ラソネル平野の惨劇
アルセリア歴、6月12日。
後に『ラソネル平野の惨劇』と呼ばれる戦闘が、今始まろうとしていた。
アレクシア帝国軍第一機甲師団と歩兵の二個小隊を合わせた二万と百二十名と二十台の戦車。
対するミーティアラ王国メイッシュ公爵の兵は二万三千になる。
兵の数ではやや有利と思われるが、戦車の存在がある為どちらかと言えば不利だと言わざるを得ない。
しかし、メイッシュ公爵兵達は知らない。
戦車の力を――――。
ラソネル平野に両軍が睨み合いとなる。
メイッシュ公爵兵を率いるは、彼の息子である。
クレッスラ・アルムニア・メイッシュは、遠くに居る敵を見据える。
「奴等の動きが止まったな……。ふん、怖気づいたのか?」
「どうでしょうな? 警戒は怠らぬ様に頼みますよ……。イースタルに続き、ラジラまで簡単に落とされているのですから」
「ラジラは仕方ないとしても、イースタルに関しては、不可解な事だらけだな……」
クレッスラは、従者であり、この軍隊の副隊長であるリッシル・オーナバンと語り合う。
「『アレクの結界』……。たやすく突破出来る訳は無いのですがね……」
「時が経てば、綻びるさ……」
クレッスラは肩をすくめる。それにリッシルは、苦笑いで答えた。
「さぁ、戦闘準備だ! リッシル、兵達に命令を」
クレッスラの言葉を受け、兵全体に届くようにと声を張り上げ、戦闘体勢を取るように告げる。
要所要所に配置された、部隊長達がリッシルの言葉を復唱する。
兵達は武器を構えて、帝国兵を迎え撃たんとする。
「おーおー、臨戦体勢だねぇ……」
アレクシア帝国軍第一機甲師団、師団長レイジネル・ラングレイ大佐は双眼鏡を覗いてメイッシュ兵を観察する。
「師団長殿、どうします?」
同じ魔導車に乗る副官に問われる。
「挨拶はしないとなぁ……」
レイジネルはニヤリと笑う。
ヘッドセット型の魔導無線機に向かって、命令を発する。
「戦車隊は、有効射程まで移動。敵一団に一斉射、状況確認後、命令あるまで待機!」
指揮車からレイジネルは、右手を高々と掲げる。
「行け!」
振り下ろされた手と同時に、二十台の戦車が一斉に動き出した。
リッシルは単眼鏡で、敵の動きを見ていた。
「クレッスラ様、敵の魔導車が動きました!」
「こちらは、動くなよ……。有効射程に近づいたら、魔法を一斉射だ」
クレッスラの命令をリッシルは、また大声で兵達に伝える。
シンと静まり返ったメイッシュ兵達。
片手には、汗でびっしょりと濡れたマジックアクティベーターが握られている。
「クレッスラ様、敵魔導車停止!」
リッシルの報告を聞くと、クレッスラも自分の単眼鏡を出して、覗く。
「遠い場所だな……。こちらの魔法は届かないが……」
魔導車の突き出した筒から、煙と光を見る。遅れて、ボンッと音が何発も聞こえる。
少しの間が空いて、兵士達がいる場所が次々と爆発したように土煙を上げる。
爆心地に居た兵は肉塊へと変わる。
「なんだ!? 何が起きた!!?」
クレッスラは、単眼鏡から目を離し、自身の陣営を見る。
兵達の居る場所には、ポコポコと穴が空いたようになっていた。
「初弾命中確認。よし、歩兵隊前へ! 魔導銃有効射程へ! 一斉射撃用意!」
レイジネルの命令を受け、ザッザッと音を立てて、歩兵隊が魔導銃を構えて進む。
レイジネルから見えるメイッシュ兵達は、慌てふためいた様子であった。
ソレはまるで、巣穴を荒らされたアリのようだ。
まるでこちらの動きを警戒した様子がない者達が殆どの様に見える。
レイジネルは歩兵達が、ある一定の場所まで動いたのを確認する。
「歩兵隊、前進しつつ一斉射! 戦車隊、砲弾三発ほど連続発射!」
アレクシア帝国軍、第一機甲師団はレイジネルの命令通りに動く。
砲弾、銃弾の雨がメイッシュ兵達に降り注ぐのだった。
一方的な攻撃にメイッシュ兵達は、為す術がない。
「魔法射程など、気にするな撃て! 撃てよ!! 弓兵は、支援魔法で射程を確保! スキルも使え!!」
つばを飛ばす勢いで、クレッスラが怒鳴る。
クレッスラの命令を、リッシルが復唱し、部隊長達が更に復唱した。
無駄に近い、抵抗する攻撃がメイッシュ兵達から飛ぶ。
飛距離が伸びた矢は、帝国兵に届きはするが、飛距離が伸びただけの矢の攻撃力はたかがしれている為、魔法が付与された防具に弾かれる。
魔法攻撃は、範囲外に居る兵士達には届かない。
未だ、横殴りに打ち付ける銃弾の雨は、メイッシュ兵を確実に傷つけていく。
「被害拡大してます!!」
リッシルの言葉に、クレッスラは「解ってる!」と怒鳴りつける事しか出来ない。
そして、少しの間を空けてクレッスラは撤退命令を出した。
「よし、下がり始めたな……」
レイジネルは、メイッシュ兵達がジリジリと後ずさるのを確認する。
「攻撃止め!! こちらも、下がるぞ!」
レイジネルの命令で、兵達は武器を下ろす。
戦車を殿に据えて、第一機甲師団は後退を開始した。
それは、ほんの数時間の出来事だった。
アレクシア帝国軍第一機甲師団の被害は無く、ミーティアラ王国メイッシュ領の兵隊達は八千近い兵を失う。
もはや蹂躙劇と言われるソレは、戦いにすらなっていなかった。
メイッシュ公爵は、無駄に兵を減らす形になってしまったのである。




