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全身鎧を着た魔法使い  作者: 大和 改
二大国家戦争
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皇帝の狙い

 エルフの集落を出る者は、そこへ至る道程の記憶を消されてしまう。

 ミセリルアもまたそうであった。


『迷い結界』と呼ばれる特殊な魔法が掛けられた一画を通らねば、エルフの集落には入れない。

 だが、そこへ一人の救世主が登場する。

 ヒカル達と行動を共にするトヴィルだ。


 トヴィルは集落の人間に気付かれる事無く、集落を出ている。つまりは記憶消去の手続きを踏んでいない。

 トヴィルの案内で、難なく集落にたどり着く事が出来た。

 当初はタクローに対して敵意を剥き出しであったトヴィルだが、姉の説明の甲斐あって、いつしか友好的に変わっていた。

 だが、集落のエルフ達はそうはいかない。


 ミセリルアの帰還を不快に感じている者がほとんどだ。

 トヴィルは怒鳴りつけられ、殴られる。

 再度拳を見舞おうとした者を、タクローは寸での所で止める。


「な、なんだ、お前は!? 俺達の事に口を挟むのか!?」


 やや怯えた口調で、今度はタクローに対し敵意を剥き出しにした。


「ミセリルアから聞いた、鉄の掟ってのは俺には関係ないだろう?」

「そうだ、人間のお前には関係ない!」

「なら、どうしようと俺の勝手じゃないか」


 極論的な理屈だ。だが、ミセリルアの言葉で彼等エルフは知っている。銀の鎧を着たタクローが一体何をしたのかを。


「止めんか!」


 しゃがれた声がエルフ達の奥から響く。


「オオババ様!」

「ミセリルアか……。戻った事をワシは責めないよ……。ありがとう、本当に、ありがとう…」


 老婆はミセリルアに近づく。差し出された彼女の手を掴むと、その手を取りそっと両手で包み込む。


「ご無事で何よりです……」

「ああ、だが、森は枯れてしまった……。ワシ達は生きる場所を失ってしまったのぉ……」


 老婆は、肩をがっくりと落とす。その動作にタクロー達は違和感を感じた。


「婆さん、あんた、目が……」


 トリスの言葉を受け、声の主に顔を向け、ニッコリと笑う。


「昔……な」

「だが、なんで視えてるように動ける?」

「さて、なぁ……」


 その言葉に、トリスはピクリと眉間が動く。


「あんたも……か?」

「お主も、じゃな」


 二人は、ニヤリと笑い合う。


「なるほど、例の体質かぁ……」


 タクローが横から首を突っ込む。


「らしいな……」


 老婆は「ほっほっほ……」と笑うだけだった。


「トリスとリリーアに次いでか……」


 タクローがボソリと呟いた言葉を、セルヴィナは聞き逃さなかった。


「主様、今なんと!?」

「んあ? トリスとリリーアって……」

「何故、リリーアの事まで!?」

「あ~? 簡単な話だよ。話をよく聞けば、解るだろう? 言葉の端々にヒントがあったぜ。『色』がどうたら。トリスは『ニオイ』って言葉を良く使うのと一緒だな」


 セルヴィナは引きつった表情で、後ずさる。


 そんな一幕があってから、正式にタクローはエルフの集落に迎え入れられる。

 納得のいかない住人達も少なからず居る。だが、文句を口にする者はいなかった。

 集落の奥へ案内されるタクロー達であったが、そんな中でふいにタクローの動きが止まる。

 急に口数が少なくなった事に異変を感じたイツキ。そっとタクローに寄り添うように背後にまわった時だった、急にタクローが動かなくなり、倒れた。


「ま、マスター? マスター!!?」


 イツキの悲痛な叫び声が集落に響いたのだった。



 ラジラの町を制圧した、帝国第一機甲師団の動きはソコで急激に鈍足になる。

 補給部隊と合流後は、町の制圧の為に暫し駐留する形を取る。だが、町の非戦闘員は亜人、人間関係なく外へ逃した。

 コレは事前に命令されていた事である。


「逃がす事に一体なんの意味があるんだろうねぇ……」


 レイジネル・ラングレイ大佐は戦車の上で、あぐらをかいて周囲を見渡す。

 王国兵士達は足かせを付け、労働を強いられている。


「一般人が、ですか?」


 部下の一人の言葉を受け、無言で頷いた。


「私には、皇帝陛下の考えはこれっぽっちも、スライムの一欠片も解らんよ……」


 がっくりと、頭を垂れるレイジネル。


「お前は昔から、難しい事は苦手だからな……」


 戦車の背後から、レイジネルにとって聞き慣れた声が聞こえる。


「久しぶりだな、レイジネル大佐殿」


 笑顔で敬礼するのは、同年代で、かつては士官学校で研鑽を重ねた友人だ。


「お前が?」

「ああ、第二十三歩兵大隊ライカネル・ジルブサ少佐、只今ラジラ駐留部隊として着任しました!」

「お前の所だけか?」

「いえ、同行部隊を二個小隊連れて参りました!」

「そうか……」


 レイジネルはライカネルよりも、二階級上だ。しかし、ソレはレイジネルが優秀だったからではない。彼の運が良かったと言うより他ない。

 レイジネルが居たのは、魔導車補給部隊。

 魔導車のトラックで、物資を運ぶ係だ。それが、いつの間にか機甲師団を受け持たされる。そして、二階級特進となったのだ。

 送られるのは、全てが前線であると言う事もあり、二階級特進は彼にとっては死地への報酬だと思うしか無かった。


「で? ライカネル。お前はどう思うんだ?」

「何が?」

「皇帝陛下の考えだよ……」

「そうだな、俺が思うに、ただの時間稼ぎだろうな……」

「第二機甲師団のか?」

「概ねそうだろう」

「だが、何故に一般人を逃がす?」


 ライカネルは、腕を組んで不敵に笑う。


「これは、一部の上層部の意見も混ざってるんだが――――」


 軽く前置きを入れて、ライカネルは見解を述べる。

 彼と、彼周辺の上層部では一般人を逃がすメリットに付いて考えた事がある。

 ソコで出た意見は、一般人を逃がすと、彼等は周辺の町や都市へ逃げ込もうとする。ソレを受け入れる場所では、受け入れるの為の準備に追われるだろう。

 攻め込まれた場所へ派兵しようとしても、受け入れの為に兵士を割かなければならなくなる。

 そうすれば、軍としての動きが遅くなる。

 ソレだけではなく、長い目で見れば、急激に増える人口密度により、食料などが減り、兵站がままならなくなってしまうだろう。

 出足が遅れるだけでなく、食い扶持が減るのであれば、戦う者達にとってはこの上ない足枷になるのだ。


「お前……、いつからナグルス派に?」


 レイジネルの言う『ナグルス派』とは、ナグルス宰相を信奉する派閥の事だ。


「バレたか……。もぅ、だいぶ前からだな」

「なら、殆どがお前の意見じゃないだろう……」


 ため息混じりに、戦車からライカネルを見下ろすレイジネル。

 一方のライカネルは、苦笑いを浮かべた。




 アルセリア歴二◯一七年六月一◯日、アレクシア帝国軍、第一機甲師団は歩兵部隊二個小隊を加え、更に戦力を増強する。

 しかし、それはあくまでも時間稼ぎだ。

 作戦の全体指揮は、アレクシア帝国皇帝が全権を担っている。

 狙いは唯一つ、ミーティアラ王国王都ウンディエネ強襲であった。

 だが、どの様に攻めるのは、一部のものにしか知らされていなかったのだ。


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