イビル・ツリー討伐後日談
作戦のお膳立ては、ゴースト・ワンに委ねられる事になっていた。
各師団の連携、敵の誘導、情報の拡散と収集と多岐にわたる。
ゴースト部隊のメンバーの数は明らかにされていない。知っているのは、部隊の創設者たるアレクシア皇帝くらいである。
隊長たる、ゴースト・ワンですら把握できていなのが現状であった。
だが、彼らの任務上知らない方が得策な場合も多いため、敢えて知ろうと思う者は一人も居なかったのである。
まるで寄生虫の如く敵陣に入り込み、潜伏する。
時には言葉巧みに敵を目的の方向に向かわせ、また、直接手を出すのではなく、陣地全体の意識を反らしたりすることが主な任務となる。
味方との連絡役をする者達。
敵を監視し、全体の流れを見極める者達と、役割はそれぞれだ。
ゴースト・ワンは主に、監視役だ。
だが、時と場合によっては様々な任務をこなす。
隊長職ではあるが、殆どは個人で行動することが多い。
それは、ひとえに彼がゴースト隊で一番優秀である他ない。
戦闘に関しても群を抜いている。
ありとあらゆるスペシャリストから、選抜に選抜され隊長となった彼は、文字通り血を吐く程の任務をこなしてきた故である。
そんな彼は今、ミーティアラ王国は王都、ウンディエネに潜伏している。
時は数日遡る。
悪魔の樹こと、イビル・ツリーを倒したタクローは、国立公園を含む樹海の復活と言う偉業を成し遂げた。
エルフの住民達に崇められる程となり、やや困った状態になってた。
その後、ミセリルアや他のエルフ達と共に再びイビル・ツリーの元へ戻り、亡骸から戦利品を確保する。
ゲーム時代の様に、レア武器やレア防具等は出ないものの、様々な素材アイテムが入手できた。
また、イビル・ツリーの体内と思われる空洞部分からは複数の遺体が見つかった。
それは、モンスターとエルフであり、エルフは集落からイビル・ツリー対峙に向かった者達の成れの果てであった。
ミセリルアを筆頭に、遺体を手厚く葬ると、その場を後にする。
集落に戻ると、宴会が執り行われた。
賓客待遇でもてなしを受けたタクロー達は、しばしの間楽しい時間を過ごした。
エルフの集落を後にする際、ミセリルアが再びタクローと共に行くと言い出すが、弟のトヴィルの事もあり、タクローは留まるように『命令』する。
コレには従わざるを得ないと、ミセリルアはこの地に残る事を納得した。
「もしも、私の力が必要な時は是非おっしゃって下さい。私はいつでもご期待に添えるよう、弓の鍛錬と魔法の訓練を熟しておきますので……」
やや、名残惜しそうなミセリルアだが、後ろでトヴィルにしがみつかれ、困ったような笑みを浮かべる。
「まぁ、そんときはよろしくな……」
苦笑いのタクローに、今度は満面の笑みで答えた。
その後、タクローはイツキとシズクのエルフ二人をこの集落に置いて欲しい旨を語る。
「マスター!? 私達を捨てるのですか!!?」
その時のイツキの豹変ぶりに、タクローが驚く。
「いや、エルフであるお前達は仲間と共に暮らした方が……。そ、それに、ここは自然豊かだ。何も、身を削ってまで人間社会で暮らさなくても良いじゃないか……。一応、長とオオババさんには話が付けてあるから」
「嫌だ! ヤダヤダ!!」
シズクがタクローにしがみ付く。
イツキは、腰に下げたショートソードを抜いた。
咄嗟にセルヴィナがタクローとイツキの間に立つ。
「イツキ! 貴様、何を!?」
すると、イツキはゆっくりとショートソードの刃先を自分の喉に突き立てる。
「っか、やろう!!」
タクローは森を抜ける為にミスティック・アーマーを装備していた。そして、すかさずセルヴィナを押しのけ、イツキが持つショートソードを掴む。
剣は簡単に粉々になった。
「死なせて下さい! 捨てられるくらいなら、生きていられません!!」
涙を流し、哀願するイツキにタクローは彼女の襟首を掴む。
「馬鹿言ってんじゃねぇ! お前は、今、生きてんだよ! 生かされたんだよ! だったら、お前……、お前達の幸せってやつを考えろよ!」
タクローはイツキとシズクへ、視線を向ける。
「私は、マスターの側に居ることが幸せです!」
イツキはキッパリと言い放つ。
「ワタシも!!」
今度は振りほどかれないようにと、シズクが足にしっかりとしがみ付く。
「なんでだ? 同じ仲間だぞ!? 数日、みんなと仲良くやってたじゃないか……」
イツキを掴んでいた手を緩めると、イツキもシズク同様、タクローに抱きつく。
「私はあの穴に落とされた時、命は終わっていました。拾ってくれたのは、マスターです……。なら、最後まで責任を取ってください! 抱かれなくったって構わない、せめて側に居られれば……」
タクローは深い溜息を吐いた。
「だから言ったじゃない。人の幸せって、それこそ人それぞれだって……」
ヒカルが背後から声を掛ける。
この手の話は、以前から八人の少女達を抜きにしたメンバー達で話し合われた。
タクローは、それぞれが幸せに暮らせる場所を探してやる事が最良だと考えていた。
だが、誰もがそれで上手く事が進むのだろうかと、疑問を投げかける。
そして、答えはイツキとシズクが出したのだ。
「解ったよ……。解った……、俺の負けだ……」
タクローはイツキとシズクの頭を優しく撫でる。
こうして話は決着し、イツキ達はタクローと共に行く事になる。
そして、タクローは他の少女達にも声を掛ける。
「もし、お前達が、自分に最良の居場所を見つけたら、いつでも言ってくれ、俺がなんとかしてやる」
その言葉を聞いた残りの六人は、困った顔と、悲しそうな顔を浮かべて、一人、また一人とタクローにしがみ付く。
兜の下では、困り果てた表情を見せるタクローだった。
タクロー達が去った後をミセリルアはいつまでも、眺めていた。
「行ってしまわれたのぅ……」
「オオババ様……」
「お主も、あの男に魅了されたか?」
ホッホッホと笑い声を上げる老婆に、ミセリルアは赤い顔で俯く。
「魅了……、では、無いですが……」
「八人の少女達がまとわりつく姿は、まるで寄り添う精霊たちの様であったな……」
意味深な言葉を言うと、老婆もまた、タクローが去った方向を見るのだった。




