってくる天才が来る。その言葉にどんな秀才でイケメンかと思っていた。でも、女子は騒いでなかったし案外普通……というより真面目ながり勉だと思っていたんだ。
「遅れてすいません」
男にしては、高い声にぴくっと俺だけが反応していた。女? と一瞬思ったが顔を覗かせたのは平凡な男。
けど、黒曜石みたいな……なんていうんだろう。綺麗な黒色の瞳に淡いグレーの髪で。別に顔は際立ってカッコいいとかじゃない。
だが、何故かその少し日本人離れした髪色が俺の目を引いた。
身長も高くも低くもない男。頭だけは平凡じゃないそいつ。
俺の横に座ってニコリと笑いかけられて。--恋に落ちた。
案外単純かと思われるだろう。でも、佐那の笑顔はそこらの女より可愛かった。それは、もう……大輪の花が咲いたみたいに。
「俺、瀬﨑真登って言うんだ。お前、名前は?」
気付けば佐那の名前を聞いていた。佐那は、男から名を尋ねられるなんて思ってなかったのか、目をぱちくりさせていた。
しかし、それも少しで。嬉しそうに笑う佐那は自分の名を告げた。
連絡先を交換してその日に二人でラブホに向かった。佐那は可愛い見かけに変わらずタチ、だった。
朝……正確には昼までドロドロに溶かされ愛された。
「好き。真登、だぁいすき」
なんて、甘い声で言われてもっとしたいなんて言われて頷かない者はいないだろ。
告白場所がベッドなんて。ノンケだった俺らはおかしな場所からスタートした。
佐那は、イタリア人の祖父母を持つクォーター? って人間だった。
だから、愛を囁くのもスキンシップも激しい。
嬉しいけど、恥ずかしい。
そう昔を思い出していた俺は、初めて無理をした時を思い出した。飲めない酒を毎日飲んでいた日は、佐那は怒っていた。
口すらきいてくれなくなった。もう、無理しないでと倒れた日に泣かれたのは記憶に新しい。
つらつらと昔を思い出しながら電車に乗り病院に移動する。