悪魔の樹討伐クエスト
激しい立ちくらみを覚えたタクローは、MP回復の為強制チャージを行う。
意識を体全体に向ける。
本来は、ここからジワジワとMPゲージが上がるのだが、今回は違う。
周囲に光が湧き上がり、一気にミスティック・アーマーへと吸収される。
MPゲージが瞬時に目一杯まで回復される。
だが、それだけではない。補助アイテムがアップグレードされた事により、オーバーチャージが可能になった。タクローのMPの本来の量以上にMPを持つ事が出来る。
本来であれば、MPが過剰に高まるとヒトは死んでしまうというのが、この世界では常識だ。だが、鎧と、フェアリーストーンがMPを保持するサブタンクの役割を担う為に、タクローへの負担は一切無いのだ。
「へぇ……、こりゃ、すげぇな……」
ミスティック・アーマー・ナイトは新たな力を得て、バージョンをまた一つ上げたのだった。だが、コレこそが本来のミスティック・アーマーの仕様であるとは、まだ、誰にも解らなかった。
世界樹の若木の近くで、昼食を取ることにしたタクロー達は、タクローとヒカルのアイテムボックスから、必要アイテムを取り出す。
アウトドア用の道具を取り出し、設置していく。
簡易テーブル、簡易椅子、バーベキューコンロに似た魔法道具に、調理作業台となる簡易テーブルをもう一つ。
食材を出すと、タクローとイツキ、ニコが手際よく調理していく。
アイテムボックスのおかげで、かさばる道具は全てソコへしまえるため、歩いての移動がとても楽になる。
セルヴィナは、不思議そうにヒカルのアイテムボックスを見つめた。
「毎度何気なく見ていたが、今回改めて見ると、その小箱の様な物が一番恐ろしいアイテムに思えてくるな……」
「そう? 私達も何気なく使ってるからねぇ……。あまり気にした事なかったわ」
「だってそうではないか? ソレから、ここに居る全員分の道具を出したのだぞ? この簡易テーブルでもかなりの大きさだ……。椅子の数もまた多い……」
「それでも、まだまだ余裕っぽいんだよねぇ」
「それは、一体どんな魔法なのだろう?」
ヒカルは、セルヴィナに言われて、これまで気にしていなかった事に改めて気が付かされた。
アイテムボックスを開いた時の魔法陣を解析できれば、これから様々な用途で使えるのではないか、と。
「灯台下暗しとはよく言ったものね……。なんで、今まで気が付かなかったのかしら……」
アイテムボックスからタブレットを取り出す。簡易テーブルにアイテムボックスを置いて、口を開いた状態にする。
タブレットをその前にかざすようにして、タブレットを起動させる。
魔法解析の為の魔法術式を起動して、魔法を読み込む。
「ヒカルさん、ソレは?」
「これ? センターで、あるお爺さんに貰ったんだけど……」
「すまない、一度、見せてもらえないか?」
ヒカルは、「どうぞ」とセルヴィナにタブレットを渡す。
受け取った、セルヴィナはタブレットを操作する。そして、怪訝な表情を浮かべた。
「何故、これをあなたが?」
「貰ったって言ったじゃない」
「むむむ……」
眉間にシワを寄せるセルヴィナ。それを見ていたトリスが声を掛ける。
「おいおい、セルヴィナ、どうしたんだよ?」
「いや、これは……、多分……いや、うん、確実にそうだ。ミスティックボード、賢者の一人が使っていたとされる魔道具の一つであり、マジックアクティベーターの原型だ。私では、これを扱う事が出来ない」
そう言うと、ヒカルに見えるようにタブレットを操作してみせる。タブレットには魔法術式が表示されるものの、スクロールする事もなく、スワイプする事も出来ない。
「ん? 私は使えるけど?」
「一つ伺うが、もしや、エンチャンターなのか?」
「うん」
「どの程度の魔法付与が出来る?」
「どの程度って言われてもなぁ……」
ヒカルは、首を捻り唸り声を上げる。
「とりあえず、レベル10での全部が……、ああ、アレだ触媒アイテムからの魔法効果付与ができるかな」
タクローの鎧にも使った魔法付与は最高レベル10で使える技能の一つだ。
セルヴィナは、大きなため息を吐いて、ヒカルにミスティックボードを返す。
「なるほど、主様が化物級ならば、仲間も然り……か」
「どんだけ凄いかよく解らないけど、この……ミスティックボード? どうして、これの事を?」
「魔導学の基礎で習うし、レプリカが王城の展示物の部屋にあるのでな。かつては、宮廷魔法付与師が使おうとして、使いこなせなかったとされる物なのだが、ソレを平然と使えるのは凄い事だ……」
そんなやり取りを遮るかのように、テーブルに食事が並べられ始める。
「マスターが、取り敢えず食事を終えてからにしろだって」
両手に皿を持った、ニコがセルヴィナ達の前に皿を置く。
苦笑いでセルヴィナが応える、ヒカルはアイテムボックスにミスティックボードをしまった。
並べられた料理は、若鶏をハーブを差し込んで塩コショウで焼いた物と、香味野菜を軽く茹でて果物ベースの酸味が効いたドレッシングを掛けたもの、塩ゆでしたパスタにオリーブオイルに似た油を絡ませ、胡椒を効かせ野菜と燻製肉を和えた物が出た。
ソレは、アウトドア料理とは思えない完成度であった。
野外訓練で、アウトドア料理を少し嗜むセルヴィナは目を輝かせた。
トリスに、アリーシャもまた、目の前の料理に驚きを隠せなかった。
「相変わらず凝るなぁ……」
ヒカルただ一人は、まるでいつもの事だと言わんばかりに笑う。
「そうか? 普通だろ?」
そっけなく応えるタクローに、ヒカルはおどけた表情を見せた。
料理を手伝った、イツキとニコ以外の少女達は目をキラキラと輝かせた。
食事を済ませると、思い思いのんびりしとした時間を過ごす。
タクローとトリス、アリーシャにセルヴィナは今後について話し合う。
ヒカルはアイテムボックスの魔法陣解析だ。
八人の少女達は、食事の後片付け。油の付いた食器や道具は、パスタの茹で汁で洗う。紙で拭き取り、コンロの炎にくべて処分する。
最初はタクローが中心に開始された後片付けであったが、少女達は自分達の仕事だとタクローから作業を半ば強引に奪い取る。
仕方がないので、年長であるイツキを中心におぼつかない手先で作業をこなすのだった。
「すいません!」
草木を分けて、一人のエルフの少女が飛び出してくる。
全員が驚いた顔で、エルフの少女へ視線が注がれた。
「なに用か?」
セルヴィナが椅子から立ち上がり、少女の元へ近づく。
少女は警戒した面持ちで、セルヴィナを見た。
「大樹の半身に触れし方はおりますか?」
「大樹の……、ああ、世界樹の若木か。触れた……方……」
セルヴィナはタクローを見る。すると、全員の視線がタクローに注がれていた。
エルフの少女はタクローの元に歩き出す。
「まて! 主様に何用か!?」
透かさずセルヴィナが少女の前に立ちふさがる。
「従者の方ですか? すいません、私はあの御方にお願いがあって参りました」
「お願い?」
少女は、「はい」と険しい表情でセルヴィナを見る。
「悪魔の樹を倒していただきたいのです」
「あくまのき?」
少女の言葉に、タクローが反応を示す。
セルヴィナがタクローを見ると、顎で少女に合図をする。少女は、タクローの元に歩み寄り片膝を付いた。
「大樹の祝福を受けた方、お願いです。森を、この森を救って下さい! 望まれるなら、私は何でもいたします。この身が欲しいと言われるのなら、いつでもどこでも応じます。何卒!」
少女の言葉にタクローは深い溜め息を吐く。
「この世界では、自分の体を大事にしないヒトが多いんですかねぇ……。取り敢えずさぁ、最後の話は聞かなかった事にするから、倒して欲しいやつの詳細を教えてくれ」
少女は深く頭を下げて、お礼の言葉を告げる。
「私は、ミセリルアと申します。この森のとある場所で暮らしていました」
ミセリルアは、隠れ里の場所は伏せつつも、現状を語る。
樹海となる森の大半が、悪魔の樹の根が張り巡らされ、里を守る彼女の言うマガイモノ、モンスター達は森から逃げ出した為、里を守る存在が無くなってきている事。
悪魔の樹は、大樹の若木まで根を伸ばし、大樹のマナを吸って更に成長しようとしている事。
悪魔の樹は、退治しようとしたエルフ達を餌として強大になった事。
全てを話したのだ。
その場にいる全員が、ミセリルアの話を静かに聞いた。
「なるほどねぇ、じゃぁウッドランドで言っていた一件はこの事に繋がる訳か……」
腕を組んで、タクローは大樹の若木を見た。
ドライアードの言葉を思い出す。
「おそらく、ドライアードと他の精霊達はこれを抑えているのか……」
タクローは、少し考えた後、「よし!」と大声を上げて立ち上がった。
「条件付きでその悪魔の樹討伐クエスト、受けようじゃないか!」




