ウラジスの町
メイッシュ公爵の使いが謁見の間に通される。
ミーティアラ王国国王、サナビルド・ニルス・ミーティアラが謁見の間に入り、メイッシュ公爵の使いと名乗る男を見た。
服装は軍用の正装で、肩にはメイッシュ公爵家の紋章が刺繍されている。
「面を上げよ」
サナビルドの言葉で男は跪いた状態で、下げていた頭を上げ、サナビルドを見上げる。
「して、簡単な話は聞いているが……、詳細を話せ」
「はっ! 現在、帝国軍二万以上の兵がウラジスに向け進行中です。イースタル要塞からの連絡は無く、陥落したと思われますが……。確認のしようが無く、現在に至ります……」
男の声は次第に力を失っていくように聞こえる。
「アレクの結界が破られた? トーマス、そんな事が考えられるのか?」
横に立つ宰相、トーマス・ロッツ・アクリバルに話を振る。
「にわかには信じがたいですが……、我が師であるライクラ公は以前、『どんな強固な壁でも、風化すれば崩れるものだ』と言っていた事があります」
「風化には早すぎるであろう?」
「ええ。ですが、息子であるアルフがこの前もたらした話から考えますと、帝国の武器の目覚ましい発展が壁を何らかの形で打ち破ったのだとすれば……」
トーマスは、冷静な表情で考え込む。
「まずいのでは無いか?」
「まずいですね……」
未だ平穏の真っ只中に居るサナビルドに対して、トーマスもまた事態を軽く見ている節があった。
「とりあえず、王都に居る兵達三万をウラジスに送りましょう。これとメイッシュ公爵の兵を合わせれば五万以上になります。敵が二万なら倍以上居る訳ですから、対処できると思われます」
サナビルドは軽く考えを巡らす。
「王都には現在どれだけの兵力がある?」
「兵舎に詰めているのだけでも、四万強です。後は、都市で暮らす者達を含めますと、五万以上に登ります」
「なら、四万くらい出せば良いのでは無いか?」
「いえ、いざと言う時の保険は必要です。それに、その数で対処出来なければ、また送ればいいだけですし……」
「ふむ……、お前が言うのだ、そうしよう」
二人の間で話がようやくまとまり、メイッシュ公爵の使いである男に派兵を約束するのだった。
一方、メイッシュ公爵が住まうウラジスには、逃げ込んだ兵達と、ラジラの町の避難民で町の出入り口付近が騒がしくなっていた。
「通せ! 通さぬか!!」
怒声を上げて、人混みを掻き分けるのはクレッスラ・アルムニア・メイッシュ。
父親であり、領主でもある父親の場所へと向かう為に必死だ。
そこには、怪我をした兵を気遣う様子は無く、ただただ焦りの色が浮かんでいた。
クレッスラの報告を受けた、父、カリウス・アルムニア・メイッシュ公爵はウラジスに籠城する決意を固める。
敵は門を、はては壁まで壊す破壊力を持っている。
だが、そうせざるを得ないのは町に住む人間たちをいかに避難させるか、ラジラから来た避難民をどうするのかといった難問が山積しているからに他ならない。
それに、町を放棄すれば、帝国はこの場所を新たな拠点とするだろう。
また、領主が領地を捨てたとあっては、世間に面目が立つわけがないのである。
で、あれば、籠城し、防衛に徹する方が得策と考えるに至ったのである。
しかし、これより数日、帝国は東の森の南端近くに陣を敷き、動くことは無かった。
ウンディエネから、二万の軍勢がやってきたのはソレから二日後の事である。
受入もそこそこに、現状を確認したミーティアラ王国の将軍グルジビ・サイ・イスワーンはカリウスと面会する。
「やあやあ、お出で下さった……。国王陛下には、感謝の言葉もありません……」
「メイッシュ公爵……、酷くやつれましたな」
カリウスはミーティアラ王国軍が来るまで、生きた心地がしなかった。
眠りに就いても、不安が夢となり、一、二時間で目が覚めてしまうのだ。
「生きた心地がしなかった……」
そんなカリウスに対して、グルジビは心配そうな顔を見せる。
「安心下さい。我々が助力しますので、共に帝国を撃退しましょう……。それに、この町の現状を少しばかり見させていただきました。負傷兵はなぜ、そのままなのですか?」
グルジビの言葉に、カリウスは深い溜め息を吐く。
「解らん……。いくら回復魔法を掛けても、傷は塞がらないわ体力は回復しないわで、正直、八方塞がりなのだよ……」
「なんと!? 回復魔法が効かない? いままで、聞いた事がありませんな……」
「この町の誰もが、そう言う。だが、王都から来たお主が言うのだから、きっと王都にも、知る者はおるまいて……」
カリウスは更に溜息を吐く。
「解りました。では、現在の兵力を教えて下さい」
グルジビの言葉に、カリウスは現在の兵士の数を告げる。そして、その言葉を聞いたグルジビは険しい顔を見せる。
「やはり、増員せねばなりませんな……。我々先発で二万ですが……、あと二万は欲しいですな……」
グルジビは、カリウスに面会する前に、町に居る兵達から、二日前の戦闘の話をしっかりと聞き取りをしていた。
届かない魔法、効かない矢、どれもが、耳を疑う話であった。
一番は、魔導車の話だ。
長距離魔法よりも、弓矢よりも遠い位置からの攻撃は、メイッシュ兵達を恐怖で支配する要因になっていた。
全ての話を統合し、グルジビは増員要請を決意し、王都にメッセンジャーを送るのだった。
グルジビの話を受け、宰相トーマス・ロッツ・アクリバルは増員を許可、希望数より五千少ない、一万五千の兵を追加でウラジスに送る。
そして、合流する間、グルジビ率いる二万の軍勢がウラジス防衛に当たり、メイッシュ兵達にようやく休息が訪れるのだった。
アレクシア帝国軍、第二機甲師団は、ミーティアラ王国王都ウンディエネの付近まで来ていた。
だが、攻撃開始の指示は来ない為、ミーティアラ王国の者達に見つからぬよう息を潜めていた。




