悪魔の樹討伐クエスト4
世界樹の若木がある場所で、八人の少女と二人の女性がのどかな時間を過ごしていた。
「んー……、この術式は……」
ヒカルはタブレットと格闘を繰り広げている。
「暇ですねぇ……。こんな事なら、何か本でも持ってくれば良かった……」
アリーシャは、水辺で戯れる少女達を眺める。
「お茶、いりますか?」
イツキが、茶の入ったポットを持って来る。
アリーシャは、そんなイツキに「いただく」と言ってカップを差し出した。
こんな平和な時間が訪れたのは、つい今しがたの話だ。
それまでは、イツキ達元奴隷少女達がタクローの元へ行くとぐずって聞かなかった。
年長である、イツキが一番質が悪い。なまじ大きいだけに、強硬手段に出ようとするものだから、抑えるアリーシャの苦労は計り知れない。
そんな時、タブレットと睨めっこをしていたヒカルの一言が彼女達に大きく響く。
「命令なんだから、おとなしくしてなさい」
ビクリと体を震わせた少女達。
ニコはタクローの言葉を思い出す。
『ここで、おとなしくしていろよ……』
ニコが思い出した言葉を皆に告げると、一番取り乱していたイツキが冷静さを取り戻す。
主の命令は絶対。
彼女達の文字通り体に叩き込まれた、呪いだ。
こうして、現在に至る。
「しっかし、なんなの? この術式は……、複雑過ぎでしょ! まぁ、アイテムをこんな小さい箱に収めるんだから、必要な情報量が膨大なのは解るわよ。でも、それにしたって、ここまで小さくコンパクトな魔法陣でソレが展開出来るっておかしくない!? ゲームじゃないんだから!」
ヒカルが、苛立った様子で大きな声を上げて盛大に独り言を呟く。
「……ゲーム? ……げぇぇぇぇぇむぅぅぅぅぅぅ……!? そっちがあったか!!」
何かを閃いた様子で、タブレットを細かく操作し始める。
その様子を、アリーシャは茶をすすりながら眺めていた。
イツキもまた同様に、自身で入れた茶をすする。
ニコから下の若い層は、水辺で遊んでいた。
「ゲームなんだから、ゲーム構成! アイテムボックスって言うか、インベントリ、つまり目録の作成と、アイテムのデータ化……。そうか、そうかぁ……空間にしまうって思ってたけど……、これなら!!」
タブレットから、完成術式が発現する。
「なるほど、これがそうで……だから、あの鎧がアイテムボックスに入らない訳か……」
満面の笑みで、発現した魔法術式を眺める。それは、魔法陣とは程遠い数式と文字と図形の羅列。
「よし、コレならあの魔法陣の謎が解ける!」
席を立つと、ヒカルは荷造りを始めた。
「ヒカルさん、どうしたの?」
疑問に思うアリーシャに、ヒカルは手を止めずに答える。
「ちょっくら、英雄の顔を拝みに行こうかなって」
鼻歌交じりに、自身の荷物をまとめる。
「なら、私も行く……。イツキ、皆を」
アリーシャが立ち上がるが、イツキは座ったままだ。
「マスターの命令では、ここに待機ですが……」
「事情が変わった。ヒカルさんと、私に下された命令はあなた達を守ること。ならば、私達が動くのであれば、あなた達も動く」
勝手な推論だ。だが、そんな勝手な話も初なイツキ達にとっては、納得の行く話と成る。
「解りました。ニコー!」
イツキはニコを呼び、下の子達を集める。
「私達も、マスターの元に行くよ!」
満面の笑みで少女達が快諾した。
「くそぅ……、大誤算……」
ヒカルは項垂れる。
「見事に迷った」
アリーシャはキョロキョロと、辺りを見回す。
イツキを始めとする少女達は不安の表情でいっぱいだった。
――――そんな時だった。
「お前達、ネェちゃんを見なかったか!」
木の陰から飛び出してきたのは、ショートソードを持ったエルフの少年。
険しい表情で、ヒカル達を威嚇するように睨みつけた。
「ネェちゃん?」
ヒカルは、ゲンナリとした面持ちでエルフの少年を見た。
タクローは左のガントレットにある小さな盾をスライドさせる。
現れたスリットにカードを差し込んだ。
魔法陣が展開される。
中位魔法である、サンダーストームの魔法陣が、主の発動指示を待つ。
「トリス、セルヴィナ、みせるあ! 下がれ!!」
トリスと、セルヴィナはタクローの指示に応え、行動を開始する。
「ミセリルアです! いい加減、覚えて下さい!!」
タクローを怒鳴りつけて、ミセリルアもまた行動を開始する。
「ハハハッ、悪い悪い……。っと……」
苦笑いのタクローに向かってきたイビル・ツリーの攻撃を、タクローはサラリと躱す。
仲間が一定の距離を取ったのを確認すると、タクローは魔法陣に発動を促す。
「さぁ、勝負だぜ! 俺のMPが尽きるか、お前の体力が無くなるか、根比べだ……」
タクローはサンダーストームの魔法を発動させた。
巨大な竜巻が巻き起こり、イビル・ツリーを包み込む。次いで、竜巻が帯電してるかの様に、稲光を走らせた。
やがて竜巻の外側にも、内側にも電撃が波打つ。
激しい落蕾音やら、スパークしたような音が入り乱れる。
(ドライアードが言ってたよな、どんなモノにでもマナを与えられるって……)
ニヤリと笑ったタクローは、体現している魔法に自身が持つマナ(MP)を送り込む。
サンダーストームは、体現時間を伸ばす形で悪魔の樹を包み込み続ける。
「こんだけ電力が発生してるんだ。電磁の方もしっかり発生するだろう!」
タクローの狙いはマイクロウェーブの発生だ。
巻き上がる竜巻で、それと一緒に舞い上がる土。電気の力で帯電し、摩擦と共に磁力を帯びる。
それが強力なマイクロウェーブを発生させる起爆剤に成るのだ。
もちろん、コレには持続力が必要だ。
常時高電圧でなければならない。
それこそミスティック・アーマーの力が、試される事になる。
「チャージ……、オーバーチャージ……」
タクローはミスティック・アーマー・ナイトに力を溜める。
「もいっちょ!」
そして、マナを注ぐ。
激しい稲妻の竜巻は、止むこと無く悪魔の樹を包み込む。
竜巻の内部では、激しく電流が駆け抜ける。
次第にイビル・ツリーの体内で異変が起き始めた。
水分が振動して、摩擦熱を起こす。
自身が熱を帯びた事を感じた悪魔の樹は、激しく暴れだした。
しかし、悪魔の樹を閉じ込めるは電撃の檻。触れれば感電し、ダメージをもたらせる。巨体が仇になった形になり、苛立ちからなのか、悲鳴にも似た声を上げる。
「これは、クライ・オブ・フィアー!?」
セルヴィナは咄嗟に耳を塞ぐが、既に状態異常を受け、恐怖状態になる。
咄嗟に、ミセリルアが状態異常の回復魔法を詠唱し、全体を回復させる。
「詠唱魔法? 未だにか?」
トリスの疑問に、ミセリルアは頷く。
「私は、マジックアクティベーターを持っていません。詠唱魔法の知識はそこそこあるので……」
「なるほどねぇ……」
タクローの魔法により、悪魔の樹は全身から白煙を出し始める。
身を次第に縮こまらせる様になり、次第に動きが鈍っていく。
「っう……、チャージ……、オーバーチャージ……。あと、ひと……いき……」
更にマナを注ぐ、しかしタクローにとってはそれが最後となる。
戦闘を開始してから、一体何時間が経過したのだろう? 気が付けば、日は沈み、夜の闇が支配している。
タクローの魔法、サンダーストームで光源は確保されている為誰も気が付かないが、疲労だけは否応なしにやって来る。
飲まず食わずで動ける時間には限りがあるのだ。
荒い息を吐きながらも、タクローが立っていられるのはあくまでも鎧のおかげと言えよう。
普段のタクローであれば、確実に膝を付いていた。
だが、悪魔の樹こと、イビル・ツリーもまた限界に達した。
自身の中から発火し、巨大な炎の大木と化したのだ。
「キター!!」
タクローが雄叫びを上げる。
タクロー達を囲う檻も燃え上がり、こうして悪魔の樹は打倒されたのだった。




