深夜の行動
ウッドランドの食事処に、スッキリとした顔をさせたセルヴィナとトリスが戻ってくる。
二人共、恐らく一方的な事になったのだろうと思えるほど、身だしなみが綺麗なままであった。
「ふん、全く無礼な奴らめ……」
自分が座っていた場所に戻るなり、セルヴィナは不機嫌そうな顔をする。
「しかしまぁ、口の割に大したこと無かったな」
トリスもまた、同様であった。
「お疲れさん」
タクローの一言に、二人は笑みをこらえた。
「いやー、助かりますぅ……」
一人の若い女性がタクロー達に近づく。
見れば彼女は、食事処で給仕係をする者だ。
「アイツ等、最近暇を持て余してて、酒に酔っては大口叩くんで困ってたんですよ……」
ニコニコと笑みを浮かべるその顔には、やや幼さが見えた。
「なら、安心しろ。暫くは表に出れないだろうからな」
セルヴィナがニヤニヤと笑いながら、トリスを見る。
トリスは苦笑いで「そうだな」と答えた。
「二人で、八人も相手にするなんて、凄いです!」
パッと明るく笑う給仕の女性に、セルヴィナがドヤ顔を見せた。
「だけど、タクローさんなら一人でも……」
アリーシャの一言に、セルヴィナは引きつった笑みとなる。
「止めとけ、死人が出ちまう……」
トリスは呆れ顔だ。
一方のタクローは、酒を煽る。
「主様が、出る幕もない! 私が蹴散らす!」
セルヴィナが、自分の前にあるコップの中身を飲み干す。
「最近、国立公園でモンスターが多く出て、連中、手を焼いててまともに警備の仕事にならないらしんですよねぇ……」
給仕の女性は困ったように、呟く。
セルヴィナは、赤くなった顔で「ほぅ?」と反応を見せる。
「なんか、未開区画でなんかあったのかも……。とにかく、連中を黙らせてくれてありがとうございます」
給仕の女性は頭を下げ、その場を後にした。
「セルヴィナ、どう思う?」
トリスが、鋭い目線でセルヴィナを見る。
「モンスターか……」
セルヴィナが腕を組んで、思案を始める。
「別に、良いだろ? アイツ等にやらしとけば」
タクローは軽く、流すのだった。
それから、食事を終えたタクロー達一行は宿に戻り、それぞれが就寝となっていく。
寝静まった事を確認すると、タクローは一人ベッドから起き上がる。
「やっぱし、気になるか……。まぁ、飲み足りないしな……」
独り言を呟きながら、タクローは出掛ける服に着替えると部屋を後にする。
食事処は、飲み屋も兼ねてる為に夜遅くまでやっている。
そこへ再度向かうため、宿を後にしようとした。
「やっぱりねぇ……」
物陰から、ヒカルが顔を覗かせる。
「なんだよ?」
「別にぃ。で? どこいくの?」
「さっきの店、なんか飲み足りなくてな」
「なんだ、てっきり国立公園にでも行くのかと思ったよ……」
ため息混じりにヒカルが完全に姿を見せると、彼女の格好は完全に武装されている。そして、後ろには不機嫌そうな顔をするアリーシャの姿もある。
「ふむ、なら、いつもの感じ……、ですか」
セルヴィナもまた姿をみせる。
「いつも?」
トリスが後に続く。
「主様は、王都に居る時もこうして飲みに出掛けるのだ。彼女達が寝付けるのをまってな……」
セルヴィナが、宿の二階を見上げる。その先にはイツキ達元奴隷の少女達が居る。
「お前ら……。ってか、なんでセルヴィナがそれを知ってんだよ?」
タクローが頭を抱える。
「私は、いかなる時も主の側に居る。ソレが、私の努めだ」
「いやいや、頼んでねぇし……。ってか、飲んでる時、お前は何処に居るんだよ?」
「店の前か、時々は中で待機している」
「ストーカーかよ……」
タクローは深い溜め息を吐いた。
深夜になる頃、リリーアは人目を忍んで、とある酒場へやって来る。
「お邪魔するわね」
薄暗い店の中は、驚くほどに静かだ。そこは、バーと言う様な雰囲気漂う場所だった。
「いらっしゃい……」
一人の中年風の男性が、カウンター越しに挨拶をする。
生やした髭をきちんと整えて、やや長めの髪の毛を後ろで結んでいる。
スラリとした体とは裏腹に、歴戦の勇と思われるオーラを出すのがこの店の店主、スネイドラ・ドルセルだ。
「お久しぶりですね」
リリーアはニコリと笑う。
「姫様御一人ですか?」
「はい」
「剣聖の娘は?」
「取られちゃいました」
「ほぅ? 取られた……」
意味深な表情を見せる、スネイドラに向かい合う様に座るリリーア。
「とりあえず、いつものを……」
リリーアに「かしこまりました」と言って、スネイドラはシェイカーを取り出す。
シェイカーに酒を二種類入れて、シロップを入れる。氷を入れると、軽快なリズムで振る。
シェイカーの心地よい音が、店内に響く。
店内には遅い時間のせいか、誰も居ない。
グラスに綺麗な水色の液体が注がれる。
「ウンディーネです」
「ありがとう」
リリーアはニコリと笑みをみせ、グラスを受け取る。
「最近、どう?」
「どうと聞かれてもなぁ……、こんな店をやってても、人の入りはさっぱりですからねぇ……」
リリーアの問いに、スネイドラは苦笑いで答える。
「そういや、最近変な客が来るようになったなぁ……」
「変な客?」
「ああ、時折来るんだが、銀の全身鎧を着た客だよ」
「へぇ……」
意味深な返事を返すと、リリーアはグラスに口を付ける。
「なんか、色々疲れてる様な客でね、ため息混じりに酒を飲んでいるよ……」
苦笑いを見せるスネイドラ。
リリーアは、「それで?」と話の続きを促す。
「良く解らんが、周辺への警戒と言うか、他の客の動向をよく見ているんだ……。あれは、相当な使い手だと思うな……」
「なるほど……」
「そういや、昨日会計の時に、『暫く店には来れない』とか言っていたな……」
「え!?」
リリーアは席を勢い良く立ち上がる。
スネイドラから事情を聞いた、リリーアはやや
不機嫌そうに酒を呑むのであった。




