悪魔の樹との決着
「なにぃ!? ラジラの町に帝国兵だと!!? イースタルは!?」
夜半過ぎ、カリウス・アルムニア・メイッシュ公爵がベッドから叩き起こされる形になる。
「解りません。ですが、帝国兵はおかしな魔導車でもって進軍、ラジラの町は攻略されつつあります!」
悲痛なまでの知らせを受け、カリウスは寝巻き姿のまま寝室を後にする。
ラジラの町に駐留するカリウスの兵士達は、あくまでもモンスターに対応するための者達。一千未満の兵で、どうにか出来るのだろうかと考えつつ、兵士長達集まる執務室に急ぐ。
執務室内では、中央のテーブルに周辺の見取り図に置かれた木の模型をアチコチに配置し、兵士長達が議論を交わしている。
「これは、どういう事か! 誰か、説明せよ!」
カリウスの怒声に、兵士長達はその身を縮こまらせる。
「恐れながら、ラジラの者の見立では帝国は万は居るかと……」
「ま、万……か……」
カリウスは血の気の引く音を聞いた気がした。
「おまけに、昼時点での報告では、門をこじ開けられています。現時刻では、既に絶望的かと……」
「なんとぉ!? 帝国の破城槌はバケモノか!?」
「それが、魔導車だと聞き及んでいます……」
カリウスは崩れ落ちそうに成る。だが、寸での所で押し留まった。
「ありったけの兵を集めよ……。それに、陛下にも助力を嘆願せよ!!」
青筋を立てて、カリウスは叫んだ。
だが、時は既に遅い。
ラジラの町を落とし、占領部隊と入れ替わるようにして、アレクシア帝国第一機甲師団はジリジリとウラジスへと近づきつつあった。
イビル・ツリーは激しく燃え上がる。
それは、暗い森を照らす篝火の如く。
ヒカルは、空に映る『朱』を目にした。
「ねぇ、火柱? ってかでっかい炎……」
「も、森が焼けてる!?」
エルフの少年が驚愕の表情で遠くに見える炎を見つめる。
少年の名はトヴィル、ミセリルアの弟である。
親は既に亡く、ミセリルアが姉であり、母親でもあった。
ミセリルアが集落を出る際、トヴィルに『強く生きなさい』と言って家を出ていった。最初は意味が解らなかったトヴィルであったが、近隣の住民から話を聞き、それが今生の別れの言葉だと知った為、自身もまた、集落を飛び出したのだ。
勿論、トヴィルもまた、集落の『鉄の掟』は知っている。だが、姉と二人なら何も怖くないと思っていた為による行動だったのだ。
「また、派手な……」
アリーシャもまた、遠くの炎を眺めた。
「ましゅたーら!!」
一番下のヤエが叫んだ。
「そうだね、そうだよ!!」
ヤエと仲の良い兎の獣人コズエが、ピョンピョンと跳ねては遠くを見ようとする。
「最近、俄然派手になってきてるなぁ……。ま、見つけやすいから良いけどねぇ……」
ため息混じりにヒカルは、歩き出す。
「お、おい!」
トヴィルが後を追うように、ヒカルの後を駆け出す。
「トヴィル君、案内、頼める?」
「へぁ!? あ、ああ……」
「あそこにきっとお姉ちゃんが居るよ」
ヒカルが振り返り、トヴィルに笑顔を見せた。
「わ、解った……。でも、あの炎じゃ……」
トヴィルは、ションボリとした顔になる。普通に考えれば、遠くからも見える炎だ、近くに居るとなればただでは済まないはずである。
「大丈夫、うちらの裏リーダー様が付いてるから!」
いたずらっぽい笑みで、ヒカルは歩き出す。
「う、うらりー……??」
キョトンとするトヴィルの肩をポンっと叩くアリーシャ。
「大丈夫だから、案内して」
アリーシャの表情も、やや半笑いと言った感じだ。
トヴィルが、更に後ろに視線を送ると、後方に居る八人の少女達は嬉しそうに後へと続いている。
「わ、解った……。悪魔の樹に案内する」
トヴィルは険しい表情で、前へと進んだ。
「いやはや、しかし、またよく燃えるな……」
三人の共闘者の元へ駆け寄る、タクロー。所々足取りがおぼつかないのは、疲労が故だ。
「主様!」
セルヴィナが肩を貸そうと歩み寄るが、トリスに先を越されてしまう。
「大丈夫かい? 大将」
「なんだよ、ソレ……。俺は、大将って柄じゃねぇよ……」
「ハハハ、口が動くならまぁ一安心だな。だが、お疲れさん!」
「ああ、皆もな……」
タクローが、兜越しに三人の顔を見る。
全員が全員、安堵の表情で巨大な炎を見ていた。
「すごい魔法ですね……」
ミセリルアは自身の弓矢を抱きしめて、タクローを見据える。
「魔法かぁ……、どっちかと言うと科学……、いや、そうだな、最高の魔法だ!」
ミセリルアは、顔を赤らめニッコリと笑う。
そして、その後跪いた。
「誠に有難うございます。私、ミセリルアは貴方様に絶対の忠誠を約束いたします」
「そうかい」
タクローは軽く返す。
肩透かしを食らった様な表情で、タクローを見上げるミセリルア。
「条件があるって言ったよな……」
「へっ!?」
銀の全身鎧が、後方から来る炎の灯りで、やや影を落とす。
その様は、まるで悪魔にもミセリルアには映り、生唾を飲み込んだ。
「わ、私が出来る事なら……」
自分は、弄ばれてしまうのか。それとも、命を取られるのかとすら考えてしまう。
体を差し出す事であれば、問題ないとすら思っていた。だが、命をよこせと言われたらどうすれば良いのか、彼女には解らない。
恐怖が、足元からじわりじわりとまるでイビル・ツリーの根が這い上がってきているかのような感覚に囚われた。
トリスの肩から離れたタクローは、兜を脱ぐ。
「疲れたから、アンタの集落ってトコで休ませろ」
今、ここで脱げと言われるのかと考えてすらいたミセリルアは大きく肩透かしを喰らい、顔面を赤面させ、大量の汗が吹き出した。
だがその後、急激に冷静さを取戻し、目が点になる。
「はい!?」




