策略
王城から近い場所に、アレクシア帝国軍本部となる建物がある。
特殊な形からその建物の名は『ヘキサゴン』と呼ばれている。それは、プロテクション・フィールドの魔法を使った際に出現する六角形の光の壁に由来していた。
『国を守る』という意味も込めて、軍本部の建物は上から見ると六角形の形になっているのだ。
そして、ヘキサゴンの中心部分には軍の長達が集う部屋がある。
その部屋で、将軍たちが紫煙を吐きながら簡易の大陸西側(ミーティアラ王国)の地図に木で出来た簡単な模型を置いて、それを動かして話し合いをしてた。
「さて、ラジラの町まで来たが……。第一の連中はこれから足踏みか……」
「ラジラから西のこの一帯は森林地帯ですな……。彼らはコレを南に迂回してウラジスを目指します。ですが、その手前……、この平地でミーティアラの連中と戦闘になるよう仕向けます」
一人の高官が、説明しながら第一機甲師団を表す木の模型を動かす。
「初戦はウラジスの貴族の軍と戦う形だな?」
「はい、ですが被害は中規模で留めさせます。甚大な被害、もしくは全滅させてしまうとウラジス攻略戦になるかはたまた制圧戦へと移行してしまうので、それを避けるとようにとの話ですね……」
「皇帝のか?」
「ナグルス宰相閣下の意見でもあります」
部屋に居た数名が腕を組んで唸り声を上げる。
「しかし、解せぬな……。何故そんな回りくどいことを?」
「第二機甲師団が北上、周囲の町や村などに同行を察知されないようにウンディエネを目指すというのも納得がいかない。第一と共に、一気にウンディエネを目指せば良いではないか?」
そこへ、この国の宰相であるナグルス・ヴァン・オルスキーが入室して来た。
「我軍の被害を最小限に留める為だ」
室内に居た全員が、敬礼する。
「楽にしたまえ。皇帝陛下は第一と第二の数の心配をされていた。エム・ワンの配備数に懸念を抱かれていてな、総力戦を挑まれた場合の心配をされているのだよ」
ナグルスは、ウンディエネとウラジスに置かれた木の模型に、地図上に置かれていない模型を数個掴んで追加する。
「数万、数十万とも思われる兵力、また、モンスター戦闘専門の連中も戦力として参加した場合の戦力の拡大を懸念しているのだな……。その為に、電撃戦闘、奇襲戦闘が最適だとお考えだ」
「陛下が、遂に全容を?」
「ああ、聞いて寒気がした……。そして、今回私の口から全容を知らせるようにとおっしゃられたのだ」
この部屋に居るものは、殆どが将軍職だ。軍の一部とは言え、全権を取り仕切る者達はナグルスの言葉にゴクリとツバを飲む。
「まず、第一はこの平地からは進ませない。平地である程度戦闘して、一旦は森林地帯南部に撤退し、陣を敷く。そこから、また、平地で戦闘をする。中規模の被害を受けた、ウラジスの連中は必ずミーティアラ王国軍に救援を求めるだろう? 半数とまではいかないだろうが、兵力を引っ張り出す。そして、これらと対峙する事になるが、一定の被害を与えたら即時撤退させ、ラジラまで戻す」
「戻してしまうのですか?」
「ああ、急に撤退をされたミーティアラの連中はどうすると思う?」
「数では勝る事に成るはずですから、追い打ちをかけようとするかと……」
「そうだな、それが真の狙いだ。そこへ、『魔王の遺留品』を使うのだ」
「『魔王の遺留品』!!?」
『魔王の遺留品』とは、ゲーム時代に魔王が使っていたとされるアイテムだ。大陸三大秘宝と言われる物の一つとされていた。タクローが所持している『賢者の遺産』。
そして、今回使われようとしているのが、『魔王の遺留品』である。
帝都は元々、魔王の城跡地の上に作られている。事実、王城の下である地下数十メートルには魔王城が埋まっているのだ。
改装をして、地上から上の高さは削られたものの、地下へと続く施設は数十階層に及んでいる。
そこから発見されたのが、『魔王の遺留品』だ。
かつて一部がアレクシア帝国から、外へ流出があったものの、殆どは未だアレクシア帝国の歴代皇帝が所持していのであった。
「既に皇帝陛下は、アイテムの力を解放されている。後は、発動を命じれば大量のアンデットが発生する事になる」
「アンデット……。もしや!?」
ナグルスはニヤリと笑った。
「そう、ミーティアラは自分の兵達に襲われるのだよ」
ナグルス以外の者達が、一斉に驚愕の表情になる。
「ウラジスに立て篭もらせるのですね!」
「そう、そして、やや手薄になったウンディエネへ、第二が強襲を仕掛けて、また一定の被害を出して引かせる。そして、またアンデットを発生させるのだよ」
驚愕の表情を浮かべた者達は、一気に引きつった笑みを浮かべて凍りつく。
「第二をウラジスに戻す形を取ると、第一も連携してウラジスに向かわせる。これで簡単にウラジスは落ちるだろう? そうしたら、第一、第二が合流し、一気にウンディエネに向う……」
ナグルスは、ニヤニヤしながら木の模型を動かす。
「アンデットで被害が拡大しているであろうウンディエネは、ここで一気に攻め落とされる訳だな。これだと、皇帝の見立ではほとんど被害が無いだろうと考えておられるのだよ」
「魔王……、い、いや、決して侮辱的な意味ではなく、ですね……、尊敬からですが……。ソレほどまでに恐ろしい……」
「皇帝陛下は、先の先を見ておられる。エム・ワンがもう少し多く量産出来れば、もっと別の戦略もあったとおっしゃっていたが、私はコレが最も素晴らしいと考えている。私の思考では、ウラジス攻略までも予想できなかった……」
ナグルスは、皇帝が居るであろう王城の方を、ウットリとした顔で見た。
他の者達は、暴力的な笑みを浮かべて地図を眺める。
「こりゃ、我々の出番は無いですな……。いやぁ、素晴らしい……」
一人の男の言葉に全員が頷いた。
「ただ――――」
ナグルスが、全員に顔を向ける。
「第二がやや遅れているらしい。なので、ゴーストをフォローに向かわせたようだ。他にも、ウンディエネにゴーストが入り込んでいる様だな……。まったく、陛下はどこまでも抜け目が無い……」
ナグルスは安堵にも似たため息を吐いたのだった。




